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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
日ノ本燎原
120/124

近江八幡の戦い

 多賀高忠の戦術は、本陣の分厚い防御陣と両翼の弓隊で敵の攻撃を防ぎ、まとまって正面から攻撃できない相手が、少数の分隊で側面を突く奇策に出た所を騎兵の機動力を生かして刈り取っていく、弓馬四天王の海野幸氏と望月重隆が考案した吾妻鑑あずまかかみの陣であった。

 だが、合戦が始まって半日以上経つのに、いまだに決着がつかないのは、湖畔の湿地帯が原因がある。

 ただの平地に見えても、突然ぬかるんだ沼地となる。足首まで浸かる程度のものもあれば、人の背丈ほどの深さの場所もあって、下手に踏み込む事は出来ず、騎兵の機動力を生かせなかったのだ。

 負けはしないが勝てはしない。そんな状態が続いていた。


「動きがないが、劣勢なのか?」


 本陣の後ろに居ては戦いの様子も分からないが、華模木は伸びあがって先を気にしていた。


「優勢なのだと思うぞ。全軍が川を渡り切ってしまえば、数の上でも有利になるし、両翼を広げて騎兵で伏兵を借り出しながら進めば、相手の奇襲に合う事もない、押し込むのも時間の問題だ」


「しかし、足場が悪くて、騎兵が動かせないのだろう?」


「そうだな。そうなると、騎兵の代わりに足軽を使う事になるかな」


 本陣から伝令が駆けてくる。

 二言三言、言葉を交わした後、塩治掃部ノ介の号令が上がった。


「俺たちの出番か?」


「うむ、そういう事だな」


 前線に出ると、塩治掃部の介の率いる部隊が前方左側に布陣し、多賀高忠の部隊が中央から右で縦に長く隊列を組み進み始める。

 そして、経久たちの前には、丸太を組み合わせた柵が並べられていた。


「この柵を運べは良いのか?」


「……そういう事だな」


 兵法書を読めば、敵と対峙する兵の動かし方は分かるが、陣の跡の始末の仕方までは書いていない。どこの誰だか名も残らぬ者たちがやっていたのであろう。

 思わず肩をすくめて辺りを見回しだが、合戦の記述にも残らぬ地味な仕事に、誰も文句も言わずに取り掛かっていた。


「不満かい? 陣をいかに早く移動するかで、勝敗を左右する事もあるさ。それに、前を歩くより安全だしな」


 丸太を担ぎ上げた華模木がさらりと言ってのけた。

 敵の情報や陣の築き方、知るべきことはいくらでもある。兵と兵を戦わせるだけが合戦ではないと、言われた気がして、返事が出来なかった。


「おーい、手を貸してくれ」


 柵を担いで先を急いでると、街道から外れた草むらから声が聞こえた。


「あの声は、高家じゃないか?」


「どこだ?」


「おーい、こっちだ」


 共も連れずに、泥に槍を突き刺している多賀高家がいた。


「何してるんだ?」


「この辺りに、刀を落としたんだ……。いや、あの辺りだったかも?……」


「まさか、例の刀を探してたのか?」


 いくらでかい刀とはいえ、この広い泥沼に落とした刀を探していたのか?

 戦いの最中に落とした刀を探して騎馬隊が動けなくなっていたのだったら、多賀高忠様に会わす顔がないと思いつつも、嫌な予感がして、いつから探していた? と言う疑問は口にしなかった。


「ちゃんと役割はこなしていたぞ。でもな、担いで走るには足場が悪くて、家人に渡しておいたんだ……」


 すまん。その家人には後で謝っておこう。

 後ろめたい気分を紛らわすように刀の探索を手伝うが、見つかりそうにない。そう思った諦めかけた瞬間、草むらの向こうで甲高い歓喜の叫び声が上がった。


「ありました! 高家様、ありましたよ!」


「おお、見つかったか!」


 答えは別の草むらの影から聞こえる。そして、いくつもの声が集まって来る。


「何人で探してたんだ……」


「やったぞ、太鼓を鳴らして、皆を集めろ。本隊と合流するぞ!」


 意気揚々と引き上げる多賀高家たちの後について本隊へと合流した。

 他の部隊よりかなり遅い到着だったが、なぜか泥まみれの姿を見ると、他の部隊の者や足軽隊を指揮する立場の塩治掃部ノ介も何も言わなかった。

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