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共に生きる覚悟


 あの後、島倉さんが園神を抱き上げて清灯さんと駿河さんと共に病室から出て行った。

 去り際に、駿河さんから1枚の紙きれを渡された。「何ですか?」と聞くと、「舞の病室の場所だ」と返ってきた。



「逃げられる前に、言いたいことはしっかり言っとけよ。男だろうが」



「……」

 駿河さんからもらった地図を片手に、俺は今園神の病室の前に立っている。










 今日で俺は退院になる。午後には母さんが迎えに来てくれるはずだ。だから今、園神にはちゃんと話をしておかないといけない。

 片手に松葉杖をついた状態じゃはっきり言ってかっこ悪いけど、こればっかりは仕方がない。



 コンコン……。



 病室の戸を叩く。


「はい」

「入るぞ」


 スライド式の戸をゆっくりと開けた。

 園神は窓際に立っていた。開いた窓から穏やかな風が入り込み、園神の黒髪を揺らしている。


「拓斗。どうしたの?」

「ああ。俺、今日退院なんだ」

「そう。おめでとう」

「それで、お前に話とかなきゃいけないことがあって」

「大学でじゃだめなの?」

「ああ。これを逃すともうお前と話せないと思うから」

「……」

「当たりだろ?」

「……」

「お前、俺の前からいなくなる気だろう? もちろん大学だって辞める気だ」

「……どうして」

「勘。あと、駿河さんが逃げられる前に話とけって言ってたから」

「愛華さんたら……」


 園神がため息をつく。


「このまま何も言わずに……っていうのは無理みたいね」


 園神が正面から俺を見据えてくる。俺はゆっくりと病室内に入ると、園神の前まで足を進めた。園神との距離は2mくらいか。


「はっきり言わせてもらうわ。拓斗」


 力強い眼差しだ。


「アタシが拓斗と同じ世界にいるのは不可能よ。今回の件だって、そもそもアタシと関わらなきゃ済んだ話だわ」

「そうだな」

「拓斗もいい加減嫌になったでしょ?」

「……」

「アタシが人殺しであることもどうしたって変わらない。だから……」


 園神が唾を飲み込む。


「もう、拓斗とは一緒にいられない」

「……」


 俺は1度目を閉じて、園神の言葉を反芻する。そして、再び目を開いた。


「俺の出した答えは違う」

「!」

「お前が殺し屋って仕事に誇りを持っていることは知ってる。必要な仕事だってことも理解してるつもりだ。でも、それだけじゃ足りないってことが今はよく分かってる」

「……」

「だから俺は決めたんだ」

「?」


 園神が不思議そうな顔をして俺のことを見てくる。


「俺は、警察官になる」

「!」

「そんで、『特殊組織犯罪対策課』を目指す」

「え?」


 園神が目を見開いた。


「本気? あの課は……」

「知ってる。俺の父さんがその課の所属だから」

「うそ……」

「本当だ」


 未だに驚いている様子の園神にちょっとだけ笑う。


「なあ、園神」


 できるだけ優しい声を出した。


「聞いてるか?」

「……聞いてるわよ」

「俺に時間をくれないか?」

「時間?」

「ああ。俺は必ず警察官になる。強くもなる。守られてばっかにならないように。さすがに殺し屋になるのは無理だけど、お前と関わっていられる世界にいたい」

「拓斗……」

「だから、一緒にいてくれないか?」

「!」

「ずっと一緒にいたいんだ」


 園神を真っ直ぐに見つめる。



「俺は――殺し屋園神舞が好きだから」



「!!」


 園神の目にみるみる涙が溜まっていく。涙が落ちそうになったところで、園神が顔を伏せた。


「いいの?」

「ん?」

「アタシは自分を変えられないわ」

「変えろなんて言ってないだろう?」

「また危ないことに巻き込まれるかもしれない」

「覚悟してる」

「……拓斗」


 園神が俺の胸に飛び込んでくる。俺は松葉杖を放り投げて園神を抱き止めた。


「アタシも、ほんとは、拓斗と一緒にいたい」

「ああ」

「好きよ」

「ありがとう……」


 俺は園神を抱きしめる腕に力を込めた。

 この温もりと共にあるために俺は強くなるんだ――。




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