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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
日ノ本燎原
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鴨川

 薬屋で聞いた風体なら、豪華なものではなくても籠か牛車に乗ってきたはずだ。そうでなければ、女官を連れてぞろぞろ歩いていれば余計に目立つ。

 だが、通り沿いの店や何度も荷物を運んでいる人に話を聞いて回っても、まったく足取りがつかめなかった。


「どこかへ身を隠しているのか? 通りで見かけたって話が全くない」


「おかしいな……」


「後も残さず消え去れるはずもない、あの店主が嘘をついたのか?」


「いや、そうじゃないだろう。これだけ探して見つからないのは、予め追っ手をまくために用意していたからだ」


「周到に用意するような相手なら、もっと目立たない格好をしているだろう? 店ではあれだけ目立つ格好をしてて、帰りは変装したって言うのか?」


「そこだよ。どんな格好をしてても、毒に興味を持ったり、高額で薬を買ったら嫌でも人目を引くだろ。だから、店では派手な格好で買い物し、変装して町人に混ざって帰る。店主が覚えるのは派手な格好、そして、追手は派手な格好の客を探すから、隣を歩いていても気が付きはしないさ」


「目立ちすぎる格好していれば、それ以外の特徴を覚えられないからか」


 そう言いつつ華模木の派手な着物に目をやった。大きな菊の柄が入っている。見慣れていれば気にもならなかったが、知らぬ相手が特徴を伝えるなら、菊の柄の着物の男だろう。そう言われてしまえば、着物を脱げば全くの別人になれる。


「初めからこれだけの用意をしていたのは、よほど素性を隠したい理由があると言う事だ」


「いきなり本命を引いたって事か?」


「どうかな。しかし、かんざし一本だけで、探し出せはしないからな……。他の店も回るか」


「そうだな……」


 順番に薬を扱っている店を回った。これと言って、怪しい人物を見つけられたわけではなかったが、最近どの店でも、吐き気や腹痛を押さえる薬が良く売れているらしい。


「まだ食あたりが流行る時期ではないだろう?」


「下京は家が密集していて、流行り始めると一気に広がるものだが……。まてよ、そういや、新しく屋敷の修繕に集めた流民から子供が腹を下したって話をしていた。何も、下京に限った話じゃないかもしれん」


 尼子屋敷跡に住み着いていた流民たちを使って、屋敷の修繕をする仕事の話は広まり、華模木の所へ遠くからも人が集まるようになっていた。


「家の屋敷に住んでいる連中からは、体調を崩したって話は聞かないのか?」


「ああ、自分たちで仕入れた食料で賄っていいるしな。だから、悪い食料が出回っているのかと思ったんだが」


「流民ならともかく、下京の町人まで、悪くなった食料に手を出すはずがない」


「詳しく調べてみる必要がありそうだな」


 廃墟となった屋敷にひっそりと住み着いている流民を尋ね歩くのは武家の経久には無理でも、同じ流民を使えば、それほど困難な仕事ではない。数日と経たずに、多くの情報が集まった。


「体調を崩す前に食べた物はこれといった共通点はないが、鴨川沿いに住んでいる者に多い。下流に行く従って、範囲が広がっていく感じで、下京に入ると症状もいろいろだ」


「住んでいる場所、近江から運ばれた食料の可能性もあるか?」


「御所より上流では、体調を崩した者も居ないし、山沿いでもそんな話は聞かなかった。今のところごく限られた地域に集中していると言う事だ」


「何者かが川に毒を撒いたと?」


「それにしては、被害が少ない。それと一部ではあるが、体調を崩した者の所へ薬を配っている連中がいるらしいとの話もあった」


「どういう事だ?」


「毒の効き目を試していたが、何らかの手違いで川に流してしまい、騒ぎにならないように手を回したのかもしれんな」


「余計に目立ちそうな気もするが、とりあえず鴨川を調べてみれば手掛かりが見つかるかもしれん」


「河原を歩いてみるか……」


 鴨川沿いを上流に向かって歩き出すと、探すまでもなく原因が見つかった。

 死体だ。

 戦で死んだ兵士たちの死体だった。

 初めは供養され焼かれていた死体も、運び込まれる数が増えるにつれ積み上げられるに任され、置き場所に困ると、そのまま川に流されていたのだ。海まで流れず水草に引っかかったり、川底に沈んだ死体が腐敗し、川の水を汚していたのだ。


「……これは、酷いな。毒よりもたちが悪い」


「気づかずに放っておけば、京都中に疫病が広がる」


「ああ、薬を配っても仕方がない。直ぐにでも、動ける連中を集めて川をさらうぞ」


 経久たちが川さらいを始めると、声をかけた流民たちだけでなく町人たちも自分たちで声を掛け合い集まって来ていた。


「こんなに集まってくれたのか?」


「俺たちの町のためさ、いくらでも集まるさ」


 驚く経久に揚々と答える町人たちは、予定よりもはるかに多く、京極家などの武家からも小舟を出し、京の都を上げての一大事業となった。

 だが、それでも、死体を引き上げ、集めて、焼き切るにはかなりの時間がかかる。終わりの見えない作業を繰り返しても、次の戦が始まれば、また死体で埋め尽くされると分かっていても、今はそれを口にする者はいなかった。


「しかし、経久の旦那。町民たちの体調不良の原因は分かったが、伊勢貞親の死因には繋がっていないよな……」


「どれか一つを下手人にする訳にもいかんしな……」

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