秀頼、天下に号令す
「秀頼様、全員整列させました」
「ふむ、けっこうな人数ではないか、何人くらい居るのだ?」
「はっ、三千人ほどになります」
「三十万は欲しい所だが、とりあえずはこんなものか」
まんまと兵を手に入れはしたが、見すぼらしい着物にありあわせの武器、こんな奴らで徳川に対抗できるとも思えんが、この国に住むもの全てを使えてこそ天下人よ!
こいつらを今すぐ精鋭にしてくれよう……。
「聞け―い! 貴様らは何のために、武器を手にした! 貴様らは何のために、命を捨てて戦おうとしている!」
「年貢が多すぎるからだ!」
「このままじゃ生きていけねぇ!」
「飢え死にするくらいなら、いっその事……」
「愚か者が! 飯を食いただ生きていればそれで満足と言えるのか! その日の飯を与えられて、自分の腹を満たせればそれでよいのか! 貴様らの子供や子孫も、その日の飯のために生きていけば、満足なのか!」
「だけど、今日食う飯が無ければ……」
「お前らの命は握り飯一つの価値しかないのか!」
ざわついて居た兵士たちが一瞬にして凍り付いた。
今、腹を満たすために、目の前の握り飯一つのために、武器を振るってきた。しかし、
「武器を手に戦うのは目先の欲のためではない! 一握りの飯のためではない! この国の全ての民のため、国を豊かにし、国を安んじるためだ! 子孫へと続く繁栄のために、天下を治めるためだ!」
「天下だって?」
「泰平の世で臣民が豊かになる。豊臣の名の下に、天下を統一するのだ!」
「俺たちが、天下を取るのか?……」
「天下統一……豊臣……」
「おお、豊臣だ!」
兵士たちが突き上げた拳と共に一斉に「豊臣」の歓声を上げた。
今ここに恐れ知らずの豊臣軍が誕生したのだ。
「まずは、貴様らをいっぱしの武士にしてやる……」
何とか戦場で戦えるようにしないとな、しかし、この人数、何をさせたらいいのか……。
「あれを見ろ! 六三四を見習って、薪を割るんだ!」
子供の集中力とは恐ろしい、未だに黙々と薪を割っているとは!
「……天下と薪割りが何の関係があるんだ?」
町人と言えども子供ほど素直ではないか、六三四の真似をして薪を割れというのはさすがに無理があるな、ならば。
「戦場の剣とは、一撃必殺。一の太刀を疑わず、二の太刀要らず、これぞ、示現流・薪割りだ! クェエェェー!」
確かそんな名前だった! 気がする。
「おおー、鶏を絞め殺したような奇声と共に薪が真っ二つに、凄い剣技だ!」
「俺たちも早速薪を割るぞ!」
ふっふっふ、軽いものだな。
戦とは算術よ、三千人が初めの一撃で一人一殺すれば、三千人倒せる、が……次の一撃でもう一人倒せばいいんじゃないか? さらに次の一撃でもう一人。
何だかよく分からないがいくらでも倒せる気がするぞ?
流石は一撃必殺の示現流・薪割り。
案ずる事は無い、町人どもよ、無心で薪を割るがよい!
後は城に天守でも欲しい所だが、どうやって作るのかはよく分からんし……。
そうだ、真田信繁が作っていた、あれなら簡単に出来そうだ。
「よし、お前らは、門の外に杭を打って柵を作るのだ」
「はい! しかし、これは何のためですか?」
何のためだろう?
確かこうやって、門から出てきた兵を並べてだな……。
「相手からよく兵が見えるように表に並べて、兵丸出し……そう、城門から出陣する兵士を相手に見せつけて威圧する、真田丸出しというやつだ! 徳川の狸爺もこれには恐れおののいていたからな」
「なるほど! 何という斬新な兵法だ」
うむ、これで、城としての体裁は整って来たぞ。
後は……。
「秀頼様、越後屋がお会いしたいと参っております」
「越後屋? 誰だそれは」
「これはこれは、お武家様。本当に一向一揆衆を率いてなさるとは」
「お前はこの間の悪人面!」
「あの時は失礼いたしました」
失礼も何も、六三四がいきなり殴りつけただけだしな。
もしかしたら、殴られたショックで都合よく記憶が飛んだのか?
いや、ぶつかった拍子に人格が入れ替わったりするからな、そうなると、こいつは薪と入れ替わった事になる。きっとそうに違いない、人間の振りをしているが実は薪がしゃべっているのだ。
「いえ、お武家様。今日は、お金を返していただこうかと……」
ちっ。しっかり覚えてやがる。
六三四の奴もっとしっかり殴っておけばよかったものの、……子供だから仕方がないか。
「うむ、わざわざ出向いた殊勝な心掛けに免じて、お前を勘定奉行に取り立ててやるぞ」
「えっ? いや、二両を……」
「豊臣軍の兵糧を用意するだけの簡単な仕事だ。どうだ? 嬉しいだろう。天下人から感触を賜るなど、またとない幸運だぞ……」
「いや、……私は、……店が」
「兵糧が滞ったり、逃げ出したりすれば、打ち首だけどな」
ふっふっふ……、これで戦の準備は整った!
天下に号令を下す時が来たのだ!
しかし、徳川家康はどこにいる?
逢坂城はどこにあるんだ?
ついに天下統一の第一歩を踏み出す秀頼。
戦力は、千絵(町娘)、六三四(子供)、越後屋(商人)、一向一揆衆三千人だ!
果たして、これだけの戦力で初陣を飾れるのか?
合戦は11日だ!