第九話「夜の襲来」
今回は主にバトルメインです。
「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね。私は『ミレイ=ルピチカ=ルドラ』……またの名を、水連寺一族八女の『水連寺 零』と言います」
「零……それがお前の名前か?」
「ええ、そうです」
俺は残空刀を相手に向けて構えたまま、しばらく動かなかった。相手の出方を窺っていたのだ。しかし、相手も一向に動いてこない。
「どうした? どうしてかかってこない?」
「私は悪魔で、あなたは人間です……。実力の差からしても、ハンデを与えるのが“せめてもの情け”というものです。どうぞ、先攻はあなたにお譲り致します。さぁ、姉上のその剣で私を斬ってみてください! 出来るものならば――の話ですが……」
「へっ、俺も随分とナメられたものだな。後で後悔しても知らないからな?」
まんまと挑発に乗ってしまったのではないかと内心薄々感じてはいたが、もう動き出したら止まらない。それが俺の性格でもあるからだ。
「じゃあ行くぜ!」
俺は剣を無茶苦茶に振り回し、なんとかして相手に一撃を与えようとした。しかし、相手は身のこなしが良く、スッスッと軽く躱されてしまう。
「ちっ、ちょこまかと!」
自慢の俊足を巧みに使い相手の背後に回ると、俺は素早く剣を振るった。だが、相手の反応も素早いせいか、惜しいところで二刀流の片割れを使って攻撃を防いできた。
「くそ……ッ!」
「どうやらあなたの実力もここまでのようですね。あなたが、本来なら悪魔にしか使うことが出来ないはずのその剣を使うだけでも素晴らしいことですので、その点に関しましては褒めて差し上げます。しかし、所詮は人間。使い手が悪すぎます。せっかくの姉上の剣も、そんなに乱暴に扱われては哀れで仕方がありません……」
「なんだと~!?」
俺は少しカチンときた。
「気に食いませんか? でしたら、もう終わりにしましょう……」
その一言と共に、零は俺の後ろに一瞬にして移動した。
「妖刀『舞花刀』――開放!!」
「――ッ!?」
零が叫んだ瞬間、俺は目を見開き驚愕した。剣から何故か血が流れ始めたのだ。
「何だそれ……?」
「この刀にはある言い伝えがあります。地獄の血の湖で『舞姫』と呼ばれる姫様の魂が踊っていた時、その踊りを見ていた鍛冶屋の『八兵衛』という人がつけた名前だとか……。この刀から流れ出る血は、その舞姫のものだとも謂われています……」
ゴクン。
俺は息を飲んだ。ス~ッと俺の頬を冷や汗が流れる。
残空刀を零に向けて構え、何処から攻撃されても大丈夫なようにガードを固めた。それを見た零は、口元をほんの少し緩めて口を開いた。
「そんな構えでは、私の剣技を防ぐことは出来ませんよ?」
「ふん、そんなのやってみないと分からないだろ?」
「そうですね。では、お望み通り死なせてあげます。この妖刀には、七つの型が存在するんですが、七つ目の型が終わった時には、あなたはもう血まみれの状態でその冷たいコンクリートに横たわっていることでしょう……」
――マジかよ……。
零の言う言葉が冗談の様に聞こえず、俺は少し後ずさりしてしまった。
「では行きます……。壱の型……『流血祭』!!」
「ぐはッ!」
一瞬の出来事だった。
そう、たった一度瞬きしただけで、俺はなんと地面に膝をついてる状態になっていたのだ。
「おや? まだ壱の型しか出していなのにもうその状態だなんて、本当に最後まで行くんでしょうか?」
零はまるで嫌味の様に言った。
「へへっ……。少し油断しただけだ」
「でしょうね。それくらいで見逃す程、私は優しくはありません……」
――この言葉、初めて霄に会った時に言われた台詞と似ている。
「弐の型『針血祭』!!」
グサグサグサッ!
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
大量出血の音。真っ暗な夜に、宙を舞う大量の血液。
「ぐはッ! ゴホゴホッ……」
硬質化した血液が針のように細く尖り、俺の体中に突き刺さった。腹から込み上げてきた血を吐き出した俺は、手の甲で口の端を拭う事で、自分の口の端から赤い血が垂れていることに気づいた。
「くそっ!」
それを確認した俺は、唇を噛み締め零を睨んだ。
――意識が朦朧としてきた。だが、ここで負ける訳にはいかない。家ではルリ達が俺の帰りを待ってる。それに、まだ俺にはこいつがある。
俺は片手に持っている残空刀を見つめた。すると、二本の刀の刀身を、笑みを浮かべながら見つめる零がこちらに近寄り言った。
「人間にしてはなかなかやりますね……。しかし、この攻撃は耐えられるでしょうか? 参の型『乱風血祭』!!」
シュンシュン!
グサッザクッ!! ブシャァァァァァァァァァッ!!
バタッ……。
――もう手に力が入らない。まずい、視界が霞む……。俺、こんな所でやられるのか? くそっ、ルリを護るって言ったのに、結局口だけの男だったのか? しかも、よりにもよって年下の少女に殺されるなんて……。ははっ、俺カッコ悪いな……。
「響史しっかりして……!」
俺の名前を必死に呼び続ける霊の声。
「姉上、諦めて下さい。神童さんはもうここまでです……むしろ頑張った方です。私が今楽にしてあげます。さぁ、準備はよろしいですか?」
零が舞花刀を振り下ろしトドメを刺そうとした瞬間、俺はゆっくり起き上がった。
「ゴホッ……。い~や、まだだ。こんなところで死ぬわけには、行かないッ!! 」
「――っ!? これは、さすがの私もびっくりしました。まさか、参の型でも死なないなんて……。でも、まだ後四つも型があります。果たして、最後まで耐えられるのかどうか、楽しみですね」
零は、自分の柔かそうなすべすべの白い頬に、俺の体から噴き出した返り血がついているのも全く気にせず俺に近寄ると、二本の刀を逆手に構えた。
バチバチと不気味な音を立てながら点滅する電灯。その光に反射して、真っ赤な血や血を纏った舞花刀が鋭く光る。
「肆の型『粘血祭』!!」
「今度は何なんだ!?」
零は高く飛び上がると、回転しながら舞花刀を振り回し、俺の足元に血の液体を放った。
「何のマネだ!?」
俺は今までたくさんの攻撃を受けてきたが、血をかけられただけで何も攻撃されなかったため、少し拍子抜けだった。
「油断していられるのも今の内です……」
「何!?」
何かを企み不気味な笑みを浮かべる零。一瞬、何かあるのかもと怪しんだが、俺は相手に攻撃しようと前に進んだ。
が、次の瞬間、奇妙な出来事が起きた。
「何だコレ!?」
なんと足元の血が俺の靴の裏にくっついているのだ。そう、まるで赤いガムの様に――。
「この型は、次に私が行う攻撃の第一段階。要するに、下準備ってことですよ。私の今までの攻撃について何も知らないあなたにとっては、この攻撃は理解出来ないでしょうが、次の攻撃はあなたにも理解できると思いますよ?」
そう言って零は、俺の近くに片方の刀を投げた。俺は足の自由が利かないため、上手く上半身を使ってその攻撃を躱した。
「まさか、これが次の型なんて言うんじゃないだろうな?」
「当たり前です。こんな攻撃、私はしません」
俺は零の取る行動の意味が理解できず、ただなんとかして足の裏にくっついた血を取り除こうと、霄の刀を使って必死にガムを切り裂いていた。しかし、その間にも零は着々と伍の型のための準備を整えていた。
俺のいる場所から一直線に敷かれた血の線。その反対側には、丁度零の持つ刀を刺すことが出来る位の幅があった。周りは何故か円形になっていて、少し幅が広かった。
「何をするのか知らないが、生憎……俺はもう少しで脱出できるぜ?」
血のガムを切りながら俺は相手を焦らせる言葉をかける。しかし、零にはあまり効果がないようで、至って冷静のまま俺の言葉にこう返した。
「そうですか。でも、その行為も私の次の行動で無意味になります」
「何を――」
最後まで言う前に、零は言葉を遮り刀を地面に突き刺した。それと同時に、刀身から謎の光が出現して真っ直ぐ血の線を進み、物凄いスピードで俺の周りを取り囲んだ。
「流石のあなたもこれで終わりです。伍の型『千血祭』!!」
シュン! ドスドスドスドスッ…!!!
「――ッ!? ……ぐふっ!」
何が何だか分からなかった。そう、あの血のマークは単なるこけ脅しなんかじゃなかったのだ。そのマークは零の片方の刀から放った光と、血のマークを書いた刀の二つが繋がって初めて成り立つ技だったんだ。そのために、標的である俺を肆の型で動けなくし、伍の型で確実に狙った。それだけ高度な技なんだ、これは……。
もうダメかもしれない、そう思った。何せ、俺の胸から背中に向かって、弐の型で放たれた針よりももっと鋭利化した血の針が貫いているからだ。体だけではない。太股も腕も右肩にも、これでもかという量の針が突き刺さっているのだ。
なるほど零の言った通り、コレではさすがの俺も動けない。
――今度こそ終わったのか……。
その時、俺の腕が光った……否――。
「――ッ!?」
「何ですかコレは!?」
「これは……ルリにもらった腕輪……?」
そう、光の正体は、ルリの髪の毛を洗ってあげた際に御礼としてもらった腕輪だったのだ。
しかし、まさかこの腕輪が俺のこの危機的状況を救ってくれるとは思っても見なかった……。
というわけで、今回はバトルメインで書かせてもらいました。護衛役の三人目、水連寺零は二本の刀で闘う二刀流です。
そして、早くもルリにもらった腕輪が役に立つ時が来ました。果たして、ルリからもらった腕輪にどんな力が秘められているのか……。
次回は、さらに響史と零が奮闘します。




