出陣2
高家を連れて向かった先は、華模木の住む尼子家の屋敷だった。
通りから見るもんは立派であったが、内側はすっかり長屋の集まりになって、多くの流民たちが住んでいる。その長屋の一つに華模木も住んでいた。
「旦那、良い所に来た。尼子屋敷の本殿なんだが、吉川屋敷を見て、いくつか候補を考えてみたんだが……」
「おお、中山勝重殿ではありませんか。先日の吉川屋敷の宴で、披露された歌も機転も素晴らしく、一度ご挨拶したかったのだが、京極屋敷では、とんと見かけた事がない。どこの屋敷にお住まいかと思っていたのだ」
「あっ、いや、おれは……」
「何言ってる、高家。ずっとふさぎ込んでいて、誰とも顔を合わせていなかっただろう? 隣に誰が居ても気が付かなかったくせに、見かけた事がないとはよく言ったものだな」
「そうだったか? そう言えばそうだな」
「そんな事より、こいつを砥げる砥ぎ師に心当たりはないか?」
体の向きを少しずらして、華模木に肩に担いでいる刀が良く見えるようにした。
「これは、すごい……な。クルチ……いや、ククリとか言う刀だったか? もう少し小さい物だと思っていたが……」
目を丸くしながらも、頭の中から何とか知識を引っ張り出しているようであった。
「南蛮船から買ったらしいんだが、こいつを知っているのか?」
「恐らく……。九繰り、または、菊理と書く。きくり姫のみことと同じ名の刀で、きくり姫が伊邪那岐と伊邪那美の争いを舞を踊って、一刀両断した時に使った刀に形が似ている為そう呼ばれているらしいのだが……でかいな」
手紙に書いていた怪しい説明書きと剣舞を踊るところは同じだが、やはり大きさが問題に思えた。
大の男が振り回すだけでも大変なのに、これを持って軽やかに踊れた菊理姫は、さぞ、逞しいに違いない。
「ここに住む砥ぎ師に頼んでもいいが、特別な砥ぎ方があったりしないのか?」
「そうだな、この大きさだと、大工道具のようにはいかんだろう……」
「……半分にして、二本に打ち直したりした方が良いんじゃないのか?」
「何をっ! 勿体無い!」
食いついたのは、大人しくしていた多賀高家だった。
「この大きさがあってこその、舶来の武具であろう! 馬上で振り回して敵将を真っ二つにするさまは、まさに圧巻!」
何かが見えてるように熱を込めて語っているが、重い刀を片手で振り回すのが誰なのかは、あえて聞かない方が良いだろう。
「打ち直すのはともかく、砥いでみる前に、誰か南蛮の武具に詳しい人に、聞いてみたほうが良いかもしれんな」
「たしかに……。だが、相談するとなると……」
「そういう事なら、自然斎・宗祇殿の所に行って見るのがいいんじゃないか? 明や南蛮についても博識で、公家や武家の区別なく広く交流される方だ。今は、ちょうど、上京に種珠庵を構えてらっしゃるから、直ぐ近くだぞ」
「挨拶もなしに行って、会ってくれるものなのか?」
「気取らない気さくなお方だから大丈夫だ。父上も出陣の前には尋ねるので、俺も何度か行ったことがあるし」
多くの権力者と交流がある知識人の元には、それだけ多くの情報も集まる。
どこどこの地方では不作だとか、雨が続いて病が流行っているとか。相手の情報さえ握れば、実際に兵を率いて、槍を突き合わせるまでもなく戦を終わらせることもできる。
だからこそ、多賀家などの総大将を預かる武家の者たちは、より有利な情報を手に入れるため親交を重ねていたのだった。
「そいつは、ありがたい。是非、話を聞いてみたいものだ」




