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俺の日常


「狩野、俺、園神と付き合うことになったから」

「は?」


 狩野がピシリと石のように固まる。瞬きさえしていない。

 現在時刻は13時を回ったところだ。久々の須賀尾大学の学食で、俺は狩野と井伊島と一緒にいた。テーブルの上には学食の無料のお茶が3つ置かれている。


「おい、聞いてるか?」


 狩野の目の前で手をひらひらと振る。


「!」


 正気を取り戻したらしい狩野がいきなりバンッとテーブルを両手で叩いた。茶の表面がゆらゆらと揺れる。


「いやいやいや待て待て待て。そうかそうか、園神さんに付き合ってどこかに行くのか。この野郎、俺も連れてけよな!」


 満面の笑みで告げられた内容にため息をつく。


「いやいやいや悪い悪い。言い方が悪かった。園神と恋人関係になった」

「んんやぁあめえろおおおお!!」


 狩野は両耳を手で塞ぐと、ぶんぶんと頭を左右に振った。


「聞けよ。だから、園神のことはもう諦めろ」

「ぎぃやああああああ!!」


 耳を塞いだ程度では防げなかったのだろう、悲鳴を上げてテーブルに突っ伏してしまった。


「狩野君、いい加減現実を受け入れて」

「ぐはっ!」


 井伊島によって止めを刺された狩野はそのままの体勢で動かなくなった。


「麻川君、うまくいって良かった」

「ああ。心配かけて悪かったな」

「ううん。こうなる予感はしてたから」

「ははっ、そっか。サンキュ」


 井伊島らしい言い回しに思わず笑ってしまう。


「とりあえず、今日は報告だけしたかったんだ。俺、この後用事あるからもう行くな」

「舞?」

「まあな」


 松葉杖を手に取って立ち上がる。


「えっと、狩野だけど」

「私が見ておくから気にしないで」

「悪いな」

「平気。舞によろしく言っておいて」

「ああ」


 井伊島にだけ別れを告げて外へ出る。

 松葉杖をつきながらゆっくりと構内を歩く。


 思わぬ事件に巻き込まれて大学の単位ははっきり言ってピンチだ。でも、事情を鑑みて大学の教授が試験をレポート提出に変更してくれた。おかげで夏休みに入る前になんとかなりそうだ。


 園神は今、自宅療養中だ。大学の単位については園神もレポート提出で何とかするらしい。


 新調したスマートフォンを取り出して園神の番号を呼び出す。



 プルルルル……プルルルル……。



『拓斗?』

「ああ。これから大学出るから」

『分かったわ。ユキさんに駅まで車出してもらうから』

「了解」


 今日、初めて園神の自宅へ行く。自宅デートなんて甘いものではなく、組織のことをいろいろ教えてもらう予定だ。


『でも、良かったの?』

「何が?」

『おやっさんたちの『スペシャル強化プログラム』、本気で受ける気?』

「ああ、そのことか」


 実は園神と付き合うことになったと知られてから、島倉さん、清灯さん、駿河さんの3人が協力して俺を鍛えるためのプログラムを組んでくれたようなのだ。怪我に影響が出ない範囲から始めるらしい。

 まあ、弱い男に園神は任せられないといったところだろう。


「覚悟はできてる。大丈夫だ」

『そう。あまり酷くなるようだったら止めに入るわ』

「ありがとな」

『じゃあ、また後で』

「おう」


 通話を終了すると、空を見上げた。夏の日差しが突き刺さってくる。

 そういえば、園神と出会ったのも夏だったな。あれからもう1年経つなんて早いもんだ。


「よし、行くか」


 俺は新たな1歩を踏み出した。





 俺は変化を受け入れて生きようと、園神と出会って決意した。


 でも、それだけじゃ足りなかった。


 自分も変わろうと努力することが必要だと知った。


 流れる時間、変化する日々に負けないように、俺も変わり成長しようと思う。


 これからの俺の日常は――無限の可能性に満ちている。




―完―





 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!

 これにて「日常」シリーズは完結となります。


 また次回作でお会いできればと思います。


 それでは、失礼します。

 ありがとうございました。


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