暗雲
夜。雲の隙間から月が見え隠れしている。
日本家屋の縁側。そこに園神玄造と園神舞は並んで座っていた。2人の横には日本茶の入った湯呑が置いてあったが、中身はすっかり冷えてしまっている。
「それで? 本題はいったい何なの?」
舞が静かに問いかける。
「もう少し大学生活の話が聞きたいんだが……」
「いい加減にして」
「ふむ」
ピシャリと言い放った舞に、玄造は少し拗ねた様子で冷めた茶を一口すする。
「……実はの、須賀尾アドベンチャーワールド爆発事件の後から銃火器の製造、販売、仲介にいたるまで、銃火器に関わる人間が次々に殺されておる」
須賀尾アドベンチャーワールド爆発事件とは、遊園地内の各所で爆弾が爆発した事件のことで、起きたのは今から1カ月前のことだ。
「プロの仕業?」
「おそらくな」
「……熊切先生のこと?」
話の流れから思いついたことを舞が口にする。
熊切朔眞。27歳。レンタルショップで店長を務めながら、裏で銃火器の製造、販売、修理まで幅広く取り扱う男だ。舞たちの組織G2《ジーツー》でも重宝している。
「うむ。ターゲットになる可能性は十分ある。熊切先生はこちらも贔屓にしておるし、わしらの情報も持っておるからな。もしものことがあっては困る」
玄造の言葉に舞も頷く。
「放ってはおけないわね」
「そこでだ。G2では交代で熊切先生に見張りをつけている」
「そこにアタシも加われって?」
「そうだ。舞にはよく熊切先生との取引を頼んでいただろう。熊切先生からしても知らない者が見張りにつくよりかはいいかと思ってな」
「いいわ。熊切先生にはいろいろお世話になってるもの」
「お前が大学に行っている間は他の者に頼む。大学が終わってからこのローテーションに加わってくれるかの」
「分かったわ」
「このことは熊切先生にも伝えておる」
玄造は舞に1台のスマートフォンを渡す。
「これは?」
舞は不思議そうにスマートフォンを手にする。
「これは熊切先生の持つ別の端末と連動しておってな。熊切先生がその端末のスイッチを入れると、スマートフォンが鳴り位置情報が送信されてくる仕組みになっておる」
「へえ」
「念のために熊切先生に製作をお願いしておいたのだ」
「随分、用心深いわね。熊切先生なら大抵の危機はひとりでなんとかしちゃいそうなのに」
「備えあれば患いなし、というからの」
玄造は静かに笑う。
「話は分かったわ。明日からアタシもローテーションに入る」
「ふむ。頼んだぞ」
新たな事件は、水面下で着実に進んでいくのであった。