兵の使い方
近江への出陣が近づくにつれ、戦の準備に追われ始める。
多賀高家ならば総大将の息子と言う事もあり、多賀家配下の兵を数百は率いる事になるが、尼子経久や他の家臣たちは、手柄を立てるためには、京極政経が雇い入れた足軽を割り当てられるか、自分で雇い入れなければならない。
京極家の家臣たちが慌ただしく走り回る中、経久は高家の憂鬱がうつったかのように、何をするでもなく、昼間から華模木と酒を飲んでいた。
「種珠庵から戻ってから何をするにも上の空だが、旦那も戦に出かける準備をしなくてもいいのかい?」
「ああ……」
「どうしちまったんだい? 出雲から兵を集める時間もないとなると、京で足軽を雇い入れなくちゃならないが、他の連中が集めた後じゃ、どうしようもないぞ?」
「足軽だって、飯も食えば酒も飲む、早く雇えば、それだけ金もかかる」
手に取った盃を一息に飲み干した。
「それに、戦のたびに、足軽の数を競い合っても仕方がないしな」
「兵の数が戦における力だろう。どんな戦術を考えようにも、最低限、必要な人数ってものがある。限りある武家の人数を確保しなければいけないんじゃないのか?」
「まぁ、そうだが。……足軽は、いくらでも増えるからな」
何となく選んだ言葉に、華模木が眉をしかめた。
酒が回っているとはいえ、兵卒の命を軽く見ていると思われ兼ねない言葉だ。それくらいは、分かる。
「……そもそも、足軽は、武家ではないからな。鎧と槍を持てば、誰でも足軽と呼べるのだ」
「そうなのか? 例えば流民たちでもか?」
「ああ、どちらかと言うと、地方で村を焼かれ、住む場所を失った者が多数を占めている」
「それなら、もっと、大きな戦になれば、上京の瓦礫に住む流民たちも皆雇い入れられるって訳か?」
「そして、有り合わせの武具で戦に出て、命を失う……。でもな、生きて戻ってきた方が大変な事もあるのさ」
「どういう事だ? 死なないに越したことはないだろう」
「一度、武器を取って戦に出れば、もう、農民にも町人にも戻ればしないだろう。畑も家も焼き払われるだけの戦場を嫌と言うほど見た後ではな。恩賞で家を建てるなら鎧と武器を買い、次の戦に備える。元が何であれ、そうした足軽になってしまうのさ」
「……それが、足軽か」
「蓄えが尽きても次の戦が始まらなければ、雇い入れてもらえなければ、武具を売り払うか、野盗になるしか道はない訳だ」
「京の流民を全部足軽にしてしまったら、どれだけ焼け野原が出来るか、どれだけ野盗になるのか……」
「俺一人が、雇わなくても、これから足軽の数はいくらでも増える。それは変わらないだろうが、せめて、俺の雇った兵には責任を持ちたいものだ」
「……うむ」
眉をしかめていたが、それは別の意味が見て取れた。
「それでも、兵を揃えないといけないのも確かだ。一条冬良を助け出すためには、ある程度の人数が必要だからな」
「種珠庵の宗祇の依頼か。やはり、引き受けるのか?」
「戦での手柄にならなくとも、宗祇先生に恩を売れるならば、その価値は計り知れんからな」
東軍にも西軍にも恩を売り、公家との繋がりもある宗祇の影響力は、計り知れない。
「しかし、どうも胡散臭いというか、あの俺たちが来ることを知っていたという態度が引っかかる。伊勢盛時にしても、俺たちと競わせ、引き受けずにはいられない風に持っていかれた感じがしたからな」
「戦が近くなれば、誰かが顔を出すのは当然だから……」
そう言いながらも、別の考えが浮かんでくる。
武家や公家、幕府での権力と言ったものに目を向けていれば、それらに影響力を持つ宗祇の力は絶大に思えたが、町で暮らす町民たちにとっては、ただちょっと顔の広い、物知りな年寄でしかないのだと。
別の視点で見れば、華模木が中山勝重と呼ばれて気まずそうにしていた時のような、奇妙なおかしさが込み上げてくる。
「どうした? にやついて」
「いや、何でも……。ちょっと待てよ……、そうか! 一条冬良の救出なら足軽を使う必要はない訳だ」
「戦に連れて行くなら、足軽じゃなくても兵には違いないだろう?」
「そうとも限らんさ」




