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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
日ノ本燎原
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尼子家の屋敷2

「誰が牛追い童だ! お前も、仲間か!」


 刀に手を伸ばそうとしたが抱きかかえた子供が邪魔だ。下ろそうにも足場も悪い。


「仲間? ああ、そうだな……それより、あまり動かないでくれよ。選り分けた材木が崩れちまう」


「野盗どもを集めて、何をする気だ?」


 下手に動けば、足元から崩れそうだ。手もふさがっていては、素早く動く事も出来ない。時間を稼いで逃げ出す機会を作らねばならないと、相手が乗ってきそうな疑問を投げかけた。


「野盗だって? まだこの辺りに居たのか!」


「ここに居るだろう!」


「何を言っているんだ、経久の旦那?」


 呆れたような態度を取られたが、食い下がるしかない。


「現に、そこの連中が!」


 箱からこぼれた炮烙玉を拾っていた連中を指さす。


「ひぃ!」


 床にかがんで茶色い小さな球を拾っていた連中が小さな悲鳴を上げた。


「ここの連中が、どうした?」


 問われるまでもなく、おかしい事に気づいた。町中を根城にしている野盗にしては、胆が据わっていない。警戒心もない。拾い集めているのは、炮烙玉なのではなく、芋だ。


「……こいつらは、誰だ?」


「旦那の抱えている子供の父親だよ」


(それでは、待てと叫んだのは子供の父親で、子供を抱えて逃げようとしているのが、俺か?)


「……これはだな…………」


 子供は抱え上げられて喜んでいるようだが、上手い言い訳など思い浮かばなかった。

 ゆっくりと瓦礫の山を下り、何事もなかったように子供を地面に下ろすと、改めて問いかける。


「ここで何をやっている? 砦でも作る心算なのか?」


 経久の後を華模木は軽く跳ねるように瓦礫の山を下りて来た。


「燃えて使えなくなった材木と、使える材木を分けていたのさ。使えるものを集めて屋根を作れば雨風はしのげるし、燃えたやつも薪にはなるからな。ここにいる連中は、京へ来たは良いが、住む場所も行く当てもない流民たち」


「それで、ここに住み着いているのか?」


「流民が役人に見つかれば追い出されるから、通りから見えないようにこっそり建てているし、ここが尼子家の屋敷だって事も知っている。それで、尼子家の主が出雲から京に来るっていうんで、挨拶に行ったわけなんだよ」


「……あれが、か」


「改めて招待しようと思ってたんだが、旦那の方から先に来るとは、思ってなくてね」


 初めて会った時の謎めいた印象が薄れると、年も近い事もあって、人当たりの良さそうな人物に思える。


「まぁ、直ぐに屋敷をどうこうしようとは思っていないが……」


「皆に紹介するよ。こっちに来てくれ」


 芋の箱を運び込もうとしていた通路から奥へ案内されると、内側は広くかなりの人数がござや材木を椅子にして数人づつに分かれて壁沿いに座り、真ん中の焚火で鍋を煮込んでいる。

 大人も子供もいたが、俯いた顔を焚火が照らし出し、誰もが暗く沈んだため息を漏らしているようだった。


「結構いるな」


「他の場所にも隠れ住んでいるが、そろそろ、見つからない様にするのも限界があってね」


 戦で村を焼かれた者や戦で集められた者が流民となって集まっているのだ。京から追い散らされても行く当てもなければ、いつかは本物の野盗になるだろう。


「分かったよ。……京極政経様に許可を貰っておく。役人が来たら尼子家の屋敷を建てるのに雇われたと言っておけ」


「ありがたい。尼子家の若様ならそう言ってくれると、思っていたよ! 皆、主の尼子経久様だぞ! 今日は飲むぞ!」


「あるじは、よしてくれ……」


 挨拶もそっちのけで盛り上がっていたが、経久にも瓦礫の山が片付くのは悪い話ではなかった。流民の集まりなら炊き出し用の食べ物を用意すれば、問題を起こしたりはしないだろう。

 楽観的な考えであったかもしれないが、彼らはこれまで役人に見つからないように静かに暮らしてきたのだ。それが少しばかりでも快適になる。不満があろうはずもない。それからは経久も京極屋敷での仕事が忙しく、再び訪れたのは七日ほど経ってからだった。


「これは、どうした事だ?」


 驚きを口にせずにはいられなかった。崩れていた壁は綺麗に修繕され、枯れた水路に石の渡しが架けられ、倒れていた柱は綺麗に磨かれて背の高い門が建てられてあった。


「経久様がいらっしゃったぞ!」


 門の前で仕上げの作業をして居た者たちが手を振って出迎えている。貴族の主人が屋敷に戻ったような出迎えに戸惑いを感じずにはいられなかったが、門と塀だけの張りぼてで内側に屋敷はなく、軽い落胆はかえって安心を生んだ。


「だいぶ片付いたな」


「はい、壁を直すのに瓦礫を砕いて使いましたので、材木も数を揃え、屋根をふく瓦も……」


 積み上げられて迷路のようになっていた瓦礫は、いくつかの山に分けられる程度まで減り、中央の空き地は光を差し込まれより広く感じられる。屋敷を建て始めるには十分な広さはあった。

 しかし、尼子家の屋敷を京に建ててどうなるというのだ?

 戦乱も治まらず誰も住む予定の無い屋敷など……。

 そう考えるのは、当然の事か、気の迷いだろうか。


「……経久様、御殿のどこから建て始めますか?」


 上の空で聞き流していたも、流民たちの作業を取り仕切っていいる男が屋敷の説明を続けたいたようだ。

 それがどんな形になるにしても、経久の興味を引かなかった。


「そうだな、屋敷を建てるとなると、日数もかかるだろう。まずは、その辺りに作業に当たる者が住む小屋を建てておけ。どういう屋敷を建てるかは、ゆっくり考えるとしよう」

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