乱世の幕開け
宇喜多直家を乗せた小舟が乙子城へたどり着き、初めにもたらされた知らせは三浦貞久の死であった。
三浦貞久は助けに来た牧官兵衛と最後まで奮戦し城と命運を共にしたが、長男の三浦貞広を捕らえられ人質とされて仕方がなく、牧尚春は尼子家に投降し生き残った家臣たちもそれに続いた。
故に、三浦家の存続のため家督を継げるのは、直家の連れだした孫九朗だけとなり、十に満たない孫九朗は貞勝と名を改め、宇喜多家のもとに身を寄せる事になっていた。
「高田城か……。どうやって取り戻せば良いものか……」
「元々難攻不落の城と呼ばれていました。守るのが寡兵でも落とすのは困難、それが尼子の大軍となると、なおさら……」
「そうだな。だが今は兵を進める事も出来ないだろう。尼子晴久は、高田城を拠点に備中・備前・美作に侵攻してくる。……それを防ぐ方法を考えないとな」
「尼子晴久が攻めて来るなら、また俺が先陣を切って蹴散らしてやりますよ」
「忠家、尼子家の兵は何万もいるのだ、勇猛なのはいいが無茶はするなよ」
「何万の兵が居ようとも、奴らの槍など、この鎖帷子に刃が通りはしません!」
興奮したように大声を上げた忠家は、着物の襟を広げて内側に鎖で編まれた帷子を着込んでいるのを見せつけていた。
「お前、普段からそんな物着ていたのか?」
「もちろん! 着なれてなければいざと言う時、動けませんからな。それに、これは良い鍛錬になりますよ!」
立ち上がった忠家の後ろでふすまが開いたと思うと、忠家に負けないほどの怒鳴り声が聞こえた。
「忠家、騒ぐんじゃないよ! 暇だったら、薪を取ってきておくれ」
「母ちゃん、今、大事な軍議中なんだ、入って来るなよ……」
それは三村貞勝の妹の乳母をしてもらうために呼び寄せた富川通安の母で、忠家と春家の乳母でもある女性だった。
「忠家も冨川殿の前では、形無しだな」
「薪が必要なら、通安が居るだろ?」
「通安は、貞勝様と遊びに行っちまったんだよ」
「また、あいつら、ふらふらと……」
その時まるで雷鳴のような轟音が鳴り響いた。
「何の音だ! 鉄砲か?」
一斉にふすまを開けて表に出ると、そこに二人の少年が尻もちをついていた。それは三浦貞勝と富川通安で、二人の手には短い筒が握られている。
年の近い二人はすぐに仲良くなり、いつも一緒に遊んでいた。
両親を亡くし、ふさぎ込んでしまうよりは良い事であったであろうと、身分の違いなど問わずに自由にさせていた。この頃の宇喜多家は城主の直家からして若く他の大名家のような厳格な雰囲気は感じられなかった。そんな環境で過ごす子供たちが、武器を作る鍛冶場や鉄砲の火薬に興味を持つのは不思議ではなく、少しばかり危険な遊びもしていたが、それが自由な発想を生んだのだろうか。
「すいません、直家様。花火を作ろうと思って……」
「花火? 火薬と金属を混ぜて、火の粉に色を付ける奴の事か?」
「良く燃えるように、油を染み込ませたら火の玉になってしまって……」
「鍛冶場から火薬を持ち出したのか? なるほど……、まぁ、いたずらも多少なら良いが…………」
直家が答え終わるより先に、富川通安の頭に、母のげんこつが落とされていた。
「何やっているんだい! 火薬で遊んではダメだって何度も言ったでしょ! 貞勝様に怪我させたらどうするんだい!」
「うわーん、ごめんよー!」
「すいませんね、直家様、きつく叱っときますから」
「ああ、うん……」
子供の躾は任せるに限る。と考えるよりも直家は内心、別の思いに捕らわれていた。
(子供は面白い物を作るな……、もう少し工夫すれば、爆発の威力で燃えた油を飛び散らせて……)
爆発と火炎、この二つは扱いは危険だが合戦では絶大な威力を発揮する。それも攻めあぐねるほど強固に守られた城や水上戦において。水があっても逃げ場所がなければ、燃え広がった火を消す事は出来ないためだ。それをより効果的に使えれば……。
多くの兵を揃え養えるように、新たな戦法を考え戦で勝利するために、やらなければならない事はいくらでもあったが、宇喜多家が力をつけて成長するまで時代は待ってくれはしなかった。
わずか数年で激動の乱世は動く。
最大の勢力を誇っていた周防・長門・石見・安芸・豊前・筑前の六か国の守護を務める大内義隆が大寧寺で殺され、危ういながらも保たれていた均衡が崩れたのだった。
尼子晴久は混乱に乗じてい石見銀山を取り、さらに勢力を強めると美作・備前への侵攻の野望を露わにし始め、毛利元就も大内領を切り取り、周辺の国へと侵攻し始めた。
宇喜多家も誰が敵で誰が味方か、戦うべき相手を決めなければならなかった。




