その言葉は本物か
「やっほー」
彼女が家にやってきた。ソファーに座って彼女がやってくるのを僕は待つ。
「何やってんの?」
スマートフォンをいじる僕の後ろから、彼女は画面を覗き込んだ。
「は! それって……呟くアレじゃん!」
「そうだけど、それがどうした?」
急いで彼女は僕の隣に座った。
「それさあ、楽しいの?」
「そうだなぁ。普段できない趣味の、例えば野球の話とかできるから、まあ楽しいよ」
「それじゃあ、その話をするためだけに使ってるの?」
「う~ん。後は遠く離れた友達の近況を知るぐらいかな」
彼女は頷きながら、人差し指を立てて言った。
「それはつまり、『会話』だよね」
「そ、そうなるのか?」
実際に友達の近況を知るのは、画像だったりそこについているコメントだったりで会話をしているとは思わないのだが……
「だってさ、『呟く』ってさ自分だけのものじゃない?」
「う~ん……どういうことだ?」
「こう、ホッとしたときとか落ち込んだときなんかにポロッと出てくる言葉が『呟き』だと思うの。でも、これって問いかけたりするじゃん。自分ならいいけど、それを他人にしているというかさ」
「ほほう」
彼女は熱い感情で話しているが、その内容どこか妙に論理的だ。
ただ僕がそんな風に思っているだけかもしれないが。
「さらにこれには画像を貼り付けられる機能があるよね。これって、もう誰か見てくれ精神が漏れ漏れだと思わない?」
ああ、友達が貼り付けている画像といえば、料理や購入した物、楽しげな集合写真といった、反応して欲しいものばかりだ。
「そうかもしれないな」
「そして、一番の極めつけは……」
彼女は一呼吸空けて、目をいつもより鋭くした。
「文字数が制限されていることよ!」
「そ、それなのか?」
「だって、話す言葉の量は何文字でも大丈夫じゃない」
彼女は胸を張った。文字数の自由をなぜそこまで誇りにできるのだろうか。
「なら、そういうことをしたい人は何をすればいいんだ?」
「それは、もちろん」
「もちろん?」
「ブログをすればいいのよ!」
時代を逆行する彼女は、今日もガラケーをポケットから取り出した。
読んでいただき、ありがとうございました。