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父と息子、祖父と孫


 夕飯を終えてしばらく。部屋にこもると、ベッドに横になって園神のことを考えた。


「……だあーーーー!! ダメだ! 何にも思いつかねえ!!」


 勢いよくベッドから飛び起きると、頭をわしゃわしゃと掻き毟る。


「……」


 俺は部屋を出ると1階のリビングに降りた。そこにはソファに座ってテレビを見る父さんがいた。


「父さん、ちょっと相談があるんだけど……」

「拓斗」


 父さんがキッチンにいる母さんに視線を向ける。


「書斎に行くか?」

「うん……」


 書斎は父さん専用の部屋で母さんもめったに入ってこない。これからする話の内容を考えると、母さんには聞かれたくない。父さんの提案にありがたく乗ることにした。


「分かった」


 父さんはテレビを消して立ち上がると、書斎に向かって歩き出す。俺も後ろに続いた。


「それで? 話ってなんだ?」


 書斎に着くと、さっそく父さんが話を振ってきた。


「うん……」


 一度ごくりと唾を飲み込む。父さんの顔が見れなくて絨毯を見つめる。


「例えばなんだけどさ。友達がすげえ危ない仕事をしていたとするだろ? 俺はその仕事を知ってたんだけど、いざ目の前でそれを見たとき――怖いと思っちまって」

「……」

「それで、あの、その友達と、これからどう付き合っていっていいか悩んでて……」


 ついぼそぼそとした話し方になってしまう。


「その友達はその仕事を辞める気はないのか?」

「たぶん無理。そいつなりにその仕事に誇り持ってるみたいだから……」



「その友達は――殺し屋の園神舞さんか?」



「そうそう――ってえええええ!!??」


 思わず顔を上げて父さんの顔を凝視する。

 父さんは1度息をつくと、ゆっくり口を開いた。


「知っていたさ。園神舞さんのことは。父さんは玄さん――園神舞さんのおじいさんと知り合いだからな」

「えええええええええええ!!」

「静かにしなさい。母さんが来る」

「んぐ……」


 俺は慌てて口を塞ぐ。


「私の仕事については詳しく話したことがなかったな。私の所属は『特殊組織犯罪対策課』だ。殺し屋組織はこの特殊組織犯罪に該当する。園神舞さんのおじいさんとは……裏で繋がっていて、情報交換や捜査協力をしてもらっているんだ」

「警察が殺し屋と繋がってるのか?!」

「蛇の道は蛇。どうしてもあちら側に預けなくてはならない案件もある。ただ彼らは彼らで仕事を受けているし、警察が管理しているわけではない」


 つまり、警察に協力する代わりに殺しの仕事に目を瞑ってもらってるってわけか……。


「……」


 あまりの事実に声が出てこない。


「さっきの質問だけどな、拓斗。園神舞さんとこれからも関わっていくなら、お前も無知ではいられない。覚悟も必要だ」

「覚悟……」


 熊切さんも言っていたことだ。


「危険も当然伴う」

「……」

「それでも関わり続けたいなら……私と同じ警察官を目指すのも一つの手だ」

「警察官……」

「『特殊組織犯罪対策課』に配属されるのが理想だろうな……・だが」

「……」


 父さんが鋭い視線を向けてくる。


「私としては、これを機に園神舞さんときっぱり縁を切ることを勧める」

「!」

「怖いと思うなら、そうしろ」

「……」

「私から言えるのはこれくらいだ。後は自分で考えなさい。気持ちが決まったら、園神舞さんともしっかり話し合うんだぞ」


 そう言って父さんは書斎から出て行ってしまった。


「……・」


 俺は、母さんが呼びに来るまで書斎でただ立ちつくしていた。






 雲で覆われた空。月どころか、星さえも見えない。

 そんな空を見上げながら、舞は縁側に座っていた。隣には祖父である玄造の姿もある。ただし、今日はお茶は用意されていない。舞が玄造を呼びつけたのだ。


「どうした? 舞」

「……」


 舞は縁側から放り出した足をぶらぶらさせながら口を開いた。


「おじい様……。やっぱり一般人と関わりを持つべきじゃなかったわ」

「急に何を言い出すのかと思えば……」


 玄造はため息をつく。


「大学生活は楽しんでいるように見えたがの」

「……」

「拓斗君か?」

「――!」


 舞はギュッと拳を握りしめる。視線を空から自分の膝に移す。


「拓斗は……アタシが殺し屋で、アタシが人を殺したことがあることを知ってた……。でも」

「実際に目の前で殺したら態度が急変した、か?」

「!」


 舞はつらそうに眉を顰めて、コクリと頷いた。


「学食でも全然一緒にならないし、メールの返信も来ない……。学内で見かけてもどこかに行っちゃうの。前は声かけてくれたのに……。今日なんて、せっかく話せたのに喧嘩になっちゃった……」

「そうかそうか」


 玄造はうんうんと頷きながら、舞の話を聞く。


「して舞や。もう拓斗君と一緒にいることは諦めるのか?」

「諦めるも何も!! 拓斗はアタシのこと怖がってる!! 一緒にいられるわけないじゃない!!」


 舞は血を吐くように叫んだ。



――「現実って残酷なのよぉ」



 クロコダイルの女の言葉が舞の脳裏に蘇る。


「アタシは……拓斗のこと……信じてたのに……」

「舞や。原因をすべて拓斗君に押しつけてはならんよ」

「おじい様?」


 舞は視線を玄造に向ける。


「聞いたのは、舞が拓斗君と一緒にいたいかどうか。拓斗君が一緒に居られるかどうかではない」

「!」


 舞の目が大きく見開かれる。


「拓斗君も今、悩んでおるのだろう。知っていたはずの現実を目の当たりにして……。結論をそう急ぐな。もう少しゆっくり考えて、ゆっくり2人で話し合ってみなさい」


 玄造は語りかけるように話す。


「……そうね」


 舞はなんとか返事をするのだった。




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