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魔法使いシリーズ

魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。

作者: マルゲリータ

 どうも、魔法使いです。

 非モテの陰キャ(男)です。


 魔術学校に通っていた時代はなんか知らんけど「魔法が使える奴ってカッコいいんじゃね?」とか思って周りが軽く引くくらい勉強してました。

 結局モテてたのは隣の席のスマートで爽やかな金髪美少年だったよ。俺が魔道書読んでる横で美男子と美少女でリア充オーラ振りまきやがってぶっ殺すぞライアン。

 あ、ライアンてのは隣のクs……爽やか金髪美男子の名前な。二度と話題に出さないから忘れていいよ。


 まあ結局ね。顔よ、顔。顔面。

 イケてるメンズがやっぱモテるわけよ。

 ちょ〜っと目鼻口の凹凸が整ってるだけで人生灰色or薔薇色決定するとか何それクソゲーかよ?

 俺が国立魔法図書館で上級魔道書解読してる間にあいつらはキャッキャウフフしてたわけか。はあー!

 てめえら、勉強しろカス!


 話は変わってさ。魔術学校主催のさ。大会でさ。俺がんばったわけよ。モテたくて。モテたいっていう主旨は変化なしだったわ。

 ちなみに実家が平民出の俺が魔術学校に通うためには大会で実績残さないと退学っていう事情もあるにはあったけども。そんなの言われたってモチベーションは上がるだろうか?いや上がらない(反語)。

 死ぬ気で努力したわけよ。マジでさ。学校でも美人で有名な女教官に指南をお願いしてね。あわよくばお近づきになりたいという欲求はないこともなかった。

 まあそんな余裕も無かったけどね。あの地獄の特訓の日々は今でも鮮明に思い出せるわ。二週間くらいかな? 最初は女子も野郎も合わせて五十人くらい訓練に参加してたけど、最初の一日で俺以外全員逃げ出したね。うん。実際俺も逃げたかった。


 でもさ、ほらよくあるじゃん。

 友達同士で「まじヤバくね?どうする?辞めちゃう?」「あれまじヤバイわ。辞めようぜ」「お前が辞めるなら俺も一緒に辞めるわ」みたいな会話コミュニケーション意思確認。

 はい、陰キャで非モテでぼっちの俺にはその一連の流れをする相手すらいなかったんだよなあ。あれ、目から水分出てきた。

 気付いたら俺一人、美人教官一人、マンツーマン。ん?マンツーウーマンか、この場合。知らん。


 あの時の俺を見てニッコリと笑ったミッシェル先生の顔は時々夢に見る。無論悪夢。

 ミッシェル先生は美人教官の名前な。どうでもいいか。一つだけ夢のあること言うと、おっぱいはでかかったぞ。

 んで二週間。血反吐を吐くくらい訓練したね。実際血反吐吐いちゃったしね。


 で、俺、優勝。わーい。ライアン、二回戦負け。ざまあ。

 頑張ったねーって女子たちはライアンの方に向かっていったよ。一目散にな。ファイアーボールぶつけたろか?あ?

 畜生が。ふざけやがってライアン。何でてめーの周りはいつもキラキラ輝いてんだよ。何で飛び散る汗すら眩いんだよ。

 俺が汗かいたら周りから女子が消えるんだが? なにこの格差。まじファック。


 あぁゴメン。話題に出さないってさっき言ったのにライアンの名前出しちゃったよ。でもいいだろ。ライアンむかつくし。

 あーでも表彰台から降りたらミッシェル先生が抱き締めて頭撫でてくれたからチャラにしてやるか。……何をチャラにするのかは俺もわからない。

 その時の感想? …………おっぱいは柔らか正義。


 んで大会優勝って結構凄いことらしくてな。

 実を言うと俺が通ってた魔術学校て全校生徒五千人くらいのマンモス校だったのよ。全員が全員魔法使いの卵みたいな。

 大会は学年関係なく魔法使いの一番を決める、みたいなそんな感じ。

 つまり、俺、五千人の頂点。

 つまり、俺、最強。

 つまり、俺、モテる。……モテなかったよクソが。

 それどころか準優勝者の黒髪ロング清廉系女子生徒から親を殺した殺人犯を見つめる並の視線を受けたわ。俺はそれでも殺ってない。ま、俺の溢れ出るこの素晴らしき才能に嫉妬してしまったんだろ。ははは、苦しゅうない苦しゅうない。


 ……その人結構上の方を流れてるような貴族様だったから。本気出せば平民家族なんぞ蟻を踏み潰すのと変わらんくらいの。

 だからそんな風に現実逃避しないと精神がマッハでヤバかった。美人に睨まれての悲しみと一家の危機のダブルパンチ!いちげきひっさつ!


 まあその功績が評価されて王宮魔法騎士団っていう結構凄いとこに就職が決まってさ。流石にそんな人間に手出しは出来なかったんだろうね。一先ず謎の一家心中事件は未然に防がれたわけだ。めでたしめでたし。


 母さんとか妹とかはめっちゃ喜んでくれてた。だから、なんか、まあ。色々と救われた気分にはなったけども。

 卒業する時にはミッシェル先生が俺の名前覚えててくれて。「卒業おめでとう。貴様は私の教え子の中でも一番優秀で、一番の頑張り屋だ。これからも頑張れよ」とかクールに言ってクールに俺の頭撫でてクールに去っていったわ。はあー?

 何か分からん涙が止まらなかったんですけど?危うく惚れかけたんですけど?生徒と先生の禁断の恋なんですけど?

 俺の場合恋に発展する可能性は無いって?

 うるせー。

 そんなこと言うとあれだぞ。石化の魔法かけてから弱めの回復魔法で徐々に復活するようにしたのちに川に流すからシャラップ!


 そんでもって俺、王宮魔法騎士団に無事就職!

 魔術学校では灰色の青春を送ってきたけども。大丈夫だ!これからは薔薇色の大人の時間の始まりだぜ!


 そう思っていた時期が俺にもありました。

 結局のところね、人間そう簡単に変わらないんすわ。これ世界の真理な。

 どんな成績残そうともね、どんな上級魔法を使えようともね、顔面偏差値が上がるわけじゃないんすわ。

 かー!つれえわー!何がつらいって相棒になった活発そうなパッション系女性騎士さんに初対面で引きつった顔されたのが一番堪えるわー。

 あのねルーナさん。どんなブサイクでも人の子なの。握手を求めた瞬間顔真っ赤にして逃げ出されるとひょっこり遺書とか書いちゃうからやめようね?OK?アンダースタン?

 じゃ形式的にでも握手をしましょう。はい右手出してー手を開いてー握ってー離すー。任務完了。お疲れ様です。

 なんかしっとりしてたわ。あれか?俺の手汗か?ごめんねルーナさん、君が引く理由が理解できたよ。

 ……でも俺そんな緊張してなかった筈なんだが。


 ん?陰キャの癖に女子と手を握ることに何故緊張しないのかって? 理由は簡単だぜ。

 最初から望みがゼロだと理解してるとな、例え相手がどんな美少女だろうが何にも感じないんだよ。

 長年に渡り女子から敬遠され続けてきた俺が編み出したこの技。これぞまさに諦めの極地。自分で言ってて悲しくなるわ。

 あー俺より顔面偏差値の高いイケメンの男全員死滅しねーかなー。

 そうするとあら不思議相対的に俺が世界で一番のクールガイ。起きろ現実見ろって? あと五分寝かせてくれ。ついでに毎日俺の朝ご飯を作ってくれ。キリッ。

 あごめんなさい今すぐ起きますから魔法撃つのやめてミッシェル先生!人は鉄製品じゃないんですよポキッといきますから大事な首が!……あーやっぱ悪夢だ。


 色々スタートダッシュから滑って転んで顔面と地面がキスしたような騎士団初日だったけども。まあ日々はそれなりに充実してたと思う。仕事はやり甲斐あるものだったからね。

 街の警護したり、魔物退治したり、魔法の研究したり、迷子の猫捜索したり、老人たちの家の照明の交換したり。後の方のやつは何で俺がやってるんのか分からんが、まあいい。

 ルーナさんとも普通に喋れるくらいにはなったし。相変わらず俺と目を合わせてはくれないけども。悲しみ。


 そんな日々を過ごしてる内に世界を驚かせるビッグニュース。

 魔王、復活したってよ。


 ふーん。


 ついでに勇者も神様が選んでくれたってよ。


 ふーん。


 あ、あと妹が魔術学校卒業したってさ。


 うおおおおおおおおおおおおおおおああ!!!!!よかったなぁ!!!今日はあれだ焼肉行こう焼肉!焼こう!肉を!!え兄ちゃんうるさいって?ごめん!!そんなことより焼肉行くぞ焼肉!!宴の始まりだオラァ!!


 魔王?勇者?知らん!!

 んなことよりマイシスターの新たな門出を祝う会を開くことの方が超重要。

 なんか世界の命運より我が妹を優先する騎士様がこの世にはいるみたいなんすよ〜。へー。……俺だったわ。


 大丈夫大丈夫。どうせあれだろ?勇者様って言うくらいなんだしイケメンで天才で女の子侍らせてんだろ?ファック。世界の命運なんかどうでもいい、俺にもモテ期来い!


 え?今日勇者様が王宮に来るって?マジ?

 ケッ。どんなツラしてんのか一回だけ見てやんよ。見るだけな。

 どれどれイケメン爽やかクソ野郎は何処かな〜?あ、今王様と謁見してるわ。

 既に横に二人女侍らせてんだけど。はあー?ファイアーボール撃っていい?撃っていい?

 チッ胸糞悪いぜ。どんな顔してれば簡単に女の子とイチャコラできるんでやがりますか!?まあいいやクソ野郎の顔面拝んだらさっさとマイシスターアンドマザーの待つマイホームに戻ろ……う。



 ……………ライアンやんけ。



 えーーー。世の中理不尽。

 神様の加護とやらで?魔王に打ち勝つべく?人間の限界を超えた力を?勇者には与えられます?

 ファック勇者。ついでにファックゴッド。麗しの女神様だったら後のファックの方だけは取り消します。


 学生時代にチョー努力した俺よりも、現在のライアンの方が強くなってるらしいぞ?はあー?大事なことだから二回言うぞ。

 世の中!理不尽!


 なんで灰色の青春と引き換えに手に入れた俺の魔法と、女の子とキャッキャウフフしてたリア充ウェーイ系クソ野郎の魔法が同レベルどころか俺の方が弱め設定になってんですかねぇ!?

 チートやチーターやん!神様のお力で強くなったからしょうがないよって?うるせー埋めるぞ。


 やべえよ。この負のオーラで世界を覆えそうだわ。魔王と共に世界征服しちゃうわ。

 魔王さん、一緒にあのイケメンぶっ倒しません?え、見返り?そーだなー。一先ず俺の家族とミッシェル先生とルーナさんと俺の知人の老人やら近所の悪ガキどもやらを見逃してくれたらいいよ。ついでに俺の顔面偏差値をプラス50くらい上乗せしてくれるとありがた……え?俺の顔面の方は取り返しがつかない?やっぱ魔王ってクソだわ。裏切ったろ。


 あーーこの名状し難い気持ちが爆発する前に可愛い妹に癒されようそうしよう。抱きついて撫で回して妹にぶっ飛ばされる。よし完璧だな。

 あん?なんだよ王様。ちょっと話がある?俺にはない。さいなら。

 そんなこと面と向かって言えるんなら俺は陰キャにはなってないね。はい。長いものには巻かれる。付和雷同。コバンザメ。そんな俺。

 愛想笑いしながら王様の前に跪きます。俺は犬俺は犬俺は犬。犬より猫派な俺だけど今だけは犬に成り切ります。ワンワンです。


 はー早くしてくれ妹が待ってるんだから。

 あーはいはい。俺が勇者様御一行に参加ね。

 あーオッケーオッケー共に魔王をぶっ倒して世界を救う救世主になりましょうか。ういーす。



 は?



 ざっけんなよハゲジジイ。その王冠捻じ曲げて、てめえのヒゲでズラ作って近所のじーちゃんに配るぞボケ。

 なんでよりによって俺だ。あ、勇者と知り合いだから何かと都合が良いとな。はあー!ファックキング!ファイアーボール撃たなかった俺はマジ忠実な騎士の鑑。あるいは犬。ワンワン。


 なんて現実逃避したって現状は打破できない。え?まじバナ?本気の話?ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ矢田。駄々っ子になろうそうしよう。そうすりゃ何か変わるかも。変わんねえよアホ。

 王様の命令はー?絶対ー!

 子分の俺の返事はイエスかはいかお任せくださいハゲジジイの三択。断ったら俺の首が飛びます。職業的にも物理的にも。ぐへぇー。


 王様は期待してるぞとか言ってる。内心では呪詛唱えてるけど俺のお口は陛下のご期待に添えるよう尽力しますとか言ってる。ははー。ひれ伏しますーこの腐れ外道ーお前なんかあれだトイレで大をし終わったあとに紙が無いことに気付けばいいんだー。紙が無いと髪が無いのダブルミーニング。寒。


 ライアンがこっち見てる。こっち見んな。

 なんか爽やかな笑顔を向けてきてる。向けんな。

 あー隣の二人の女子もこっち見てきてるわ。どっちとも美少女だわー。ライアンもげろ。


 ん?あ。今気付いたけど、あれやん。女子の黒髪ロングの方知った顔だったわ。

 俺のこと親の仇!ってな感じで睨んできてた準優勝者の子だ。おっひさ〜あ、目が合った。めっちゃ睨まれてる。ヒュー!愉しい旅になりそうだぜ!助けて妹よ。





 どうも魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。


 あれから半年経ちました。時間の流れって早いね。


 この半年間で俺たちは互いに信頼できるパートナーになった、わけではない。むしろ逆よね。溝は深まるばかり。溝ってかもう国境線だね。超えた瞬間即逮捕即裁判即死刑。チーン。

 もうね四人パーティじゃないのよ。三人と一人なのよ。誰が一人なのかなんて言うまでもないよな。はーい俺でーす☆

 はー!?クソがよ。ふざけやがって。何で強制的にパーティ参加させられて愛しの我が妹から離されて騎士団も一時的に抜けさせられて、っていう既に最悪最低のオンパレードだっつうのに。

 なぜ!俺が!嫌いな!奴等のために!働かなくちゃいけないんだー!働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!

 仕方ない王様のためだから仕方ない。王様のためならえんやこらー。馬車馬の如く働く俺は犬っころ。ワンワン。ざけんな!

 ファックキング。俺が救世主になったら覚えとけよ。世界を救いました特権でお前のヒゲにファイアーボールぶつけて燃やし尽くすからな。ハゲの最期のアイデンティティをチリチリの焼け野原にしてやるー!ヒャッハー!


 はあ。てかさ、俺の仕事の比重高くない?

 まず、賢者のレイ。お前ライアンが好きなのは分かったからさ。あいつのポイント稼ぎたいよねーよく分かるよー。けど俺のことも回復して下さい。なにゆえ回復役がいるのに俺だけは回復薬に頼らなくてはいけないんだ。WHY!?

 ちょっと上手いこと言った気がする。ふふ。

 え、全然上手くない?寒い?ごめん。しょんぼり……。


 あ、レイってあいつね。俺のこと睨んでた準優勝者女ね。ん?準優勝準優勝なんでそんな繰り返し言うのかって?え。だって俺があいつよりも優れてるっていう分かりやすい証拠じゃん?あいつが貴族様だろうが美人だろうが、んなの関係ねえ!てめえより俺の方が優れてるんだよブス!だから早く俺のこと回復してー?俺の方を見てー。今俺モンスターを大量に受け持ってんのー勇者様が大活躍できるように孤軍奮闘頑張ってる俺ちゃんをもっと労ってー?

 全くこっち見やがらねえよクソアマ。ねえ俺のこと認識してる?

 あれ?もしかして俺ってば既に死んでる?俺が気付いてないだけ?アイアムゴースト?ひゅーどろどろ〜。なわけねえだろさっさとお前の仕事をしろ!


 あと勇者!ライアン!

 いやね?分かるんだよ。お前がこのパーティで一番強いのは理解できる。だからボスとかの相手はお前がやった方がいいのは理解できる。そしてそのサポートに賢者と戦士を使うのも理解できる。

 けど、その他の雑魚どもを俺にぶん投げるのは違くないかい?俺の仕事多くないかい?そう思わない?雑魚モンスターさんたちや。酷いよねー?ひどいって言って。言葉通じねーや。

 殺意高い目してんなー。眼光だけで小心者の俺はもう逃げ出したい。スタコラサッサと街に戻って妹によしよしされたい。

 今となってはミッシェル先生のしごきすらも愛おしく思える。あー色んなことしたなー。飛行魔法会得するために崖から落とされたり。回避訓練ではまじ死ぬんじゃね?ってな具合の魔法の弾幕を撃たれまくったり。こっちは剣なんか初めて触りましたーあー意外と重いんですねー?ちょっと筋トレしてから出直しますーて感じの初心者だってのに、あの人ガチで打ち合いしてきたからね。峰打ちだから安心しろっておっしゃってた。なるほど!じゃあ死ぬことはないですね!あら!ミッシェル先生!その剣両刃なんですけど峰ってどこにあります!?ねえ聞いてます!?言葉通じてる!?あ、ダメだこれ。


 全然愛おしくねーわ。どんなに記憶の改竄と美化やってもどうしようもねーわ。ミッシェル、まじ、鬼畜。

 でもおっぱい大きいのがずるいね。時々訓練の後に飯連れてってくれたりするのがずるいね。卒業した後もよく連絡くれるのがずるいね。どうやら俺の妹ってことでいつも気にかけてくれてるらしい。あ、妹がお世話になっております。妹はどうですか?崖から落とされたりしても這い上がってきました?え、そんなことしてない?お前だけは特別だったからやった?ほーん。

 いやんミッシェル先生たら特別だなんて。そんな特別毛ほどもいらなかったから俺にも優しく教えて欲しかったなあ!?


 そんな俺の最悪のパーティライフなんだけど。一つだけ癒しがあります。


 それは戦士さん。名前をアリシアさんと言います。それはそれは麗しくお強い、勝気な姉御であります。

 三人と一人、このスタンスはまあ変化無いんだけども。アリシアさんだけはね。俺の仕事をね。やったな魔法使い!ってな感じで褒めてくれる。体育会系特有の謎の肩組みされながら。時々鎧の先っぽが俺の脇に当たってチョー痛い。でも俺のこと気にかけてくれる。優しい。惚れそう。……俺ちょろすぎない?


 ある日俺に生い立ちを話してくれました。

 どうやらアリシアさん、捨て子として孤児院で育ったらしい。そんな孤児院に恩を返すべく学校には最低限通い卒業した後はすぐに働きに出たらしい。あと孤児院に残ってる義理の弟と妹たちが学校通に通えるように毎月金を仕送りしてるらしい。今回の勇者パーティも色々補助金とか報奨金とかがあるから参加したんだってさ。

 勇者様御一行になるのって結構大変だって聞いたんだけど。戦闘力は言わずもがな、確かちゃんとした人間を採用するために学力試験もあるって話を聞いたんだけど……。


 アリシアさんそんなこと言ってたよ。冗談交じりで。特別なことなんか何もしてないんだってさ。私はただ貰ったもんを返してるだけだってさ。義理だろうがなんだろうが弟や妹を支えるのは姉として当然のことなんだってさ。

 はあー?何この人?俺がミジンコ並みに小さく見えるんですけど。やめてよそういう話は俺の涙腺にダイレクトアタックだからさ。やめて。

 なるほど。神は死んだ、勇者は死んで♡って思ってたが。

 天使は……ここにいたんですね。

 流石姉御だぜ!おいら一生付いていきます!!何か手伝えることがあるなら俺に何でも仰ってくだせえ!お前は今も頑張ってんだから今まで通りでいいよって?私のつまんねえ話聞いてくれてありがとって?

 あ、姉御ォー!!


 これいいよな?惚れていいよな?俺の人生の半分捧げちゃっていいよな?

 あ、でも待ってこの人もライアンに惚れてんのかな?あーーーライアンブッコロス!!


 俺、失恋。撃沈。当たって砕けろ、ならまずは当たらせてください神様。当たれるチャンスを俺にください。シクシク。あ、嘘泣きばれちゃった?チッ。



 そんなこんなで今、魔王城。てか魔王の前。


 ふははよく来た勇者どもよ!俺様は魔王!

 いや知ってるわ。うるせーよ。もう少しボリューム下げて。耳塞いどこ。

 あ、話終わった?終わってねえじゃんか。

 ん?世界の半分やろうかって?欲しい!!欲しい欲しい!マジでくれんの!?世界の半分ってさ性別的な半分って出来ない!?魔王お前に男全部やるからさ、俺には世界中の女性全員くれ!!

 あ、ムリなの。はーつっかえ。じゃあ最初から世界の半分とかホラ吹くんじゃねえよボケ。やっぱ魔王ってクソだわ。滅ぼしたろ。


 レディーファイト!


 はい、死闘の末に無事勝利ー。お疲れー。


 魔王様めっちゃ強かったわ。あと戦闘の途中で四天王とか出してくんのやめてくんない?ねえ。炎のフレイム!風のウインド!水のアクア!土のガイア!四人合わせて四天の…うるせえ!こっちは忙しいの!魔王様相手でも結構必死なの!え、なんだよライアン。あの四体任せられるかって?え、お前マジで言っちゃってる?今?今ラスボス戦だよ?

 あの、よくあるさ。今までは険悪だった仲間たちが最後の最後で力を合わせるーみたいな、そんなのないの?なんで最後まで俺たち三人と一人なの?帰っていい?

 しかも四天王ってさ、魔族の中でも魔王の次に強いってことなんじゃないの?それを?四体バーサス俺一人?訴えるよ?裁判すれば勝てる自信あるよ?罪状はそうだなー仕事任せすぎ罪。


 はい?何ですアリシアの姉御。

 お前だから信じれるんだ。頼めるかって?

 はい!!おいら全力で四天王倒します!うおおおお!やったるでー!


 はい、最後まで三人と一人でした。チャンチャン。

 俺が四天王最後の一体、炎の……名前なんだっけ?まあいいや。そいつを倒した時に同時に勇者と賢者とアリシアの姉御が魔王ぶっ倒したらしい。

 イェーイ!やったぜ!ハグしていい?あ、ダメ?国境線はどうやらそのままらしい。なぜ戦争は無くならないのだろうか。『人間とは愚かな生き物だなぁ。まほうつかい』


 てか俺ボロボロだわ。そりゃそうだわ。お前ら三人でやりくりできるけど俺一人やぞ!相手四体やぞ!軽く死ねる〜。


 あー何か景色がぼやけてきた。あら?天井見てる。手とか足とか動かせないぞ?あ、これはあれだ。気絶する三秒前だわ。ミッシェル先生のしごきでよく体験したから慣れたもんだわー。三、二、一。おやすみー。



 目覚めました。おーはよーございまーす。

 知らない天井。窓から差し込む淡い光。隣には裸の美女……は居なかったよ。ファック。


 んー多分俺の街だな。このフカフカのベッド具合を考えると王城の寝室とみた。チョーフカフカ。何これなに使えばこんなフカフカなんの?羽毛?最高級の羽毛か。鳥の羽すっご。

 あ、扉開いた。こういうのは定番的にお姫様だろ。世界を救いながらも満身創痍で倒れた英雄を手厚く介護してくれたそんなお姫様がやって来るのが世の理である。

 ヘイカモン!お姫様!その可愛らしいお顔を俺に見せてくれろ!


 入ってきたのはハゲジジイ、じゃねえ王様。

 はいー出たよー。ま、分かってたけどね?俺にそういうお色気的ご褒美的サービスシーン的なのはないって。分かってたけどね。分かってたけどお前には後でファイアーボール食らわす。たんとお食べ。ファイアーボール。


 え、何?俺ってば一ヶ月も眠ってたの?魔力の使いすぎが原因?ほーん。

 過労ってことね。働きすぎってことね。ファック。やっぱ俺の仕事多いじゃねーかよー。

 ふざけろ!勇者!ライアン!てめえにも後でファイアーボールだ!王様と仲良くハゲ散らかせ!


 ん?ああその一ヶ月の間何があったか説明するって?おおいいよどんと来いハゲ。

 まずパレード?あ?パレードってあれだよな。勇者様御一行を世界中の人間が賛美するあの宴のことだよな?うん知ってる。結構楽しみにしてたわ。なに着てこっかなー。やっぱ魔法使いってことだし知的な服装がいいよなー。あ、でも騎士の正装も捨てがたいなー。そしてパレードの熱に浮かれた美女たちを連れこんで一夜の過ちへと……ぐへへ。


 え?なに?終わった?パレード?

 二週間くらい前に?おまえ……。おまえなぁ……流石におまえ……。

 待っててよ。お願いだから俺が目覚めるのを世界中の人々が願っててよ。お祈りを申しあげてよ。何でそんな軽いの?魔法使い寝てるんだよ?何でお前らはどんちゃん騒ぎしてんの?俺次の魔王になっていい?世界の半分じゃなくて全部貰っていい?世界の全部頂いたらそうだなー。まずは国際法作って女性は全員ミニスカート着用を義務付けよう。義務だよ義務。義務だから仕方ないねぐへへ。

 あ、おばあちゃん無理しなくていいよ?大丈夫おばあちゃんは免除にするから。だからミニスカを履こうとするなばあちゃん。おいババア顔を赤らめるな!!

 あと子どもたちも免除にするから。俺はロリコンではないからね。皆好きな服着なさい。キリッ。

 そーいやルーナさんとミッシェルさんのスカート姿見たことないなー。ルーナさんはいつも騎士姿しか見たことないし、ミッシェルさんはいつもスーツだし。

 戦闘中もスーツ。汚れなんか一切付かない。うん、やっぱ俺なんかよりミッシェル先生が魔王ぶっ倒しに行ったほうが速かったんじゃないかな。あ、俺が次の魔王になるとミッシェル先生がやって来るかもしれないのか。やめとこ。扉から入ってきた瞬間に土下座する自信があるわ。むしろその自信に満ち溢れてるわ。


 はーちっくしょーまあいいよパレードの件は。あ、でも王様はファイアーボールもう一球追加な。


 で、何?あとの話は。


 勇者様ご結婚?あ、どうでもいいです。

 お姫様と結婚した?いやだからどうでもいいって。

 その時の結婚式の写真がこれって?どうでもいいっつってんだろハゲ!てかお前が娘の晴れ姿自慢したいだけじゃねーか!破り捨てるぞボケ!


 あ、賢者のレイが色々ゴネたらしい。まあ結局ライアンの第二夫人ってことで収まったって。あ、そう。お幸せにー。

 アリシアさんは!?俺の姉御はどうした!?まさか第三夫人とかなってないよな!?そんなことになってたらあれだぞ、殴り込みに行くからな。嫉妬の炎に包まれた俺を舐めるなよ。いつもの二割り増しくらいは頑張れるぞ。嫉妬の炎しょぼいな。


 あ、アリシアさんは故郷の方に帰ったと。よかったー。そうだよね孤児院の弟妹たちが待ってるもんね。

 あーよかったー。


 んで?あとは?

 あ?魔王軍の残党がまだ多数残ってる?魔王様の恨みを果たすべく結集してるからまた勇者パーティに頼むからよろしくって?


 よし逃げよう。


 いやー!離せー!ヘンタイー!もう嫌だー!俺はもう家に帰るんだー!妹によしよしされるために家に帰るんだー!箱入り息子になってベッドの上で寝転びながら嫁探しするんだー!

 そうは問屋がおろさない。騎士として頑張ってってさ。ファックキング。もう一球ファイアーボール追加しまーす。覚悟しろ。俺のこの豪速球を喰らえ!ファイアー!


 あー最悪。もうマジ最悪なんですけどぉ。マジありえないってゆーかぁ。ほげー。


 俺の未来は明るいね。ホントっすね。皮肉だよ鼻垂れ小僧。

 もう寝る。この現実を見てるくらいなら夢の中でミッシェル先生とキャッキャウフフ地獄の訓練してた方がマシだ。

 あ?最後の話?なんだよ、もう寝るんだよ俺は。手短にな。


 婚約の申し出?誰が?誰に?

 え?俺に?ははは、またまた。もう夢の中に入っちゃったかな?今日は良い夢が見れているらしいねー。


 え?まじバナ?本気のお話?

 ウソ、マジかよ。ヤッフーーー!!!

 遂に俺にも春が来た!!なんだよそういうのは最初に言えよハゲ!!で、誰から?


 あ、写真が。ほーん。あ、知ってる人だ。

 ミッシェル先生に、ルーナさんに、アリシアの姉御。

 あ?俺の知り合いの写真渡してどうすんだよ。

 は?あーこの人たちが俺に婚約申し出てる人たち?ほーん。



 え?




 え?



 いや、あの、え?

 どういうこと?いつの間にフラグが立ったのん?やっぱ夢の中なんじゃ。頰をつねる。痛いわ。あ、手紙も同封なのね。了解ですマイキング。


 理由。

 ミッシェル先生。

 初めて私の訓練から逃げ出さなかった男の子。直向きに頑張るその姿に惚れてしまった。私は元は年上が好みだったのに貴様のせいで年下に興味を持ってしまったどうしてくれる。本当は学校にいた頃から狙ってたが流石にマズイと思ったから我慢してた。卒業した後も機を伺っていたのだが、どうやら私は恋愛に関しては奥手だったらしくてな、うだうだしていたら貴様は勇者パーティとして旅に出てしまった。だが時が経ち貴様が無事に帰って来た今なら、この想いを伝えることができる。結婚しよう。


 ルーナさん。

 魔術学校の頃から気になっていました。私と同じ平民の出身でありながら、立場も身分も無関係に頂点を勝ち取るその姿が憧れでした。貴方に近付きたくて王宮魔法騎士団に入団できるよう努力しました。貴方の相棒騎士になれた時は天に昇るようでした。騎士でありながら街の人々の、普通ならどうでもいいと一蹴される細かな要請まで率先して行う貴方のその姿勢に私の想いは膨らむばかりでした。これからはただの相棒騎士ではなく貴方の人生のパートナーになりたいです。よろしくお願いします。


 アリシアさん。

 私が捨て子で孤児院出身だったこと。その事実を話しても態度や関係が変わらなかった相手は君が初めてだった。他の人間はどうにもな。特に顕著だったのが賢者だったのだが、やはり身分や出自というものに皆敏感なのだ。それについては私は仕方がないと思っていた。だが、君だけは。私の過去に敬意を払ってくれた。聞けば王宮魔法騎士団の騎士だと言うのに、私のつまらない話に真剣に耳を傾けてくれた。応援すると、手伝うことはないかと言ってくれた。君にとってそれは何も特別ではない、ただの言葉だったかもしれないが、私には救いの言葉だったよ。私の行いが意味あるものだったと、そう確信させてくれた。戦いの中でも最も頼りになる仲間だった。君に頼りきりだった私たちをどうか許して欲しい。それでも、危険で無茶な私たちの頼みに君はいつも応えてくれた。君のその優しさ、君の心の強さに私は夢中になってしまったようだ。願わくば私と結婚して欲しい。親愛なる魔法使いへ。アリシアより。




 はい、結婚します。

 三人と結婚します。良いっしょ王様?良いって言わなきゃファイアーボールぶっぱなす。


 え?今はダメ?なんでよ。

 あ、魔王軍の残党狩りね。いやんなのどうでもいいわ!まず俺のモテ期!これが第一だから!わかる!?わかるかオイハゲ!やっとだよ!やっと俺の春が来たの!結婚したいの!女の子とイチャコラしたいの!


 魔王軍の残党狩りが終わったら?結婚をしてもいいって?

 それまでは勇者パーティとして働きなさいって?はあー!?今すぐファイアーボールぶっぱなす!!



 魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。


頑張った人が報われて欲しいよねって思って書いた。それだけ。

主人公はイメージ的には中の下くらいの顔面偏差値ですね。勇者ライアンはこの後お姫様と賢者の熾烈な腹黒合戦で胃をキリキリさせられる予定。やったぜ。

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― 新着の感想 ―
[一言] イケメンがーと言いながら自分も美人が大前提でそこから胸とか身体特徴が第二で性格や相性等はその次以降なクズ主人公が頑張ったからって報われるならライアンだって報われて良いよね
[一言] 業を煮やして追いかけてきた三人にほのぼの逆レイプされる展開はありますか?
[一言] 楽しませていただきました。 しかし主人公、神様を責めるのは間違いじゃないかと思いますね(汗 そもそも「モテたい」くせに、なんで都合のいい道具として有能な人になろうとすんじゃいと。 優秀で…
感想一覧
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