1 森の中で
そこは、焼け付くような世界だった。
自分がここにいる事は分かる。鼻につく、焦げついた様な匂いも分かる。自分を囲む、炎の暑さも感じる。
でもーーーーーー
視覚が否定する。聴覚が停止しようとする。
鳴り止まない悲鳴、紅く染まった世界。そして、なにより地面を埋め尽くす、圧倒的な死体の数。
絶望という言葉を表すに相応しい『悲劇』がそこに広がっていた。
「なんで・・・どうして・・・・」
口を開いて出るのは、情けない言葉ばかりだ。
「逃げないと・・・・早く逃げないと・・・!!」
冷静に導き出した答えさえ、「どこに?」の一言であっけなく崩れてしまう。
周りの暑さとは裏腹に、頭だけは急速に冷え切っていく。
認めたくないと目を逸らす。聞きたくないと耳を塞ぐ。しかし、頭の中の事実だけは消えない。
つまり、ここで、俺は、
『死ぬ』のだとーーー
◇
「・・・きてください。あのー、貴方、このままだと死にますよー」
頬に伝わる振動。朦朧としていた意識がゆっくりと覚醒していく。少し開けた目から入ってくる光が眩しくて、目が開かない。
「あ、気づきました?良かったですね。あと少しで死ぬところでしたよ」
聞こえてくるのは女の子の声。どうやら助かったようだ。
少し体を動かそうとすると、激痛が走る。しかし、この痛みが生きているという事を実感させてくれていた。
「ここ・・は・・・?君は・・・誰?」
たどたどしく質問をする。実際、相手に聞こえているのか不思議だったが、どうやら大丈夫なようだ。
「ああ、ここは先程まで貴方が居た村を少し出た森の中ですよ」
少女は澄んだ声音でゆっくりと話した。とても優しい声だ。
「それと、私の名前ですが、私はニレイ。ニレイ・ロ・ラースです」
口の中でニレイ、と繰り返す。どこか懐かしい、と思ったのは気のせいだろう。
「あと、もう一つ。貴方に伝えることがあります」
先程とは違う、落ち着いた口調でニレイは喋りだした。
「貴方にはーーーー王になってもらいます」
毅然とした口調でそう言い切ったニレイは、その蒼白な瞳で俺の目を真っ直ぐと見つめていた。
次第に意識が遠のいていく。どうやら、また深い眠りの中に沈むらしい。
「ちょっと!大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
ゆっくりと消えていく意識の中で、ただただ『王』という単語だけが、耳の中で反響していた。