第四十五話「叶愛と響史の取引」・1
俺は今、窮地に立たされている。目の前には金髪碧眼美少女な先輩がいて、さらにその向こう側に悪友――亮太郎の姿がある。ちなみに、何故窮地なのかというと――。
「お~い、神童! 何だよ、俺が話しかけてんだからちゃんと返事しろよな? それよりも、一体誰と話してんだ? とびきりの美少女なら俺にも紹か――――し、ろ……ょ」
こちらに歩み寄り、対話している人物の顔を視界に捉えるや否や、どんどん表情を険しくさせていき、同時に声量が小さくなって最後には消え入りそうな声音になる。すると、亮太郎がずっと視線を注いでいた相手から声が聞こえてきた。
「まさかこんなところで会ってしまうとは思ってもみなかったわ、変態界の頂点――『全種を携えし異常な偏愛王者』、藍川亮太郎」
「ンッフッフッフッフ……その名で呼ばれるのはいつ以来だろうな、現体育祭実行委員長、星空叶愛?」
「あ、アナタ! 星空委員長を呼び捨てにするだなんて、無礼にも程があるわよ!?」
敵対する組織のトップがそれぞれ睨み合っている間に割り込むように、体育祭実行委員の女子生徒が声をあげる。
「落ち着きなさい? 今回の私たちの目的は、あくまで神童響史くんただ一人よ。その標的は無事に発見しているんだし、焦る必要はないわ」
「で、ですよね~」
あはは、と困惑混じりに口にした女子生徒の言葉に、亮太郎が声を荒げた。
「ちょおぉぉぉぉぉぉぉぉっと待ったああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!! 神童が標的だと? まさかお前ら……既に神童という男の価値と、秘められた力に勘づいているというのか!?」
「おい、俺は珍獣とかじゃねぇんだぞ? それに何だよ、秘められた力って」
少し気分を害するような言い方をされた俺は、ムッとなって亮太郎に訊いた。すると、サッと俺の眼前に手のひらを突き出し、もう片方の手を眉間に添えたポージングなんかして、亮太郎が声をあげた。
「ふっ、神童……それはお前が知る必要のないものだ、気にするな。これは我々変態軍団さえ知っていればそれで事足りる」
「ごほんっ! そろそろこちらの話を進めてもいいかしら? さぁ、神童くん……私達と一緒に来て!」
亮太郎が何やら訳のわからないことを言っていると思ったら、今度は星空先輩が俺に手を差し伸べてそんなことを言ってくる。
はぁ、どちらについても俺には不幸な未来しか待ち受けていない気がする。何よりも、どっちに転んでも体育祭はあるんだ。協力したところで体育祭がなくなるわけじゃない。
「俺はどちらにもつきませんよ。大体俺には、二人にとって効果を発揮するような人材力は備わってませんから……。諦めて大人しく帰ってください」
「おい、神童! 悪友に向かってその言い方はあまりにも冷たすぎるんじゃないのか?」
「神童くん? 確かに私も水滝先輩に言われただけで、あなたにどんな力が秘められているのかは知らないけれど、それでももう頼れる男子生徒はあなたしか残っていないのよ!」
どうあってでも俺を仲間に引き入れたい変態軍団のトップと体育祭実行委員会のトップは、互いに火花を散らし合いながら俺に仲間になるようにアピールしてくる。が、俺は何が何でも入るわけにはいかないので、少しずつ後ろへ後退しながら必死に首を横に振り続けていた。
すると、突然スピーカーから声が聞こえてきた。
『ピンポンパンポ~ン♪ 藍川くぅ~ん、至急職員室に来てくださぁ~い! でないと、“二度と学校の正門をまたげない体”……にしてあげますよぉ~?』
何やら一部分の台詞だけ怨念のようなどす黒いオーラが篭っていたが、一体誰なのだろうか? 恐らく、職員室といっていたので教師であることは分かるのだが。
一方の当人は、そのスピーカー越しの相手が既に理解出来ているようで、冷や汗ダラダラで焦燥感に駆られた表情を作り出していた。
「ゲゲッ、やっべぇ~! くそぉ、こんな時に……! 覚えてろよ、星空叶愛ッ!! 神童は渡さねぇからなぁあああああああああッ!!!」
そう言って悪友は職員室へと向かうべく、廊下を猛ダッシュで駆けていった。その際吐き捨てていった台詞が聞き方によっては意味深だったので、その台詞を聞いていた無関係者に誤解を与えないか危惧したが、それは杞憂に終わったので助かった。
この場には、俺と星空先輩と体育祭実行員会の女子生徒の三人が残った。そうなると、次に聞こえてくる台詞は大体決まっているわけで――。
「さて、邪魔者はいなくなったわね……これで思う存分勧誘することができるわ。さぁ、神童くん……改めて聞くわね? 私達――体育祭実行委員会に協力してくれない?」
「嫌です!」
即答だった。きっぱり、はっきりとそう口にする俺に星空先輩も後ろに控えている女子生徒も目を見開いて驚愕している様子だったが、すぐに調子を取り戻して繰り返し説得を試みる。
「どうして? 体育祭……あなたも成功させたいでしょ?」
「それは……」
一度は体育祭を楽しみにしているという風なセリフを口走ってしまっているため、ここでやっぱ体育祭なんて嫌ですとは言えない。そんなことを言えば、間違いなく星空先輩に殺されるか泣きだされてしまい、後ろに控えている女子生徒に何かされるに違いない。
だが、向こうは是が非でも俺を仲間に引き込みたいらしい。
「……はぁ、これだけはしたくなかったのだけれど仕方ないわね。これも全てはあなたが悪いのよ、神童くん? ……先に言っておくわ、ごめんなさい」
「へ――」
ゴスッ!!
不意打ちだった。俺は後頭部に走る激痛によって脳を激しく揺さぶられた。抵抗など出来るはずもなく、俺はそのまま廊下に倒れ伏した。
意識が闇に呑まれる――その寸前、確かにこの目で見た。そこには黒いニーソックスに引き締められた綺麗な足と、白いハイソックスを履いた足、そして――縞々模様の丈の短いソックスを履いた足の六つの足があった。つまり、ここには俺と星空先輩と女子生徒だけでなく、もう一人生徒がいたのだ。しかも、女子……少し視線をあげれば、片手に何やら金属製の棒を持っていた。金属バットか何かだろうか?
――あれ? 俺……殺されんの? え、なに、協力しないなら死んでって? ……おいおい、冗談キツいぜ……。
凄まじい一撃。これを女子がやったとしたら相当な力だろう……まるで霙に殴られたような感覚だ。
俺は、朦朧とする意識の中で一体誰がやったのかを確認しようと、もう少し上へと視線を動かしてみたが、そこでグラッと気を持って行かれてしまい、意識は漆黒の闇へと沈んでいった……。
――☆★☆――
「……はぁ、はぁ。ど、どどどうしよう、お、おれ……ついに人を殺っちまった!?」
「お、落ち着きなさい! 神童くんは死んでいないわ、気絶しているだけよ。こういった強硬手段に打って出るつもりはなかったのだけれど、ここまできては致し方ないわね。丑凱さん、七星さん、運んでくれるかしら?」
「えぇ? おれがですか?」
「もちろんです!」
金属バットを携え、明らかに不良っぽい感じのボーイッシュ少女――『丑凱 北斗』と、先程からずっと一緒に叶愛と行動してきた少女――『七星 乙女』が各々声をあげる。
二人は叶愛の腰巾着的立ち位置であり、周囲の人間からは通称『北斗七星』と呼ばれている。理由は名前からも理解できる通りだ。
「さぁ、時間がないわ。目撃者がいない今の内に例の場所へ運び込むわよ!」
「はい!」
「は~い」
委員長――叶愛の掛け声に、乙女は気合たっぷりに、北斗は気怠そうに返事をした。
――☆★☆――
俺――神童響史は何故か家にいた。おかしい、明らかにおかしい。俺は確かに光影学園の廊下にいた。星空叶愛体育祭実行委員長と、他一名――もとい二名と。一人は、言い方は悪いかもしれないが金魚の糞の様に一緒にいた女子生徒。もう一人は……俺を金属バットか何かで殴った人物だ。恐らく、あの足から察するに女子だろう。
で、問題はどうして俺がここにいるかだ。
帰宅した覚えはない。まず気絶しているのだから、いるとすれば普通保健室のはずだ。だが、目の前に広がるのは真っ白な何か。恐らく少しほんのり温もりを感じるので湯気だと思われる。さらにふんわりと柔らかないい匂いもする。石鹸というかシャンプーのような、そんな優しい香りだ。
これらから察することができるのは一つ――風呂だ。
ということは、俺は今風呂場にいるのか? でも何でまた……そういえば、どうして俺は家にいると思ったんだ? 別に自宅であることを確認したわけじゃない。なら、誰か他人の家かもしれないじゃないか。でも、そうなると……誰の家だ? まさか、星空先輩!? いや、それはない。まず、異性である俺を風呂に入れるなんて考えにくい。第一、今日が初対面だぞ? いきなりそんなこと、ありえるはずがない。まったく、以前の俺なら普通にそんな考えは起こさなかっただろう。これも全ては瑠璃達魔界の少女が俺の家に居候しているからだ。
うぅむ、しかし困った。こう白くては何も見えない。自宅なのか、それとも他人の家なのか。
と、その時、ふと俺はもう一つの可能性が浮かび上がってきた。
――待てよ? そうだ、もしかしたら銭湯とか温泉だという可能性もあるじゃないか! そうだよ、間違いない! いや、でもだったらこんなに湯気が立ち込めるか? まず、露天風呂はありえないとして……。銭湯……う~ん、最近行ってないから覚えてねぇな。てか、やべぇ……考えようとして頭悩ませたら、さっきの痛みが蘇ってきやがる! くっそ~、あの女子……誰か知らねぇけど、よくも人様の頭を思いっきり殴りやがったな? あぁ、だんだん腹立ってきた!
にしても、どうして俺は体を動かせないんだ? さっきから一歩も動けない。周囲を見渡したくても首が動くだけで手足が動かせない。何かに押さえつけられているわけではないような気がする。何かこう……磔にされているような感覚だ。
――ん? は、磔ッ!?
俺は急に顔面蒼白になった。磔って……まさか、ホントに俺処刑されんの!? いやいや、待ってくれよ! 協力しなかったからって、それはないよね? いやでも、あのお嬢様のことだ……ないとは言いきれない。てか、そもそも俺が何の役に立つんだ? 何か水滝先輩に薦められて俺のところに来たみたいだが、はっきり言って俺にはそんな凄いミラクルパワーなんてものはない。もし、水滝先輩がそういう風に俺のことを捉えているのだとしたら、それは買いかぶりだ。
いかん、なんかここ随分暑いな……。まぁ無理もないか、風呂場っぽいし。今は銭湯とか温泉とか家の風呂とかはどうでもいい。今はとにかく体を動かすことに専念しよう。
――んっく! んっく! くぅぅぅぅッ!! ……っはぁ~、ダメだ。全然ビクともしない。なんでだ? あれ、しかもさっきよりも心なしかシャンプーのような匂いが強くなってる? 何かこう、まるで誰かの髪の毛の匂いを嗅いでいるような……。変だな、周囲には誰も……。
と、そこで俺は一つのシルエットを目にした。湯気で隠れてよく見えないが、その美しい曲線を見れば、ひと目で女性のものであることは理解できた。髪の毛も腰辺りまであるようだ。髪の毛を洗っているようでこちらには気づいていないらしい。
声をかけようとも思ったが、それはさすがにマズイだろう。しかし、そうも言ってられないと、俺は声を発しようとした――が、無駄だった。声も出せなかった。
すると、その女性が何かを手にとった。どうやら風呂桶のようだ。それを頭に持っていく。
直後、ザバーッという音が聞こえてきた。シャンプーの泡を洗い流しているのだろう。それから少しして、その女性がその場に立ち上がった。背丈は俺よりも少し低い。だが、身長だけではわからない。
すると、まるでじれったく思っている俺に正体を明かそうとしているかのように、その女性がこちらへと歩み寄ってきた。
真っ白な湯気から現れるその女性。濡れた髪の毛を手で払い、美しい綺麗な髪の毛が水気を帯びて照明に照らされキラキラ輝く。その色は美しい金色だった。さらに、その金髪に俺は見覚えがあった。しかも、それはつい最近目にした物……。
そう、その正体は――。
『ふふ、ようやく目覚めたわね? 神童響史くん……』
堂々とその場に仁王立ちする碧眼の双眸を持つ少女。特に金髪というのも素晴らしいが、何よりもそのスタイルに驚いた。年上ということもあるのかもしれないが、水滴を弾くようなその肢体と、しっとり濡れている髪の毛。いつもはふんわりとウェーブを描いているそれが、今は水分を含んで重みを増したせいかあまりそれが目立たない。
まさに水も滴るいい女だった。だが、よくよく考えてもみてほしい。今この場は風呂場なのだ。何も纏わぬ産まれたままの姿……それは、お嬢様である星空先輩も例外ではない。つまり彼女は裸なのである。しかも、その状態での仁王立ちなどアウトとしか言い様がない。だが、不運――もとい、幸運にも俺の頭は固定されており下を向くことなど出来ず、ギリギリおへそが視界に入るくらいだった。危ない危ない。
しかし、下がダメでも上が――と思うと、何とも奇跡的に星空先輩の長い横髪が上手い具合にその豊満なバストを隠していた。まさにプロ級の仕事っぷりである。
俺はなんとか声を発しようとしたが無駄だった。
一方的に星空先輩だけが自由に動く。すると、彼女はとんでもない行動に打って出た。
むにゅぅん。
何かとてつもなく柔らかい物が俺の胸板へと押し付けられた。それが何なのかなど即座に理解出来た。なぜなら、目の前にいた金髪碧眼の美少女は、ひしっと俺に抱きついてきていたのだから。
濡れた金髪から漂うシャンプーが俺の鼻腔を刺激し、背中に星空先輩の手が優しく、それでいて強く触れてくる。
――ち、ちょちょちょちょちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉッ!? ヤバイヤバイヤバイって!! これなんてフラグだよ! こんなフラグ立てた覚えはねぇんだけど!? 何で初対面の俺が、こんな嬉しい奇跡を起こしてるわけ!? 何かの冗談だろ? そ、そんなことよりも……ほ、星空先輩の胸が密着しすぎて心臓の鼓動音が伝わってくるんだけど!
『うふふ、ねぇ……神童くん。いや、――響史くん。覚悟は、決まったかしら?』
――か、覚悟!? な、なななな何の!?
『やぁん、もぅ……そんなに顔真っ赤にしちゃって。実はね? 私、弟……ほしかったのよね。お姉ちゃんしかいなくて、親戚で年下がいなくて……それで、後輩が出来た時はすんごく嬉しかったのだけれど、やっぱり弟がいいな……って』
――いやいや、何の話ですか! まさか俺に弟になれと!? その覚悟をしろって言ってるんですか!? 体育祭の話はどこ行った!?
俺のツッコミは無論相手には聞こえていない。声が出せないのだから仕方ないのだが、そのせいか星空先輩はさらに俺に迫ってきた。
『ねぇ……聞こえてる? 私の、鼓動。ドクンドクン言ってるでしょ? 私、今までずっと女の子に囲まれる生活を送ってきたから、男性経験……ないの。だから、その……こういったことも、初めて……なの。それで、ね? もしよければ……なのだけれど、あなたのこと……もっと詳しく……教えて、くれない? 響史くんのこと……もっと、知りたいの』
胸は密着させたまま、少し体を反らして星空先輩は俺の胸板にしなやかな人差し指で「の」の字を書いた。その感覚がこそばゆくて俺は体を捩らせたが、これといった効果は出なかった。動かせない体では抵抗できない。
『……ダメ、かしら?』
トドメとも言える一言。普通の男子ならばここで理性という鎖が引きちぎれ、星空先輩を押し倒してめくるめく青春の性を堪能していたことだろう。だがしかし、俺は何かに磔にされた状態にある(目には見えないが)。
そんな状態で、理性など崩壊させようがなかった。いや、むしろこんなことは既に瑠璃達のせいで否が応にも経験させられている。そのため、耐性はついていた。
――まぁ、目隠し状態で髪の毛洗ってあげたりもしたしな。
『ねぇ、答えてよ……響史くん。それとも、まだ刺激が足りない? もっと、私の……年上の魅力……教えてほしい? 確かに教えあうことは必要よね……』
そう言って一層体の密着度が増した。俺の足へ星空先輩の足が艶かしく絡みつく。いかん、風呂場というせいか、はたまたこの状況下のせいか、頭が沸騰しそうだ。脳みそ味のお茶漬けなんかが完成しそうだ。聞いただけで吐き気を催すこと間違いなしだが。てか、この熱は明らかに後者の影響が多いだろう。
『……沈黙はOKと取っていいのかしら? そうよね? 私ももぅ……我慢、出来ないの』
目を細めて妖艶な笑みを浮かべ口を緩めると、そのぷるっとした唇が俺の顔――主に唇へと近づけられた。目を閉じて頬を染めている辺りが、大人らしいというよりは少し幼さを感じさせるが、今の俺はそれどころではない。動けない以上躱す手段はない。動け動けと願うがそれが無駄であることは変わりない。普通の男子なら喜んでそのキスの洗礼を受けるだろう。
しかし、どうにも俺は好きでもない相手同士が軽々しくキスをするというのはいかがなものだろうと思っていたため、少しそれは気が乗らなかった。が、そうこうしている内に星空先輩の唇が刻一刻と俺の唇との距離を縮めていた。
――マズイ! くそぉぉぉぉ、夢なら醒めてくれぇぇぇぇぇぇ!!!
必死の思いで俺は首を左右に振った。だが、それを星空先輩に顔を掴まれて押さえつけられる。女の子とは思えないほど、その握力は凄まじかった。左右にはもう頭を振れない。ならば、残された俺の足掻きは一つだけ――。
――ごめんなさい先輩ッ!!!
そう心の中で謝罪した俺は、押さえつけられる手の握力など無視して、思いっきりこれでもかというほど勢いよくスピードをつけて、頭を前方へと倒した。
そんなことをすればどうなるかは想像に難くなく――。
ゴツンッ!!
「きゃうっ!」
何とも可愛らしい悲鳴が聞こえたと同時に、脳内に走る二度目の激痛と共に体の自由を少しだけ取り戻した。また、目の前に広がる視界が変化する。
そこは先程とは違い、白から黒になっていた。暗がりの一室。しかも、何やらそこは埃っぽい上に悪臭というか異臭が漂っていた。先程までの柔らかいシャンプーの匂いとは打って変わって、その匂いははっきり言って嫌悪する臭いだった。そう、ここは体育倉庫だったのだ。さらに、そこで俺はあの時感じた暑さの正体が分かった。この部屋の温度だ。七月ということで、日当たりの良いこの場所は、暑さがとんでもないことになっているのだ。サウナ状態とまではいかないものの、ここにいるだけで熱中症になりかねない感じがした。
そして、目の前に視線を向けた。長い金髪に碧眼、豊満なバストにキュッと太ももを引き締めている黒いニーソックスを履いた少女。体育祭実行委員長の星空叶愛先輩だ。だが、なぜかその星空先輩は尻餅をついた状態で地面に片手をつき、もう片方の手で額を押さえて涙目になっていた。
一体どうしたのだろう? そういえば目が覚めると同時、俺の額にも何かにぶつかったような衝撃が走っていた。
と、そこでふと両側に立っている女子生徒が視界に映った。右には俺のクラスに来ていた星空先輩と一緒にいた女子生徒。もう一人は見覚えのない女子生徒。ただし、すぐにそれが何者なのかが分かった。その少女は少しボーイッシュな風貌で、片手に物騒な代物を携えていた。不良なんかがよく使用するイメージのある金属バットである。
「な、何で俺……ん?」
急いで逃げ出そうと手足を動かそうとしたところで、俺は異変に気づく。何かガチャリという金属音がした。ふと音のする方を見れば、首に手首足首合計五ヶ所プラス、腹部に金属製の輪っかが取り付けられて壁に磔状態にされていた。そう、まさしく先刻の真っ白な世界での俺の金縛り状態と同じである。
そして、突然先ほどの頭への二度目の衝撃と同時に真っ白な世界が真っ黒な世界へと変化した。それが何を意味するのかはバカでもない限りわかるだろう。――夢。俺は夢を見ていたのだ。でも不思議だ。あんなヘンテコな夢を見るとは。しかも、見たこともない星空先輩の裸……。その裸体を生でなくて夢で見てしまうとは。我ながら不思議なものである。まるで妄想のようにハッキリ鮮明にその肢体が見えていたが、夢は普通もう少し靄がかかっているものではないのだろうか? もしかすると、あの湯気はそういうことだったのかもしれない。
そう考えると、より一層俺の頭上に疑問符が並べられた。
というわけで、お久しぶりです。またもや間があきました。なにぶん中間テストが近く、その勉強に追われているんです。それでも合間などに書いているのでこうして投稿することができました。今回も四部構成です。
ええ、前回から少し空いてしまったのでもしかすると変なトコがあるかもしれません。その際はご一報ください。
てなわけで、捕らえられてしまった響史。そして、夢というか妄想で裸の叶愛が! まぁ、挿絵はそのうち。




