異変
一連の会話劇に、一同は吹っ切れているようだった。
女性である英佐知子すらとうとう狂気の虜にして、皆はもう、すなわちこの狂気の一大絵巻に取り込まれてしまった。
意識の拡大とコミュニケーションを完成しているこの巨大な閉塞機に対して、マイナスメージが一気に解消されてしまったから。
皆は懸命に、モニタに向かっている。
六分割にされたモニタを、それぞれの想いが、様々に表情を変幻させて…
サーモグラフィの人影や膨大な数値データや…
それに並行して…
皆の意識は、霧状のナノマシンにまるで拡大されたかのように、そのナノマシン自体が与えた鮮明な内部の輪郭、つまり内部に拉致されていた牢獄のような情景を払拭して、ひとびとへの想像力が生彩を解き放ったのである。
皆は夢中であった。
そこに、むしろ不謹慎な夢想すら抱いてしまうほどにまでイメージは高まってしまった……
その時、異変が!!
「!!!!!」
サーモグラフィを覗いたそれぞれは、数瞬の理解不能に陥り、直後得も言われぬショックを受けてしまった!
突然に!
それぞれが見ていたそれらの人物が、暖色から寒色へと…
それどころか…
首より上部が、突然、真っ黒になってしまった!!
「案内人!!」
「??これは……」
・・・・・・
ショック!
……
暫く、無言のままだった。
生体反応を調べ、すべてが無反応であった、という信じ難い結末、衝撃!!
それどころか…
サーモグラフィを凝視する一同。
そこへ畠が、衝撃を告げる。
「皆!死体を見てくれ、首が…無い!」
「!!!!」
「首なし死体じゃないか、これは!!!」
……
以降無言は続いた……
長い沈黙だった。
そして…やっと…
「これは恐らく、あの説話の持ついわば時限爆弾装置…まるで呪いのような…魔力に憑かれてしまったに違いない…」
「どういうことですか、一体!」
「あの、例の栽培蟲」
「それがどうしたんです??」
「ええ…あの説話は、結果として外壁に孵化した幼虫のみが外へと這い出ることでその結末を一旦は終えていた」
「一旦?ならば続きがあるというのですか??」
「はい…実は…しかし…こうなってしまえばの関連性でして…それは今まで、単なる後日譚としてしか認識していませんでしたから……」
「それは…?」
「ええ。その後、人間の手によって、それはぶち壊されることになりました」
――間
「硬い巨大な壁ですから、ハンマーによってすら適わない程でして…」
「そんなにも!!」
「ええ。自然は驚異的です。それで結局は鉄球によって壊されました」
「!!」
「しかし…なんというか…粉々に粉砕される筈のそれは、意図せずに美しい事に…硬い硬い立方体の数々を、宙に舞わせてそれぞれの立方体をありのままにバラけさせてしまった」
「つまり…それほどに堅く、ゆえに形を留めたままに?」
「ええ。見事に立方体のままで。そして最終的に一つ一つをサンダーで斬ったそうです」
「まるでコンクリートですね」
「はい。内部の蟲は死んでいるのか?その卵は芥子粒にも満たないです。幼虫だって芥子粒とそう大差なかった。否、むしろ減っていた」
「減っていた?なぜです…退化しているのでしょうか?それとも死体が萎縮してしまったのでしょうか??」
「ええ、実を言うとそのいずれでもありませんでした」
「??」
「それは凝視すれば…」
「……」
「ええ。まことに首なし死体そのもので…」
「なんですって!状況が同じではありませんか!!」
「わかったぜ」
天童葛羅の主張。
「霧状のナノマシン!それほどの技術があるのだから。それを蟲の死体に真似たカタチで殺人兵器にプログラムすることなんて造作無い!そもそもが巨大な容れ物に大勢の人々を拉致しているような愉快犯だ!結局なぶり殺しにするくらいが関の山!意識を解放させ、いい気分にさせといてからの殺生!これほど愉快犯にとって愉快な仕打ちはないんじゃないか?やはりこの犯人は非道だったんだな!!」
「しかし…」
とバグール・ディノの反論。
巨大な拉致事件の犯人探しの推理合戦であった筈が…
「それが首なし死体の謎解きになるのかな?」
「なるともさっ!だってそうじゃないか、なんてったって無数の通気孔があるんじゃないかよ!そこから凶器を流し込むだけで十分に殺人兵器には変身できるぜ!」
「かと言って、一瞬にして首なしですよ??やはりそれは無理なのでは……??」
「いやっ…だからさっ…それこそ最先端の技術を駆使して……」
学者に比べ、知識よりも直感で生きてきた天童は、これが抵抗しうる限界の論理である。
「これが…」
案内人はたどたどしく…
「推理の証明につながっていくかは随分と不明ですが、先程の説話の続きを、先ずはお話いたしましょう?」
「ふう。聞きましょう聞きましょう。きっと論理の導きになるはずですから……」
バグール・ディノは聞き耳を立てた。




