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真相


 ああ、目が覚めるな。

 そう思ったときには、もう瞼が開いていた。


「目が覚めた?」

「!」


 顔を横に向けると、園神がいた。

 どうやら俺はベッドに横になっていて、園神は傍に置いてある椅子に座っているようだ。


「園神……」


 ガラガラの声が出た。

 園神がサイドテーブルに置いてあった水差しを口元まで運んでくれた。ありがたく頂戴する。


「俺たちどうなったんだ?……生きてるのか?」


 一番聞きたかったことを聞いてみる。


「ええ。生きてるわよ」


 園神の目元が和らいだ。


「落下しているところをおやっさん――アタシの組織の人で島倉元太って人がいるんだけど」

「ああ、知ってる。遊園地でも助けてくれた人だ」


 須賀尾アドベンチャーワールド爆発事件を思い出す。


「そう。その人が途中でアタシたちをキャッチしてくれたのよ」

「マジか」

「拓斗が押してくれたスイッチの位置情報はおやっさんたちが持っていたスマートフォンにも送信されてたの。様子を見に近くまで来てくれたおかげで助かったのよ」

「そうか……」


 なんていう幸運だろう。島倉さんが来てくれなかったらどうなっていたことか。


「俺、どれくらい寝てた?お前は怪我大丈夫なのか?」

「丸1日よ。とっくに治療は受けてるわ。安静にするよう言われてるけど、病室抜け出してきちゃった」

「おい」


 笑いながらとんでもないことを言いやがる。大人しく寝てろよ。傷が開いたらどうすんだ。


「拓斗がさっさと起きないからいけないんじゃない」

「それは悪かったな」


 でも、園神と軽口を叩いていたらなんだか込み上げてくるものがあった。



 生きている――。



 そんな当たり前のことがずっしりとのしかかってきた。

 視界が歪む。泣いてんのか、俺。


「拓斗、大丈夫?どこか痛いの?」


 心配そうな園神の声。


「いや……」


 鼻声が出た。かっこ悪い。


「安心しただけだ」

「……そう」

「良かった……」

「うん」

「お前が生きてて――本当に良かった」

「……」


 それから俺の意識は再び途絶えた。









 再び意識が覚醒したとき、目の前に園神の顔があった。


「!?」


 声を上げそうになったが、寸でのところでなんとか飲み込む。

 どうやら枕元で突っ伏して眠っているらしい。


「まったく、自分の怪我も治っていないのに困ったものですね」

「まっ、仕方ねえだろ」

「それだけ心配だったんだろうな」

「!!」


 病室にいきなり知らない人が次々と入って来た。――いや、1人は知っている。最後に入って来た1番年齢の高い男の人は、須賀尾アドベンチャーワールド爆破事件で助けてくれた島倉元太さんだ。


 俺は体を起こした。


「島倉さん?」

「おお。覚えてくれとったか」

「はい。助けていただいてありがとうございます」

「気にするな」


 豪快に笑う島倉さん。

 だけど、あと2人。爽やか系イケメンとイケイケな感じのお姉さんは初対面だ。島倉さんと一緒にいるということは、園神の組織関係の人だろうか。


「よおガキ。素人の癖に頑張ったじゃねえか。褒めてやるぞ」


 イケイケなお姉さんが俺の頭をガシガシと撫でてくる。


「こら、愛華。やめなさい」

「なんだよ、ちょっとくれえいいじゃねえか」


 それを爽やか系イケメンのお兄さんがどかしてくれた。


「あの……」


 どういう状況だこれ。


「申し遅れました。僕は清灯幸正。舞さんと同じ組織の人間です」

「わたしは駿河愛華。舞のお姉ちゃんだ」

「適当なこと言わないで下さい。拓斗君、彼女も組織の人間です」

「冗談の通じねえやつだな」


 困惑している俺に、清灯さんが説明をしてくれた。

 なんとも、うん、個性的な人たちだ。


「体調はどうですか? 話ができるくらいには回復しましたか?」


 駿河さんをスルーして、清灯さんが俺に話しかけてくる。


「あ、はい。大丈夫です」


 意識を取り戻してからまだそんなに経っていないが、話くらいはできる。


「まず、ここは警察病院です」

「ええっ?!」


 てっきり普通の病院かと思っていた。


「ことが事なのでここに。ご両親にも連絡は行っていますよ。面会は少し待ってもらっていますが」

「そうですか」

「今回の件について簡単に説明しておきますね。知りたいでしょう?」

「はい、お願いします」


 俺は姿勢を正す。気になっていたことだ。


「君を襲った男たちですが、建物から逃げようとしていたところを僕と愛華で捕まえておいたので安心してください」

「そうですか」


 あの現場には島倉さんだけじゃなく清灯さんと駿河さんも駆け付けてくれていたのか。


「ありがとうございます」

「気にすんな。それより、捕まえた奴らをボコったらいろいろ吐きやがってな。首謀者が分かったから教えてやる」

「……お願いします」


 吐かせた方法は聞かなかった。聞かなかったぞ俺は……。


「首謀者はこの女です」


 清灯さんが1枚の写真を見せてくれた。写真には50代くらいの女性が写っていた。

 どこかで見たことがあるような気がする。


「あ!この人、熊切さんを襲った現場にあった車に乗ってた人だ!!」

「なるほど、そういうことですか」

「顔を見られたと思って消そうとしよったんだな」


 清灯さんと島倉さんがなにやら納得した様子で頷きあっている。

 俺にはなにがなにやらさっぱりだ。


「あの、どういうことですか?」

「この女は政治家だ」


 駿河さんが吐き捨てるように言った。


「政治家?」

「ああ。平和な世界にしましょうってきれいごと並べてるだけのな」

「ああっ! この人ニュースで見た人!」


 俺はスマートフォンで見ていたニュースを思い出した。戦争のない平和な社会をうたっていた女性政治家だ。


「でも、そんな人がなんで俺を?」

「順を追って説明しますね」


 清灯さんが写真を片付けながら言った。


「きっかけは須賀尾アドベンチャーワールド爆発事件です。殺し屋組織クロコダイルの者と彼女が出会ってしまったのが始まりでした」

「クロコダイル?! 奴らって全員捕まったんじゃないんですか?!」


 思わず大きな声が出る。清灯さんは人差指を立てて口元にあてると、園神を見た。園神はすやすやと眠っていた。


「すみません」

「いえ。正確に言うと、彼女が金で雇ったのはクロコダイルで銃器や爆薬を調達していた末端の者です」

「末端のもんまで捕らえるのはなかなか難しいんだ」


 清灯さんの言葉を引き継いで島倉さんがそう言った。


「そうなんですか……」


 やるせない現実を知って言葉を失くす。


「話を戻しますが、クロコダイルはあの戦争を起こすにあたって至る所から武器を集めていました。その仕入れ先を彼女は次々に潰していったんです」

「何のためにですか?」

「そのクロコダイルの者の話からすると、世界を平和にするためらしいですよ」

「はあ?」


 意味が分からない。


「つまり、だ。戦争があるのは武器があるせいだ。武器がなくなれば戦争は起きない。武器を作ってるやつ、取引してるやつらを潰してしまおうってことだよ」


 駿河さんが呆れながら言った。


「……」

「そういうことです。ですが、理想の為に殺人をするなんてなかなかの発想ですよね。しかも、顔を見られたかもしれないからといってただの学生にまで抹殺の指示を出すなんて信じられません」

「とんだババアだったな」

「……」


 衝撃の事実に声が出ない。まさかそんな理由で殺されそうになるなんて……。


「どうした拓斗? 何だ? この政治家殺しておくか? わたしがヤってやるぞ?」

「やめて下さい!」


 なんてことを言い出すんだこの人は!


「そうですよ、愛華」


 清灯さんが止めに入る。清灯さんはどうやら常識ある人のようだ。良かった。


「殺してしまっては苦しみはそれで終わってしまうではありませんか。この手の者は社会的に消した上で苦しみながら生き続けていただく方がいいですよ」

「……」


 やばい。清灯さんが怖い……。


「うーん。あまりやらせたくはないが、今回の件はわしも腸煮えくり返っとるからな」


 島倉さんまで止める気がない。


「あっはっはっは!! ユキ、てめえのそういう性格わたしは嫌いじゃないぞ!」


 駿河さんは豪快に笑ってノリノリだ。


「そういうわけですから、安心してくださいね。拓斗君」

「いえ」


 まったく安心できない。


「なんだ? 何も心配いらないぞ? ユキは権力者嫌いだからな。地獄見せるだろうよ」

「……」


 駿河さん、俺の心配はそこにはありません……。

 だけど、清灯さんの黒い笑みに俺は何も言うことができなかった。



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