黒光りするどぺーっとした何か
今日は観音寺城を攻めに来ている。
天候もよく絶好の山城攻め日和ではあるが、天下人たる俺は山を攻めるほど暇ではないというのに、わざわざ辺鄙な所まで来て、なぜこんな山を攻めているかと言うと……。
「秀頼様~。六角家から書状が届いておりますよ」
「六角家? そんな角ばった家は何処にあるんだ?」
「守護大名の六角家ですよ」
「ふーん、まぁなんて書いてあるんだ?」
「こちらが書状です。『あー、俺、六角やけど。三好長慶と戦って活躍したから褒美くれ』だそうです」
「なんやて? いつ戦っとったんや! みーひんかったつーかー義輝知ってるんか?」
「うーむ、六角、六角……。おお、そうだ! おったおった、あまりにも役に立たないので忘れてたよ。どのへんで戦ってたかなー?」
忘れられるような活躍で褒美くれとか、マジなめとるんか!
合戦に勝つと、たまにこういう奴おるからなー……。
「よし、攻めるか」
と、言う訳でこんな所まで進軍してきたわけだが。
「流石は日の本一の山城。東山道、八風街道を抑える要所であり、千もの曲輪を備えているとは。……この城、どう攻めますかな?」
曲輪? 何だろう埴輪の一種か?
どうせそんな所だろう、人も住んで無さそうな田舎だから兵もそろわず埴輪を並べて城を守っているのだろうな。これだから田舎者の考える事はいまいち分らんのだ。
「そんな物正面から蹴散らしてやる。皆の者、俺について来い!」
「おー!」
観音寺城に攻め始めて一時間、まだ一つ目の曲輪にさえ到着していない。
想定外だった、これほど難攻不落であったとは……。
「秀頼様~。もう少し早く歩かないと後ろの兵士たちが山道で渋滞していますよ」
「うるさい黙れ! 鎧を着こんで山道登るの大変なんだぞ! お前もこれ着てみるか?」
「えー、いやですよ。なんか変な臭いしていますし」
「変な臭いとか言うな! この兜だけでもかぶれよ」
「いやですよ~、一番重そうじゃないですか。それに、臭いも……あれ? 何か聞こえてきませんか?」
「敵襲か?」
刀や槍が激しくぶつかり合う合戦の音が聞こえる。もう戦いが始まっているのか?
そんな筈は無い連れて来た兵士たちはみなここにいるではないか。
では、誰が戦っているのだ?
「秀頼様、六角家で内紛が起こっておりますぞ! 六角義賢の子・六角義治が重臣・後藤賢豊を謀殺して、家臣たちが真っ二つに分かれ争っているようです」
「えっ……、六角形が真っ二つになるには重心は何処にあるか?」
「流石は秀頼様、進軍に時間をかける事で六角家同士で争わせるなど、並の策ではございませぬ!」
「うむ、俺の策に間違いはない、このまま進むぞ!」
最初の曲輪にはおれた武器や兵士たちの死体が転がっており対抗する者もなく、本丸にたどり着いた時には戦いはすでに決着していた。
ちなみに曲輪とは石垣や堀で区切られ兵士を駐屯させたりする場所の事だ。
もちろん天下人である俺は知っていたがな。
「秀頼様、六角家の家臣の処遇をどうされますか」
六角家とかよく分からんところに対した武将もおるまい。全員斬るか……。
「そうだな、兵士は各部隊に編成して……、どうした松永?」
「秀頼様、私が見た所、六角家の家臣に若いがなかなか優れた目をした者がおります」
「ほう、おぬしがそこまで言うとは、どれ見てみるか。……まさか、…………何だあの兜は!」
黒光りしてどぺーっとした何とも言えぬ異様な兜、いや、兜なのか? 頭の上に乗っているから兜のような気がするだけで、何か別の生き物……そう、ナマズ、頭にナマズがかぶりついている! そう思った方がしっくりくる。
「名は蒲生氏郷と申し、武芸だけでなく茶も嗜むとか」
こいつが蒲生氏郷か!
父上から聞いたことがある。合戦ではいつも真っ先に飛び出し手柄を上げ、一緒に利休に茶を習いに行っても人一倍覚えが速く、何かにつけて差を見せつけるので、褒美と称して北国に左遷された奴だ!
サル太閤と呼ばれた父上の器に入りきらなかった武将か、しかしこの天下人豊臣秀頼ならば、使いこなして見せよう!
「うむ、中々見どころがある奴だ、京へ連れて帰るぞ」
「御意」




