第四十二話「幼き体験(後編)」・3
「もーっ! 人がせっかく悪役染みたこと言ってるのに、ぢゃましゅるやちゅは何処の誰よっ?」
霖が扉を開け、上を見上げるルナーと俺達。そこに居たのは、まさに救世主と呼べる人物だった。
俺の姉――神童唯だ。
「あっ、お、お姉ちゃん!」
「ん? なんだ、き……響史!? ど、どうしてそんな可愛い姿に」
「おねーちゃん! わたち達、そこにいるルナーに酷い目に遭わされて」
今思えば俺は思った。俺達にとって、今の姉ちゃんは救世主――メシアとも言える存在。だがしかし、ルナーにとって見れば唯姉ちゃんの存在は魔物としか言いようがない存在だった。
「ふ~ん。それはそれは随分とやってくれたみたいだな! あんた確か、以前にも私の可愛い弟に手出して迷惑かけてくれたよなぁ~?」
「ふえっ!? し、しょんな! あの時はただ……」
「言い訳は聴きたくないねぇ~。しかも何その姿。随分小さくなっちゃって。あの時のわがままな胸の大きさが影も形もないじゃん! 少しは反省したのかなと思えば、またしてもあんたの仕業ってこと――」
「ち、ちが――いやああああああああああああああああああっ!!!」
まさに一瞬のことだった。ルナーは一瞬にして唯姉ちゃんに拘束された。
「うぅ~どーちてわたち、毎回こんな事に巻き込まれるのぉ~?」
涙を流しながらルナーは唯姉ちゃんに捕らえられていた。まさに宙ぶらりんの状態。何だかその姿が、今の俺には惨めに見えて仕方がなかった。
「にしても、随分とまぁ可愛い姿になっちゃって……。なぁ響史! いや、え~と確か響子だっけ?」
「きょ、きょうちでいいわよ! わざわざきょーこって言わなくても」
「困った顔も可愛いな、こいつこいつ!」
「ほっぺたつつかないでよ~!」
ツンツンと俺の頬をつついてくる唯姉ちゃん。つつく度にプルプル揺れる俺の頬。小さいとこんなにも張りがあるのかと俺は思った。
「なあ響子! 記念に写真撮ってもいいか~? 友達に見せてあげたいんだよねぇ、私の可愛い妹の顔だって」
「ええ~っ!? し、しょんなぁ~……」
「助けてやったのはどっちだっけ?」
口笛を吹きながら横目でチラッと見てくる唯姉ちゃん。
「お、お姉ちゃん」
「じゃあ、私の言う事が聴けないわけないよなぁ~?」
「うぅ~わ、分かったわよ」
俺は観念した。
携帯を手に取りカメラ機能を呼び出した姉ちゃんは、俺の体を自分の体にグイッと近づけた。姉ちゃんの頬が俺の頬に当たり、さらに俺の鼻孔が姉ちゃんの金色の髪から漂ってくるシャンプーのいい香りで刺激された。
「はい、チーズ!」
カシャッ!!
カメラからシャッターを切る音が聞こえる。
「綺麗に撮れてる綺麗に撮れてる!」
「あ、あの~そろそろわたち解放ちてくれない?」
無視されているルナーがふと姉ちゃんに声を掛ける。
「えっ、別にいいけど……」
「ダメだよおねーちゃん!」
「ダメだってさ!」
どうやら姉ちゃんは俺達の味方らしい。いや、主に俺の意見に従ってくれると言った所か。すると、曖昧な回答を繰り出す姉に混乱したのか、ルナーが拘束されたまま暴れる。
「ど、どっちなのよー!」
「何か文句があるのか?」
「あ、ありません!!」
ルナーはビクビクしていた。よほど姉ちゃんが恐いと見える。前回もそうだったからな。
「さぁルナー。早くろーにゃきゅへんかんきを直ちて!!」
思わず俺も噛んでしまうが、姉ちゃんが喜んでいるからよしとする。
「うっ。わ、分かったわよ! 直しゅわよ!」
そう言ってルナーは屋根裏の研究室へと向かった。
と、屋根裏部屋に行こうとした次の瞬間、目の前に寝ぼけた雪が現れた。何でも今の今までずっと俺の部屋で布団にくるまって寝ていたらしい。
とりあえず、雪を交えて改めて俺達は研究室へと向かった。
それから約三十分が経過した。
「ふーっ、直ったわよ!」
ルナーは額の汗を拭い嘆息した。余程疲れたのだろう。息遣いが少し荒い。
「はぁ、はぁ……疲れたぁ~」
「そんなにはぁはぁして感じてるの~?」
「なっ、バッ! ち、違うに決まってるでちょ!?」
妖しい眼差しを向けてくる露さんにルナーは顔を真っ赤にしてそう言った。
「ぢゃあ行くわよ!」
「それホントーにだいぢょうぶなんでちょうね?」
「あ、当たり前ぢゃない!! まだ試してないからわかんないけど……」
「ええええええええっ!!? ホント大丈夫なのそれ?」
不満の声を洩らすが、今更考えても仕方がない。ルナーが手を振り言った。
「だ、大丈夫よ! ぢゃあ行くわよ!」
ガチャリ!
むりやり俺達をビームの当たる場所に移動させてレバーを下げるルナー。
そして次の瞬間、俺達を眩い光が包み込んだ。
ピカーーーーーーーーーーーーッ!!
しばらくして眩い光がおさまり、目を開ける事が出来た。自分の体をよく見てみると、ちゃんと自分の本来の姿に戻っていた(女体化したまま)。
「や、やったあああああああっ!!!」
俺は歓喜の声をあげた。だが、この姿のままのせいか何だか素直に喜べない。
すると、後ろの方で何だか騒ぎが起きていた。ざわついた感じの空気。一体何があったのだろうか。
踵を返して声のする方を見てみると、そこには十人の護衛役が円を描く様に立っていた。
――あれ? なんかおかしくないか?
ふと俺はそんな疑問を感じた。――というのも、その十人のうちの二人の姿に全く持って見覚えがないのだ。
完全に知らないというわけではない。あくまでも、名前を言われたら「あ~あいつね?」みたいなくらいの曖昧な感じの状態なのだ。だが、あんなにスリムな体型でなかなかのプロポーションならば、俺が忘れるはずがない。そもそも、俺はそこまで忘れっぽくはない。ていうか、毎日毎日生活しているのだから忘れる訳がないのだ。
「あの~君達、誰?」
俺は恐る恐るその二人に声を掛けてみた。すると、その二人が振り向くや否や、ムスッとした顔で俺に文句を言ってきた。
「も~忘れちゃったの、お兄ちゃん?」
「そうだよ、あんなに毎日一緒に寝てたのに。酷いよおにいちゃん!」
「えっ? 一緒に寝た? ていうか“お兄ちゃん”って……まさか!?」
俺は二人の言う“お兄ちゃん”という言葉がキッカケでようやく分かった。そう――この見た目的に十八歳のお姉さん二人は、小学生である霖と雪だったのだ。
――しかし、どうしてこのようなナイスバディ姿になってしまったのだ?
「どうしてそんなことに?」
「何だかよく分からないけど、さっきの老若変換機の光線を浴びたからみたい」
そう言って何故か俺に抱き着いてくる霖。その成長した身長と胸がモロに俺の体に密着して、その熱を伝えてくる。や、ヤバイ……今まで小学生だったのに急にこんなプロポーションになって密着はダメだろッ!! おかげさまで、女体化した俺の胸と突然成長した霖の胸が互いに密着しているためにむにゅんと潰れる。
とりあえず、俺は視線を上にあげて霖の話を聞いて考えた結果を口にした。
「ええーっ!? あっ、そっか。既に幼い姿である二人には幼くなる光線は効かなかったけど、幼い姿の状態でなら成長する光線は効くんだわ!!」
俺は声量をあげてポン! と手を叩いて納得した。にしても、本当にこの老若変換機にはいろいろと欠陥部分があるようだ。さすがはルナーが作った発明品。欠陥という文字がつかない時が無い。
「ちょっとルナー! 早く二人を戻してよ!!」
「ええ~っ? もう無理よ!」
疲れ切った声でルナーは机に突っ伏した。
「ど、どうして?」
俺は理由を訊いた。それによると、何でもこの老若変換機は既に何度も壊れかけの状態に陥ってしまったためにもう殆ど力を出すことがでいない状態にあったらしい。それでも無理やり自分達を元の姿に戻させたため、完全に壊れてしまったらしい。
どうにかして霖と雪を戻させようと考える俺。
現状としては霖だけではなく、やきもちをやいた雪までもが俺に抱き着いている状態。でも、俺は現在女体化している状態なので、これでは女子三人が抱き合っているという何とも怪しい光景にしか見えない。そして、そんな状況が繰り広げられれば案の定あの人が目を光らせるわけで、露さんが垂れる涎を手の甲で拭いながらこちらを暖か過ぎる眼差しで見て――もとい、凝視していた。
そんな中、ルナーに直せないか俺は訊いた。
「もう、どうにもならないの?」
「残念だけど……」
気を落としてルナーは言った。
と、その時、若干一名が声を荒げた。
「何言ってんだ! 早く元に戻せ!!」
それは雫だった。
「ええ~っ!? だ、だから無理なんだってば!!」
「い~やこればかりは譲れない!! もう二人しか俺の心を慰めてくれる心優しき妹はいないんだ!!」
――あ~、ロリシスパワーが発動したのか。
と俺は半眼でその姿を見ていた。
「む、無茶言わないでよ! 第一もう疲れちゃったんだから少しは休ませ――」
「誰のせいでこんなことになったと思ってんだ、あんっ?」
「ひ、ひぃっ!! で、でも……本当にむ、ムリで……」
メンチを切る雫のキレ顔に顔面蒼白となって歯をカチカチ鳴らして震えあがるルナー。ホント最近こいつは悲惨だな。
「くそ、どうすれば……」
親指を甘噛みして悔しがる雫。どうやらよっぽど霖と雪に元の幼い姿でいてほしいらしい。まぁ、俺も少なからず同意ではあるが――。
――と言っても決してロリコンという訳ではないからな!?
「そうだ! 響子がこいつに頼めば?」
ふと今まで黙っていた姉ちゃんがとんでもないことを言ってきた。
「た、頼むって?」
「だから、こうお姉さん座りして、上半身を前に突き出して、手を太ももの間において、そして胸を寄せて……眉毛を少し下げて、上目遣いをして――」
俺はとりあえず唯姉ちゃんの言うとおりにやってみた。そして、最後の部分に来た。
「こ、こう?」
「そう。そして、少し頬を赤らめさせてこう言うんだ! 『ねぇ。響子のために若返りの薬作って? お・ね・が・い☆』……って」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!? 無理無理無理無理無理!! 絶対そんなの無理よっ!!」
今までにないくらい激しく、頭が取れんばかりに顔を左右に振り、必死の抵抗を見せる俺。
「そ、そうよ! そんな物で私が騙されたりする訳ないじゃない!!」
そう言ってプイッ! とそっぽを向くルナー。
「本人だって言ってるんだし、無理に決まってるよ!」
「そんなことないって!! ほら、言ってみ?」
「そ、そんなの――」
「救世主は誰だっけ?」
ここぞとばかりに弱みを握っている姉ちゃんが俺の耳元でそう囁く。どうにもこれには勝てない。
「うっ! わ、分かったわよ……やればいいんでしょ、やれば」
はぁーと嘆息しながら俺は先ほど姉ちゃんに言われた通りの体勢を取る。そして、最後の一言――。
――ていうか、そもそもこの言葉は女よりも男に効くのでは?
と思いながら俺はなるようになれ! という投げやりな気持ちでその言葉を口にした。
「ねぇ、ルナー。響子のために、若返りの薬作って? お・ね・が・い☆」
ブシャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
刹那――露さんとルナーの二人から大量の鮮血が飛び散った。そう――鼻血だ。
――てか、どんだけ出んの鼻血!?
と軽くツッコみ、俺はすかさずもう一度言葉を口にする。
「ねぇ~、お願~い!」
何でこんな体つきなのかは未だに判明していないが、その体を有効活用させてもらい、精一杯のアピールを送る。すると、鼻血をドクドクと溢れさせながらルナーが一気に活力を取り戻した。
「きゃあああああああああっ!! もっ、もっちろんよぉぉぉぉ!! そんな、可愛い子にそんなこと頼まれたら断れるわけないじゃなあああああいっ!! 疲れが何ぼのもんじゃぁああああい!! 若返りの薬なんて、この天才発明家である私の手にかかれば一瞬よ!!」
珍しく本気パワーを出し始めるルナー。
そうこうして、ようやく霖と雪の高校生姿は元の小学生姿に戻った。無論、その可愛い二人の妹の姿を見て雫が温かい目になったことは言うまでもない……。
というわけで二度目のチャイムと共に来訪したのは、やはりルナーの企みが絡めばあの人が来ないはずがありません。最強お姉ちゃん登場です。まぁ、今回は結構響史にも被害が及びますが。写真を取られ、恥ずかしいセリフをはかされ。お疲れ様です。
さらに、雫は散々な目に遭います。唯一天然物の幼女だった霖と雪が十八歳になったのですから。仮に。
そして、そんな二人に抱きつかれて凄まじい情景が目に浮かぶ状態の響子。
しかし、この作品は本当に変態が多いですね。亮太郎たち変態軍団に負けず劣らずの変態が悪魔にもいるんですから。
てなわけで次回は、短編を挟みます。アットノベルスにも投稿してるやつです。




