第7話 勇者、間違う
「…じつは、話があるんだ」
レオンは、部屋に集めた2人を前にしていった。
「なに?」
「それが、ギルドのバウマンさんから、おまえたち、独立しないか?っていわれてるんだ」
「あのバウマンさんが?」
ブラムが、いぶかしむような顔でいう。
「ああ!」
「どういうこと?」
アズモナも同様の顔だった。
「オレたち、ずいぶん頑張ってるから、独立できるかも、だって」
もう一度、ブラムが聞いた。
「あのバウマンさんが?」
「ああ! なんだかんだいって、認めてくれてるんだよ。オレたちのこと」
「そうかなあ…」
「どういう話なの?」
アズモナが聞く。
「よくオレたちを使ってくれてるお客さんがいるだろ?」
「ノールトさんとか、ベイルさんとか?」
「そう! ほかにも何人かいるけど、そういうお客さんから直接注文を取っていったら、独立しても仕事ができるんじゃないか、っていわれてるんだよ!」
「あるていど、決まった仕事があるからってことね」
「でも、ギルドは? ギルドは、手数料を取れなくなるじゃないか? なんでそんな話を持ってくるんだ?」
「そこだよ! それなんだけど、ギルドに一度だけ一括で、ある一定のお金を支払えば、そういう直接の仕事を認めてもいい、っていわれているんだ」
「ふ~ん」
「定期的に仕事が入ってくるから、こっちのほうがきっと儲かるぞ」
「それで? その一定のお金って、いくらなの?」
「それがさ…ちょっと多いんだけど…」
「どのくらい?」
「うん…まあ…200万マニーなんだ…」
「200万んん?」
2人は驚いた。
200万マニーといえば、アズモナがレオンのパーティに加わってから、いままでにパーティが貯金してきた金の総額である。
「200万は高いんじゃない?」
「バウマンさんにもいったんだけど、これ以上は安くならないって」
「どうなんだろうな?」
「でも、これからギルドの手数料を全く取られないって考えると、そう高くない額だと思うんだ」
「10万マニーの仕事100件分… 1年分ぐらいか…」
「だろう? そう考えると、そんなに高くないだろ?」
「う~ん…」
2人は考え込んだ。
「どうする? ブラム? アズモナ?」
「う~ん、まあ…オレはいいけど…」
ブラムがいった。
「アズモナは?」
「アタシは…アンタが、それでいいなら、まあ、べつにいいけど…」
「よし! じゃあ、決まりだな!」
レオンは立ち上がった。
「バウマンさんにいってくるよ」
その日の夕食は、3人で食堂で食べた。
レオンは、これからの夢を語り、ブラムとアズモナも、笑いながらその夢について話した。
さて、次の朝である。
レオンがブラムの部屋に入ってきた。
ひどくあわてた様子である。
「バウマンさんが、ギルドにいないんだ」
「はあ?」
「だから! バウマンさんがギルドからいなくなってるんだ!」
「ちょっと待て… アズモナも呼ぼう…」
アズモナも起こして、レオンの部屋に集まる。
「どういうこと?」
「今日ギルドにいったら、バウマンさんはいなくて、誰も居場所を知らないっていうんだ」
「金は? オレたちの金は?」
「金は昨日支払った。でもギルドはそんな話知らないっていうんだ」
「え? どういうこと?」
「最初っから、独立の話なんてないっていうんだ…」
「え? 意味がわからない」
「オレ…ひょっとしたら…バウマンさんにダマされたのかも…」
「バカーッ!!」
アズモナが叫んだ。
「アタシたちの貯金が全部トンじゃったってこと?」
「……」
「ギルドはなんて?」
「もともと知らない話だし、バウマンが勝手にやったことだからって、取り合ってくれないんだ…」
「アンタ、なにやってんのよ~ッ!」
「すまん…本当にすまん…」
「アンタって、向上心が裏目裏目に出るわよね~」
「……」
「どうすんのよ?」
「どうするも、こうするも…」
「このまま泣き寝入りなんて、ありえないでしょ」
「どうするんだ?」
「もちろん、バウマンを探すのよ!」
「バウマンを探すって、どうするんだ?」
通りに出たアズモナを追って、レオンたちは宿屋を出た。
「犬を使うわ」
「犬?」
「犬は人間よりずっと臭いを追えるって知ってる? それを使うの」
「でも犬なんて、そこら歩いてるだけだろ」
「だからアタシの魔法で、いうことを聞かせるのよ」
「そんなこともできるのか?」
「もちろんよ! 犬はどこ? 犬、犬?」
「犬……犬……、ふだんはよく見るのに必要なときにはいないもんだな…」
「もう探すのが面倒だわ。レオン!」
「え?」
「ちょっと来て!」
「犬を探すんだろ」
「犬はもういいわ。アンタの鼻をもっと利かすようにする」
「え? なんだよそれ」
「犬にいうことを聞かせるか、それとも、人間の鼻が良くなるか、結果は同じでしょ」
「オレは犬扱いかよ」
「アンタのせいで、こんなことになってるんじゃない! はやくアタシの前に来て!」
アズモナが呪文を唱える。
アズモナの手が光り、レオンの鼻に光が吸い込まれていった。
「ん? なんか、へんなカンジだな。鼻がムズムズする」
と、レオンは鼻から息を吸った。
「あ! これすごいキツい。 アズモナ、おまえ、臭いぞ」
「うるせーわ。いいから、バウマンの臭いのするものなんか持ってこい」
「ギルドにいこう」
ギルドのバウマンの部屋で、彼の臭いを覚えたレオンたちは、その臭いの後を追った。
どうやらバウマンは馬車に乗ったらしい。
ウスラー行きの馬車に、彼の臭いが残っていた。
ウスラーからゼルム、ゼルムからエルデと、臭いは続いていた。
途中、夜になったので、エルデで泊まることになったが、金がないので野宿となった。
アズモナがいった。
「せっかくの旅なんだから、旨いものでも食べてゆっくり休みたいのに野宿とは…」
レオンがいう。
「すまん…オレのせいで…」
「いいけどさ~」
エルデからアイセルへと臭いの道は続く。
だんだんと田舎に入っていく。
アイセルでは宿屋は1件だけだった。
そこの宿屋の主人に、風体を尋ねると、こういった。
「ああ、その男なら昨日泊まって、今朝がた出て行ったよ」
「どこに行くって、いってました?」
「それは聞いていないけど、ここからなら、おそらくガレルへの一本道だよ」
「よし追うぞッ!」
馬を借りて追うと、街道を歩く人影が見えた。
レオンは臭いも感じることができた。
「バウマンだ!」
レオンたちは馬を降りる。
「おい! バウマン! よくもオレたちの金を!」
「おまえらか。まさかよく追ってこれたな。ああ、その魔術師さんの力か…」
「金は? オレたちの金は?」
「使ったよ、全部」
「ウソつけ!」
「魔法で全部しゃべらせられるわ」
「またその魔術師さんだのみか?」
「うるさい!」
「おまえらが、その魔術師で一発当てたように、オレも一発当ててやろうと思ったが、叶わなかったようだな」
アズモナがバウマンに魔法を掛けようとしたが、彼は持っていた袋から、レオンたちの金を取り出した。
「返すぜ。どうする? 治安所にオレを突き出すか?」
「もちろんよ」
「そうだろうな」
「待て」
レオンがいった。
アズモナが驚いていった。
「レオン、アンタ、まさか」
「オレは、バウマンを治安所に引き渡すつもりはない」
「はああ、もう、ばかレオン!!」
「もちろん、アズモナやブラムが引き渡したいというなら、そうするつもりだ」
レオンは、2人を見た。
「どうする?」
2人もレオンを見た。
レオンがいう。
「あの金はオレだけの金じゃない。おまえたちが決めて、そうするっていうなら、オレはそれに従うよ」
2人は考えた。
そして、アズモナがため息をついていった。
「アンタがそうしたいっていうなら、そうすればいいわ」
ブラムもいう。
「オレもリーダーに任せるよ」
「本当にそれでいいか?」
2人はうなづいた。
「ありがとう」
バウマンに話しかける。
「オレがギルドに入ったとき、あんたはなにかと世話を焼いてくれた。あのときの恩をいつか返したいと思ってたんだ」
「……」
「こんな恩返しになるとは、思ってなかったけど…」
バウマンは、故郷のノルデンに帰るという。
レオンたちは、またギルドのある自分たちの町へ戻った。
einde




