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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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沼の主 3

 日が中天にかかる頃、一度目の突撃が開始された。

 狭い街道で最前線に居た兵士は少数、そのうえ不意を突かれたと言う事もあって、脆く崩れ出し、初めの内は楽に勝ち進めるかと思われたが、いくらか進んだだけで押し戻され始めていた。


「家利、もっと兵を投入するか?」


「これ以上はかえって動きを制限することになります」


「忠家を呼び寄せて騎兵で、一気に押し込むべきか?……」


「それも難しいかと。街道を強引に押し進んでも、山沿いに築かれた陣屋を潰さねば、包囲されて身動きが取れなくなるだけです」


 簡易ではあるが幾重にも重ねられた柵に阻まれて、思うように進めずに居た。

 先を削って尖らせた木材を組み合わせた物から生木を切り倒しただけの物まであったが、種類の多さが乗り越えるのを手間取らせる一因となっている。


「……持久戦も仕方がない、と言う事か」


「そうですね、柵を破壊するにも、運び出さねばならないですし」


「それなら、いっその事、運び出した柵をこちらで利用するか」


 柵を運び出すには兵を往復させねばならず、より進軍させるのが難しくなる。そして、両軍共に決定的な手がないまま、小競り合いを繰り返すうちに日が傾き始める。


「そろそろ、西日が差し込みます。これ以上、攻めるのは難しいかと」


「うむ、思ったより厄介だな……」


 東西に延びる山間の街道。最短距離であるはずが、一日かけて攻めても僅かも進めず、果てしないほど遠くに感じる。


(夜を徹して攻めても、成果は得られないだろう……)


 戦場を赤く染める夕日を睨み返していた。



「直家殿、いや、はや、ご苦労でしたな」


 亀山城へ戻ると、屋敷の入り口で中山信正が出迎えていた。


「これは、面目ない……」


「いやいや、聞きしに勝る宇喜多家の勇猛ぶり、この様な小さな戦場では、存分に力を振るえますまい。まことにもったいない事で、ささ、こちらへ、酒宴の用意が出来ておりますので」


「いや、今宵は……」


 とても酒など飲んでいる気分ではなかったが、中山信正の酒宴を断るわけにもいかなかった。時間をかけるほど事態は悪くなると思われ、何としても彼に兵を出させ尼子晴久を追い返さねばならない。

 しかし、時間をかける心算もない、直家は席に着くなり話を切り出した。


「税所元常の兵は、街道を封鎖するだけで攻めては来ません。あれならば、岡家利の部隊だけで十分対応できますので、我々は天神山城へ向かうべきなのでは?」


「ほうほう……、しかしじゃな、税所元常も長年争うてるだけあって、あれはあれで厄介で、なかなか退こうとはしないのは、この城から兵が出払うのを待っているのじゃからな」


「城の防備は十分、いかに相手が攻めてきても容易に守り切れます」


「そうは言っても、街道で防げるのなら城に寄せつけぬほうが良いしな。領民の負担も違うものじゃ。領地を守るためには、万が一にも、相手に総力を挙げて攻めれば落とせるなどと考えさせぬ事が大切なのじゃ」


「出陣した兵が山を回り込んで、龍ノ口城へ攻め込む可能性がある限り、全軍で攻める訳にはいかないはずです。尼子晴久さえ追い返せれば……」


「追い返せなければ?……。わしが城から動けば、松田元常も動く。松田が兵を率いて尼子晴久と合流すれば、手に負えなくなるだろう。しかし、合流する前に足止めしようとしても、こちらも全軍で当たらねばならぬ相手だ。……つまりな。動こうが動くまいが、同じことじゃ」


(……その通りだ)


 中山信正の言いようは、まさしく正論であった。だがしかし、それは亀山城を中心に据えればの話、そこに天神山城や浦上家の盛衰は織り込まれていない。いや、滅亡さえも織り込まれているというべきだろう。


「まぁ、尼子晴久はいつまでも備前に拘わっている場合ではないからな」


「それは、どういう意味ですか?」


「押さえるべきは西の岩見と東の但馬。巨万の富を生む南蛮からの海路と京を繋げる道だ。それさえ整えば、他は些事でしかあるまい」


「美作や備前を平定する気はないと言う事ですか?」


「尼子晴久が自ら出陣したが、遠征軍の本体と呼べるものは尼子義久が率いて播磨へと侵攻している。いつでも本拠地へ引き返す用意は出来ていると言う事じゃ」


「それでは……何のために?……」


「乱すため。一方に整った道があり、もう一方に荒れた道があれば、誰しも整った道を通るであろう。そうすれば、整った道はより栄えるが荒れた道は存在さえ忘れられる。南蛮との貿易も一つ所で独占するからこそ人も物も集まり、富を生むのじゃ。一方を整えたなら、もう一方を荒らすことも必要なのじゃ」


「争いのたびに一方は良くなり、片方は悪くなるの繰り返しでは、いつまで経っても、領民の暮らしは良くならず、いつまで経っても、争いは終わりはしない!」


「当然の事じゃな。富とは虐げた民の数だけ、価値を増すものじゃ」


「なっ…………」


「そして、富の価値が国の強さとなる。国の力が増せば増すほど、民も安心して暮らしていけるものなのじゃ」


「…………」


 領地を守るためには、力が必要だ。

 兵を揃え武器を揃える富の力だ。

 だが、民を虐げて手にした富で築き上げた国に何の意味がある?

 その答えは、乙子城に集まって来た家臣や領民たちと共に、畑を耕し、食べ物を分け合って、暮らしてきた、直家には、言葉に出来なかった。

 彼のもとに集まって来た人々がいつか幸せに暮らせるように、漠然とした目標に向かって突き進んでいたが、そのためには何が必要なのかと言う事を突きつけられた思いだった。

 答えを探すようにのぞき込んでも、盃の底には何も残ってはいなかった。

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