第四十八話「体育祭準備完了」・1
俺は常々思う。うん、俺ってなんて無力なんだろう。星空先輩に協力することで俺の力が彼女を勝利に導くはずだった。確かに、そんな根拠はどこにもないわけだが、それでも相手に信じてもらっている以上成し遂げるしかなかった。だが、その上での敗北……。
しかも条件で体育祭実行委員会の敗北は、星空先輩と北斗七星の二人を含めた計三人の屈辱を意味する。そう、文字通り屈辱を味わされるのだ。
「ふっふっふ、年貢の納め時だな……星空叶愛。覚悟はできてるんだろうな? 今更言い訳は聞きたくないぜ? さぁ、お楽しみタイムの――始まりだッ!!」
そう言って指を鳴らす亮太郎。同時、日暮里と鶴吉がその場から動き出し、三人を捕らえようとする。
「くそ、てめぇら何なんだよ!」
「や、やめてください、放しなさい!!」
「ぎゃははは、何もかも遅ぇって言ってんだろ? はなからお前らの負けは決まってたんだよ! それなのに無理な条件をつけっからそんなことになんだ!! これに懲りて来年からは邪魔しないこったな!!」
本物の悪役に成り果ててしまった亮太郎は、高笑いをあげながらこの場から退散しようとした。しかし、それを止めるものが一人――俺だ。
「待て、亮太郎!」
「ん? 何だ神童。お前も俺達がこれから行うお楽しみタイムに加わりたいのか? いいぜ? 何せお前は俺達の協力者なんだからな……」
「し、神童くん……それは本当なの!?」
亮太郎の言葉に驚愕の表情を浮かべる星空先輩。北斗七星の二人――丑凱先輩と七星先輩も驚いている様子だ。
「信じらんねぇ……てめぇ、先輩を裏切ったのか?」
「やっぱり、あの時しつけておくべきっだったみたいですね……」
若干一名は物凄く恐ろしいことを口にしているが、そんなことを言われても仕方ない。それ相応の事を、俺はしてしまったのだから。
「すみません……。でも、俺はこいつらに全てを話したつもりはありません。双方に有利にならないように振舞っていたつもりです」
「どういうことかしら?」
疑問を口にする星空先輩に俺は説明した。
「俺は両方がそれぞれ常に同じ地位にいるようにしたんです。委員会が有利になれば、変態軍団も有利にし、変態軍団が不利になれば、委員会が不利になるように」
「ちっ、神童……お前そんなことしてやがったのか」
「ヘッヘッヘ、神童……てめぇもなかなかの策士だなぁ。まさかんなこと考えてやがったとは」
日暮里が俺を見直したかのような目で見てきた。
「でも、どちらにしても遅いゼ? 準備は全て整え、残るは本番に向けて練習を積み重ねるだけだゼ! く~っ、楽しみになってきたゼェェェ!! 久しぶりの女子生徒のあられもない姿が拝める……こんなに嬉しいことはないゼ!」
鶴吉も体育祭本番の光景を想像――いや、妄想してニヤついた笑みを浮かべる。
「まぁ、そういうわけだ。……で、何かあんのか? それ以外で俺に言いたいことが」
「ああ。亮太郎、もう一度、チャンスをくれないか?」
「何?」
明らかに嫌そうな顔つきになる亮太郎。まぁ、無理もない。これからお楽しみタイムだというのに、それを邪魔されそうになっているのだから。
「やっぱり勝敗を無関係の人に委ねたのは納得がいかない。こうなったら、自分たちの本気で勝負にカタをつけないか?」
「はん! そんな手にボスが引っかかるとでも思ってんのか? もしそうだとしたら、余程てめぇは馬鹿だぜ神童!」
「そうだゼ! ボスがそんな安っちょろい挑発にのるわけないゼ!!」
確かに普通ならばそうだ。だが、伊達に亮太郎との付き合いが長いわけではない俺には、亮太郎の特性がよく分かっていた。
「……いいだろう」
『うぇええええええ!?』
自分たちのボスの返答に度肝を抜かれて驚きの声を発する二人。まぁ、無理もない。こんな安い挑発に亮太郎が乗っかってしまったからだ。
「やっぱり勝負は真剣でないとな」
そう口にする亮太郎は、物凄く自信満々だった。余程勝てる気でいるらしい。
「で、勝敗はどうやって決めるんだ?」
「体育祭実行委員会は全クラスにいる。それはお前らもだ。だからそれじゃあ勝ち負けは決められない。で、そのクラスが所属するチームカラーがあるだろ? だから、その白と黒で勝敗を決めるんだよ。そうだな、白が勝ったら体育祭実行委員会が勝利。黒が勝ったらお前ら変態軍団が勝利ってのはどうだ?」
「ん? よく意味が理解できないんだが……どういうことだ?」
理解出来ていないようなので、もう一度俺は説明することにした。
光影学園は白黒のチームで戦うことになっている。そして、そのクラス分けはまだ行われていない。だから、もしかすると体育祭実行委員会よりも変態軍団が多く所属するクラスが白ブロックかもしれないし、体育祭実行委員会に所属する人数が多い方のクラスが黒ブロックかもしれないのだ。なので、変態軍団が頑張って白ブロックを勝たせた場合、体育祭実行委員会が勝ってしまうのだ。ちなみに、黒ブロックに多く変態軍団の所属するクラスが入団する可能性もある。そうなれば、圧倒的有利になることもある。だが、逆に黒ブロックに変態軍団が物凄く少ないという可能性も無きにしも非ず。さらに、白ブロックに変態軍団が多く入団したとしても、わざと負ければ勝つことも出来るのだ。
これらを全てひっくるめていうなれば、要は運次第ということだ。どちらが勝つかは後日発表される各々のブロックにどのクラスが入るかだ。
というわけで、今回はそういうことで解散することとなった。
何とかその場は回避したものの、確実に勝てるかの保証は俺にもない。
とりあえず俺は不安なことが複数あったので、自分の教室へと急いだ。
――☆★☆――
「実際の所、体育祭ってどんなことするの?」
その唐突の質問に、俺は唖然とするしかなかった。そりゃそうだろう。今頃になって体育祭でどんな競技をするのか知らないなんて。まぁ、確かにクラスで種目の発表があった際にも瑠璃や麗魅、護衛役の面々はそんな反応を示していたからな。
「はぁ、……種目内容は覚えてるか?」
「ええと、確か……ボコボコ戦争とかあったよね?」
「ピコピコな」
恐ろしいワードに俺は盛大にツッコむことも出来ず、半眼を作るだけになってしまった。しかも、魔界の住人であるこいつらがボコボコとか言ったら本当にそうされそうで怖いったらない。
「後は……ムカデ食い競走?」
「グロいわッ!! もれなく一面モザイクかかりまくりだよッ!! それムカデ競走とパン食い競走合体してるからッ!!」
さすがの俺も、これにはオーバーなくらい激しいリアクションでツッコまなければならなかった。
「他にもあったぞ! 確か、スナイパーを肩車して目標の人間を狙撃するという――」
「最早何の競技だよ!! それ内容誤ってるから!! 担ぐのはスナイパーじゃなくて子供! それ親子競技のやつ!! 何で生徒がスナイパー肩車しないといけねぇんだよ!! んなことやったらこっちが狙撃されるわ!! 子供も大泣きだよ!!」
霄が人差し指を立てて自慢気に説明するので何事かと思えば、案の定思い切り誤解して理解している種目内容だった。
「はぁ……これは一から種目について言わないといけないみたいだな」
こうして俺は今年行われる体育祭の種目を説明していった。
今年行われる種目内容は全部で二十種目。
『跳ねろ、弾め! 巨大縄跳び!』『天を掴め! 雲梯のサイドツアー』『弄り当てろ! 何がインしてるでショー!』『ウネる変な道を御足で進め! 七転び八起き!』『不快な感触を乗り切れ! 匍匐前進!』『懇願要求、童顔女子の借り物競走』『抱き合い進め! ヌルットの滝』『仮装バトンリレー』『綱引き』『○×クイズ』『ピコピコ戦争』『お宝探し』『棒引き』『大玉転がし』『二人三脚』『ムカデ競走』『UFO』『美脚レース』『パン食い競走』『親子でスナイパー』……。これらが種目名だ。
前半はほぼアレなのは理解出来るだろう。無理もない、変態軍団の作った競技だからな。で、後半は多分殆どの人が知っているだろう競技名だ。まぁ、結構ベタなやつとかもある。
「――ふぅ、分かったか?」
事細か――というわけではないが、ある程度かいつまんで説明はした。理解出来たかどうかはこいつらの脳内処理の出来次第だが……。まぁ、入学試験の時に偏差値が凄まじいことになっていたんだから、これくらいは大丈夫だろう、多分。
「けど、ぶっつけ本番ってのはやっぱ無理なんじゃねー?」
頭の後ろで腕を組む霙に、ふぅむと俺は唸った。明日も体育祭の準備とかで午前で帰れたはずだし、それから練習すれば結構鍛えられる可能性はあるな。
「そうだな、練習……しとくか!」
「それがいいだろう、いい体の運動にもなる。近頃また剣の腕が鈍りだしてな――」
「おい、体育祭で剣は使わねぇぞ?」
「何、そうなのか!?」
――何でそこ驚くの!? 当たり前だろ!!
霄のこの調子では明日からの練習が不安だ。まぁ、護衛役の内の何人かは参加しないし、大丈夫だろう。霞さんと雫は応援に来るだけだし……。まぁ、保護者の参加出来る綱引きと、親子でスナイパーに嫌な予感がするが。
次の日、クラスで白ブロックと黒ブロックの発表があった。俺達一年二組は、白ブロックだった。これで亮太郎達は全くやる気を出さないだろうな。ちなみに、変態軍団の残りの八人の幹部が所属するクラスは全部黒ブロックだったとのこと。これで、そのクラスは例え女子がいても競技中に猛威を振るってくるだろう。また、体育祭実行委員会の方も数人が白ブロックだったとのこと。
放課後。俺は瑠璃達と帰宅した。
家に帰り玄関扉を開けると――。
「おかえりー♪」
と、明るく霖が俺達を迎えてくれる。あぁ、家族が誰もおらず家で一人寂しく「おかえり」「ただいま」を自問自答の様にやっていたあの頃が懐かしい。まぁ、黒歴史なので今更戻りたいとは思わないけど。
「今日は練習するんだっけ? 私にできることがあったら言ってね? 何でも協力するから」
「な、何でもっ!? じゃ、じゃあお姉ちゃんと一緒に――」
「露さんッ!!」
「ご、ごめ~ん」
あまり罪悪感の感じられない謝罪を口にする露さん。全く、すぐにこの人は変な言葉の受け取り方をしやがる。
「じゃあ、まずは何から練習しようか……。てか、お前らまず自分の出る種目知ってんのか?」
ふと思った疑問を口にする。すると、瑠璃が挙手して言った。
「私と麗魅ちゃんはこれに出るんだよ?」
そう言って今日配布された体育祭パンフレットに書かれた種目内容のある一種を指差す瑠璃。そこに目を向けてみれば、そこにはこう書かれていた。
「ゲッ、よりにもよってこれかよ……」
俺があからさまに嫌そうな反応を示したのには理由がある。それは、種目名だ。
抱き合い進め! ヌルットの滝……これは同じクラスの日暮里と鶴吉が考案した種目だ。だが、これは本来美乳と微乳を観賞するためだったはず。
――瑠璃は……明らかに対象外だろ。まぁ、麗魅は当てはまるかもしれねぇけど。
内心そう呟く俺の視線は、二人のある一点に集中していた。すると、その視線に気づいた麗魅が顔を真っ赤にして文句を言ってきた。
「なっ、何人の胸ジロジロ見てんのよ変態っ! しかも、今あんた私の胸見て失礼なこと考えてなかった?」
「な、んなことねぇよ!!」
――っぶねぇ、バレるかと思った。
危機が去ったのを確認し、安堵する俺。すると、今度は霊が八重歯を光らせながら開口する。
「私は大玉転がしだよ♪」
「霊らしいな。似合ってるよ」
まぁ、猫だしな。
「これって、どんな競技なんですの?」
霰の質問だ。霊を溺愛しているが故の心配だろうか? まぁ、死ぬようなことはないから心配無用の様な気もするが……。
「ええと、まぁかいつまんで言えば大きな玉を転がす競技だ」
「そのまんまじゃありませんの!」
「だからそう言ってんだろ? まぁ、霊なら楽勝じゃね?」
「でも、これ結構大きいんだよね? 大きすぎて前見えないんじゃないかなー?」
霊がピョコピョコと猫耳を無意識に動かしながらそう口にする。と、その言葉に俺は心配ないとこう言い返してやった。
「この種目は二、三人でやるんだ。だからちゃんとゴールが見える。心配すんな! ただ、一人で暴走してゴールじゃないとこに突っ込むんじゃねぇぞ?」
「は~い」
――ホントに分かってんのか、この能天気猫娘は……。
「響史響史! この種目は何だ?」
俺の服をぐいぐい引っ張って教えるように命令するのは霙だった。相も変わらず女の子のクセにあぐらなんかかいている。確かにズボンならいい。ただ、こいつはスカートを履いているのだ、しかもミニスカを。そりゃあ見えるのも致し方ない。
はぁ、少しは女の子っぽく振る舞えないものだろうか?
「ええと――」
俺は種目内容を確認して納得する。ピコピコ戦争だ。
戦争なんてついているから適役なのかと言うとそうではない。これは騎馬戦の一種だ。違うのは帽子を取るのではなく、ピコピコハンマーで敵の騎手が被っている風船付きの帽子を殴るというものだ。それで風船が割れるか、もしくは騎馬が崩れれば相手の勝ちというもの。
で、何で適役かというと……。霙の武器がハンマーだからだ。ただし、一つ危惧することがある。
「霙……、お前はこのルールを覚える前にまず力加減に気をつけろよ?」
「なんでだよ」
「何でって……お前が全力でピコピコハンマーを振り下ろしたら本物のハンマーと同様の威力に成りかねねぇからだよ!!」
現に俺はこいつの脅威を今まで嫌というほど見せつけられてきている。不良の一件も含めて……。
「……分かったよ」
少し納得の行っていない様子で、頬を膨らませる霙だが無理やりにでも納得してもらわなければこっちが困る。
と、次は静かな声音で何者かに名前を呼ばれた。
「……私はこれに出ます」
そう言って種目内容を指差していたのは一人中等部である零だった。ええと、なになに?
「――嘘だろ」
信じたくなかった。それは、懇願要求、童顔女子の借り物競走だった。またしても変態軍団の七つの贖罪の一つだ。内容はよく分からないが、多分借り物競走の一種だというのは名前からも理解出来た。だが、それ以外は分からない。特に、懇願要求というのは何だろう?
「悪い、零……こればかりは俺にも分からない」
「そうですか……」
少ししょんぼりしてしまう零に、申し訳なさが募る俺。
「まぁ、実際にはこれではなくパン食い競走に出るのですが」
――あの零が俺に嘘を!?
あまりにもの意外な出来事に驚きを隠せない俺。
「そ、そうか……」
「ツッコまないのですか?」
「え?」
「姉上達にはツッコんでくれるのに……」
――ぼ、ボケ……だったのか?
「じゃあじゃあ、私が突っ込んであげるよ、零ちゃん!」
「露姉様は黙っててください」
「酷いっ!?」
涙目でショックを受ける露さん。自業自得だ。
「響史、私が出るのは火葬して罵倒して礼をするものだと聞いたのだが、一体何なのだ?」
「え? 何それ……そんな競技あったっけ?」
さすがにそんな競技名は七つの贖罪にもない。いや、まず体育祭の種目にあったか? すると、体育祭パンフレットを眺めていた霞さんが口を開いた。
というわけで、なんとかもう一話あげることに成功しました。そして、今回の話は久しぶりにメインのヒロインたちにスポットライトを当てる話です。いやはや、相も変わらずこの子達との会話では響史のツッコミが炸裂しまくりですね! そして、今回ようやく体育祭で行う種目を明らかにできました。本番は四十九話からです!




