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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
戦国異伝
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神域・石見銀山

「戦の準備は整ったが、どうした物かな……」


 何人かに周辺を偵察させてみたが、徳川の兵らしき部隊の姿はなく、進攻する目標を決めあぐねていた。

 一揆衆が農民の寄せ集めと言っても、これだけ探して見つからんとは、徳川の兵は意外と少なかったんじゃないか?

 それか、あれだ。

 毛利勝永に負けて辺境の地・関東に帰っていたか、どっちかだな。

 天下人のこの俺が、狸爺なんぞに負ける筈が無いのだ!

 そうはいっても備えあれば患いなし、もういっちょ天下に号令出して兵を集めておくのも手だな……。


「あの……秀頼様……」


「なんだ、越後屋か。もう兵糧は揃ったのか?」


「その事なんですが、やはり私どもだけで三千人分の兵糧を用意するのは……」


「お主、これまで散々美味い汁をすすっておきながら、金がないと申すのか! あくどく稼いだ金が、たんまりあるのだろう?」


「それは甘い汁では」


「甘い汁って、金平糖でも入っているのか? そんな物食っていると糖尿になるぞ。しかし、商人のくせに金がないとか、何て使えないやつだ」


「手前どもは、まっとうな商売をしていますので……」


 その悪人面で誰が信じるんだ?


「金なんぞ、そう、いくらでも……。そうだ、地面を掘れば金が埋まっていると言っていたぞ。お前らその辺をちょっと掘ってみろ」


「秀頼様、それは銀山の事でございましょうか」


「そう、そう、どこでも良い訳では無いな、確か山だった」


「この辺りですと、石見銀山が在りますが……」


「ならば、さっそく堀に行くまでよ!」


 城ではなく石見銀山が豊臣秀頼の天下統一への初陣であった!



「遅いぞ! 兵は迅速を貴ぶのだ! しかし、石見銀山がこんなにも逢坂城の近くにあったとは、人には節約しろとか言いながら、掘り放題の銀貨を使い込んで居たな……、おのれ、許さんぞ!」


「お待ちください秀頼様、許可なく勝手に掘っては領主の兵が……」


「何を言うか、この国は天下人の物、天下人たるこの俺がどこで銀を掘ろうと、許可など必要ない。さぁ、貴様ら存分に掘るのだ!」


 おー、掘りよる、掘りよる。

 農民というだけあって、土いじりは得意らしい。いっそ、こいつらには銀を掘らして置いて、その金でもう少しましな兵を揃えてもいいな。


「秀頼様、掘れました」


「ほう、どれくらいになったかな?……。貴様らこれは、石ではないか! もっとこう、丸くてうすっぺたい銀を掘るんだ」


 馬鹿かこいつらは!

 銀貨も知らんのか、どいつもこいつも石ばかり掘り出しやがって、これだから農民は貧乏なのだ。

 やはり、天下を統一して教育をし直さねばなるまい。


「いえ、秀頼様、この石を溶かして銀を取り出すのです」


「ん? 石の中に銀貨が入っているのか? それならそうと……」


「誰じゃ! わしの銀山を勝手に掘っている奴は!」


 銀山に響き渡る怒号とともに現れたのは白髪を靡かせた老将!


「黙れ! 天下人たるこの俺が、貴様の指図など受けるか!」


「何じゃと、小僧何者だ!」


「天下人だと、言うたろうがー!」


 この爺、耳が遠いのか?

 これだから老人は、半分ぼけてるんじゃないのか?

 いや、あの髪の毛は、もしかすると、魂が抜けて出かけているエクトプラズムかもしれん。半分ぼけているどころか、半分死んでいるんじゃないのか?


「秀頼様、あのお方は、謀聖と呼ばれる尼子経久様です」


「尼子経久?……」


 聞いたことあるような、ないような……。

 いや、何処かで、尼子、尼子……、確か京から山を越えて、谷を越えて、遥か北の田舎の方に住んでいた……、経久?……。

 そうだ、思い出した!

 遥か昔に死んだ奴じゃねーか!

 半分どころか完全に死んでやがる!


「おのれ迷ったか! 大人しく成仏しやがれ、尼子経久!」


「何じゃと、誰が死にぞこないじゃと、小僧、言いたい放題言いよって!」


「亡者どもめ! この石を喰らえ! みんな、掘った石を投げろ!」


「グワァー! 黄泉の神域と言われる石見銀山を好き放題荒らしおって、小僧ただでは済まさぬ!」


「まずい、爺が切れたぞ、ここは一端引くぞ!」


 くそう、人間の兵士ならばいざ知らず、まさかアンデットの軍勢が銀山を占拠してようとは。

 だが、俺は天下人・豊臣秀頼!

 見ていろ、黄泉平坂の亡者どもも、我が軍門に下らせてくれよう!

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