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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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亀山城

 新庄山を攻め落とした後、麓に陣を張って、次の手を話し合い体制を整えている直家の前に、縄で縛り上げられた馬場職家が引きずり出された。

 戦場では、大声を張り上げて軍配を振るう、無精ひげを蓄えた武骨な中年に見えたが、大人しく座っている彼の顔は、直家よりもいくらか若い。


「兵を預かる身で、主君を守れなかったとは、情けない。……好きにするが良い」


 潔さと言うより、借りてきた猫のようで、戦場で会った時よりずいぶん小さく見える。


「何故、新庄山に陣を敷いていた?」


「浮田国定様の命により、亀山城から落ち延びてくる兵を捕らえるため」


「亀山城は中山信正殿が守る備前の要とも言える堅牢な城。天神山城、三星城と其角の形を取っており、今まで一度も攻め落とされた事はない。その亀山城が落ちるだと?」


「尼子晴久は、美作侵攻と同時に、播磨へ尼子義久を五万の兵で出陣させた。浦上政宗様がどう判断しようと、五万の兵の前では動けまい。援軍なしでは、天神山城も、三星城も、尼子家の攻勢に耐えきれないと踏んでいた。亀山城が落ちるのも時間の問題」


 すらすらと話し始める馬場職家の言葉に嘘はなさそうだった。


「なぜ、その様な情報を知っていた!」


「……島村盛実殿からの書状にそう書かれていたと、言っておられた」


(我々が対策を話し合っている時には、既に尼子晴久が進行することを知っていたと言う事か……)


 数手も遅れを取っていたと、言葉も出なかった。

 いや、遅れどころではない。

 会議と称して集められた事が、既に尼子家が侵攻する時間稼ぎだったと考えるなら、尼子家に加担して動いているのは浮田国定だけにはとどまらない。

 どれだけの城主が尼子家側についているのか分からないままでは、天神山城へ加勢に向かうか決められず城に籠り、状況を見定めようとして互いに動かぬ相手に疑心だけが膨らんでいく。


「直家様、私が馬場職家を砥石城の牢へ繋いで参ります。処分は、後に……」


「……ああ、そうだな。貞親に、任せる。……そう、忠家と行ってくれ」


 考え込みそうになっていた所を長船貞親に引き戻され、慌てて今やるべきことに頭を巡らす。


「八兄い、俺も戻るのか?」


「お前には、騎兵を率いて山陽街道を東に向かい、天神山城へ向かう街道と分岐する場所に布陣してもらう」


「街道を封鎖するのか?」


「逆だな、封鎖しようとする者が居れば戦え。天神山城へ加勢を送るにも、撤退するにも、必要な重要な地点だ。しっかり守ってくれ」


「おう、分かったよ」


「残りは、私と共に亀山城へ向かうぞ」


 長船貞親が傷ついた兵を連れて東へ進むのを見送った後、直家は北へ進み始めた。

 馬場職家は大人しく帰順したと言っても、直ぐに兵を率いさせるわけにもいかなかったのは、彼の訓練した兵士たちを見ればわかる。血気盛んで忠誠心も高く、従わせるためには、それなりの通過儀礼が必要であった。

 さしもの勇猛な兵士たちでも、縄で縛られ連行される馬場職家の姿を見送らせれば、敗北を受け入れて大人しくなるだろう。

 敵が目の前に迫っている今、時間をかけずに一人でも多くの兵を動員せねばならなかった。


「殿、斥候の報告では、亀山城の西に税所元常の部隊が布陣しています。数は三百ほど」


 亀山城は山間に広がる平野から西へ備中へと抜ける街道を押さえるように建てられている。南から進軍する直家からは、まだ山で城の姿も敵兵の姿も見えぬ。


「龍ノ口の税所が亀山城に攻めて来ているのか」


「しかし、その程度の数なら訳なく追い払えるのでは?」


「うむ、だが追い払ったところで直ぐに援軍が来るだろう。それに龍ノ口城までは山間の狭い街道が続き、多くの兵を進軍させる事は出来ない、厄介な地形だ」


「そうですね。直家様、それよりも、まずは中山殿の真意を確かめるのが先かと」


 その言葉を少し疑問に思い、直家は視線を泳がせた。

 中山信正は浦上家内で反尼子家側の筆頭とも呼べるお人だ。

 今更、真意もあったものではなかったが、僅かな兵が城の近くに布陣しているからと言って加勢も出さなず静観しているのは納得がいかない。

 万が一にも、尼子家に付いたのだとしたら備前の勢力は大きく塗り替わるだろう。


「そうだな、中山信正殿に会いに行くぞ」


 それを確かめずには、居られなかった。

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