『初回授業』作・涼影響也
授業は最初ということもあって自己紹介から始まった。話すことは名前、音楽について一言、その他一言という単純なものだ。刻一刻と貴之の番へ近づいていくが、何を言えばいいかが全く思いつかない。
あっという間に次が貴之の番になってしまった。前の人の自己紹介が終わって拍手が起こる。
先生は何かをメモして前の人が座ると「はい、では次の人お願いします。」と貴之を促した。
たかが自己紹介なのだから気張る必要もないし、何とかなるだろうと自分に言い聞かせて立ち上がる。
「えーっと、名前は佐竹貴之です。音楽は…嫌いじゃないですが、得意というわけではないです。えー、一年間よろしくお願いします。」
言い切るとたちまち拍手が起こる。我ながらぱっとしない自己紹介だったなと思い、少し恥ずかしくなった。貴之が席に着くと、白川先生は同じように次の人を促して自己紹介が進んでいった。
クラス全員の自己紹介が終わると時間が中途半端に余ったので先生がピアノで適当に見繕って曲を弾いてくれた。
貴之は自分の自己紹介からぼうっとしていた。自己紹介で恥ずかしくなったのはあるけれど、それ以上に白川先生のことが気になっていた。心の中を読むとはどういう意味なのかを考えあぐねていた。本来そんなことがあるはずがないのだが白川先生の独特の雰囲気で現実味を帯びている。
ふと顔を上げると曲を弾き終わった白川先生と目が合った。貴之はドキッとして目を逸らした。先生は少し目を細めたように見えたが特に反応は見せずにピアノの椅子から立ち上がった。
「はい、そろそろ時間になるので授業を終わりにしましょう。次の授業から教科書は忘れずにちゃんと持ってきてくださいね。では、号令お願いします。」
号令係の号令であいさつをするとチャイムが鳴った。白川先生はグッドタイミングですねと今度は確かに目を細めた。