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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
日ノ本燎原
102/124

大戦の行方

 食料を積んだ荷車を押して峠を越えると、京の町までは下り坂だ。もう一息だと声を掛けつつ、尼子経久も自ら荷車を押して進むのを手伝っていた。


「ちょっと、仕入れ過ぎたんじゃないか?」


 荷物の後ろから華模木の不満そうな声が聞こえてきた。


「余分にあるだけ、売り物が増えるんだから良いだろう」


 流民たちを集めればかなりの人数になる。それだけいれば、遠方から食料を買い付けて、京の町で売れば結構な利益を生んだ。

 もちろん何度も使える方法ではないし、道中の安全や戦の有無を事前に知っていなければ、到底、食料を運んだりは出来はしない。


「まぁそうだが、これだけの元手を簡単に用意できるのは、流石は大名家の跡取りだけはあるな」


「そういう訳でもないぞ、ちょっとした収入があってな」


「ふーん」


 気の無い返事だったが、木々の間から差し込む光に上り坂も終わりが見え初め、汗をぬぐうと話を続けた。


「ところで、住む場所の無い連中に、長屋を建ててくれたのはありがたいが、主家からいただいた屋敷を勝手に使ってしまって本当にいいのかい?」


「尼子家の屋敷を建てても、誰も住まなければ無駄になるだけさ、と言いたいが」


「……なんだよ、勿体ぶるなよ」


「塀や門を修理したおかげで、見栄えが良くなった尼子家の屋敷を見た、京極家の他の家臣から、塀だけでもいいから修理してくれ、と頼まれてな」


「そいつはいい。張り子の虎でも役に立ったという訳か」


「これで、大手を振って町中を歩けるってものだが」


「何か心配事でも?」


「ああ、西軍と東軍の和議に反対する畠山義就が兵を京へ進めようとしているらしい」


「また京が戦場になるのか?」


「戦火が広がる前に、食い止められなければ……」


 苦い思いが喉の奥に広がり水筒を口に当てた。京の平和も表面上だけの張りぼてに過ぎなかった。簡単に火が付き燃え広がる。


「朝倉孝景が動けば、畠山義就も進軍を思いとどまるかもしれんが」


「東軍に付いたのだろう? 動けない理由があるのか?」


「地方ならともかく京の近くではな……西軍の屋敷に息子の朝倉氏景が人質に捕らわれているからな」


「息子の氏景か、助け出せばいい話だろう」


「西軍の屋敷と言ってもどこに居るか分らんからな。それに、誰の屋敷から逃げ出したか、誰の手引きで助け出せたか、で、下手をすればそれこそ、大戦になる」


「京の町なら俺たち以上に詳しい者はいない。俺たちに探させないのは、そのためか?」


「流民ならば、戦の結果がどうなろうと生きていける。屋敷の修繕に雇われるくらいなら言い訳も立つが、朝倉氏景の捜索に協力すれば、東軍に味方した事を隠せはしまい」


「戦火に追い立てられるよりはまし、と考える者もいるぞ」


「どうかな、東軍が京から兵を引いた場合。東軍に味方した民はどこへ逃げるんだ? 撤退する軍について、大名の領地まで行けるものは良いが、ついて来れぬ者まで待ってはくれまい。それでも、それはまだましだろう、より悪いのは西軍と東軍が和睦した場合だ。両軍の屋敷がある町に住む民はどうする? 戦が終わってしまえば大名家同士は遺恨を水に流せても、どちらかに味方した民など邪魔なだけだ」


「都合のいい相手に尻尾を振る民など信用できないからか?」


「家名の無い民が誰に味方したか、後になってしまえば分からない。権力を手にした者たちは、それが怖いのだ」


「旦那もそう思うのかい?」


「ん……俺かい?」


 意外そうに返事をしたが、自分がその立場に立った時どうするか考えない筈がなかった。


「権力を手にしていないからな。せめて、俺を頼ってくる民を守れるくらいの力は欲しいとこだが」


「ふーん、それは雄心な事だな」


 控え目に答えたつもりが、予想外の返事に戸惑った。


「そうなのか?」


「この戦いつ終わると思う?」


「それは…………」


 言葉が続かない。単純な問いであるはずなのに、答えられなかった。


「これからの戦いは、相手を倒し勝った負けたで決着のつく戦いではなくなる。そんな気がするんだ」


 峠から見下ろした町は升目ごとに違う色に塗り分けられていた。

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