第四十六話「響史に秘められし能力」・2
「生徒会長……神王寺天祢殿、その寝姿頂きますぞ! 二枚目ッ!!」
パシャッ!!
二度目のシャッター音。
「ふふ、にゅるぅふふふふ! 生徒会長の寝姿を収めたレア写真、ゲットですぞ!!」
某アニメの主人公の様な決め台詞をキメた武は、カメラをしまうと余興とばかりに自身の両手をすりあわせ、それから手汗を自身のブレザーで拭い取ると、ゴクリと生唾を飲み下し目を血走らせてその五指をワシャワシャと動かしながら生徒会長――天祢の胸に伸ばした。
「ふぅーふぅー! もう少し、後……もう少し――」
だが、いざとなるとどうしても後数ミリ先までがいけなかった。その結果――。
ちょん。
軽く胸の下側を人差し指でつつくくらいしか出来なかった。
「拙者の馬鹿、拙者の馬鹿、拙者の馬鹿、ですぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! このチキン野郎! 何故ここで思いっきり鷲掴みのもみくちゃに出来ない!? くぅ~!!! これが拙者の情けなさということですか」
ズーンと意気消沈する武。
と、その時だった。そんな情けない漢には報いをと言わんばかりに生徒会室の扉がノックされた。
『生徒会長、入ってもよろしいですか?』
その声を聞き間違えるはずもない。
――ゲゲッ!? こ、この声はもしや……副会長、水滝麗殿ッ!? な、何故――ハッ! い、いつの間にこんな時間に!! ま、マズイですぞ……このままでは見つかってしまいますぞ! そ、そうです! 生徒会長のこの机の下に……。
咄嗟に閃いた考え。それを咄嗟に発動した武は、慌てて机の下に隠れた。
『? 会長……? あ、天祢……どうかしたの?』
普段は天祢の事を会長と呼んでいた麗がここで生徒会長の事を名前で呼んだ。それを聞いた武は思わず驚愕した。
――まさかあの水滝氏が生徒会長殿を名前で読んでいらっしゃったとは……これは有益な情報ですぞ!?
先程までの緊張はどこへやら、すっかりニヤニヤと変態な笑みを浮かべ出す武。すると、ガチャリと扉が開かれた。
「失礼します……はぁ、天祢ったら……寝てたのね。道理で返事がないわけだわ。まったく、こんなところ他の男子生徒に見られたらどうするつもりだったのかしら? まぁいいわ」
徐々に生徒会長の机に近づいてくる麗。再び緊張が走る武は、動悸が激しくなるのを感じながら必死に声を押し殺した。
――ここでバレれば間違いなく拙者は血祭りですぞ! 保健室の時のあれはもう味わいたくはありませぬからして……。
「でも変ね……。いつもなら机に突っ伏して寝ているのに」
――し、しまったぁぁぁぁぁぁぁですぞぉぉぉぉぉぉ!!! 何ということを! 生徒会長殿の格好を戻すのを忘れていましたぞ!!
と、モノローグで後悔しだす武。思わず目の前で寝ている天祢を見る。
と、その時、ふと視線が下へと移動した。というのも、今の武の状態は机の下。即ち、目の前にはあの生徒会長のそそるような綺麗な足があるのだ。しかも、そのほどよく肉のついた足の最奥には魅惑の花園が待っているのだ。
思わず武は顔から大量の熱を出し始めた。
――こ、これが、……これが伝説の生徒会長の絶対領域ッ!! も、もう少しで見える! しかし見えそうで、見えない! もどかしいッ!! そうですぞ! 足を広げれば見える! しかもまだ水滝氏は拙者の存在に気づいてはいない様子! ……にゅるぅふふふふ、これは好機ですぞ!!
ニヤリと確信を得た武は、興奮で鼻息を荒くしながら目の前の足に手を伸ばそうとした。
刹那――。
「はぁ、仕方ないわね。この状態だと頭がきついでしょう? まったく、世話が焼けるんだから……」
そう言って麗がふかふかの椅子を机に向かって押し込んだ。恐らく少しでも机に体を近づけて先刻の突っ伏した寝方に戻すためだろう。だが、今現在机の下には武という名のデブがいるのだ。それはつまり、押し込まれるということ。無論入るわけがない。結果――。
「えいっ」
むぎゅっ!!
「にゅるっは!!?」
「ひゃぁん!」
何とも珍妙な声を発してしまった武。無理もない。あまりにも予想だにしない出来事が起きたのだから。しかも、椅子を押し込まれた際、天祢の膝が丁度武の顔面にめり込んだのだ。
――み、見事なまでのニーキック……ですぞ、ガクッ。
そのまま武はのびてしまった。だが、ここで思い出して欲しい。先程の珍妙な声。実はあれは一人ではなくもう一人の声が混じっていたのだ。それは麗のものではなく――。
「な、何事?」
慌てて飛び起きる天祢。そう、先程の声は生徒会長の物だったのだ。実は先程武が天祢の足を広げようとした際に椅子が押し込まれたため、誤ってその手が天祢の足をすりぬけスカート内まで侵入してしまったのだ。そのため、突然の異物の感触に声をあげたのだ。
「ど、どうかしたの天祢?」
「あ、あら……麗。い、今変な感触が」
ふと視線を下ろす天祢。その言葉に麗も机の下を覗いた。そこには顔面から鼻血を垂らしている土田武の姿があった。
『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
生徒会室に響き渡る二人の少女の悲鳴。その後、形容し難いグロテスクな効果音が十分程響き渡ったことは言うまでもない。
――☆★☆――
「遅いッ! あんにゃろーいつまでかかってんだ!? これで有益な情報入らなかったらマジ処刑だぞ!!」
亮太郎が何とも恐ろしい事を口走っている。しかも、さっきから貧乏揺すりが止まらない。他の幹部と思しきやつらもさっきから落ち着かない様子だ。
と、その時扉が開いた。
「お、そくなりましたぞ……只今、戻りまし――」
「ぬわぁにやってんだてめぇ! たかが名簿確認にいったいいつまでかかってんだでぇぇええええええええええええええ? え、何それ? その顔どうしたんだよ!!」
激しく激昂していたかと思うと、突然驚愕の表情に切り替わる亮太郎。何とも愉快なやつだ。
「てか、亮太郎。何だよ今の『だでぇええええ』って」
「う、うるさい!! それよりもどうしたんだぽっくん! 説明しろ!! そんなにボロボロになって……。またどこかで喧嘩でもしてきたの?」
「何でちょっとお母さん口調なんだよ!! てかどう見ても喧嘩のレベル超えてんだろ!」
「おい、『全異性の芸術的激写』! それ女子にやられたんだろ!? 一体誰だ!? 一体どの娘に変態行為を働けばそんなご褒美をもらえるんだ、教えてくれ!!」
――若干一名発言が明らかにおかしいですよ!! 何でこんな大怪我がご褒美に見えるんだよ!! 明らかにボコボコじゃねぇか!! 元々顔がパンパンなのにそれがより一層パンパンになってんじゃねぇか!!
「じ、順を追って説明しますぞ……」
そう言って太っちょの男子生徒が説明を始めた。
そして、それから三十分後――。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 偉い、偉いぞぽっくんんんんんんんんッ!! お前の死は無駄にはしないからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「いや、死んでねぇから!」
亮太郎が大きな声で激しく男泣きするのに慌てて俺がツッコむ。
――てか、どこが偉いんだ? 明らかに自業自得じゃねぇか!! 偉いどころかエロいだよ!! あれ、今の少し上手くなかった? え、うまくない? そうですか……。
「それで戦果は?」
「はい、本当は魅惑の花園も収めたかったのですが、なにぶんあの二人の猛攻が激しく……」
「いやでも、あの生徒会長の胸を鷲掴みには出来なかったものの、つつくだけは出来たんだよな? 十分な成果だぜ!! なぁお前ら?」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
亮太郎の言葉にこの場にいる団員が声を張り上げる。やべぇ、野太い声が耳に響く。
「それで、こちらがその一枚目と二枚目ですぞ」
手際よく懐から取り出した二枚の写真。そこには何やら女子生徒の姿が映されていた。だが、よく確認しようとする瞬間に他の男子生徒が群がってきたためその姿を見ることは出来なかった。何でだろう、少し残念な気持ちがした。いかんいかん。
「ぽっくん、是非とも、是非とも俺に売ってくれ! 俺は五千円提供する!」
「何言ってんだ、生徒会長の寝姿は俺がいただく! 一万でどうだろう!?」
「いんや、俺は二万だすね!」
――いやいや、たかが写真一枚にこいつらは何円出すんだ!? これもう軽くオークションじゃねぇか!! 闇取引だよ!!
「にゅるぅふふふふふ、焦る必要はありませぬぞ? ちゃんとコピーは大量に用意してあります故……」
既にこうなることを予期していたかのように、用意周到なぽっくんと呼ばれる男子生徒。
「落ち着けお前ら、ここでそんなに大金はたいちまうと、ビックイベントの一つ、体育祭での写真を買えなくなるぞ?」
「そ、そうだった! そうだよ、俺達は女子達のあられもない姿を、体操服というコスチュームを着た状態の女子を写真に収めた状態で手に入れるんだ!!」
何やら凄く意気込んでいる様子の団員男子生徒達。こいつらも必至なんだろうな。
「それで、肝心な初代ボスは分かったか?」
「いえ、それが名簿にはさすがに変態軍団の初代が誰なのかまでは明記されておらず……。しかし、良き情報は得られました。一期生の中に確かに神童氏の名前を見つけましたぞ」
「して、その名前は?」
身を乗り出して尋ねる亮太郎。すると、コクリ頷いたぽっくんがその名前を口にする。無論俺も聞き耳を立てていた。親父と同じ名前かどうか確認するためだ。
「神童……響祐です」
間違いない、親父だ。
「なるほど……確かに。神童、合ってるよな?」
「ああ」
「これで一期生に神童の父親がいたことは分かった。だが、これだけじゃ良き情報とは……」
「家族構成も書いてありましたぞ?」
亮太郎の声を遮ってぽっくんがそう告げる。てか、家族構成までそんな書かれてるの? 結構個人情報漏れるんだな、この学園。
「で?」
「はい、姉二人に妹二人がいるとか」
『ぬわぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?』
暗い室内に響き渡る男子生徒の驚愕混じりの怒りの声。まさに聞き捨てならないといった感じだ。
「ぽっくん、それは本当なのか?」
「間違いありませぬぞ。何せ、名簿に書かれてあったのですからな」
そう言われては信じざるを得ない。名簿に記載されていることが嘘であるわけがないからだ。
「神童、本当なのか?」
とうとう確認が俺に来たな……。
「ああ、本当だよ。現に俺には従姉妹が四人いるからな」
「くっそ……初代がまさかリア充だったなんて!」
「だが、だからこそ活躍出来ることがあるんじゃないのか?」
団員達が各々の意見を口にしていく。
「納得はいったか? そろそろ俺帰りたいんだけど」
「そうはいかんな!」
そう言って亮太郎が指を鳴らす。
刹那、この場にいる男子生徒がグルリと俺の周囲を取り囲んだ。四面楚歌だ。
「うぐっ……亮太郎! 俺にどうしてもらいたいんだ!!」
「ふっふっふ、簡単なことだ。神童、お前には体育祭実行委員会の内情を調べてもらいたい!」
――ん? なんだって? おかしいな、どこかで聞き覚えのあるセリフが聞こえた様な……。
「亮太郎、すまん。もう一度言ってくれないか?」
「何だ神童? お前もう耳が遠くなったのか? 仕方ねぇな~」
そう言って亮太郎は俺の顔に向かって人差し指を突きつけると、もう一度同じセリフを言った。
「神童、お前には体育祭実行委員会の内情を調べてもらいたい!」
なるほど、そうか。これがデジャビュか。
「あ、ああそう。え、それ俺がやるの?」
「当たり前だろ! お前以外に誰がいる!!」
亮太郎が当たり前と言わんばかりに言う。そこで俺はすかさずこう言った。
「でも、お前体育祭実行委員会に瑠璃と一緒に参加してるだろ? だったら内情なんていくらでも……」
「甘いね、君は」
「何?」
突然の第三者が俺を小馬鹿にするようなセリフを口にしたため、俺は少しムッとして訊いた。
「なんでだよ!」
「体育祭実行委員会委員長である星空叶愛も馬鹿じゃない。ぼくらのボスを含めた人間が体育祭実行委員会に入っていて尚、情報を開示すると思うかい? それはありえない。だからこそ、これからの情報を手に入れるために内情を知る必要があるのさ」
さっきから凄く説明してくれるのは嬉しいんだが、どちら様ですか?
「あ、あの……お名前は?」
「ああ、これは失礼。ぼくの名前は『綿頭 甘受郎』。またの名を『永久不滅の愛玩対象』だよ。よろしく」
「あぁ、どうも」
一応先輩なのはネクタイの色から分かるのだが、どうしても俺はこのショタ顔を見ていると年下に感じてしまう。おまけにこの綿菓子の様なモフモフの髪の毛……アフロに近い。
「ええと、さっきから思ってたんですけど、その二つ名って……」
「ああ、ぼくら幹部及びボスには二つ名があってね? 実はぼく……こう見えてロリフェチ……なんだ!」
「え、あ、そうなんですか」
――いやいやいや、それ笑顔で言うセリフじゃないからねッ!? まず間違いなくアウトだから!! 何だよロリフェチって!! 即刻アウトだよ!! 自分も童顔の癖にその上幼女が好きとかやべぇよ!!
「神童……人にはそれぞれあらゆる趣味、性癖があると思うんだ」
「うん、何で趣味の次に性癖が出るのかわからん」
「まぁ、それはともかく……ここにいるメンバー、特に十幹部には様々なフェチがある。無論、俺にもな! だが、その中でも俺は特別……俺は、あらゆるフェチを所有してんのさ!!」
――えええええええええええええええええええええええ!? 全部!? そうか! あの時星空先輩が言っていた亮太郎の二つ名の意味はこういうことだったのか! だからオールカテゴリ。ようやく理解出来た。いや、理解できたらいけないのかもしれないが。
結局その後、俺は半ば無理やりに変態軍団に協力させられることになった。
というわけで、保健室の悲劇が再来する武。まぁ当然っちゃ当然ですね。まぁ、写真を二枚も盗撮出来たからむしろよかったのでは? また、ここで響史の父親の名前が判明です。響祐です。ちなみに響史と亮祐の名前はこの父親の名前から来ています。では唯は? それはまたそのうち。
にしてもすごいですね、姉二人に妹二人って。家族内でハーレムじゃないですか。ちなみに、その四人の子供が響史の従姉妹でもあるあの人たちです。
と、ここでようやく十人目の幹部である綿頭くんが登場です。ロリフェチという何とも厄介なフェチをお持ちです。
てなわけで、三部目はむさくるしい男たち空間から華やかな女たち空間になります。




