第1章 2話 『神器なにそれおいしいの?』
目を開けるとそこには中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。
「わぁぁぁ!!凄いよ、くう〜!!異世界だよ!異世界!!」
異常なまでテンションが上がっているひとりの少女と、それを死んだ魚の目で見つめるひとりの幼女。
「……………………ぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!」
「どうしたのくう〜?」
「どうしたのじゃねぇーよ!?俺幼女なの!?マジで!?」
「うん。超可愛い幼女だから大丈夫!自信持っていいよ!」
………俺になんの自信を持てと!?馬鹿なのかな?
「とりあえず、冒険者の登録をしないとだよねくう〜。」
…勝手に話を進めるなよ。
「あれかな、あの一番大きい建物かな?」
集が、指をさした建物は丘の上ある城のような建物だった。...流石は異世界、めちゃくちゃかっこいいっ!幼女なのは気に食わないがやる気が出てきた!!
「そうかもな、行ってみるか。」
俺らは街で一番大きい洋風の城のような建物を目指して歩いて行った。
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城に着くと思っていた以上の迫力を放っていた。
「じゃあ、入るぞ。」
城の扉は暗い色合いの扉でいい味わいを醸し出していた。
ゆっくりと扉に手をかけ、中に入ると
「いらっしゃいませー!登録は右奥、食事は左奥です!」
と、俺たちは威勢のいい掛け声に出迎えられた。見た目が城の大きなギルドだった。
俺たちは受付の金髪のお姉さんのところへ行った。
.....こういう異世界には必ずそう必ず可愛い人とのフラグがあるからだ。お姉さんは実は過去に大活躍した英雄だったりなどなど。
「こんにちは、冒険者の登録ですね?では、この記憶石に触れてください。記憶石はその名の通り触れた人の情報を記録することができます。」
言われた通りに俺たちは記憶石に触れると、記憶石は淡く青色に光り輝き、上向きに小さく光を放った。放たれた空中には端末画面のようなものが映し出され俺の情報が書かれていた。
.....うおっ!?すげぇ!!流石は異世界!!やる気出るわ!
「ええっと、名前は空夜さんですね。女の子なのに空夜?.....まぁいっか。で、あのー空夜さんのその剣は聖剣ですか?」
言ってる意味がよくわからないけど一様頷いてみる。
.....剣が、どうかしたのだろうか?
「そのー、大変言いにくいのですが……空夜さんは魔法適正が90%、剣の適正が10%です。」
………もう嫌だ。なに、せっかくの神器も死んだのかよ。神器なにそれおいしいの?神器使えないの?馬鹿なの?
「……では、この中から職業を選んでください。」
画面には魔法使い、冒険者、ソードマスター、見習い剣士などなど。
うぅ、ソードマスターになりたかった。なんで聖剣使えないんだよ!!
「じゃあ、見習い剣士で。」
せっかくの神器がもったいないから仕方なく選んだ。
「では、次は集さんですね。集さんは魔法適正が高いですね。」
「じゃあ私はクレリックで。」
「では、頑張ってくださいね。あなた方の活躍を楽しみにしています。」
そうして俺たちは冒険者としての第一歩を踏み出した。
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「なぁ集、集の選んだ神器はなんなの?」
「えっとね、私の神器はガラハットっていう杖だよ。」
「確かねー持ち主の魔力を10倍にして、状態異常を無効化だとか。」
………強ッ。
もう俺来なくてよかったんじゃね?
「ねぇ、くうー早速クエスト受けよー。これなんてどう?」
集が持ってきた紙には食虫植物の亜種の食肉植物の討伐が書かれていた。危険度は4で、そこそこあるがあまり危険ではないらしい。まぁ神器持ちが2人いることだし大丈夫か。
「じゃあ行くか。」
ロクな装備をしていなかった俺は装備を受付から貰ってから俺たちは初めてのクエストに出発した。
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街から少し離れた森には様々な生物が暮らしていた。1メートルもするであろう大型の虫、翼を持って空を飛んでいる動物などなど。
「本当に異世界なんだなー。」
「そうだねー。あっ!食肉植物みっけ〜。」
食肉植物はあまり大きい植物ではないが、至る所にいるらしい。
今年は大量発生しているため討伐依頼がでたそうだ。食肉植物は見た目は食虫植物とにているが、たちが悪く虫だろうが小動物だろうが触れたものに噛み付いて食べてしまう。
...くっそタチ悪いな!頭脳筋かよ!
「くうー早く倒してー!たくさんいるよー!」
「はいはいって多ッ!?」
目の前の道は全て食肉植物で溢れかえっていた。
集はクレリックでヒーラーなので攻撃職の俺が討伐する。植物を倒すと目には見えないが経験値が手に入りスキルが覚えられるらしい。
...タチ悪いけど経験値は美味いな。悔しい。なんか悔しい。
食肉植物を倒し始めてから1時間くらいが経った頃。
「そろそろいいんじゃないか?」
「もうちょっと奥に行ってみよー!」
そう言って集が森の奥へと走って行った。
「ちょっと待てって!」
急ぐと危ないからっ!!
先に奥へと行った集を追って行くと直径100メートルはあろうかという開けた場所にでた。そこの地面には草が生えておらず、硬い土に覆われていた。
「くうーあれなんだろ?」
集が、指をさした場所は開けた場所の中心、そこにはとても大きな植物が生えていた。
...なんだあれ?でかいな。
「食肉植物にしてはでかいよな?」
「近づいてみるねー!」
「危ないから行くなって!」
俺が言うよりも先に集が近づいて行ってしまったので仕方なく俺は後を追いかけた。
行くなって言ってんのに!
俺らが近づいた瞬間、それは動いた。
「くう、これって……」
「ああ、これは……」
2メートルもする大きな植物は食肉植物のボスだった。
.....死ぬっ!死ぬっ!流石に死ぬっ!
そいつは、俺らに気がつくと10本もの触手を勢いよく伸ばしてきた。
目にも止まらぬ速さで向かってきた触手をとっさに剣でガードする。
………やばい!やばい!俺たちじゃ死ぬ!これは強いッ!!
「くうー!どうする!?」
「もちろん、逃げる!!」
剣でガードしていた触手を上に弾いて切り落とした。
逃げようとして、元来た道に戻ろうとした。
その時だった。地面から触手が突き出て木と木の間を触手で絡んで出口を塞がれてしまった。
……これはまじでやばいっ!逃げられねぇ!
「くうー!やばいよ!」
「わかってる!」
いくら木と木の間を塞いでいる触手を切ってもすぐに切り口から再生されてしまう。
くそッ!なんだこいつ!再生されたらまじで逃げられねぇ!
その時、ドンッ!と大きな音が鳴った。
音の鳴った方を見ると集が木に叩きつけられていた。
...なっ!?
「集ッ!!」
……嘘だろ。くそッたれ!
すぐに集に駆け寄った。幸い集に大きな傷はないが意識が朦朧としていた。
とりあえず安心したがこのままでは危ない。どうにかして逃げないと。
「うぅ、くうごめん。」
「大丈夫。俺が守ってみせる。」
コクリと頷いて集は気絶した。
.....集だけは守らないと。
目の前には開けた場所の真ん中にいる凶暴で俺らが勝てるのが難しい食肉植物が触手を構えていた。
この時改めて俺は異世界で生きることの厳しさを知った。