薬屋の客
狭い入口に色の変わった葉っぱや見慣れぬ植物が天井から吊るされた店に華模木はためらいもなく入っていった。後に続こうとして、刺激が強いわけではないが、慣れない匂いに口元に布を当てた。乾物の匂いがこもった細い通路が薄暗い店内の奥へと続いている。折れ曲がった先で入り組んだ迷路のようになっていても不思議ではないと思えた。
「その辺のは、茶に入れる葉っぱだよ」
よく見る形の葉っぱからどうやって形作られたのか分からぬ珍しい物まで並んでいた。それらを見回していると、奥から華模木の声が聞こえた。
「中には、南蛮や明から取り寄せたとか言う怪しい物も混ざっているから、下手に触るとかぶれるぞ」
「物騒な事をおっしゃりますな。……何をお探しで?」
さらに奥で木の机に肘をついていた男が顔を向けた。
「その物騒な物を探している」
「うちは真っ当な品しか扱っていませんぜ」
「そうかい。俺がこいつを煎じてやろうか?」
華模木は棚から小さな枝を束ねた紙の包みを手に取った。
「それは……」
「こいつを誰に売った?」
「ここの所めっきり客足が減っておりまして……」
奥へ引っ込もうとした店主が袖口に何か隠したのを見逃さなかった。
「そいつは何だ?」
素早くひねり上げた店主の手から、かんざしが零れ落ちる。店主が手にするより早く華模木がそれをかっさらった。
「そいつは、薬の代金でもらったんだ!」
「えらく高価そうな細工だな。こんな物、どんな薬と引き換えにするんだ?」
「それは、……そう、熱さましと……いてて」
話が終わらぬうちに、華模木が手をさらにひねった。
「手荒な事はやめておけ。しかし、良い物だな……」
かんざしを華模木の手からつまみ上げると、輝く藤の花の細工が揺れた。これだけの見事な細工の品は、そう、手に出来る代物ではない。
「店主。話次第では、このかんざし買い取っても良いぞ」
「えっ? そんな買い物しに来たわけでは……」
驚いて振り返った華模木だったが、直ぐに変わった店主の表情は目を大きく開き、口元が上がっていた。
「そう言うお話でしたら、いかようにでも……」
町人が金に換えるには、高価すぎるかんざしの扱いに困らぬはずがない。下手に売ろうとすれば、出所を疑われ役人に締め上げられる。持っているだけでも、捕まりかねないが、一財産には違いなく捨てるには惜しい。そういうものだ。
「それで、誰から手に入れたのだ?」
木の机の上に貨幣を一枚づつ並べ始めると、店主は淀みなく話し始めた。
「女官を連れた、たいそう若い、どこぞの姫君かと言う感じの方でした。そういう方々も時折お見えになるのですよ……、いろいろと扱っておりますからな」
下卑た含み笑いを挿んだ。だが視線を机に向けて、貨幣を並べる手が止まっていることに気が付くと、はっと息を飲み、襟を正して話を続け始める。
「まぁ、その方は、熱の出る毒や吐き気のする毒などに興味を持たれておりまして、飲み過ぎると毒になる薬やどういう時に買っていくのかなど熱心に説明を聞いた後、纏めて買っていかれまして、その時の代金に、かんざしを置いていったのですよ」
「黙って受け取ったのは、薬の代金にしては、過分だからか……それでは、これくらいだな」
木の机の上に貨幣を並べていた手を止めた。
「いや、もう少し、その……」
「話の続きでもあるのか?」
店主は少しでも思い出そうと頭をひねり始めた。
「えー、うーん、たしか……、そうだ、一刻ほど前、大通りを東に」
「なんだと!」
机に貨幣を叩きつけ、店の表に走り出る。狭い路地から大通りに出ると行きかう人々の生活音がどっと押し寄せてくる。姿は見えなくても、どこかに手がかりが残っているはずだった。




