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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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沼の主 1

「よく参られた、宇喜多殿」


 城門を抜けると、中山信正が直々に出迎えていた。


「過分な歓迎、身に余る光栄ですが、中山殿の城から僅かな距離に税所元常が兵を進めているようで、見過ごせぬ様子ですが」


「そうなのじゃ、天神山城へ加勢に向かおうにも、あそこに陣取られては……」


「しかし、見たところ寡兵。一息に追い払ってしまえば宜しいのでは?」


「うむ、そうじゃ……。そう思って、あの者たちを呼び寄せたのじゃ……」


 中山信正はとても価値のあるものを自慢するように、えらくもったいぶった態度で手を振って答えた。


「あの者?」


 手の動きに誘導されるままに目を向けると、槍にしては短い木の棒を担いでいる男が立っていた。

 大事そうに抱えられている、それは、ただの棒ではないのだろう。遠目でも金属の細かな細工が付けられていると分かる。


「最近、名を上げつつある、砲術士の遠藤俊通じゃ」


 遠藤兄弟の名は直家も聞いた事があった。

 合戦ごとに大名家に多額の報酬で雇われる彼らは、雑賀衆にも勝る火縄銃の使い手であると言われていた。


「それでは、あれが火縄銃ですか? それにしては随分長い」


 火縄銃にもいくつか種類がある事は知っていたが、遠藤俊通の持つ火縄銃は今まで見た物よりはるかに長い銃身を持ち、握りが付いている場所も独特だ。


「そうじゃろう、何でも、あの火縄銃でなら、この城から税所元常の陣の旗も撃てるらしいからな」


 自慢してはいるが、中山信正も半信半疑のような何を自慢してよいのか分からぬ様子だった。


「それは頼もしいですな。それで、如何ほどあるのですか?」


「ん?…… 何がじゃ」


「もちろん、火縄銃の数です」


「火縄銃の数か……、いくつか見せてもらったが、何丁あったかな?……」


 会話に奇妙な間が開いた。


「……まさか、彼らだけなのですか?」


 直家は無駄な時間を過ごしてと言わんばかりに頭を掻いた。

 弓の届かぬ距離に立てられている陣の旗を撃ち抜けるとしても、それが一人であったなら曲芸でしかない。最低でも十人、欲を言えば五十人は居ないと戦力にはならないだろうと、思ったからだ。


「それよりも、天神山城に如何ほど兵を送る心算ですか?」


「それじゃ、それについてじゃが……是非とも相談したいことがあってな、ここでは何じゃから、中に入られよ……」


 直家たちが通された大広間には、豪華な膳が並べられ酒宴の用意がなされていた。


「これは? 我々は、戦に来たのですよ」


「まだまだお若いの、直家殿。合戦と言っても飲まず食わずで戦えるものではない、兵士たちに休息を取らせることも必要じゃ」


「ですが……」


「尼子家が遠征してきておる。遠征軍を迎え撃つ利点は、長い距離を進軍して、疲れ切った相手を討てるところにあるのじゃ。それを我々が慌てて駆けつけて、兵を疲れ切らせてしまったまま敵に当たれば、みすみす利点を捨て去ってしまう事になるのじゃ」


「そうは言っても、浦上宗景殿の数的不利は目に見えております。一刻も早く加勢に名乗りを上げ、他の城主を呼び集めなければ」


「兵の数は重要じゃな。しかし、ただ多ければ良いと言うものではない。まずは兵糧じゃ。城に一万の兵が三か月食える兵糧があるとする。そこに二万の兵が加われば、ひと月も兵糧は持たなくなるのじゃ。次に武具。傷んだ武器の代わりを城に蓄えていたとしても、加勢で増えた兵の分までは賄えまい。しかし、槍が折れては戦えぬので、加勢の兵の分も用意せねばならなくなる」


「それならば、兵糧や武器を運び込み、兵を養えるようにすれば宜しいのでは?」


「長い街道を警備して、物資を運ぶのに、どれほど兵が必要だと思うのかね? それでは、城を構えている利点もあったものではない」


 それは直家が今まさに思い悩んでいた問題だった。

 砥石城の兵に馬場職家の兵を配下に加えた宇喜多直家の部隊は急速に数が増えていたが、本拠地の乙子城で用意できている武器や兵糧は、千人分がやっとの事であった。負傷兵を砥石城へ連れて行き、人数を減らすことで壊れた武具の補充は済ませれたが、今後、大きな戦闘があれば、どうにかして調達しなければならなくなる。食料についても同じことが言えた。


「……つまり、じゃな。兵を揃え数で相手を上回るのは、決戦の時だけで良いのじゃ。兵が集まれば、即決戦を挑まねばならんのじゃ」


 反尼子家の筆頭でありながら、余りにも消極的な態度に煮えたはらわたが焦げる思いであったが、合戦において何枚も相手が上手であり、会話が進むにつれ返す言葉もなくなっていた。

 群雄が跋扈する備前・備中・美作の中心に城を構え四方に様々な勢力を抱え長年戦うも、迂闊に踏み込んだ敵は身動きが取れなくなり、勝手にもがいて自分の首を絞め始めると言われるほどの策謀家であり、それ故、底なし沼の主と呼ばれている中山信正が相手では、仕方がないとさえ思えた。


「久方ぶりに面白い話で、酒がすすみましたな」


 答えようとして、思わず盃を落としそうになった。

 言葉に詰まるたびに、紛らわすために盃の酒を飲み干して、自分でも気づかぬうちに酔いが回っていた。


「今宵は、ゆっくり休まれよ。話はまた明日にでも……」


 そう言い残すと中山信正は先に席を立った。

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