第2話 勇者、仕事を依頼される
「おい、レオン! ギルドから仕事だ!」
そういって部屋に入ってきたのは、ブラムである。
「護衛の仕事だぞ」
「指名か?」
「ああ、そうだ。商人の護衛だ。3日後、オーネの町まで行く商人の馬車を護衛してもらいたいんだと」
「馬がいるな…」
「ギルドで、段取りをつけよう」
アズモナがレオンのパーティに入ってから、指名の仕事が来るようになった。
ようやくレオン・パーティの名が、世に知られるようになってきたのだ。
「…これで貧乏生活から脱出だ」
レオンは、ブラムが出て行ったあとの部屋で、一人つぶやいた。
「おまえ、馬に乗れるんだな」
レオンはアズモナにいった。
護衛当日の朝である。
「アタシはなんでもできる。なぜなら、国立魔法学院いちばんの…」
「わかったよ! それはもう!」
むこうから2頭立ての馬車がやってきた。
「ドールンさんの馬車だ。あいさつに行くぞ」
ドールンとは、今回の護衛の商人だ。
「本日は仕事をご依頼いただきありがとうございます。護衛を務めさせていただくレオン・パーティのレオン・フォンデル、そしてメンバーのブラム・ラート、アズモナ・トフェルです」
「よろしくお願いしますよ。ところで、すごい魔術師というのは?」
「それは、こちらのトフェルのことですね」
「素晴らしい力だとか」
「うん、すごい。国立魔法学院でいちばんの…」
レオンがアズモナの口をふさいでいった。
「まあまあ、頼りにしてください」
「そしてあなたがリーダーのレオンさん」
「はい、そうです」
「バウマンさんから、将来有望な若者だと聞いていますよ。よろしくお願いします」
レオンは、とても気分がよくなった。
と、ドールンは木箱を差し出した。
そして蓋を開ける。中には真っ白な壺が入っていた。
「見てください! この村で手に入れた壺ですよ。とても高価なものでね。今回はこれを買い付けに来たんだ」
「はあ、そうですか」
「いいものだろう?」
「よくわかりませんが」
「500万マニーもするんだよ」
「これが? 500万?」
なんの変哲もない壺だった。
レオンには、道具屋に売っているものとの区別が全くつかなかった。
この壺が、500万マニー?
しかし500万マニーといわれると、しだいに良いものに見えてきた。
なるほど、色も透き通るような白さで、くびれた曲線も品がある。
「美しいものです…よ…ね…」
自信なげに彼がいうと、ドールンは憐れむようにいった。
「わかる人には、わかるものさ」
ドールンは木箱をしまうと、馬車に乗った。
「では護衛をお願いします」
レオンは指示を出して、ブラムを馬車の左前に、自分は馬車の右前に、アズモナを自分の後ろに配置した。
馬車は順調に街道を走っていた。
護衛といっても、念のためという意味合いが強く、ほとんどは空振りに終わることが多い。
今日もそうなりそうだった。
それはそれでいいのだ。
オーネの町までの小旅行のつもりでいればいい。
レオンたちは、草原に出た。
心地よい風が草をゆらす。
そこに口笛の音が響いた。
「?」
レオンが周りに目をやると、草原に隠れていた馬に乗った男たちが姿をあらわした。
「ドールンさん! スピードを上げて!」
野盗だ!
野盗たちは4人。
早駆けで、馬車を追ってくる。
スピードを上げた馬車は、レオンたちの前に出た。
レオンたちは、後を追ってくる野盗たちとの間に入る。
野盗が矢を放った。
「アズモナ! 気をつけろ!」
レオンたちも弓をはり、野盗たちに矢を射る。
「アズモナ! 防御魔法を!」
防御魔法とは、魔法で矢の方向を変えさせて、当たらないようにするのだ。
「やってる」
応戦するレオン。
アズモナは、そんなレオンをじっと見て、いった。
「矢で射るより、もっと良いのがある」
アズモナが呪文を唱えて、野盗を指さすと、指の先から光のかたまりが野盗に向かって飛んでいく。
光りのかたまりは、野盗にこそ当たらなかったが、そばの木に命中した。
木は真っ黒こげになり、煙がくすぶる。
「!」
すごい威力だ。
しかし、レオンは少し考えていった。
「アズモナ、人殺しはマズい」
野盗とはいえ、全員殺すのはさすがに罪に問われかねない。
「大丈夫! 死にそうになったら、また蘇生させる」
魔術師の考えでは、それはそうなのだろうが…
「おまえの死生観のゆがみがスゴいな…」
とはいえ、である。
「いちいち止まって蘇生できないし、だとしたら、やっぱり逃げたほうが」
とレオンがいったそのときだった!
野盗の放った矢が、レオンの頭に的中した。
「レオン!」
「アズモナ! オレに蘇生魔法を!」
アズモナは頭から矢を抜き、レオンを魔法で蘇生した。
助かったレオンは憎々しげに、野盗たちを見つめた。
「よし。アズモナ、殺ったれ!」
「え? でも?」
「むこうが殺すつもりなら、こっちにだって遠慮はいらない。野盗の命なんて知ったことか!」
「わかった!」
アズモナが、呪文を唱える。
光りのかたまりが、野盗たちに降りそそいだ。
「これじゃあ、わりに合わねえ!」
野盗たちは、一目散に逃げだした。
しばらく、馬車を走らせると、オーネの町だった。
「なんとか助かったな…」
町に着くと、ドールンが馬車から降りてきて、レオンにいった。
「ありがとうございました。これで荷物が無事なら…」
そして、例の木箱の蓋を開けた。
と、木箱の中の壺が、ぱっくりと割れている。
「はっ!? こ、これはッ!? ど、どうしてくれるんだッ!? 500万マニーだぞッ!!」
レオンは、呆然とした。
ドールンは地面に伏せて泣いた。
「ああ、野盗から逃れても、この壺がダメになったら、なんの意味もない!」
さらに彼は、レオンに掴みかかっていった。
「弁償してくれ! さあ、弁償してくれッ!」
「そんな…500万マニーもの金…」
ドールンは、目を光らせるといった。
「その女、アズモナといったな。たしか、すごい魔術師なんだろう? ギルドにいえば、500万マニーの金もどうにかしてくれるんじゃないか?」
「は?」
「ギルドが500万マニーで、その女をおまえたちから買ってくれるんじゃないか、といってるんだ」
「それは…どういう…」
「バウマンさんも、いっていたんだ。その女にはそれぐらいの価値があるってな。だからその女を手放せ」
ここまでいわれて、レオンたちもようやくわかった。
これは罠なのだ。
ギルドとドールンと野盗はグルで、今回の依頼はレオンたちからアズモナを取り上げるために仕組まれた芝居だったのだ。
「汚いぞ!」
「だったらなんだ? おまえにその壺を元に戻せるのか? 500万マニーのその壺を?」
きっとこの壺は500万マニーもしないだろう。
それどころか道具屋で手に入るような壺に違いない。
しかし、レオンたちにはどうしようもなかった。
アズモナを手放し、自分たちは、また元のクソ生活に戻るのか…
レオンがそう思い始めていたところだった。
「元に戻せば、いいんでしょ?」
アズモナがこともなげにいった。
レオンは、それまで黙って話を聞いていたアズモナを振り返った。
「だったら、問題ないのよね」
「まさか?」
「できるわよ」
アズモナは壊れた壺に手をかざして、呪文を唱え始めた。
すると、光に包まれた壺はみるみるうちに、1つの形に戻っていく。
呪文を唱え終えると、アズモナは壺をドールンに渡した。
「これで元どおりでしょ」
「はあ? これは? これは…」
ドールンが壺を手に取ると、全くの元どおりだった。
「ば、ばかな、こんなこと! 認められるか?」
レオンがいった。
「じゃあ、裁判でも起こすんだな。ただその壺が壊れていたっていう証明を、アンタが裁判官にできればだけど」
「ちくしょう! バカにしやがって! バウマンもバウマンだ。ちょっとおだてりゃ、あいつらバカだから、すぐ騙されるとか、いいやがって!」
そういうと、ドールンは去っていった。
「いちおう、依頼終了ってことになるのかな…」
ブラムがいった。
「ギルドから、ちゃんと代金は出るんだろうな」
レオンがいうと、アズモナがプリプリと怒っていった。
「アンタら、これだけのことされても、まだあのギルドにいるつもり?」
「しょうがねえだろ。オレたち、ギルドから仕事もらえなきゃ、食っていけないんだから…」
レオンがいうと、アズモナはあきれていった。
「このヘタレが!」
einde




