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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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高田城落城

 牧尚春の用兵によって、まるで単純な流れ作業のように敵を屠っていく戦いであったが、尼子晴久の軍は宇山久信を先鋒大将とした部隊だけでも数万の兵を擁し、山間から湧き出てくる兵の列はいつまでも途切れないのかとさえ思えた。


「こいつら、いったいどれだけ出て来るんだ」


 戦い続ける用意も十分であったが、場所を気取られぬように移動しつつ矢を放つのは、粘り付くような疲労が絡みつく。


「これだけ被害が出れば、攻め続ける訳にはいかない。……もう直ぐ退くはずだ」


「ああ、分かったよ、兄上」


 確かに牧尚春に上手く誘導されてはいるのだが、無謀とも言える進軍を繰り返す程、宇山久信が無能なはずがないとも思えた。しかし、高田城を攻めるならば城に籠られる前に野戦で決着をつけるのが、被害が最も少なく済むのも理解できる。


(不利な状況であっても十分な兵力があれば、自分ならどうするか……)


 ふと浮かんだ疑問の答えを出せないまま、直家は采配を振るっていた。


「直家殿! どちらにおられますか!」


 次の場所へ移動しようとした時、牧尚春の伝令が駆け込んできた。


「ここだ、どうした」


 少しおかしな雰囲気を感じた。

 攻撃の合図ならば、これまでも太鼓や旗で街道の陣から伝えられていた。牧尚春の正確な判断の用兵術により、簡単な合図だけで十分だったのだ。それなのに、わざわざ伝令を送ってく必要があるような事態が起こったのか?


「宇喜多様、至急、城へお戻りください!」


「何を言っているんだ、ここを守らなくてどうする」


 尼子家の隊列は途切れる事はなく続いている。優勢であると言っても手を抜ける戦いではない。それなのに、今この場所を空けるなどあり得ない話だった。


(まさか、この伝令は宇山の手の者が送り込んで来たのか?……)


「……きさま、どこの隊の者だ?」


 腰の刀に手を伸ばした瞬間、聞き覚えのある声が遮った。


「直家殿!」


 それは城に到着した時、出迎えに来てくれた牧尚春の息子、牧官兵衛であった。


「すぐにお戻りください、援軍として城に入った江見久盛が裏切ったのです! 街道を抑える父の部隊を動かせば、尼子家の兵が雪崩れ込み総崩れになってしまいます。ですから直家殿に城に戻って、殿を助け出していただきたいのです。私も、お供します!」


 直家は雷に驚いた野兎のように走り出していた。

 まさか、これが宇山久信の策であったのだろうか、それとも手薄な城を好機と見た江見久盛が動いたのだろうか。

 偶然か、必然か、それもまた戦乱の世ゆえの宿命であるのか。

 山道を走り抜け、堀を渡る船に乗り込むと、城から多くの煙が立ち上っていた。


「殿ー! 殿、何処か!」


 先頭に立ち敵を切り伏せる牧官兵衛に続いて城に入る。どちらが共か分からぬほどの奮戦ぶりであった。それでも官兵衛は冷静に道を選び最短距離で居間へと向かった。


「殿ー! これは若様、ご無事か!」


 江見氏の兵よりも早く城主の家族が生活する居間へとたどり着いた。そこには三浦貞久の姿は無く、護衛の兵士も表に出て戦っていたが、取り残されて不安そうにしながらも息子の孫九朗がしっかりと赤子の融を抱いて立つ姿があった。


「直家殿、若様を連れて、先にお逃げください」


「しかし、貞久殿はどこに……」


「殿は、私が助け出します! しかし、江見久盛に城を囲まれてしまえば、若様と姫を連れて逃げ出すのは困難。先に囲みを破って山を下りてください」


 幼子を連れて戦えるわけがない、それは道理であったが。


「……分かった。官兵衛殿、御武運を!」


 この乱戦の中、三浦貞久を助け出せるのか、いや、城の構造をよく知っている牧官兵衛でも見つけ出せるかどうか怪しい物だったが、ここで引き留める事は出来なかった。

 しかし、幼い子供たちを預けられた直家の方も楽な役割ではなかったのだった。

 城から逃げるには山間の狭い街道を通らなばならず、尼子家の攻めて来た道を除けば江見氏の本拠地へと続く一本道しかない。


「騎馬隊を先陣にして、切り抜けるぞ! 皆、続け!」


 号令と共に走り出した先頭の騎馬には、宇喜多家の雨竜の兜飾りが煌めき、馬上から槍が振り下ろされ、不意を突かれ隊列を組む間もなかった江見久盛の兵を次々と蹴散らす。


「敵は少数だ、取り囲め!」


 敵将の叱咤が悲鳴のように上がったが、まさに鬼神の如き戦いぶりで、誰一人、近寄らせもしない気迫であった。


「遅れるな、一息で走り抜けろ!」


 怒号を発し、槍を振るって先頭を走るのは宇喜多直家ではなく弟の忠家だった。

 ならば直家はどこに居るのか?

 幼い子供たちを連れて、馬を駆って、槍を振るえはしない。

 直家は小舟に身を潜めて、川を下っていたのだ。

 見つからなければ、これ程安全に逃げられる方法はなく、三浦貞久も同じ方法を使うだろうと思われたが、小さくなって行く煙の上がる城を眺めていても他に船が出てくる様子はなかった。

 

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