第2章番外編 『ゼロの記憶』
ゼロの書EX
私の名前はゼロ・イリヤ。
約2000年前に神によって作られた兵器。しかし、地上に降りてから500年ほどで人間に裏切られて死んだ。
私は今から約1500年前にとある神殿でまた生まれた。...いや、呼ばれたの方が正しいか。
私は人間ではない。人間の少女を生贄に憑依している状態だ。憑依してはいるが、主導権は完全に私の方が上だ。当たり前と言えば当たり前だが、この私より主導権を握れるヤツなどまずいないだろう。
召喚された時の私は見た目がまだ幼かったが自我は完全に以前のものだった。
私はそれから呼んだ者たちに育てられ、見た目が10歳ほどになった時、私は昔のように力を取り戻していった。
私が住んでいる村は山奥にある小さな村だった。みな年が高めの村だったが、誰もが私に優しかった。ある日はとれたての野菜をくれたり、またある日は魚をくれたりと誰しもが私に優しかった。
ある時私は野菜をくれるお婆さんに聞いた。
何故私に優しくするのかと。前まで人殺しの兵器でしかなかった私に何故ここまで村の住人は優しいのかと。
するとお婆さんは
「みんな先祖から聞いているのだよ。私たちの先祖は皆、昔にイリヤ様に助けられたと。先祖はイリヤ様を助けられなかったことを大変後悔していてねぇ。せめてもの恩返しと罪償いだよ。」
私はとても驚いたのを覚えている。私の死を悔やむ者がいたことに。それと同時に私は次は次こそはこの人たちと生きようと決めた。
……あんなことにならないように。
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以前の私はただの心はあっても感情のない人殺しの兵器でしかなかった。でも悪人は殺し、善人は助けていた。その感情のない私に村の人たちは表面では感謝をしつつも恐怖を覚えていた。
私は村の中で浮いていた。そんな私に優しく話しかけてくれた少年が1人いた。
少年はまだ若く私を全く恐れていなかった。少年は私をまるで友達のように接してきた。
私たちは毎日いっしょに遊んだ。
いっしょに食事をした。
毎日いっしょにいた。
毎日が、とても楽しかった。
この時から私には感情が芽生え始めていた。
この時間がもっと続けばいいと思った。
……………でも、楽しい時間はそう長くは続かなかった。
村に疫病が流行りだした。村の人たちはもともと私に好意を抱いていなかったので、私のせいだといい殺す計画を立て始めた。
あの時少年に頼まれて見せていた魔法が村の人たちには良くなかった。魔法が疫病を流行らせているのだと村の人たちは考えたからだ。
そして、殺害計画の当日。
私はその日も少年と一緒に野原で遊んでいた。
そこに、村の人たちが私たちを取り囲むようにしてやってきた。私は周囲の村の人たちの様子を見るなり私を殺しにきたのだと判断した。
「おいっ!魔女さんよ!お前が疫病を流行らせているんだろうっ!?」
「違う。疫病は王都から来たものだ。いずれ治る。」
「ふざけてんじゃねぇーぞ!どうせそこの少年も魔女の仲間なんだろっ!?」
これ以上の話し合いは無理だった。村の人たちの精神は疫病によってすり切れる直前だった。できれば攻撃したくなかった。みんな心は善人だから。
……でも、少年を殺そうとするなら話は別だ。
「話にならんな。クリスタル・プリズン」
私は止むを得ず目の前のさっきまで話しかけてきた村の人を瀕死の状態になるよう調節して氷づけにした。
これをきっかけに村の人たちは一斉に攻撃してきた。
これでも、神に作られた兵器。1人を守りながらでも戦うことはできる。約20名ほどの人がいた。私は氷結魔法で村の人たちの足を凍らせた。
……が、それでは足止めにはならなかった。さらに私は計算をミスした。村の人たちの中に1人神器持ちがいることをに気がつかなかった。
約半分を制したとき、私の隙をついて神器もちが少年に向かって神器を放ったのだった。
「これで死ね。少年を庇えばお前が死ぬ。庇わなければ少年は死ぬ。どちらか選ぶか見せてもらおう。……我が槍による攻撃の傷は癒えぬ死神の槍なり。……貫けっ!死神の槍!ゲイボルグ・オルタナティブッ!!」
神器持ちが放った槍は赤黒いオーラを帯びながら少年のもとに一直線に飛んできた。
私は迷っている暇などなかった。少年まで少し遠い。いまから魔法を完成させるのは不可能だった。完成させる前に槍が少年を貫くだろう。
私が気づいたときには私は少年の前に立って槍を体で受け止めていた。槍は私の体を貫き致命傷を負わせた。
……もう、肺は潰れているのだろうか。息が苦しい。息をするたび体に激痛が走る。もう臓器もやられただろう。あと少しもせずに私は死ぬ。
「馬鹿め。神の兵器が人を守るなど。お前も落ちたものだな。」
……うるさい。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!
人だろうが兵器だろうが関係ない。私はこの少年が好きなのだから。だからせめて、少年だけでも逃さなくては。
私は最後の力を振り絞って魔力を集め、少年を遠い未来に飛ばすことにした。少年の記憶が残っていれば次の地で少年は混乱しパニックになることだろう。
私は少年の記憶を少年の魂のおくに封印し、またいずれ会えたときわかるように少年に私の権能の1部を与えた。
私の権能は神から貰ったもので全てで10ある内の1つを与えた。これでまたいつか会えたときに分かることができる。
意識が朦朧としているなか少年を未来に飛ばしたのだった。…あぁまたいつかまたいつかあの少年に出会えますように。
そして、私は………死んだ。
ごめんなさいm(_ _)m1話で番外編を収めようと思ったのですがあまりに長くなりそうなので2話に分けます。なので、明日はゼロの記憶Ⅱになります。
番外編が終わり次第、本編に戻ります。




