第1話 生徒会は個性的
「失礼しまーす」
放課後俺が生徒会室の扉を開けると、中には長いテーブルとイスがあり一番奥のイスには見慣れた人が座っていた。
「おー侘助君、毎日ご苦労様」
俺を見たその人は茶色の長い髪で、普段は清楚な感じで皆のお手本みたいな人なんだけどここにいるときや俺たちといるときはすごい子どもっぽくなる。
「誰が侘助ですか。
ていうか、まだ登場人物の名前を紹介してもいないのに別の名前で呼ばないでください」
「えー、良いじゃん別にー。
そこらへんはちゃんと作者が何とかしてくれるよ。
逆に何とか出来なかったら、この小説が無くなるだけだよー」
何か作者のハードルがこの人のせいで、初めから上がった気がするけどまぁいっか。
「ところで会長、他の皆さんはどうしたんですか?」
俺が聞くと、会長はどこからか取り出したポテチの袋を開けてテーブルの上に置いた。
「京子と水葉は後で来ると思うよ。
薫は今日依頼が入ってるから、終わったら来るって言ってた」
会長がポテチを食べながら答えた。
「薫さん、相変わらず依頼引き受けるのが多いですね」
俺は後ろの扉を閉めて、会長の向かって左の席に座ってポテチをいただいた。
「あの子は何でもできるからね。
臨機応変に対応できるし、本人がああいう性格だからみんな頼みやすいんだよ」
会長に言われて納得した。
確かに、薫さんって明るいし頼み事しても嫌な顔ひとつしないもんなぁ。
「はっ!まさか・・・まだ4月だというのに私の生徒会長としての地位が危ない!?」
会長がポテチを食べる手を止めて、悩みだした。
あー、確かに薫さん2年生だけど副会長だし人望あるからなぁ。
まぁ、多分そうはならないだろうけど。
俺は、頭を抱えて唸る会長の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫ですよ、会長が任期の途中で変わることはないですよ。
俺が保証します」
「侘助君・・・」
俺が言うと、会長が涙ぐんで嬉しそうに俺を見た。
俺は侘助って名前じゃないけどね。
「だって、会長何も出来ないじゃないですか。
生徒会長って動くと目立っちゃうから、薫さんが動きとりにくくなったら皆困っちゃいますよ。
会長に来られても、皆困ると思いますけど」
「まさかの私役にたたない子!?」
俺に言われ、会長が固まっている。
「いや、会長だって皆の役にたってますよ?
普段の会長礼儀正しいし、勉強はできるし、スポーツとかも特にそつなくこなしているし。
ただ、ここでの姿を見ると、ねぇー」
俺の言葉を聞いて、会長が机に顔を伏せてオロオロと泣いてしまった。
まぁ、いつも通り嘘泣きだろうけど。
“コンッコンッ”
会長をいじっていると、入り口の扉をノックする音が聞こえた。
入り口の方を見ると、扉が開いて2人の女性が入ってきた。
「あら、まさくん早いのね」
「お邪魔しまーす。
おっ、政宗!今日は早く来てるんだな!」
2人は俺を見ると、各々声をかけてきた。
「ついさっき来たばかりですよ。
ちょうど今、会長を元気付けてたんです」
俺に最初に声をかけた人が、三年生の書記で五木京子さん。
高校生でありながら、小説家の仕事をしている忙しい人だ。
見た目は身長が俺より少し高めで(俺は170センチないくらい)、おっとりとした性格なのだが、スクエア型のメガネをかけていてとても知的に見える人だ。
で、2番目に声をかけた人が、二年生の副会長で名前は四谷水葉さん。
身長が150センチ前後と小柄な人だが、髪型がポニーテールでとても暑くボーイッシュなところがあり、みんなの先頭に立つ事が多い人だ。
本人的には自由なほうがいいらしいんだけどね。
まぁ水葉さんは人を率いるタイプじゃなくて、人に率いられて暴れるタイプだしな。
「えーん!
京子ー、政宗がいじめるー!」
会長が京子さんを見るやいなや、その豊満な胸に飛び込んでいった。
「あらあら、そうなの?
ダメよまさくん、陽奈夜をいじめちゃ」
会長の頭を撫でながら、京子さんが微笑んで俺に言ってきた。
ちなみに、会長の名前は六星陽奈夜である。
「えー、いじめてませんよ。
ただ会長を元気付けてただけですよ」
「そうだったの?
じゃあ、もっと陽奈夜を元気付けてあげて」
そう言って、京子さんは会長をお姫様抱っこしてもといた椅子に座らせた。
「京子が天然なのか分かっててやってるのか、三年も一緒にいるのに時々分からなくなるよ・・・」
会長が突っ伏して泣いていた。
「まぁまぁ会長、前向きに生きてれば良いことありますよ」
「いや元々あんたのせいだよ!?」
会長から鋭いツッコミをもらってしまった。
「相変わらず楽しそうだねぇ、お二人さん」
「そうねぇ、お似合いだもんねぇ。
このまま二人とも結婚したらいいのに~」
水葉さんと京子さんがニヤニヤしながら言っている。
「え~、会長とですか?
俺、もう少し家庭的な人がいいです・・・」
「私だって嫌よ!
こんなモブキャラみたいな地味男!」
「何言ってるんですか!俺は主人公ですよ!?
主人公と結ばれるなんて、ヒロインとして最高の人生じゃないですか!
さぁ!俺の胸に飛び込んできてください!」
俺は会長に向かって両手を広げて、迎え入れる態勢をとった。
すると会長は立ち上がって、俺の前に立って
「セイヤー!」
目にも止まらぬ早さで正拳突きをした。
まるで○海王のマッ○突きのようだ。
「ぐはぁっ!」
俺はそのまま扉の方へ吹っ飛んでいった。
マズイッ!このままじゃ扉に激突する!
「まさ君!危ない!」
俺が扉に激突する事を察知した京子さんが・・・
扉を開けてくれました。
「ギャァァァ!!」
俺はそのまま止めてくれる物を失って、廊下の方に吹っ飛んでいった。
「ふぅ、これでドアが壊れなくて済んだわ」
「・・・水葉、京子は天然なんだよね?
人為的にやってるんじゃないんだよね?」
「分からないけど、あれを天然でやってるなら軽い危険人物ですね」
「いってぇー」
俺は、壁にめり込んだ体を引っ張りだした。
まったく、一番奥の壁にめり込んじまった。
周りの人が青い顔しながら心配している。
ちなみにその中の1人、同じクラスの青木が俺に近寄ってきて慌てて声をかけてきた。
「どうしたんだ独眼竜!?誰にやられた!?」
ちなみにこいつは、俺の名前が伊達政宗と同じ政宗なのであだ名として独眼竜と呼んでいる。
「・・・しいて言うなら、烈○王だな」
「何だって!?愚○親子も一緒か!?」
こいつ、本当に食い付きがいいな。
「いや、その2人はいなかった。
だけどかなり効いたな、さすが中国四千年は伊達じゃないな」
「・・・ていうことはお前、別に死にそうとかじゃないんだな?」
「ん?あぁ、確かに痛いけど別に死ぬほど痛いわけではないぞ」
俺が立ち上がりながら言うと、青木は俯いたまま床を殴った。
「くそっ!・・・まだなのか!」
「お前は俺が死ぬのを期待してるのか!?」
「当たり前だろ!
小学校からの同級生で、オタク、非モテの道を一緒に歩んできたじゃないか!
それが高校入ってお前だけ急に美女のパラダイスの生徒会入りやがって!
羨ましくてしょうがない!
夜な夜な藁人形を五寸釘で木に打ち付けて、やっと叶ったと思ったのに!
くそっ・・・!」
「だからって丑の刻参りまですることはないだろ!
シャレになってないぞ!」
「お前に何が分かる!?
一生彼女を作れなくても、楽しい人生を過ごすという同盟を組んだ相手が急にラノベのハーレム主人公ルートを歩み始めたんだぞ!
主人公のギャグ要員の同級生に成り下がった俺の気持ちが分かるのか!」
「お前に同情すべきか分からないけど、そんな同盟を組んだ事はないぞ!」
まぁ、オタクと非モテは否定しないけどな。
俺は青木をほっといて生徒会室のほうに歩き出した。
「待て!独眼竜!
まだ話しは終わってないぞ!」
青木が引き止めてきたので、俺は後ろを振り向かず足を止めた。
「悪いな、俺には行かなきゃいけない場所があるんだ」
「お前、そんな体になってもまだ行くというのか!?
せめて、もう少しまともな装備を・・」
「大丈夫だ、問題ない」
俺はそう言い残して廊下を走った。
「独眼竜!・・・やめるんだ!露骨な死亡フラグは回収されないことがある!」
・・・あいつはいつか一発殴ろう。
「かー!いー!ちょー!おー!」
俺は叫びながら、廊下を走っていた。
そして勢いよく生徒会室の扉を開けた。
中では、俺が吹っ飛ばされる前にいた三人が仲良くポテチを食べていた。
俺は無言で会長に近づいていった。
俺の無言の圧に押されたのか、会長が少し怯えながら俺を見ている。
「ど、どうしたんだ政宗?」
俺は会長の言葉に反応せず、座っている会長を見下ろしている。
「ま、まさかキレたのか?
お、お前が悪いんだぞ。あんな飛び込んで来いなんて言うから・・・」
「会長・・・」
「は、はい!」
俺は横の戸棚から、会長の愛用しているカップを取り出した。
そして会長の前にそっとそのカップを置いた。
「ど、どうしたの?
まさか、そのカップを私に見立てて粉々にする気!?」
俺は動揺する会長には返事せず、ポットと紅茶のティーパックを用意した。
「・・・おやつにはお茶が必要ですよね?」
俺は、微笑みながら会長のカップにティーパックを入れてお湯を注いだ。
「紅茶は少し冷めたほうがおいしいので、入れてからすぐは飲まないほうがいいですよ」
「あ、ありがとう」
俺の行動が会長の予想と違っていたのか、会長は驚いた顔をしたまま俺を見ている。
「まさ君、私にも紅茶もらえるかしら?」
「私には緑茶をくれ!」
「はーい、今入れまーす」
俺は京子さんと水葉さんにもそれぞれお茶を用意して、二人の前に置いた。
「ふふっ、それにしてもまさ君は陽奈夜に甘いわね」
京子さんが紅茶を飲みながら、笑顔で言ってきた。
「まぁ、一年生の俺が仮にも三年生の会長を日頃いじってるわけですから。
あれくらいは気にしませんよ」
俺が苦笑いしながら言うと、京子さんが何かを察したような顔をした。
「はっ!まさ君もしかして・・・Mなの?」
「違いますよ!俺はノーマルです!」
「えっ!?政宗ってMだったの!?
そっか、だから私が正拳突きしても怒らなかったんだ」
「あんたはさっき許したばっかりなのに、さっそくなにアホな事言ってるんですか!」
「そういう陽奈夜もMなのよねぇ~。
この前だって、私が○○○したら喜んでたもんねぇ~」
「何で何もなかったのにあたかもあったように言ってるの!?
しかも伏せ字だから何か卑猥にとられちゃうじゃない!」
「そうか、会長は百合だったのか!
どうりで俺の胸に飛び込んでこないわけだ!」
「私はノーマルだけど、それでもあんたの胸には飛び込まないわよ!」
「・・・今日も平和だなぁ」
何か俺たちが言い合いをしている中、水葉さんだけは緑茶をすすってリラックスしていた。
「ところでまさ君、廊下から帰ってくるの少し遅かったけど何かあったの?」
言い合いが一段落すると、京子さんが聞いてきた。
「あー、同級生に捕まったんですよ。
俺が生徒会に入ったのが羨ましいらしいです」
「それで、吹っ飛んだ原因は言ったの?」
「烈海○にやられたって言っときました。
会長の事は出してませんよ」
俺が答えると、京子さんが笑いながら言ってきた。
「本当に、まさ君は陽奈夜に優しいのね」
「私だったら、言っちゃうと思うなぁ」
京子さんと水葉さんの言葉に、俺は首を横に振った。
「別に優しくはないですよ。
ただ会長は、普段の外面だけは良いですからね。
変に皆のイメージ壊すこともないかなぁと思いまして」
「外面だけってなによ!
まるで、他の部分がダメみたいじゃない!」
「まぁまぁ、陽奈夜。
本当の事なんだから、そんなにむきになって否定しなくていいのよ?」
「京子はさらっと私をディスるよね!?
敵か味方かもうさっぱり分からないよ!」
「何言ってるの?私と陽奈夜は出会ったときからずっと敵じゃない」
「まさかの高校三年間、ずっと敵説!?」
会長がツッコミ続きで疲れたのか、ハァハァと息を切らしている。
「そういえば、このやり取りいつまで続くんですかね?」
「さぁな。作者が満足するまでじゃないか?」
「そろそろ何か新しい展開がないと、生徒会室で駄弁ってるだけの某有名ラノベとそう変わらないものねぇ」
「それは困る!
そんなことしたら、このナイスバディな私がロリ系お子さま体型になってしまう!」
「むしろあっちの方が人気なので、その方がいいんじゃないんですか?」
「そうねぇ、陽奈夜の性格を考えるならロリ体型のほうが私も良いと思うわ。
そしたら、あんなことやこんなことも・・・」
京子さんが舌なめずりしながら、会長を見ている。
ダメだ京子さん!それはキャラが被る可能性がある!
「すみません!遅れました!」
俺たちが某作品との被りを気にしていると、最後の生徒会役員が入ってきた。
「あ、薫さん。依頼終わったんですか?」
俺が聞くと、薫さんは頷いて笑った。
「うん!今日は早く終わってくれて特に手間もかからなかったから」
「良かったですね、薫さんの受ける依頼って大変なの多いですもんね」
「普通の人じゃどうにもならないものもあるからね。
私たちでどうにかなるなら、それに越したことはないよ」
この人は、いつも人のために動くよなぁ。
オランダ人のお祖母さんの血が流れていて、金髪ロング髪。
そこまで高くない身長に加えて、笑った時の顔の少し幼さの残る可愛さのおかげでこの人のいる二年A組にはある噂がある。
あのクラスには、天使がいると。
「おっ、薫も来たわね。
じゃあ、そろそろ今日の活動しましょうか」
会長のその言葉で、俺達は各々の席についた。
ちなみに席の位置は、会長が入り口から一番奥の席。
京子さんが会長から向かって左の手前側で、俺がその奥側にいる。
水葉さんが会長から向かって右の手前側で、薫さんがその奥側だ。
「それでは、今日が金曜日ということで各々今週受けた依頼の数を言っていこう!
ちなみに私は5件だった、じゃあ次は京子」
「私も今週は5件だったわ、もう少し多くほしいわねぇ」
「私は7件だったな、そんなに難しいのはなかったけど」
「ぼ、僕は0件でした」
各々の数を聞いて、会長がホワイトボードに名前と数を書いていった。
「えっと、私が5件、京子も5件、水葉が7件、政宗が0件っと」
「面目ないです・・・」
「仕方ないわよ、まさ君は入ったばかりだし皆もある程度は実績がある人にしか頼まないしね」
俺が謝ると、京子さんがフォローしてくれた。
「今年入った一年生は私たちの事は知らないだろうし、二年生と三年生はほとんど薫に頼むだろうしな」
「じゃあ、最後は薫ね」
会長に言われ、薫さんが元気よく返事した。
「はい!私は100件です!」
「・・・相変わらず凄いわね」
「さすが、生徒会一の稼ぎ頭ね。
薫ちゃんがいれば、生徒会の財形は安泰だわ」
「でも、そんだけ多いってことはお前また土日も依頼受けてたんだろ。
休日は完全な休みにしとけって言ったのに」
水葉さんの言葉に、薫さんが苦笑いした。
「えへへ、休日はやることなくて。
時間がもったいないから、気付いたら依頼受けてるんだよね」
「はぁ、お前の事だから心配することはないだろうけど体壊すなよ」
「ふふっ、ありがとう」
溜め息をつきながらも何だかんだ心配する水葉さんと、嬉しそうにお礼を言う薫さん。
何だかんだ言って、仲が良いよなこの二人。
「休みといえば、少し先になるけどゴールデンウィークがあるわよね?」
「そういえばそうね。
あ!そっか、あれがあるんだったわね」
京子さんに言われて、会長が何かを思い出したようだ。
「政宗、来週の金曜日って用事ある?」
「え?特にありませんけど」
「皆は用事ある?」
「特にないわよー」
「私も特にないな」
「私もありませんよー」
「よし、じゃあ皆来週の金曜日に見回りしようー!」
会長が拳を突き上げて、皆を誘った。
「良いけど、あれって確か長期の休みの前の日だけやるんじゃなかったのか?」
水葉さんが会長に不思議そうに聞いた。
「政宗がちゃんと見回りした経験が無いからね。
ゴールデンウィークの前に、一度は経験させたほうが良いと思って」
「良いですね!もしかしたら、政宗くんも依頼受けれるようになるかもしれないですね!」
薫さんが、嬉しそうに言ってくれた。
「なんだか緊張してきましたね」
「大丈夫だよ。
そうそう難しいのには会わないだろうし、そんな緊張するなって」
「そうね、ちゃんと皆の話を聞いてあげれば怖いことはないわよ」
水葉さんと京子さんも、笑って言ってくれた。
「じゃあ、来週の金曜日に見回り決定で!
今日は活動終了!」
ということで、今日の活動は終了した。
まぁ皆、生徒会室に残って雑談するんだけどね。
さて、来週はついに見回りだ。
楽しみなような、緊張するような。