黎明の時
信長暗殺を企てる安東愛季の前に現れたのは、長宗我部盛親だった。
「暗殺なんてやめるんだ、人を殺せばそれだけ人々の暮らしが脅かされ天下が乱れるだけなんだ」
「何を甘い事を言ってやがる、このみかん頭。貴様も秀頼の手下か?」
さては俺の策を見抜いて先に刺客をおくって来たのか、侮れん秀頼……と言いたいところだが、こんな弱そうなやつを送り込んで来るとは、なめられたものだ!
「僕は、秀頼様とは……ううん、関係ない。僕は自分の意思で戦いを止めるんだ」
「戦いを止めるだと? こいつ何を言ってやがる」
「さては君たちも、天下を手に入れるために戦を起こす気だね」
「戦国武将ならば天下を狙って当然であろう!」
(皆おんなじだ……秀頼様も、この人も、みんな戦国という時代に踊らされているんだ……。)
どうした、いきなり遠い目をしているぞ?
「そんな事はさせないよ……そのために僕は、四国からみかんを運んで来たんだ! みかんを戦国大名たちに届ける事でこの国は平和になるんだ」
「そんな物が何の役に立つ! 何でもみかんで解決しようとする四国人が、貴様のみかんなんぞ食らい尽くしてやる!」
「一つの果物を食べれるのは一人だけ。でもね、みかんは皮をむけば、房に分かれている。みかんはみんなで分けられるのさ!」
「そうか! ならば、お前には形の悪いみかんをくれてやる。俺は丸くてきれいなみかんを食うぞ!」
「……甘いよ」
「何だとっ!」
「……みかんはね、丸いものより平べったいものの方が甘いんだよ! そして糖度が高い分、早く傷みやすいので先に食べるべきなんだ!」
「おのれ謀ったな! ならば平べったいみかんから食ってやる!」
「それは10房だよ、こっちの13房のみかんから食べるんだ!」
「馬鹿な! 皮も向かずに房の数が分かる筈が無い」
「分かるのさ……。何なら数えてみるといいよ」
「ようし、それならば、一つ……二つ……三つ……、ええい、面倒だ!」
「いや、それくらい数えてよ……」
「なぜ房の数が分かったのだ、そして甘いぞ、このみかんは甘いぞ!」
「みかんのヘタについている模様を数えたのさ、この模様がみかんの房の数と同じなんだよ」
「まさか、みかんにそんな秘密が!」
「僕はあらかじめ房の数を数えて、大名家の家臣の数とぴったり合うようにして届けているんだ。そうすれば、みんなで皮をむいて分け合って食べる事になる。一つの物でも気持ち次第でみんなで分け合える、戦などしなくてもみんなでこの国を豊かにできるんだ」
「何という事だ、たかがみかんにその様な力が……。だが、この戦国の世に、そんなみかんの皮算用がどこまで通用するかな……」
「通用させて見せるさ! みかんは一つじゃないんだ!」
「あれを見ろ! 織田家のサルは、皮をむいたみかんの房を分けずに丸かじりだ!」
「そんな!」
「サルが捨てた皮を鳥が食っているぞ! 更に犬は皮ごと食っているぞ!」
「ダメだよ、みかんは……、みかんは皮をむいてから食べるんだ!」
「誰じゃ! わしのペットにみかんを食わせた奴は!」
「しまった、信長に気づかれたぞ。仕方あるまい、ここは退くぞ!」
信長の暗殺は未遂に終わったが、この事件をきっかけに戦国大名たちが我先に京へと向かい始めた。
止まる事を知らぬ時代の流れか、ついに群雄が集う天下統一の戦いが始まるのだ!




