第4話 生徒会は勝負師がいる
3階で色々あったが、俺と会長は2階に降りるために階段を降りていた。
本当はもっと加奈子さんと話したかったけど、仕方ないか。
また今度暇な時に会いに行こう。
「政宗くーん、顔がニヤついてるよー」
俺の前を歩いていた会長が、下から覗きこむように俺の顔を見ていた。
マジで?ダメだダメだ、もっとシャキッとした顔をしなければ。
「そんなことないですよ?会長」
「そんな伝説の傭兵ス○ークさんみたいな顔したってダメだよ!
ていうか何で顔だけ実写で渋い感じになってるの!?」
「人間願えば叶うものですよ。
そう!次元すらもねじ曲げる事が可能なんです!」
「ただの世界観崩壊じゃない!」
おぉ、会長がいつも通りのツッコミをしている。
よかったよかった、3階にいた時はツッコミのキレが悪かったからなぁ。
「まぁ会長、それは置いといてたしか2階は京子さんが担当でしたよね?」
「急に真面目に質問するね。
そうだよ、2階は京子の担当だよ」
「水葉さんや薫さんもそうですけど、誰がどこを担当するっていうのはどうやって決めたんですか?」
「あー、それは他の皆の“やり方”を見れば分かるよ」
「やり方、ですか?」
俺と会長がそんな会話をしていると、いつの間にか2階に到着していた。
廊下に行くと、最初に3階に着いた時とは違う雰囲気を感じた。
「・・・何か、賑やかですね」
廊下の真ん中の教室辺りから、人の笑い声や叫ぶ声が聞こえる。
しかも、そこそこの人数がいることが分かる。
「ここだといつもの事だよ。
どうせ、京子が大人げない事してるんだよ」
会長が呆れ顔をしながら廊下を歩き出し、俺はその後をついていった。
そして少しすると、会長が足を止めた。
そこは2年B組の教室の前だった。
中からは、さっきまで聞こえていた人の声が大きくなって聞こえてきている。
会長は扉に手をかけて、ゆっくりと開けた。
「じゃあ、これで王手ね」
「・・・詰みですね、参りました」
『おぉー!』
扉を開けた先には、椅子に座って将棋をする京子さんと、その向かいに座り頭を下げている見知らぬ男性、そしてそれを取り巻く人達がいた。
「おーい、京子ー。
こっちは終わったよー」
「あら早かったのね陽奈夜」
京子さんがこちらに向かって言うと、教室に敷き詰めたような人達の視線が会長と俺に注がれた。
「お・・・おぉー!
光に浮かび上がった天才だ!」
「え!?マジで!?
・・・本当だ!あの伝説の雀士だ!」
会長を見たギャラリーの男たちが驚きながら歓声をあげている。
それを見た他の人達も、釣られて歓声をあげる。
「そこ、通りたいんだけどいいかな?」
「は、はい!」
会長が目の前の男に尋ねると、会長の前には京子さんまでの一本道ができた。
この人はどこかの極道なのだろうか。
会長のその道の真ん中を堂々と歩いている。
俺はその後を周りをキョロキョロ見回しながら、会長の後についていく。
見た感じ、ここにいる人達は皆幽霊のようだ。
ただ3階は子どもや女性が多かったけど、ここは成人後の男性やおじさんとかが多い感じだ。
階によって年齢層が違うのか?
「それで京子、今日の調子は?」
京子さんの前に着いた会長が尋ねた。
「今のところ順調ね。
まだ負けてないわよ?」
京子さんは微笑みながら、会長に返した。
よく見ると、先ほどの男性と京子さんは机をくっつけていてその中間には将棋盤が置いてあった。
「あの、これはいったい・・・?」
「京子は見回りの時に、こうして皆から色々な勝負を受けているのよ。
自分に勝ったら賞品をあげるって言って」
「勝負、ですか。
じゃあこの将棋も、その勝負の1つなんですか?」
俺が尋ねると、京子さんが頷いた。
「そういうこと。
この対局は、52手で私の勝ち」
「うーん、途中から攻め込まれて気付いたら退路まで無くなってたんだよなぁ」
「この時に無理に受けずに早めに逃げていれば、もしかしたら体勢をたて直せていたかもしれないわね」
さきほど京子さんに頭を下げていた男性と京子さんが、将棋の駒を動かしながら対局を振り返っている。
テレビでプロ同士の将棋の対局が放送されている時があるが、そのときにこうして対局を振り返る場面を見たことがある。
「なるほど、そこでそう打っておけばよかったのか。
よし!次こそは勝つからね!
ありがとうございました!」
男性はもう一度京子さんに頭を下げると、将棋盤と駒を片付けてその場を離れた。
「よし!じゃあ次は俺の番だ!」
席が空いた途端に、違う男が座ってきた。
さっきの男性はやせ形の人だったが、次の人は図体のデカイおじさんだ。
「俺はこれで勝負だ!」
そう言うと、おじさんはポケットから何かを取り出して机の上に置いた。
「これは・・・花札ですね」
「そうだ!花札のこいこい。
5回やって最終的にポイントの数で多い方が勝ちってルールでどうだ?」
「分かりました、それで構いません」
男の言ってきたルールに、京子さんは笑顔で頷いた。
「・・・会長、俺花札のルールイマイチ知らないんですけどどんなルールなんですか?」
俺が尋ねると、会長は腕を組んで京子さん達の方を見ながら説明しだした。
「花札のこいこいは、48枚の札を使って決められた役を作ってその役に応じたポイントを獲得するゲームだよ。
ほら、今男が札の束をシャッフルしてカードを配っているでしょ?
それぞれ手札8枚、場が8枚になるように札を配るのよ」
俺が京子さん達のほうを見ると、いつの間にか机の上には絵柄の書かれた札と札の束が置かれており、二人はそれぞれ手に札を持っていた。
「じゃあ、俺からいかせてもらうぜ?
・・・よし、まずはこれだ!」
そう言うと、男は手に持っていた札の一枚を机の上の札に叩きつけた。
その後、2枚の札を自分の目の前に並べた。
「花札の札は、1月~12月の季節が4枚ずつあって同じ季節の札を手札から出して場の札を取ることができるのよ。
ああやって交互に札をとっていって、役を作っていくの」
「なるほど、それじゃああのおじさんは同じ季節の札を出して自分の物にできたんですね」
「そういうこと。
ちなみに今とったのは1月、松の札ね」
俺がおじさんのとった札を見ようとすると、おじさんが机の上の札の山の上から一枚引いてそれを机に叩きつけた。
「よっしゃ!これで赤短リーチだ!」
おっさんはそう叫ぶと、叩きつけた札とその下に重なるようにあった札を取った。
「会長、今のは?」
「こいこいだと、一枚手札から出した後ああやって札の山から一枚引いて手札で出した時と同じことができるの。
ちなみに、おじさんは今ので3月の桜の札を取ったから松と桜の赤い短冊の札があるでしょ?
あれで、2月の梅の短冊を持ってくると赤短っていう役が作れるの」
「じゃあ、この一回だけでおじさんはかなり有利になったんですね」
「そうだね、赤短は役の中でもポイントは高いほうだし完成すると嫌だね。
こういう風に札を取り合って、どちらかが役を作って終わるか手札がなくなったらその勝負は終了。
その時のポイントを持ち越して、次の勝負をするの」
「へぇー。
それはそうと、京子さんって将棋や花札以外にどんな勝負受けたことあるんですか?」
「うーん、私が知ってる限りだと他にはチェス、囲碁、ポーカー、麻雀、限定ジャ○ケン、UNO、Eカ○ド、これくらいかな?」
「あのー会長、途中になんか危ないのが入ってるんですけど、それどこかのグループさんと勝負しましたか?」
「おぉー、よくわかったね。
何かスーツ着たおじさんと対決して、京子が勝ったら負けたおじさんは熱した鉄板の上でもう一人の和服のおじいさんに土下座してたよ」
「まさかの会長とNo.2が死去!?」
何てこった!話の流れとはいえ大先生の作品の主要人物を殺しちまった!
どうしようどうしよう、もしかしたら血を抜かれたあげくにどこかの山に埋められるんじゃないか?
・・・主に作者が。
「嫌だ!!!」
『何だ!?』
突然どこからか聞こえた叫び声に周りの人達が驚いている。
どうせ今の俺の考えを書いてて、作者が叫んだのだろう。
「何だ!?今の声は!?」
京子さんと勝負をしているおっさんも、周りをキョロキョロしている。
「あらあら良いんですか?
勝負の最中によそ見をしちゃって」
そう言うと、京子さんは笑いながら手札から桜と赤い短冊の書かれた札を場に出した。
「ちっ・・・持ってたのか」
「簡単にできたらつまらないでしょ?」
「さすがは“フールギャンブラー”だな」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
おっさんの皮肉そうに言った言葉に、京子さんはそのまま笑顔で返した。
「フールギャンブラー?」
「フールギャンブラーっていうのは、京子の幽霊達の間での二つ名だよ。
愚かな勝負師と書いて、愚勝負師」
「何でそんな二つ名がついてるんですか?」
「政宗は、ギャンブルって何だと思う?」
会長は、俺に確かめるように確認してきた。
「何だと思う、ですか?
・・・お金をかけて一獲千金を狙う、ですかね」
「まぁ、だいたいはそうだよね。
だけど、京子は根本的にその考えを持っていないのよ。
その証拠に京子は、自分に勝った相手用の景品は用意しているのに自分が勝ったときは特に何かをもらうわけでもない」
「じゃあ、何のためにするんですか?
勝ったところで、自分にメリットのないギャンブルを・・・」
「相手にメリットがあるからだよ」
俺の問いかけに、会長は京子さんを見ながら真剣な顔で答えた。
その視線の先の京子さんは勝負を楽しんでいるように笑っている。
「ここにいるのは死ぬ前にギャンブルをやっててギャンブル関係で未練を持つ人や、そうでなくても趣味や仕事で何か事情を持った幽霊達なんだよ」
「なるほど、だから将棋や囲碁のようなギャンブルと関係ないような物の勝負もやってたんですね」
「そういうこと。
今まで申し込まれた勝負を断ったことなくて、気付いたらこんな顔が売れて二つ名まで付いてたらしいよ」
ということは、京子さんは幽霊の皆が死んだあとに満足して成仏できるように勝負を受けていたのか。
「でも、相手的にはどうなんですか?
そんなメリットのない勝負に満足できるんですか?
しかも、生前でギャンブルやってたような人達が」
俺が尋ねると、会長は笑いながら答えた。
「それなら大丈夫だよ。
京子は勝負に関しては、決して手を抜かないから。
昔から勝負事に関しては真剣で、仮に自分にメリットがなくても全力を出せるんだと」
「そんなものなんですかね」
「まぁ、もう1つ理由はあるんだけどね」
「何ですか?」
「今まで人から勝負を申し込まれて、負けたことがないんだよ。
最低でも、見回りで京子が受けた勝負に関しては」
「・・・は?」
そんなバカなことあるはずがない。
「嘘ですよね?
京子さんって、1年の時から見回りをやってたんでしょ?
その時から勝負を受け続けていたら、いくらなんでも1回くらい・・・」
「1年生の時から不敗なんだよ。
どんな勝負を受けても、きっちり最後には勝つ。
京子の愚勝負師のあだ名は、その不敗の伝説の上に存在してるんだよ」
「でも、運が絡む物もあるじゃないですか!?
運を操作できるわけじゃあるまいし・・・」
「まさくんは、ここぞという時に神頼みをしたことがある?」
俺は急に自分の名前を呼ばれて、声がした方を見た。
そこには、笑いながら俺を見る京子さんがいた。
「神頼みですか?
したことありますけど・・・」
「そうよね。
でも、中には神頼みをする前に死んじゃった人もいるのよ」
京子さんは、どこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「京子さん、それってどういう・・・」
「おい嬢ちゃん、早く札を出してくれるか?」
俺の言葉を遮るように、おっさんが京子さんへ催促した。
京子さんはおっさんのほうに体を向けると、手札から1枚札を机の上に出した。
「・・・それでいいんだな?」
「え?」
おっさんに確認されて、京子さんは机の上を見た。
京子さんの出した札の下には、絵柄の違う札が置いてあった。
「その札じゃ、そいつは取れないな」
おっさんがニヤニヤ笑いながら、京子さんに言う。
「ちょっと待ってくれ!
京子さんは俺と話してて、札をちゃんと確認してなかったんだ!
やり直ししたって・・・」
「まさくん」
おっさんへ抗議する俺の言葉を、京子さんは遮った。
「真剣な勝負で間違えましたはないのよ。
これは私のミス、不注意が招いた事なの」
「嬢ちゃんの言うとおりだぞ、坊主。
1個のミスで死ぬかもしれない時だってあるんだ。
そんなときにやり直しはできない、人生と同じようにな」
おっさんが真剣な顔で俺に言ってきた。
何でだろう、おっさんの言葉には重みがあると感じると思うのは。
「勝負再開といこうぜ」
おっさんに促されて、京子さんは山札に手を伸ばす。
結局、その回はおっさんが大量に得点を取る形で終わった。
そして、勝負は最終の5回目を迎えた。
「会長、京子さんは勝てますか?」
俺が尋ねると、会長は眉をひそめた。
「京子とあのおっさんのポイントの差は25。
どんな形であり、京子はこいこいを宣言しなきゃいけないから厳しい状況だね」
「どういうことですか?」
「花札のこいこいで、1つの役で25もあるものはないんだよ。
だから、役を1つ作る度にこいこいを宣言することになる。
このこいこいを3回すれば、最後に獲得できるポイントが2倍になるんだ」
「それなら京子さんにも逆転の手は残ってるんですね!」
「ただ、相手のおっさんはどれでも良いから役を1つ作ってしまえばそこでやめにして勝てるんだ。
京子はおっさんが役を1つでも作る前に、最低でも役を3つ作らなきゃいけないあげくに点数によっては高度な役が必要になる」
会長の説明を聞いて、俺でも状況が理解できた。
同時に、京子さんとおっさんの状況の違いに絶望をした。
「それじゃ、京子さんが勝つことは・・・」
「まぁ、京子なら勝つだろうけどね」
今まで重く説明していた会長が、笑いながら軽く言った。
「何でですか!?
かなり危ないんでしょ!?」
「そうだけど・・・負けた訳じゃないからね」
俺の言葉に、会長は笑って返す。
「それは、そうですけど・・・」
「政宗くん、よく見ておきな。
多分、京子の不敗の秘密が分かるから」
会長に言われ、俺は京子さんの方を見た。
「さぁこれで最後か、景品が楽しみだな」
おっさんが笑いながら、札を配っている。
京子さんはというと、静かに目を閉じていた。
「・・・この状況じゃ仕方ないわね。
申し訳ないけど、お願いするわ」
京子さんが何か独り言を言っている。
次の瞬間、京子さんの背後に人が現れた。
白い着物に身を包んだ、長く黒髪の中学生くらいの女の子だ。
「会長、この人は・・・?」
「京子の守護霊だよ」
「京子さんの、守護霊?」
俺が尋ねると、会長は頷いた。
「普段は京子の体の中にいるんだけどね、こういう勝負の大一番になると必ず現れるの。
あれが、京子の不敗の秘密だよ」
俺は京子さんの方を見た。
京子さんは静かに目を開けて、手札を持った。
「・・・いきます」
京子さんは呟くと、札を1枚持って腕を静かに上げた。
すると、後ろの守護霊が京子さんの腕と一体化して同じく腕を上げる。
パチンッという音をたてて、札が机に叩きつけられた。
その動作は、とても美しかった。
勝負は淡々と進んでいった。
だが、内容としては素人目の俺にも分かるものだった。
「・・・こいこい」
京子さんが呟くように、こいこいを宣言する。
「くそっ!何でとれねぇんだ!」
おっさんは、苦悶の表情をしながら手札と場を交互に見ている。
その後も、京子さんは次々と札を取っていき役を完成させていった。
一方のおっさんはというと、ほとんど札が取れず役を作るどころの話ではなくなっていた。
「・・・これで私の勝ちですね」
そう言うと、京子さんは手札を静かに机の上に伏せた。
「負けた・・・」
おっさんはというと、負けたのが受け入れられないのか呆然と場を見つめている。
「本当に勝っちまった」
俺も、目の前の光景が信じられなかった。
京子さんは、あの劣勢をものともせずに逆転勝利を納めたんだ。
「毎度の事だけど、鮮やかな勝ち方だな」
会長が歩み寄って、京子さんに言った。
すると、京子さんは会長に微笑みながら答えた。
「結局この子の力を借りちゃったけどね」
「巴も久しぶりだな」
会長が京子さんの守護霊に向かって言うと、守護霊は会長にお辞儀をした。
「あの、色々説明してもらってもいいですか?」
俺は状況が理解できなくて、会長と京子さんに尋ねた。
「それもそうね。
じゃあ、まさくんにはこの子を紹介するわね。
この子の名前は巴、生まれたのは平安時代で子どもの頃からの私の守護霊よ」
「は、初めまして、二島政宗と申します」
俺はお辞儀をして挨拶をした。
だが、守護霊は京子さんの後ろに隠れてしまった。
「あの、これは・・・」
「あぁ、この子男の人に人見知りするのよ。
ほら巴、ちゃんと挨拶しなさい」
京子さんに言われ、巴ちゃんは恥ずかしがりながら俺の前に歩いてきた。
「・・・初めまして」
「は、初めまして。
えっと巴ちゃん、でいいんだよね?
さっきの花札やってる時の姿、すごいキレイだったよ」
俺が言うと、巴ちゃんは顔を赤くしてお辞儀をした。
「あ、ありがとうございます」
そう言うと巴ちゃんは、また京子さんの後ろに隠れてしまった。
「この子、生きてた頃に不思議な力を持ってたっていうので、無理やり子どもを産まされてたらしいのよ。
その影響で、男性が苦手になったみたい」
「不思議な力?」
「そう。
まさくんは、第六感って聞いたことがあるかしら?」
京子さんに尋ねられ、俺は頷いた。
「はい、直感とかそういう感じものでしたっけ?」
「まぁ、そんなところね。
巴は人よりもそれが強いのよね。
いわゆる運の強い子って言うのかしら。
ただ本人もうまくコントロールできなかったから、子どもを産まされて無理が祟ってこんなに若いのに死んじゃったらしいのよ」
京子さんは少し悲しそうな笑みを浮かべながら、巴ちゃんの頭を撫でた。
「じゃあ、その力が京子さんを勝負の時に助けてるんですか?」
「そういうこと。
逆に言えば、勝負の時以外は一切発動しないのよね」
確かにそれは不思議な力だな。
ていうか、何かスケールがでかくて上手く理解できない。
何か、どこぞの呪いのビデオから出てくる人の親みたいだっていうのは分かるけど。
「そういえば、そんな力を持っている人がいるって分かってるのに皆が狙う景品って何ですか?」
俺が尋ねると、会長が胸ポケットから何枚か写真を取り出した。
「それが景品ですか?」
「そう。
京子の際どい水着写真、市場には出回らない超プレミアム・・・」
俺は会長が言い終わる前に、会長が指の間に挟んだ写真を奪い自分の制服の胸ポケットに入れた。
その所要時間、わずか0.8秒。
「あ!政宗返しなさい!」
「ダメです。
学校にこんなもの持ってきてまったく。
これは俺が家に持ち帰って永久保存しておきます」
「ニヤニヤしながら言っても、説得力の欠片もないけど!?」
「美女のこんなプレミアム写真を目の前にして動かない男はいません!」
「こらこらダメよ、まさくん。
その写真が欲しかったら、私と勝負して勝たなきゃ」
京子さんは笑いながらそう言うと、俺の胸ポケットから写真をつまみ出した。
「うぅ、そんなこと言っても京子さんと巴ちゃんに勝負で勝つなんて・・・」
俺は涙を流しながら床に膝をついた。
「あらあら、男の子がそんなに簡単に泣いちゃダメよ?
そうねぇ・・・じゃあ、夏休みに生徒会のメンバーで海にでも行く?
私だけじゃなく、皆の水着写真取り放題よ?」
京子さんが俺の肩に手を置いて、神様のような素晴らしい提案をしてくれた。
「京子さん俺あなたに一生ついていきます!」
俺は京子さんの手を両手で握りしめて誓った。
「・・・政宗って、結構スケベだよね」
「良いんじゃない?
男の子はこれくらいのほうが健康的よ?」
「京子・・・水着って何?」
会長と京子さんが俺のスケベさを再確認していると、京子さんの後ろに隠れていた巴ちゃんが京子さんに確認した。
「こういうものよ」
京子さんはそう言って、巴ちゃんに先程の写真を見せた。
「・・・ほぼ見えてる」
巴ちゃんが震えながら写真を見ている。
あの水着は刺激が強すぎるからな。
「海に行った時は、巴にも水着着せてあげるわね」
「え、遠慮する」
「会長・・・幽霊でもはっきり撮せるカメラってどこに売ってますか?」
「本当に節操ないね!」
会長が俺に延髄斬りをしながらツッコミをいれた。
「何を言いますか!
あんな美少女の水着写真が撮れるかもしれないんですよ!
そんなチャンス逃したら、俺幽霊になったらイタズラしまくりますよ!
全国のらーめん屋さんの看板らーぬんにしますからね!」
「地味に迷惑なことやめなさい!」
「ほらほら二人とも、仲が良いのは素晴らしいことだけど下の階に行かなくていいの?」
俺が会長にパロスペシャルをされていると、京子さんが仲裁に入ってくれた。
「あ、そうだった!
皆!今日はもう終わりね!次はゴールデンウィーク前にやるだろうからその時までは大人しくしてるように!」
『おー』
会長が周りの幽霊達に言うと、皆色んな方向に散らばっていった。
「何か、この階が京子さんに任されているの分かる気がしました」
「私と巴じゃないと相手しきれないのよね。
中には、ものすごく強い人もいるし」
京子さんは苦笑いしながら言った。
「そういえば、何で巴ちゃんは京子さんの守護霊に?」
「さぁ、私も巴も分からないのよね。
気づいたときには、私には巴がいたし」
「でも、何だか合ってる気がしますね。
京子さんと巴ちゃん」
「ふふっ、ありがとう」
京子さんはそう言うと、会長と一緒に歩き出した。
すると、京子さんの後ろに隠れていた巴ちゃんが俺のほうに走ってきた。
「ん?どうしたの?」
「・・・ありがとう」
巴ちゃんは俺にお辞儀をしてそう言うと、前を歩いている京子さんの背中にダイブしてそのまま体の中に入っていった。
恥ずかしがり屋だけど、丁寧な子なんだな。
俺はそんなことを考えながら、会長と京子さんの後を追った。