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 ⑤



   ***  



バスから降りて、

相変わらずなんにもないまっさらな拡がりの中を男の後ろについていくと、

神社のようにこんもりとした森の中に一軒の建物が見えだした。

GPS機能が直接この男の身体に備わっているのかと思えるほど、

よくぞ辿り着けるもんだなと感心してみる。

やっぱり妖怪だから? 

建物は、神社の社殿ふうの造りと洋館がミックスした感じの、

斬新的な和洋折衷。


ピンポーン、とチャイム(ここだけ現代的)を鳴らすと、

真っ白い洋館の扉が開いて見とれるほど綺麗な女の人が現れた。


「ジュテーム。久方ぶりに見る君は光の女神そのものだ。

 その美しさにひざまずかずにはいられない……」 

  

情熱的な双眸と甘い声音で、

「僕は永遠に君の僕だ」とつけ加えて見上げる彼は、

玄関先で本当にひざまずくと女性の繊手(せんしゅ)を握って、

その細くしなやかな指にキスを落とす。

映画のワンシーンのような振る舞いに、

見ているこっちが気恥ずかしくなる。

私のいない時にやってほしい。

知り合いと言っていたが恋人なのだろうか。

もしくは男の片想い?


「もう、大げさなんだから。さっき別れたばかりなのに」

 

クスクスと朗らかに女性が笑うと、いっそうその美しさが華やいだ。

よかった、ちゃんと人間に見える……女神かもしれないが。

後頭部で一部結われているが、腰よりも長い黒髪は、

テレビCMにも起用されそうなほど真っ直ぐで艶やかだ。

透き通る声で物腰も柔らかく、慎み深そうな目の前の美女もまた、

男と似通った見慣れない古風な衣装を身にまとっている。

ただちょっと違和感を覚えるのは、動いたらシャラシャラと鳴り響く、

着物にはそぐわない光り輝く豪奢な装飾品を首や腕や耳につけている点だ。

ちなみに見た目は、この男性と同じぐらいの年齢で、

二十代前半といったところだろうか。


「ところで稚津彦(わかつひこ)、そちらのお方はどなた?」


わかつひこ? 

この男はそういう名前だったのか。

でもよかった、葦原竜希(あしはら たつき)じゃなくて。

すると彼は私の方を振り返って、

「おお!」と、たった今思い出したみたいな口ぶりで驚く。

……こいつ、ものの数秒で私の存在をすっかり忘れてくれていたな。


「この子は途中で出会った魔女っ子さ。名前はえーと……」


そういえば自分も名前を教えていなかった。

私はすかさず名乗り出る。


(てぃあら)よ。星という漢字を書いて、てぃあらと読むの。

 苗字は、山の上と書いて山上(やまがみ)

山上(さんじよう)(ほし)か……。

 なんという(おそ)れ多い名だ。

 神にも匹敵するまばゆい光ではないか。

 星の名を抱いた君に、僕は自然とひれ伏してしまうだろう。

 ――ロマンチックだけど変わった名だね」


あんただって充分変わってる名でしょーが。

その名前からして現代人ではないのかなと思ったけれど、

彼には英語も通じているし、彼女の家も洋館が混じっちゃってるし、

一体どうなってるの? 

時代も世界もごちゃ混ぜ?


「私は沙羅(しやら)よ。よろしくね、星」


わぁ~、名前まで素敵! 

装飾品までシャラシャラと彼女の名と共鳴しているみたい。 

だけど突如、にこやかだった沙羅さんの表情に険しさが浮かび上がった。


「――でも、ここには長居しない方がいいわ。はやく出なさい」

「!」


あの世に長居したくないのは私も同感だが、

好きでいるわけじゃないし……。

でも、はやく出なさいって、

それってつまり、ここから出られるってこと!? 


「出られるのっ!?」


沙羅さんにしがみつきそうな勢いで、

真剣なまなざしの私は目を丸くして訊ねた。


「ええ……。だけど――」


途端に浮かない顔。

そう易々(やすやす)とことは運ばないという意味なのだろうか。

沙羅さんは稚津彦の方を見て、さらに顔を曇らせる。

面倒な条件や試練でもあるのだろうか。

すると稚津彦が――


「僕がこの子を鬼の所へ連れてくよ」


なんだって――――っっ!?  

なに爽やかな笑みまで浮かべて恐ろしいことをサラッと言ってんの!

私は思いっきり引きつった形相で、

稚津彦という無慈悲な男を鬼のように睨みつける。


「……その方がいいわね。なるべくはやく案内してあげて。

 ご家族も心配するだろうから」

 

しゃ、沙羅さんまでなんてことを――――ッッ!! 

いいい、一体なにを言っているんだ、この人たちはッ!?


「ちょっと待って! 話が全然見えないんだけど! 

 なんで私がわざわざ鬼の所へ行かなきゃいけないの!? 

 それに家族が心配するって……、第一ここはあの世で、

 私はもう死んじゃってるんでしょっ!?」


思わず感情的になって声を荒げてしまうが、

二人は(きよ)()かれたまま見つめ合うと、

再び私を見て言葉を継いだ。  


「――星、君はなにか勘違いしているようだね。

 ここは『顕現界(みあれかい)』という顕現池の中だよ。

 おそらく君は『天蛇石』の所から誤って落ちてしまったんだろう。

 その下にある顕現池にね」

「顕現池……って、

 宇藤が言ってた水が涸れたっていう窪んだ池のこと!?」

「ああ。そうだよ。

 うとう……という人をあいにく僕は存じ上げていないが、

 『天蛇石』から真下の顕現池に飛び込むという行為は、

 ここの神域への入り方でもあるんだ。

 勇気が試される瞬間でもあるけどもね。

 但し、不思議なことに、

 下から池の窪みに入るだけではこの世界には入り込めないんだ」

 

――あれ……? 

ってことは、一緒に落ちたはずの宇藤もこの世界にいるってこと?  

同様に、この二人もこの世界へ落ちてきた人たちってこと?


そう疑問を抱いている最中でも、

彼は詳しい情報をこの私に伝授してくれる。

ありがたいことだ。

でもなんでこんなに詳しく知っているんだろうか。


「もっともこの『顕現界(みあれかい)』は、

 あの世との境目に位置する一世界でもあるわけだけど、

 顕現池の水は元々物質でできた水じゃないってことだ」

「え、だって、伝説では昔は水があって、

 龍女が涸らしてしまったって――」

「後世の人々の空想論ってとこかな。

 顕現池は太古より窪んだ土地で、実際水が溜まった痕跡も、

 研究者が確認したところ一切なかったそうだよ。

 一応『池』とはつく場所だけどね」


ふーん、そうなんだ。

ま、伝説なんてそういうもんよね。

地下に水がスゥーッと染み込んでいくように、

私もスゥーッと納得してしまうが、

なんだか宇藤の話を聞いているような感覚に陥る。

この二人、どこかかぶってる?


「で、その伝説でいう『龍女(りゅうにょ)』というのが、

 僕たちが呼ぶ『鬼』にあたるんだけども……」

「えぇえ――っ!? 龍女って、怖い鬼のことだったの――っ!?」 

「そう。で、君がここから出るには、

 顕現界の主である龍女・探女(さぐるめ)に、

 報告なり連絡なり相談なりをしなければいけないっていう仕組なんだが……」


なるほど。

いわゆる【ほう・れん・そう】ね! 

って、新入社員のビジネスマナーや上司と部下じゃないんだから! 

それと、探女っていうのは名前なの? 変な名前のオンパレードね。


「それも探女が納得しないと、

 この世界から出させてもらえない可能性もある」

「納豆?」

「納得。響きが似てるな。

 ――だからこれは賭けでもあるんだ。

 なんてったって探女は、『天邪鬼』だからな」

「顕現界の主かぁ……」


納豆地獄へと導く、

閻魔大王の大迫力の強面(こわもて)を思わずにはいられない。


――でも天邪鬼って、どこかで聞いたことがあるけど、

あれ……、どこでだっけ? 

それに賭けって……。

その賭けに負けたらどうなるんだろう。


不意に一抹の不安を抱く。 

もしかしたらこの二人も賭けに連敗中だとか? 

それで長年閉じ込められて、

その結果得られた情報がさっきの話だったら、

それはそれで哀れすぎる……。

私の抱いた一抹の不安なんて可愛いものだ。

ここの住人になってしまっている彼らに同情を禁じ得ない。

 

すると沙羅さん、

おもむろに自分の首からあのシャラシャラ小気味よく奏でる首飾りと、

腕に巻いていた腕飾りを外して、私に与えようとしている。

レンタル料は無料ですかね?


「この瓔珞(ようらく)腕釧(わんせん)を身につけていきなさい。

 より強力な魑魅魍魎には、この魔除けの御守がないと、

 瘴気(しょうき)に満ちたこの先を突破できないわ」


――どんだけ強力な瘴気の中を、突破させるつもりでいるんだか……。


ちなみに瓔珞というのは珠玉や貴金属に糸を通して作られた、

沙羅さんの首から胸元にかけられていた飾りのことで、

腕釧というのは同じく沙羅さんが上腕にしていた飾りを指しているようだ。


――そういう名称だったのか……勉強になりますな。


それと、この派手派手のまぶしい装飾品が実は装身具――

つまり、お守りという奥深いものであることを知って、

見た目に反してずいぶん派手な人なんだなーと、

沙羅さんを見て思った私は、

瘴気に呑まれて永遠にもがき苦しめばいい。

ごめんなさい。

 

沙羅さんはともかく、

稚津彦って人は名前こそ古代人っぽい名前のようだけど、

英語やフランス語、それに『魔女っ子』だのを口にしている以上、

おそらく現代人だろうし、

神社と洋館がコラボってるのも掴みどころがない彼のセンス……

だろうと模索する。

森と建物もこの人たちが作り上げたものだろうし、

私のこの格好といい、

純粋に強く願ったことが叶う世界なんじゃないだろうか、

顕現界というのは――。 

 

沙羅さんには耳飾りだけが装身具として残されていたが、

いつなにが襲ってくるかわからないこの世界で、

果たしてそれだけで身を守れるのだろうかと私は不安になった。

しかし一個あれば充分だそうで、

なくても気合と気迫でなんとかなるんだそうだ。

 

――気合と気迫でって、格闘家じゃないんだから……。



  



山登りに滑落にいろんなことがあったにもかかわらず、

私のお腹が空腹を訴えることもなかった。

なのに沙羅さんは「とりあえずお茶にしましょう」と、

直前の緊張感を振り切るように私たちを家の中へ招き入れ、

テーブルと椅子のある部屋へ通すと、

お茶と和菓子を用意してくれた。

しかし、そのお茶をすすってみると緑茶のようで緑茶ではなく、

和菓子を食してみると和菓子ではない摩訶不思議な味と食感で、

なにでできているのかなんてことは怖くて訊けなかった。

昔の食べ物だと信じたい。

 

その後は、稚津彦が沙羅さんに陶然と愛を注ぎっぱなしだったので、

三人でいても二人だけの世界に感じられ、

その辺りを散歩してくる(むね)を伝えて、

私は沙羅さんの家を出たのだった(見ていられなかったので)。

迷子になりたくなかったので、

あらかじめ家の周りをうろつくだけだと告げて。


玄関の扉を開けた瞬間から、

充満している森の香りと神気に私は包まれる。

この周囲だけは、

錯覚を起こしかけるあの白い空間とはまた別世界の異空間みたいだ。

沙羅さんの作り出した幻想の森かもしれないが。

天蛇山不動尊にいた時のように清々しい気分で、

身を自然に(ゆだ)ねられる。

(くす)しき脆弱(ぜいじゃく)な静寂――。

ということは、あの水バスも幻、

それとも水が形を変えたものなんだろうか。

龍脈という水脈? 

龍女の元へ繋がっていることを指し示すもの?


「頭いた……。宇藤じゃないんだから考えるのはよそう」

 

考えれば考えるほどよくわからなくなってくる。


「そういえば宇藤の奴、なにしてるかな……」


懐かしく感じるクラスメイトの顔がふと浮かぶ。

もしここにいないとすれば、

おそらくは病院に搬送されているだろう。

意識不明の重体になっていないといいけど……。

 

――お前だけは絶対守る――


そう言って強く抱きしめられたことが、もう遠い昔のようだ。

あんなことを言われるなんて、

あんなふうに抱きしめられるなんて全然思ってもみなかったから、

私はあの瞬間を思い出すだけで胸が苦しくなる。

だから、自分の身体を抱きしめた。

今頃宇藤は、この身体を守ることができなかったと、

嘆き苦しんでいるんじゃないだろうか。

きっと自分を責めているんじゃないかと思うと辛くなる。

だからはやく元の世界へ戻って、宇藤に会いたい――。 


「そういえばあの時宇藤、あの状況下で、

 『ここにこられてラッキー』とかなんとか言ってたけど、

 あれ、どういう意味なんだろう? 

 ……きっと、宇藤もパニクってたのね」

 

自分がパニック中だったので、あんまり頭に入っていなかったけれど。

あいつはなにを言いたかったのだろう……?

路傍の石の上に腰をおろして「石の上に三年は無理よね」と、

意味もなくつぶやきながら、

深く息を吸い込んでは吐き出すを繰り返していると、

突然――ガサガサガサと、近くの茂みが乱暴な音を立てた。

刹那に、背筋が凍った私の心拍数は跳ね上がった。


「なに、獣……?」  


反射的に立ち上がって、

ステッキを握りしめて我が身を守る体勢に入る。

せいぜい小動物だろうと信じたかったが、

そこに立ちはだかる想定外の黒い影に私は卒倒しかけた。


……く、熊――ッッ!? 今度こそ本物の熊ッ!? 

冗談! あり得ない! 

なんでこんなとこにまでいちゃってんの! 


私は滑落した時以上にパニックになる。

あ、あ、あああ足が動かない……。

こういう時はどうすればいいんだっけ!? 

し、死んだふり……は、かえって襲われるらしいし、

あ、思い出した! 

め、目をそらさないよう、

ゆっくりと後ろへ下がっていくのが一番いいんじゃなかったっけ? 


ガクガクドクドク……。


恐怖と緊張で震えながら、

私はやっとのことで片足を後ろへ一歩、退けることに成功する。

でも、もう一方の足が、さが、さが、下がらな……万事休す! 

私ってばこの顕現界で、また新たに死んじゃうんだろうか?


「――山上!?」


え? く、く、熊がしゃべった!? 人面!? 

……って――


「う、宇藤!?」

 

完全に声が裏返る。

歯も噛み合っていない。

私は宇藤そっくり人面熊を前に、

腰を抜かしながら口をパクパクさせていた。

気が抜けて、ヘナヘナ~~……ペタンと地面に座り込む。


「山上お前、なんつー格好してるんだ?」


熊の着ぐるみを着た宇藤が、

のっしのっしと直立歩行でこちらへ向かって歩み寄る。


「――い、今の言葉、そっくりそのまま返してやるわ。

 あんたこそなんでそんな格好でうろついてんのよ! 

 紛らわしいのよ!」

「知らないのか? 

 【ゴスランド・デ・ポルタフス・デュ・アーロンゲルグク・

 プッジョ二ーファン・ボボジョロフス・ビー】君を?」

「知るか! なによその長ったらしくて、取ってつけたような名前!」

 

マニアックな絵本のキャラクターかなんか!? 

それともどっかのゆるキャラ!? 


「略して【ゴス・ビー】君だ」

「だったら最初から略して言えばいいのよ!」

「そうはいかない。

 見た目はこのように愛らしい癒し系だが、

 芯はとっても強いんだぜ。

 昔読んだ絵本のキャラクターなんだが、

 このままゆるキャラでやってもいいんじゃねーのってほどの愛らしさだ」


なに私と以心伝心してんのよ! 


「だからなんでそんな格好してんのかって訊いてんの!」

「そんな格好って、

 つまりこの【ゴスランド・デ・ポルタフス・デュ・

 アーロンゲルグク・プッジョ――」

「そう! その【ゴス・ビー】の!」

 

懐かしい宇藤との会話になぜか感極まる。

以前にはなかった気持ちだ。

こんなに楽しく感じたことはないかもしれない。

どうした私!?


「いや、俺もよくわかんねーんだが、気づいたら、

 昔激しく憧れていたこの格好でこの近くにいた。

 ……でもお前こそ、その格好恥ずかしくねーの?」

 熊の着ぐるみ仕立てのあんたが言える口か?

「知らないの!? 【魔法少女シェルニー】ちゃんを! 

 後は以下同文、私もあんたと同じ理由でこの姿」

 

顕現界ってくらいだから、

望みの叶う世界ってことなんだろうか。

だからってなんでそんな小さい頃抱いた憧ればかりなんだか。

より穢れなき時代の、純度の高い無邪気な夢しか

叶えてくれないってことなんだろうか……?

 

ふと宇藤が、

冷めた視線で私の全身を舐め回すように見ている。

視姦(しかん)!?

私もミニスカートなんてはき慣れていないから、

なんだか急に羞恥心が沸き起こってきた。

今までこんなことはなかったのに、

妙に自分の足を意識してしまっている。

細くて長いカモシカのような足と賞賛されたこの美脚を、

私は慌てて両手でサッと隠すが、

それよりはやく宇藤が目をそらしてくれた。

ホッ……。


「それより山上、どこもケガはしていないのか?」

 

――あ、そういうこと……。

私が怪我をしていないか確認してくれていたのか。

視姦してると勘違いしてしまったけど、私に非はない。


「え? う、うん。大丈夫。

 どこもケガしてないし痛くもない。全然平気。あんたも?」

「ああ、まったくの無傷だ。

 これも日頃から、自己を啓発しているおかげかな」

「はいはい」


彼は応えながら手を差し伸べると、

聞き流す私を気遣ってその場に立ち上がらせてくれた。

突然の優しさに、抱きしめられた光景が脳裏をかすめ、

私は顔が火照りだす。

胸の奥が熱い……。


「山上は涼しそうでいいな。

 俺もせめてこの着ぐるみを脱げたらいいんだけどな」

 

見れば宇藤は、頭部分だけはかぶりものを外しているが、

そこから下は暑苦しい。


「下も脱げばいいじゃない」

「いいのか? 中は裸だぞ?」

「一生脱ぐなっ! この変質者!」

「てっ!」


私は変質者の頭にステッキを振り落とす。

いつかのお返しだ。

風を送ってやろうかという優しさも一瞬芽生えていたのだが、

電池がもったいないのでやめた。

なにはともあれ、宇藤が無事(?)でいてくれてよかった。

この顕現界でも一緒で……よかった……。 



 


――この後、熊宇藤だか宇藤熊だかを連れて、

沙羅さん宅へ戻ると、

「君が噂のうとう……君か? 

 (てぃあら)ちゃんと一緒に落ちてしまったんだね」と、

爽やかな笑みで宇藤に握手を求める。

しかし当の宇藤は、稚津彦を見るや否や唖然とし、その後も無言でいた。

最初の私がそうであったように、

きっと葦原先輩とそっくりなので驚いていたのだろう。 

どこか不機嫌なのが意味不明だが。


「宇藤、こちらは稚津彦……さんと、この家の持ち主の沙羅さん。

 一時的にお邪魔しているだけなんだけど、

 これから私たちはここから出るために、

 龍女の探女に会いに行かなきゃならないの」

 

それからひととおり説明をするが、

まだ溶け込んでも呑み込んでもいない宇藤は、

何度か首肯するだけで自分から

質問を投げかけることはしなかった。

時折賛美めいた言葉を発する稚津彦を見やりながらも、

複雑そうな面持ちで時に嘆息を漏らし、

どこか上の空だった。

 

苦手――なんだろうか……?


私も稚津彦は苦手だけど、きっと宇藤ほどではない。

啓発バカと賛美バカのイッちゃってる者同士は、

すぐにでも意気投合すると勝手に思っていただけに、

余計に意外に思えた。





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