第四十六話「響史に秘められし能力」・4
「どうぞ」
「あ、どうも……」
お礼を言いつつ誰が注いでくれたのだろうと顔を伺うと同時、俺は愕然として言葉を失った。なぜならその人物は俺がよく知る人物だったからだ。
「ゆ、ゆう姉?」
「あれ、もしかして……響史くん?」
メイドの格好をしているゆう姉に一瞬人違いかとも思ったが、相手も俺の名前を知っていることから確信を得る。しかし、どうしてこんな所にゆう姉が?
「どうして、ここに?」
俺が率直な疑問をぶつけると、ゆう姉はさも当たり前のような顔で説明した。
「そりゃそうだよ。だって私は、生徒会の一人なんだから!」
「せ、生徒会!?」
その単語に俺は我が耳を疑った。あのゆう姉が、お気楽でいつも能天気なゆう姉が生徒会などに所属しているとはとても思えなかったのだ。確かに失礼だということは分かっている。
「で、でも……生徒会がどうしてここに?」
「え? そんなの当たり前だよ。だってここは、生徒会室なんだから!」
ようやく分かったこの部屋の正体。そう、ここがこの光影学園の生徒会室だったのだ。な、なんてこった! いつの間にか俺は星空先輩に手を引かれて生徒会室にまでやってきていたのか!
「せ、先輩! ど、どうしてここに?」
「体育祭実行委員会も一応生徒会の一部よ。なら、ここで作戦会議を行っても何ら問題はないでしょう? スパイだって、あなたが内情を調べたのだからスパイがいたら知らせてくれればいいし……」
「そりゃ、そうですけど……。生徒会長から許可は降りてるんですか?」
「え? 許可も何も、本人がここにいるのだからOKでしょ?」
その言葉に俺は首を傾げた。本人? どういうことだ?
「すみません、本人って……え? 生徒会長がここにいるんですか? 一体どこに?」
「さっきからいるじゃない! ほら、そこの机に向かって作業を行っているのが、生徒会長よ!」
「えええ!? こ、この人が生徒会長!?」
思わず俺は失礼極まりない発言をしてしまった。その言葉に先程までカキカキと何やら書類に文字を書き連ねていた生徒会長様がその手の動きを止める。
「……私が生徒会長では、不服ですの?」
「いえいえ、決してそのようなことは! ただその……俺、生徒会長が誰だか知らなくって」
「ち、ちょっと神童くん! それ、本気で言っているの?」
あまりにも意外な発言に星空先輩が目を丸くして俺に訊いた。だが、俺は冗談なんかで言っているわけではない。本当に生徒会長の顔を見たことがないのだ。そういえば、先刻ぽっくんとか呼ばれてる男子生徒が撮ってきた写真が生徒会長の物だって言ってたな。その時に確認しとけばよかった。
「す、すみません……どうも最近物忘れが激しくて」
「あらあら、それは大変ですわね。その年でもう老化現象でして?」
「あはは……。実は小学生の頃に少し頭をやっちゃって……その後遺症で人物とかその家の場所を忘れることがあるんです。だからそれで……」
「そうでしたの……気に障ったんじゃありません?」
「いえ、そんなことは」
「響史くんそれってもしかして――」
「ゆう姉! その話はやめてくれ」
「あ、ご、ごめん……」
ゆう姉が話そうとしたのは、俺の身に何があったのかを知っているからだ。だが、それをここで話しても星空先輩と生徒会長に迷惑をかけるだけだ。それに、過ぎたことを悔いても仕方ない。それに後悔はしてないんだ。
「それで、集まった理由は?」
「ええ、まずは敵の内情についておおまかに知らせてくれないかしら?」
星空先輩の真面目な表情に、俺もつられてコクリと真剣な面持ちで説明を始めた。
「敵の居所は俺もよくは分かりません。どうやら場所を点々と移動しているようで。幹部は全部で十人です。あと、名前までは分からないんですけど生徒会のスパイというのはぽっくんと呼ばれてる人です」
「ぽっくん?」
聞いたことがないという顔をする生徒会長と星空先輩。お互い首を傾げている。まぁ、それも無理ないだろう。
「あと、幹部にはそれぞれ二つ名が付けられてるようで、それぞれ様々なフェチを持っているらしいです。それと……これが有益な情報になるかは分かりませんが、どうやら変態軍団は一期生の時代からあるみたいです」
「一期生の時から!?」
それを聞いて星空先輩はもちろん生徒会長も目を丸くしていた。
「一期生……そういえば、その一期生のある人物が変態軍団の初代ボスに君臨したというお話を聞いたことがありますわ」
「恐らくそれです」
生徒会長の言葉に俺が頷く。
「なるほど……変態軍団は、何か今後の作戦を立てていませんでしたか?」
「はい、全ては全校生徒の最終種目決定次第だと」
「そう……。なら、その言葉に応えてあげましょう」
「え?」
俺がきょとんとしていると、扉が開かれ北斗七星の二人ともう一人見知らぬ女子生徒が入ってきた。頭部に貝殻の髪留めをつけている。
「お待たせしました、星空委員長。開票の準備は整っています」
「ふぅ、心積もりは出来ているつもりです」
覚悟を決めたと言わんばかりの顔つきになる星空先輩。その意思に女子生徒も頷き、開票の準備を整えた。テーブルにいくつか箱を置き、その中身をテーブルの上にバラまく。
「あれ? でも、俺こんなの答えた覚え……」
と、俺が頬をかきながら首を傾げていると、星空先輩がキッとこちらを強い視線で睨めつけてきた。
「な、何ですか?」
顔をヒクつかせて尋ねると、星空先輩が上目遣いで言った。
「神童くんはもちろんNOに入れるわよね?」
「え、あ、ええと……」
どうしようか迷う俺。いや、迷う必要なんかないんだけどさ。どうも先輩の反応が面白くて焦らしてしまう。
「NOに入れてくれないと……ぐすっ」
「あぁああああああ、入れます入れます入れますよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ここで泣かれたらまたあの悲劇が再現されてしまうので、俺は慌ててNOと書いた紙を開票係の女子生徒に手渡した。
「確かに」
女子生徒は明るい笑みを浮かべてそう言った。
それから数十分後、開票結果が出た。
「それで、結果は?」
「うぅ……ぐすっ」
――あぁ、ダメだったんだ。って、泣かないでくださいよ!!
「だ、大丈夫ですって! まだ職員枠が残ってるじゃないですか! それに、この学園の職員は確か女性の方が多かったはずですし!」
「でも……校長はどっちに、入るの? ぐすっ」
――あっ……。いたね、そういや。
結局その後は、職員枠に希望を乗せるしかなかった。オカマ校長が女枠に入る事を祈るしかないな。まぁ、本来は男なんだろうけど。本人が女って言い張りそうだしな。
そんなわけで今日一日は幕を閉じた。体育祭開始まで残り一週間。体育祭に向けての練習も確実に本格化してきている。俺の体もあちこちが痛いぜ。
「それじゃあ、また明日……よろしくね?」
「はい」
軽く挨拶を交わし、俺は星空先輩と別れて荷物を取りに教室へと向かった。
教室に着くと、そこには既に生徒の姿は殆どなく、残っていたのは俺の帰りを今か今かと待っていたらしい護衛役と瑠璃麗魅の二人だった。
「悪いな、遅くなっちまった」
「全くだよ! こんな遅くまで何やってたの響史!」
ぶ~と可愛らしくほっぺをふくらませて怒っている瑠璃に、俺が申し訳なさそうにしながら謝る。だが、その内心はほっこりしていた。魔界の人間である彼女たちとこんなにも平和的会話が出来るのも全ては共存しあっているからこそ。今後もこの関係が続いていけばいいなと強く思う。
「響史、体育祭の練習の件なのだが」
そう言って俺に話を切り出してくるのは、護衛役の一人である霄だった。
「ん、どうかしたのか?」
「どうにも障害物競走というのが分からなくてな」
――まぁ確かに悪魔にとっちゃそういうのは分からないのかもしれないな。仕方ない、ここは少しだけでも説明しておいてやるか。
「障害物競走ってのはな? 例えば、麻袋を履いて跳んで先へ進んだり、ハードルを飛び越えたり、とにかく障害物を乗り越える競技なんだ。まぁ、その障害物を乗り越える時の達成感っていうの? そういうのを楽しむみたいな感じかな」
「うむ……なるほど。しかし疑問だ。なぜ、障害物を斬らない? 切り落としていけば、楽に先へ進めるのではないか?」
――相も変わらず何言っちゃってんのこの子は! そんなことしたら障害物競走じゃないだろ!!
「と、とにかく、体育祭当日は残空刀禁止だからな?」
「分かった……腕が鈍ってしまいそうでいささか不安ではあるが、致し方あるまい」
ここは素直に聞き入れてくれて本当に助かった。もしもこれでいうこと聞いてくれなかったら大変なことになるところだったよ。七つの贖罪がどうとか以前の問題だよ。だって血みどろの体育祭が開催されてしまうからね!
「ねぇ、この玉入れっていうのは?」
次の質問は麗魅からだった。意外だな、こいつが俺に質問してくるなんて。
「えと、玉入れは係りの人が設置して支えている棒に括りつけられた籠にチームの色の球を入れる競技だ。まぁ、数で競って数が一番多かったチームが勝ちって感じだな」
「へぇ、意外にも単純な競技なのね」
――当たり前だろ!? むしろ単純じゃない競技って何!?
「なぁなぁ響史! その球ってさ、金属? それとも合金?」
「うん、布だね。何でそんな硬いもん投げねぇといけねぇんだよ! 誤って誰かの頭に当たったりしたらどうすんだよ!」
「そんときはそんときさ!」
「責任取れよぉぉぉぉぉぉ!!!」
――いかん、どうも護衛役のやつらと会話を交わすと大半がツッコミに切り替わってしまうのはなぜだ?
「とにかく帰るぞ。急がないと霖や雪、それに霞さんが家で待ってるからな」
「ダメだよ響史、叔母さんも加えないと!」
「あ、ああそうだな……」
一瞬叔母さんという言葉に誰だっけと思ってしまうが、よくよく考えてみればルナーのことだと思い出す。なにぶん、あの顔立ちのためどうにも叔母ではなく従姉妹に見えてしまうのだ。
とまぁ、そんなことを言っているうちに自宅前。
「ただいま~」
「おかえり、お兄ちゃん! ごはんの準備できてるよ!」
毎日の事ながら明るく出迎えてくれる霖。その格好はいつもと変わらずエプロン姿だ。お茶目にもほっぺたにクリームをつけている。何やらデザートでも作ってくれていたのだろうか?
そんな詮索はさておき、俺は玄関へ入る。
「すぐにごはん食べるよね?」
「ああ」
バッグをそこいらに置き制服を脱ぎながら俺はそう答えた。この後のスケジュールは決まっている。部屋着に着替えて晩ごはんを食べるのだ。それから風呂に入り、部屋に向かい、寝巻きに着替えて床に就くのだ。無論、相も変わらず霖や雪にべったりくっつかれた状態で……。
――☆★☆――
その日の夜……。星空宅にて。
「はぁ、ごちそうさま……」
「あら? 叶愛ちゃん、まだ残ってるじゃない。どうしたの? ダイエット?」
「違います! お姉さまには分からないですよ……」
そう軽く愚痴をこぼすと、叶愛は席を立ち自室へと向かった。その後ろ姿を見ていた叶愛の姉である叶亞は、やれやれと言った風な笑みを浮かべると、妹の食べ残しを片付けて後を追いかけた。
「はぁ、どうすればいいの?」
叶愛は勉強机に突っ伏してその机に顎を乗せて思い悩んでいた。本当にこのままでは七つの贖罪の封印が解き放たれてしまうと恐れているのだ。何よりも、そうなった時の自分と北斗七星の二人への罰ゲームにも似た条件内容が不安で仕方がなかった。
と、その時――。
コンコン。
突如鳴り響くノック音。
「ど、どうぞ」
「入るね、叶愛ちゃん」
そう言ってにこやかな笑みを浮かべ入ってきたのは、叶亞だった。
「お姉さま……」
「どうしたの? そんなに浮かない顔して……失恋でもした?」
「ち、違います! そうじゃなくて、体育祭実行委員会のことで……」
その言葉に叶亞の笑みが消えた。だが、すぐに再び元の表情に戻り口を開く。
「うふふ、そんなことだろうと思ったわ。今もあるんでしょ? え~っと、変態軍団?」
「はい……もうどうしたらいいか、分からなくて」
「確か、ひーくん――じゃなくて、久熊くんのお気に入りだった子よね? 名前は確か……」
「藍川亮太郎です」
「そうそう、その子!」
言葉が出て来ず、う~んと頭を悩ませる度に呆れ顔で叶愛がその名前を口にする。
「お姉さまも元体育祭実行委員長なのですから、少しはアドバイスの一つも教えてもらえないんですか?」
「そうね~。教えてあげたいのは山々なんだけど、その藍川くんのことはよく知らないから……アドバイスをあげるのは難しいわね。でもね、叶愛ちゃん? 変態だからって何も全てが悪いというわけではないわ。現に私の時も、あの人は優しかった。あの時の親切心は今でも忘れないわ」
「お姉さま……どうしてあんな男を? あれのどこがいいんですか? 理解できません!!」
叶愛は完全に変態を拒否しきっていた。その姿を見て、まるで過去の自分を見ているかのような思いになった叶亞は、少し辛そうな表情を浮かべた後、妹にこう言った。
「なら、私が知る限りのいい変態君との昔話を教えてあげる。これを聞けば、少しは叶愛ちゃんも変態軍団の中にもマシな人間がいることが理解できると思うから……」
そう言って叶亞は、叶愛のベッドに腰掛けて昔話を始めたのだった……。
というわけで、お久しぶりの護衛役が登場しました。瑠璃と麗魅もセリフありましたね。しかし、ホント体育祭編になった途端この子達の出番ゼロに近いんだけど、メインこっちだよね?
さらに、響史が物忘れが激しく人の名前覚えたり幼馴染である雛下の家を忘れていた理由が明らかになりつつあります。しかも、ここで雛下のお姉さんも登場です。ゆう姉ゆう姉と本名は出ていませんが、そのうち出ると思います。メイド服の格好なのものちのち理解できるかと。
さらに、元体育祭実行委員長の叶亞さんが出てきました。さて彼女が話す変態のよきところとは?
てなわけで次回は、先代ボスの江口久熊と、元体育祭実行委員長である星空叶亞の関係について掘り下げていきます!
一応、過去編的な扱いです! それでは次回の更新は近々行いたいと思います。十一月までにはもう一話あげたいと思っていますのでお楽しみに。




