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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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銃声 1

 槍の持ち方ひとつとっても、一目で訓練された兵だと分かる。

 この兵が街道沿いに伏兵として配置されていれば、ここまで無事に辿り着けたかどうかも分からない相手だったが、それを隠すことなく街道に整列させて、そこから一人の武将が直家の前へと走り出てきた。


「直家様、お待ちしておりました」


「何者だ貴様!」


 忠家が槍を構え行く手を阻んだが、武将はその場に膝をついて非礼を詫びた。


「私は、牧尚春の弟、牧良長でございます」


「長良! 長良じゃないか!」


 後ろから駆け寄って来たのは、懸命に馬を走らせ進軍についてきていた三浦貞勝であった。


「貞勝様、ご立派になられて……。貞広様をお守りするため兄と共に尼子家に下り、この度の侵攻にも後方支援として参加させられていたのですが、高田城に僅かな手勢だけで逃げ延びて来た将に出くわすとは、城を取り戻す、またとない好機。それを追うのが、貞勝様を助けていただいた宇喜多直家様であるとは、天命を感じずにはいられません」


 牧長良は目頭を押さえて再会の涙を堪えたが、直家に向き直った顔は歴戦の武将の者になっていた。


「是非とも高田城を取り戻す手柄を我らに立てさせてください。まだ、天守には島村盛実が立て籠もっておりますが、一の門は既に我らの兵で取り戻しており、降伏するのも時間の問題です」



 城攻めでありながら直家は悠々と城門をくぐった。

 高田城は第一の門の内側に大きく広場が作られ、かなりの数の兵を入れられる練兵場になっている。その奥の門から先は、入り組んだ廊下や普段の生活に必要な建物が並んでおり、攻め難いが守る兵も数を揃えられない造りになっている。

 島村盛実がいくら抵抗しようと、城内の構造は牧長良の方が詳しい。逃がす事もない盤石な攻めであった。

 だからこそ、邪魔にならないように城の隅に陣取っていた直家は、その知らせを聞いて驚かずにはいられなかった。


「敵です! 敵に城が囲まれております!」


「どこの兵だ!」


 冷静を装うも伝令に怒鳴り返してしまった。

 気を落ち着けねば……。

 目をつぶって一息吸い込む。城を囲めるほどの敵兵は、尼子家の兵以外にはいる筈もない。天神山城を攻めていた兵が戻って来るには早すぎる。つまり、考えられるのは、尼子晴久の本隊。


「城門を閉じて、守りを固めろ!」


 兵を城に入れて、籠城の用意をさせる。


(……最悪だ)


 追撃の野戦の予定だったのである。

 連れてきた兵は、花房正幸の弓隊も居たが、軽装の足の速い兵が殆んどだ。

 それで、内側に敵を抱えたまま城門を守る事になったのだ。


「こんなに近づかれるまで、見張りは何をやっていた!」


 大声を張り上げたが、遠くを見張るための背の高い見張り台は二の門側に付いており、そこは内側の戦闘の真っ最中だった。


(俺は、何をやっている……)


 高田城は構造上、城門に守備兵を固められる。

 しかし、数で押し込められては守り切れるものではない。

 そうと分かってはいても、攻めてくる敵兵を追い返すのに手いっぱいであった。


(こんな時こそ、何か策を考えねば……)


 だが、敵兵がどれくらい居るのかも分からず、増援を呼び集めようにも、使者がたどり着けるのかも分からない、辿り着いたとしても、兵が到着するまで持ちこたえられるのかすら分からないのであれば、すべてが無駄に終わってしまう。

 次第に城門の前の敵兵の数が増え、内側で籠城する兵も助けが迫ったと知ると必死の抵抗を見せ始める。

 敵に挟まれた宇喜多兵は奮戦したが、逃げ場のない疲労は何よりも重く圧し掛かっていた。

 城門があと一押しで破れると踏んだ尼子家の兵が、一気に押し寄せた瞬間。

――銃声が響いた。

 怒号と悲鳴、武器のぶつかる音が響く中、異質な火薬の爆ぜる音。

 たった一発でありながら、圧倒的な存在感を放つ音だった。

 山間に木霊した音の出元を探して頭を巡らすと、物見櫓の一つに見知った顔があった。

 遠藤秀清と俊通の遠藤兄弟。

――しかし、何を撃ったのだ?

 その疑問に答えるように、直家の視線に気づいた遠藤秀清が、城を攻める兵の方を指さす。

 そして、指し示られた先から、ざわざわとさざ波のように動揺が広がっていくのが分かった。


(何を?……)


 そう問うのは愚問だった。

 混戦の最中、どこに居るのか誰が率いているのかも分からない混戦の最中、敵将を狙撃したのだ。

 それが確信に変わった時、動揺が広がった中心から、尼子家の兵は静かに撤退していった。

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