第9話生徒会は勉強する
とある日の生徒会室、ここにまたいつものメンバーが揃っていた。
「それで会長、今日って何かやることありましたっけ?」
俺が尋ねると、会長は椅子から立ちあがりこちらを見た。
「今日は特に生徒会として活動する内容は無いわ。
そのかわり、皆で勉強会をしようと思っているの」
「勉強会?
中間テストまではまだ日がありますよ?」
「違うわよ、そっちの勉強じゃなくてこっちの勉強よ」
「ん?・・・あ、なるほどあっちの勉強ですね」
「そうよ、政宗も察したようね」
「はい、ところで会長1つ質問良いですか?」
「ん?なに?」
「会長はベッドと布団どっちが良いですか?」
「いきなりなんの質問!?」
驚く会長に、俺は続けて言った。
「俺的には、ベッドのほうが良いと思うんですが。
あ、もしかして会長ってギシギシ音が鳴るの嫌なタイプですか?」
「政宗はこれから何の勉強会をすると思ってるの!?」
「え?これから皆で淫らな勉強会をするんじゃないんですか?」
「違うわよ!発想が飛躍しすぎだよ!」
「こらこらまさくん。
いくら性欲旺盛な時期だからって、そういうのはダメよ」
俺の斜め向かいに座る京子さんが、笑いながら嗜めるように言ってきた。
「大丈夫ですよ、会長にしかこういう事は言いませんから」
「ちょっと待って!?それってセクハラじゃない!?」
「何言ってるんですか。
会長だって見回りの時に危ない道具いっぱい持ってきたてたじゃないですか」
「そ、それはそうだけど・・・」
ここまで来れば分かるが、会長は自分でマウント(ボケ)をとれた状態なら下ネタとかガンガン言うけど、人にマウント(ボケ)をとられた状態だと下ネタを恥ずかしがるという何かめんどくさいというか変わったタイプなのだ。
「とにかく!
今日は幽霊について勉強するわよ!」
「幽霊について?急にどうしたんですか?」
「この前下見とはいえ政宗も見回りしたし、今後生徒会として活動していくなら依頼を受けることもあるでしょ?
今のうちに勉強しておけば、その時に役に立つと思ってね」
「なるほど、会長からの気遣いだったんですね」
「まぁ、私というより皆の気遣いね。
今から政宗以外の四人で授業をしていくから」
「ちょっと待った!」
会長の言葉を聞いて、先程まで平和そうにお茶をすすっていた水葉さんが声をあげた。
「私たちもやるのか!?」
「当たり前でしょ、ここにいる政宗以外の全員よ」
「あの、私もですか?」
「薫もよ。
特に薫は私達よりも多く依頼をこなしているんだから、外せないわよ」
「・・・あの、京子さんはこの件陽奈夜さんから聞いていましたか?」
薫さんに尋ねられて、京子さんは笑いながら返した。
「まったく聞いていないわよ。
だから、今日は放課後に陽奈夜にクレープをおごってもらおうと思ってるわ」
「ちょ!?京子!?」
その言葉を聞いて、会長は驚いた表情のまま京子さんを見た。
「だって、人に何も言わず唐突に先生を頼むのよ?
それくらいの見返りはあっても良いと思うわ」
「そ、そんな事言われても・・・」
「別に断っても良いのよ?
ただし、そうしたらこの勉強会の先生役は陽奈夜一人にやってもらうことになるわね」
「うっ・・・わ、分かったわよ。
クレープ奢ればいいんでしょ」
「水葉、薫ちゃん、やったわね。
今日は、タダでクレープが食べられるわよ」
「ちょっ、ちょっと待って!
京子には奢るけど、二人には・・・」
慌てて止めようとした会長だったが、京子さんが意地悪な笑みを浮かべていた。
「あら、二人も先生役をやるのよ?
だったら、私だけじゃなくて二人にも奢らなきゃ筋が通らないんじゃないかしら?」
「くっ・・・もう!分かったわよ!
三人分まとめて奢るわよ!」
「おっ、マジか!?
だったら喜んで先生役引き受けるぜ!」
「陽奈夜さん、私生クリームとバナナのクレープが良いです!」
「うぅ、今月お小遣いピンチなのに・・・」
ポロポロ涙を流しながら財布の中身を見つめる会長と、笑顔で喜ぶ水葉さんと薫さん、そしてそんな二人を暖かい眼差しで見つめる京子さん。
今日も生徒会は平和だなぁ・・・
「あれ?俺達何の話をしていたんでしたっけ?」
「幽霊についての勉強会よ!
ほら、さっそく始めるわよ!」
そう言うと、会長がホワイトボードを持ち出してちょうど自分の椅子の真後ろ辺りに置いた。
「じゃあまずは水葉から!」
「って、いきなりかよ。
ていうか、いきなり指名されてもいったい何から教えればいいんだ?」
「そうね・・・まずはトップバッターだし幽霊の種類とかについてでどうかしら?
それで説明が終わったら、政宗から疑問に思った事を質問をしてもらうとか」
「まぁ、とりあえずそれでやってみるか」
そう言うと、水葉さんは立ち上りホワイトボードの前に立った。
そして、入れ替わるように会長が水葉さんの席に座った。
「さてと、まずは幽霊の種類だったな。
政宗、お前幽霊の種類ってどれくらい知ってる?」
「種類ですか?
そうですね・・・守護霊、背後霊、地縛霊、浮遊霊、あとは生霊とか」
「まぁ、他にもあるけど大体は今あがった物だな」
そう言うと、水葉さんは俺の言った幽霊の種類をホワイトボードに順番に書いた。
「じゃあ、次はこの幽霊達について軽く触れるか。
まずは、守護霊についてだな」
「守護霊って、京子さんにとっての巴ちゃんみたいな感じですよね?」
「ん?なんだ、巴に会ったことがあるのか」
「前の見回りの時に少しだけ話しました」
「だったら、話は早いな。
守護霊は巴みたいに守護している人の体の中にいることあれば、後ろや周りにいることもあるし、少し離れた所にいることもある」
「守護霊なのに離れた所にいるんですか?」
「離れた所と言っても、10メートル以内くらいだけどな。
あと勘違いしている人もいることがあるから言っておくけど、全員が全員守護霊がいるわけじゃないからな」
「実際、このメンバーじゃ守護霊がいるのは京子だけだしね」
会長がそう言いながら、京子さんを見た。
「まぁ、守護霊と言っても色々いるのよ。
私みたいに気付いたら巴が守護霊になっている場合もあるし、自分の亡くなった身内が自分を心配して見守る形で守護霊になるケースもあるし」
「単に守護霊って言っても、色々いるんですね」
「それに、私たちは一応自分の身は自分で守れるから守護霊がいなくても大丈夫だからね」
そう笑顔で言う薫さんだが、確かにこの人が言うと説得力があるな。
「じゃあ、次は背後霊だな。
といっても、背後霊は守護霊とそこまで変わらないんだよな」
「そうなんですか?
まぁ、僕も背後霊については全然知らないんですけど」
「強いて言うなら、守護霊は守護する相手が幼い頃から憑いているのに対して、背後霊はそういうの関係なく憑きたい人に憑きたい時にとり憑く感じだな。
分かりやすく言うなら、守護霊は仲の良い幼馴染みで、背後霊は高校とか大学とかで出来た親友だな」
「なるほど。
つまりお笑い芸人で言うと守護霊がチュート○アルさんで、背後霊がアンガー○ズさんですね」
「何でお笑い芸人に例えたかは知らないけど、まぁそんな感じだな。
じゃあ、次は地縛霊についてだ」
「地縛霊は、確かその土地や建物に未練があってそこに縛られている幽霊の事ですよね?」
「その通り、で地縛霊の特徴なんだがこの人達はとにかくキレやすい」
「そんなにキレやすいんですか?」
「現代の若者並にキレやすいな」
そんなにキレてるのか地縛霊。
「何でそんなにキレるんですか?」
「さっきも言ったように、地縛霊はその土地や建物に縛られているから移動出来ないんだよ。
だから、ある程度時間が経つとその場所が自分の家みたいな感覚になるんだ。
例えばの話だけど、政宗だって自分の家にチャイムや挨拶もなしでワイワイうるさい陽キャが4、5人くらい急に来たらイライラしないか?」
「まぁ、それは確かにイラつきはしますね」
「それが地縛霊の人達の感覚なんだよ。
だから私たちは基本そういう心霊スポット系の場所には行かないようにしてる」
「触らぬ神ならぬ、触らぬ幽霊に祟りなしって奴ですか」
「そういうことだ。
さてと、次は浮遊霊についてだな。
正直、この幽霊は説明がめんどくさいんだよな」
そう言うと、水葉さんはため息を吐いた。
「ん?何でですか?」
「どこまでを浮遊霊としてくくって良いか分からないんだよ。
ネットなんかにはよく自我が無くて、自分の意思で行動していないとかあるんだけど実際そうでもないし。
私からすれば、一番自由にやってる幽霊だと思う」
「そうなると、加奈子さんやこの学校にいる幽霊の人達のほとんどが浮遊霊になるって事ですよね?」
「その考えで良いと思うぞ。
実際、私たちもこの学校の幽霊は浮遊霊で括ってるし」
「これに関しては私たちも同意見ね。
分ける境界線が分かりにくい上に、あまり詳しく分けても、ねぇ」
「私たちは良いかもしれないけど、他の人達に説明するときが大変になっちゃうからね。
だからまさくんも、誰かに説明するときはあまり詳しい分け方はしないで大体は浮遊霊で括ってしまって良いわよ」
「変に難しい言葉を使うと、相手が首を傾げてちんぷんかんぷんな顔をしている時がありますもんね」
なるほど、水葉さん以外の3人もそういう感じなのか。
それなら、俺も合わせた方が良さそうだな。
「よし、じゃあ最後は生霊についてだな」
「生霊は、確か生きている人の霊の事ですよね?」
「ざっくり言えばそうだな。
生きている人の怨みなんかの強く念じた物で形成された幽霊だ。
ちなみに、生き霊の相手は一番めんどくさい。
いくら倒しても、すぐに来るからな」
「ん?あっそっか、生きてる人が念じる限りいくらでも復活するのか」
「通常の幽霊なら1回倒せば良いんだけどな。
生霊の場合は、その幽霊を出している本人をどうにかしないといけないんだよ。
それに、生霊ってのは大抵無自覚で出る物だからな
本人が無自覚な事ほど、恐ろしいものはない」
「なるほど、それは確かに恐怖ですね」
「っと、幽霊の種類の説明はこんなもんでいいか」
水葉さんがそう言うと、会長が頷いた。
「充分よ。
むしろ、水葉がここまで説明してくれるとは思わなかったわ」
「一応クレープ奢ってもらえるからな。
報酬分の働きはするさ」
「うぅ、ますます奢らなきゃいけないじゃない。
もう次行くわよ!京子お願い!」
「仕方ないわね、後輩の為に一肌脱ぐとしましょうか」
「京子さん脱いでくれるんですか!?
一肌と言わず、洋服全部お願いします!」
俺が土下座をすると、京子さんは俺の顎を指で軽く持ち上げた。
そう、俗に言う顎クイである。
「まさくん、私の裸は安くないわよ?」
「それは承知の上でございます!
この二島政宗、京子さんの裸が見れるならいくらでも出しましょう!
さっ、望む金額を提示してください!」
「そうねぇ・・・まさくんがこれから就くであろうどんな職業の生涯年収より高いわよ?」
「な、なんですと・・・」
いや、よく考えてみろ俺よ。
相手は京子さんなんだぞ。
この人の全盛期の裸だ、それくらいしてもおかしくない。
いや、むしろ当然の額だ!
「諦めるしか、ないのか」
「まぁ、他に方法が無いわけじゃないんだけどね」
「ん?なにか言いましたか?」
俺が尋ねると、京子さんは笑顔で首を横に振った。
「何でもないわ。
さぁ、授業の続きをしましょう」
そう言うと、京子さんは水葉さんと交代してホワイトボードの前に立って入れ替わるように水葉さんは席へ座った。
「それではここからは私が授業をするわね。
と、その前に言わなきゃいけないことがあるわね」
「言わなきゃいけないこと?
何ですか?」
京子さんは、満面の笑顔で言った。
「次回に続くわ」
「ここまで延ばしておいてやらないんかい!」