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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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三つの婚礼 3

 宇喜多家の婚礼が行われていた頃、播磨でも吉祥の幟が上がる。

 実質的な播磨の支配者である浦上政宗の息子・浦上清宗と、息子の孝高に家督を譲ったが、いまだ播磨で大きな影響力を持つ兵法家・小寺職隆の娘の縁組であった。

 周辺の豪族、士族がこぞって集まる豪勢な式が瀬戸の海が一望できる室山城で行われていた。


「これで西播磨も治まるか……」


「それは、どうかな?」


 立て続けに起きた大きな戦に、ため息をつく様に溢すと、隣の男が含みのある言葉を返した。


「浦上家と小寺家が縁組すれば、浦上家も播磨での支配を強め、小寺家も発言力を増す。そうなれば、手向かう者はおらんだろう」


「しかし、わざわざ室山城で式を挙げてる事を疑問に思わんか?」


「美しい景色を眺めながらの式は、素晴らしいじゃないか」


「含むところはないと?」


「さって、どうかな……」


「浦上家の家長でありながら、尼子家と早々に和睦し、それだけならまだしも弟の宗景は、尼子晴久を合戦で追い払ったというじゃないか。これは兄としても面目丸つぶれ、崩れそうな足元を躍起になって固めようとしているとは思わんか?」


「そうは言っても、小寺家にしても浦上家との縁談は望むところ。それに、足利将軍家より直々に和睦の調停の話が来たそうじゃないか。弱腰とも思える対応も、結果的に戦をするより賢い選択だったんじゃないか?」


「まぁ、わしらにしても領地が戦場にならずに済んだのは幸いだからな。小寺職隆も今日は息子の孝高のお披露目でもする心算であろう」


「なるほどな。これだけの顔ぶれが揃えば十分だろうが、その息子とやらは、どこにいるんだ?」


 盃を片手に伸びをしながら周囲を見回すと、入り口の当たりで騒がしい物音がしていた。

 酒に酔って喧嘩でもしているのだろうと、暢気に構えていると、駆け込んできた数人の男に蹴り飛ばされた膳が宙を舞った。

 男たちの手には刀が閃き、血しぶきが上がると、酒宴の会場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄に変わった。



 床を踏み抜きそうなほどの足音で走りながら大声で叫んでいるのは、いつもながら騒々しい弟の忠家だった。


「大変だ! 八兄い、大変だ!」


「騒がしいぞ、兵を指揮する者がうろたえてどうする。普段から落ち着いて行動せよ」


「うっ……」


 直属の兵士たちのを思い出させると、慌てていた忠家も大人しくなる。


「ん? 八兄い、それは何だ?」


「これか?」


 直家は熱心に見入っていた複雑な絵の描かれている大きな紙から顔を上げた。


「戸川正利が乙子城で作っている船の設計図だ」


「ほーっ、それが……」


 戦が終わったからと言って、直ぐに元通りの生活が出来る訳ではない。

 激しい戦場となった美作北部や高田城周辺では、荒らされた田畑を手入れして、十分な作物を収穫できるようになるまで何年もかかるだろう。

 だが、城を取り戻したばかりの三浦貞勝が食料がなく困っているからと言って、直家が送ればよいと言う話ではない。貞勝も直家に養われている子供ではなく、領地の民の生活を守る領主なのだ。

 直家は戦火で田畑を焼かれた地域の住民から、大量の木材を買い付けることにしたのだった。

 山に入って木を切る事で十分な食料を得られれば、作物が実るまで暮らしていける。それに、船の材料となる大きな木は一人では切れないため、領主の元で協力して作業する事になり、貞勝も地元の民と打ち解け合う良い機会ともなった。

 直家が水軍を編成することで、民の食料を確保し、貞勝が城主として成長すれば、一石二鳥、いや、それ以上の価値があると言うものだった。


「忠家、何か話があったんじゃないのか?」


「そうだ! 浦上政宗様が殺されたんだ!」


 直家は少し顔を曇らせた。


「ああ、聞いている……」


「どうする? すぐに兵を動かすか?」


「どうしてだ?」


 忠家は聞き方がまずかったのかと、考え直さねばならないほど、意外な答えに驚いて目を見開いていた。


「どうしてって?……。そりゃ、赤松政秀が、婚礼の会場を襲って、非道にも、浦上政宗様と息子の清宗様に、小寺職隆の娘まで殺したんだぞ! 主君の敵討ちもあるが、婚礼の宴を襲うなんて、人間として許しちゃおけねぇ!」


「そうだな、いずれは討たねばなるまい」


「いずれはって、何を悠長なことを言っているんだ!」


 声を上げて立ち上がった忠家に沈黙で答えた。


「良いか忠家、今回の襲撃事件で、一番被害を受けたのは誰だ? 一番初めに動くのは誰だ?」


「そりゃ……、浦上家と小寺家だから……?」


「襲撃犯が龍野城の赤松政秀だと何故知っている? 目と鼻の先に相手がいて、小寺孝高は何をしている?」


「書状を貰ったからだ。うちに書状を届けたのも小寺孝高からだったし、周辺の豪族を集めてかたき討ちの準備をしているんじゃないか?」


「つまり、姫路城に籠って、我々か浦上宗景様が赤松政秀を討つのを待っている」


「そうだ、是非ともこの俺に討たせてくれ!」


「まぁ、待て。問題は赤松政秀を討った後だ。我ら宇喜多家は多くの城を手に入れたが、領地の支配体制を整えるのに、多くの時間も必要だ。とても播磨まで手を伸ばせる状態じゃない。浦上宗景様も美作北部の江見氏を平定しなければならない今、播磨を顧みている暇はないだろう」


 直家は、口をつぐんで言葉を区切った。

 そして、できるだけゆっくりと意味を理解させるように話始めた。


「そうなると、播磨の西側に空白が生まれる。西播磨一帯を小寺家が手にすると言う事だ。それも時勢の廻り合わせとなれば、致し方あるまい。だが、忘れてはならないのは、婚礼の酒宴の襲撃で多くの豪族の家長が命を落としているのに、当の小寺職隆と孝高は、なぜ無事に逃れる事が出来たのだ?」


「それは……?」


「襲撃者の去った後は、斬られた首や肉片が膳の上に転がり、散らばった盃には飛び散った血がたまっていたそうだ。そこまで徹底して殺し尽くした相手から、どうやって逃げおおせたのか」


「…………」


「今回の襲撃事件は、場所や時間、初めから都合が良すぎる。誰かが、筋書きを描いて始めた舞台劇であるかのようにな」


「まさか、娘を犠牲にすることを前提に策を立てたとでも?」


「腑に落ちないのはそこだ。そして、兵を動かせない理由も、そこなのだ」


「……?」


「今回の襲撃で、誰もが騙し討ちで大きな痛手を受け、憤っている。宇喜多家と浦上家の兵を動かせば、赤松政秀など物の数ではない。だが、それが困るのだ。小さな豪族の家臣たちは、騙し打ちの復讐のため誰彼なしに皆殺しにしかねない。そうなれば民は土地を捨てて逃げ、荒れた領地だけが残り、本当の意味で空白が出来てしまう。どんな理由があっても、相手を殲滅するために戦を起こしてはならないのだ」


 黙って聞いている忠家が、どこまで理解しているか、少し迷ったが、これからさらに多くの兵を率い、領民を守る役目を果たしてもらわねばならない。


「国を守ると言う事は、領地を守ると言う事ではない。そこに住む民の命と生活を守る事だ。遥か東の果てに、広大な領地を支配する南部家があるそうだが、月の明かりを頼りに進まねば城に辿り着けぬらしい。そんな人の住まぬ領地を支配して、どうすると言うのだ? と思わぬでもないが」


 軽く咳ばらいを一つ入れた。


「小寺職隆なら、言われずとも分かっているであろう。しかし、息子の孝高に家督を譲って隠居したとも聞く。父から兵法を学んだとは言え、孝高が趙括のように机上に兵を動かす輩であれば……」


 単に浦上政宗の仇を取ればいいと言う話ではなかった。

 播磨の支配者が誰になるかという話ならば、小寺家が単独で企てた策だとは考えにくい。周囲の大名が兵を動かせば、小寺家だけでは食い止められない戦火となるのは明白だったからだ。


「ならば、その背後に誰かがいる……」


 勢力の拡大を望む毛利家や尼子晴久の死によって内乱が続く尼子家、両者の争いでうまい汁を吸おいとする山名家の他にも、浦上宗景が兄から家督を奪おうとしたとさえ、考える事もできる。

 軽はずみに動けば裏をかかれるに決まっている。


「背後? 播磨の背後と言うと、京の都か?」


「いや、そういう意味では……。いや、そうか!」


 播磨で戦火が上がれば、西国の大名たちの注意はそこに集中する。つまり、見せたくない物から視線をそらせられる。


「畿内を支配する三好長慶は、重い病に臥せっているようだったな……」


 三好家の家督争いとなれば、応仁の乱の再来となる戦火が起こるかもしれなかった。

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