京都地下迷宮
「秀頼様、くらいですよ~」
「ああ、京都の屋敷の縁の下と言えば、平清盛や源義経も使った由緒正しき縁の下だからな、長い歴史の間に整備され、今では、巨大地下迷宮となっているのだ!」
「まさか、京都の地下にこんなものが!」
「しかし、暗殺者の手から逃れるために工夫を凝らしすぎたため、余りにも複雑に、そして、巨大になってしまった地下通路は、一度迷えば二度と日の元に出られない迷宮となってしまったのだ」
「暗殺者から逃れるためなのに、より危険になっちゃってますよ~」
「源義経は急いで走りすぎてモンゴルまで行っちゃったし、織田信長は下におりすぎて、阿鼻地獄まで行ってイザナミと戦って、天魔王になったそうだしな」
「へ~、そうなんですか~」
「あー、信じていないだろう? いや、ほんとに地下研究施設とかもあって、恐ろしいモンスターとかも居たりするんだぞ!」
「そうですか~、扉とか結構しっかりした作りのものがありますね」
「ちゃんと聞いてるか?」
「この扉、重いですよ。ちょっと開けるの手伝ってくださいよ~」
「ん? これか……」
――ギッギィィィ……。
「乾いた気の軋む音、ずいぶん長い間使われていなかったようだな……」
「そうですね、何だか埃っぽいし……」
――クチャ、クチャ……。
「ん? 千絵何を食べているのだ?」
「何も食べていませんよ~。秀頼様じゃないんですか? 千絵もお腹すきましたよ~」
――クチャ、クチャ……。
「この音は……? そのテーブルの向こうからだ……」
テーブルの陰で床にうずくまった男が何かを両手で口に押し込むようにして食べている。
……誰だ? いや、何故この男はこんな所で食事をしている?
声にならない言葉が微かな音となって喉を鳴らした。
うずくまった男の立てていた咀嚼音が止まる。
男が、ゆっくりと振り向く。
ゆっくりと……、ゆっくりと……、振り向いた顔には、深く刻まれた皺に沿って流れる肉汁が!
「ギャー! ゾンビですよ、秀頼様、ゾンビですよ!」
「間違いないゾンビだ! 地下迷宮で迷った人を食うゾンビだ! 食われた死体もゾンビになる奴だ! しかし、食われたのに死体がゾンビになるのは、ある程度食うとゾンビになって食べるのをやめるのか? その境目を見るいい機会かもしれんぞ!」
「何言ってるんですか! 早く逃げましょう、ゾンビにされてしまいますよ!」
「誰がゾンビだ!」
「……お前は、尼子経久! 生きていたのか!」
「死んだからゾンビになっているんですよ!」
「そうか、今日の千絵はさえているな」
「えへへ、そうですか~」
「しんどらんわ! まったく、最近の若い者は……」
「しかし、こんな所で何をしているんだ? 銀山で銀掘ってたんじゃなかったのか?」
「まーうちもいろいろあるんだよ、国人衆が言う事聞かなかったりだな……。そういう時、京都に留学していた時使ってたこの部屋に来て気分を落ち着けたりしているんだ」
「そうなのか? それにしては随分埃っぽいな」
「若いころ一人暮らししていたらこんなもんだろう?」
「うーん、それより何で床で飯食っていたんだ?」
「……ゾンビだからですよ、……ゾンビですよ」
「ああ、これな、イスラム教に改宗しようと思ったんだ。今、イスラム教に改宗すると、トルコ製の大砲とか売ってもらえるらしいで」
「トルコ製か~。ええんかな?」
「オランダとか鉄砲売りに来てくれるけど、実はオスマントルコに滅ぼされかけてるらしいやん? やっぱ、これからは大砲の時代やで!」
「でも、改宗すると食えないもの沢山あるやん?」
「大丈夫です。千絵はスキキライはありません」
「その辺は調理してしまえばわからんからな。あとは床に座って食うのだが、よく考えると普段の部屋は畳だからじかに座ってたよな」
「なるほど、意外といけるかもしれんな」
「そうそう、後、ガチョウの羽ももらったで」
「ほう、何に使えるんだ?」
「これ火をつけると、めっちゃ煙が出てな……」
「おお! すごい煙だ! って地下で火をつけるんじゃねー! 目が、目に染みる!」




