第三十九話「プール開きの悲劇」・3
それから数分後のこと――。
私達は勝負をしていた……。理由は簡単。暴れたりないのか、変態精神が疼くせいか、藍川くんが再び暴走しだしたのだ。その暴走は周囲を巻き込み、その気に中てられたのか他の男子生徒も暴走しだした。それはやがては勝負に発展し、先生が仲介役になって男子VS女子の戦いを始めることになった。
――どうしてこんなことに……。
既に勝負は中盤戦……。勝負の内容はほぼ自由ではあるものの、要は泳いで勝負するという――簡単な物だった。
「私の相手はあなた……ですか」
私は泳ぎの構えを取りながら真剣な顔で横を見た。そこにいるのは私の対戦相手――『日暮里 吉郎』くんだった。
日暮里くんは藍川くんのしきっている変態軍団の一員で、幹部の一人でもある……らしい。この間そんな話を耳にし印象深かったため、私はそのことを覚えていた。彼らが考えることは本当に酷いこと……だと思うんだけど、たまにそうでもないような……。と、自分でも頭を抱えたりすることが最近多々ある。
「へっへっへ、勝負だぜぃ委員長! 本当はスポーツで勝負をつけるよりもいかがわしいことで勝負してぇトコだが、あいにくとウチの藍川にそれは禁じられてるんでねぇ~! だが、相手が女子で憧れのドジっ子委員長だったとしても負ける気はさらさらねぇぜぇ~!!」
「ちょっ、私がいつドジっ子委員長になったんですかっ!!」
私は最初日暮里くんのいかがわしいことに気を取られて困惑していたが、後半の“ドジっ子”という言葉が引っかかり冷静さを取り戻した。
「へっへっへ、委員長はドジっ子だろぅ? 何せ、いつもノートを職員室まで運ぶ際に、何もないところで転んでは神童の野郎に助けてもらってるだろうがぁ!」
「そ、それは……。ていうか、見てたんですかっ!! ……変態です!」
「あたぼうよっ! 何せ俺は、藍川率いる変態軍団の幹部の一人にして『美乳の愛好家』の異名を持つもの……なんだからなぁ~!! 特に委員長みてぇな美乳の持ち主は最高なんだよぉ!」
その言葉に思わず水着を着ている自分を見てサッと自分の胸を庇うように腕で体を覆いキッと相手を睨みつけた。
「そんな軍団はさっさと滅ぼしてしまうに限りますね!」
「へっへっへ、だったら何かぁ? 滅びの呪文でも使うかぃ? “バ○ス”……みたいによぉ!」
不敵な笑みを浮かべて淡々としゃべる日暮里くん……。そのあまりにも不快な笑みは、私に恐怖心というものを抱かせていた。
――今すぐ逃げ出したい!
そんな気持ちが脳裏を駆け巡る――が、そんなことをすれば試合放棄で向こうに勝利という名の権利を与えてしまう……。そうなれば、必然的に男子生徒に何をされるかは分からない……。いや、考えただけで身震いして鳥肌ものだ。
「そんな簡単には負けません! 女子が男子よりも強いってことを証明してあげます!!」
「へっへっへ、面白ぇ! やってやるぜぃ委員長!!」
「では二人とも用意はいいですか? よぉ~い、ドンっ!!」
先生が真っ直ぐ指を伸ばした腕を勢いよくブンッ! と振り下ろし、開始の合図を私達に送る。
同時に周囲から私への黄色いエールが送られた。
「負けるな委員長!」
「ガンバレ琴音ぇー!」
同じクラスの『久枝風 千春』さんや、『蓬 風華』さんが私の名前を呼んでいる。すると、対する向こう側でも野太いエールが飛び交っていた。
「ドジっ子委員長なんかに負けんな美乳の愛好家ぅぅぅッ!!」
「お前の坊主頭が実は美乳の形を表している設定であることが伊達じゃねぇってとこ見せてみろぉぉぉぉ!!」
男子の日暮里くんへの応援? と思われる大きな声が張り上げられる。
勝負は五分と五分……どちらもスピードでは負けていない。でも、体力的にも限界が近づいてきた私は心の中で弱音を吐いた。
――ダメっ! このままじゃ負けちゃう!!
この勝負は少し変わったルールが設定してある。それは、負けた人は次の人と交代……ここは普通。
もう一つは、勝った側がそのまま残っていられるというものだった。しかし、これは逆に相手の体力を消耗させることもできるため、公平なルールとして取り入れられていた。女子と男子で体力の差が元々あるとしても、スポーツをやっている女子も十分にいたため勝負の結果は分からなかった。また、人数の調整も行われた。それは、女子よりも男子の数が四人足りないということ。ということで、男子が二人二回勝負し、女子は二人休み……ということになった。
ちなみに見学の二人は霰ちゃんと霊ちゃん……。理由は至って簡単で、霊ちゃんは泳げない、霰ちゃんは霊ちゃんが休むなら自分も……という、これでホントにいいのか? というものだった。
――後もうちょい!
私は目の前に見えるゴールに向かって必死にクロールで泳いでいた。相手もクロールのようだ。息継ぎをするたびに日暮里くんの姿と思われる坊主頭がチラチラと見えるのでその際に視認出来た。
そして結果は――。
「勝者、雛下さん!!」
「やったぁあああ!」
「いいよ、いいんちょー!!」
先生の言葉に女子側からキャーキャーと黄色い歓声が上がる。
一方で日暮里くんは、プール室の床を拳で叩きながら唸っていた。
「くそ、くそ! 何で俺が委員長なんかにぃぃぃぃ! くぅ~、悔しいぃ!!」
私は自分でも分からないが気をよくしていたのだろう……。調子に乗って男子側に指をクイクイッ! として挑発してしまった。それは男子側の闘志を煽ったも同様。
男子側は闘志の炎を燃やし、ニタ~ッ! と不吉な笑みを浮かべると両側に道を開いた。そこから姿を現したのは、変態軍団がボス――藍川くんだった。
「ふえっ? あ、藍川くんが……相手、なんですか?」
「フッ! どうしたぁ~委員長? 声が上ずってるぜ? そんなに俺と戦うのが怖いか?」
藍川くんは勝ち誇ったような笑みで私にそう訊いてくる。怖い、確かにその一言に尽きる。何せ、相手は変態軍団のボス……。どんな恐ろしい泳法を使って来るのか分かったものではないからだ。
「そ、そんなわけありません! 私は負けたりしないんですから!!」
「フッ! その意気だ委員長!! 俺はこの日を楽しみに待ってたんだ! 委員長のその……将来有望な胸を相手に出来るってことがなぁ~!」
「なっ、私の胸は関係ないでしょ?」
思わず私は委員長としての口調ではなく、普段の口調に戻ってしまっていた。
「動揺してる動揺してる! あまりしゃべりすぎると泳ぐ体力を削るに等しいんじゃないか?」
――確かにそれもそうね……。でも、どうしてそんなことを私に? それほどまでに藍川くんは余裕……ってこと?
そんなことを想いながら私も闘志の炎を燃やす。
互いに火花を散らしプールに着水する。水が冷たく感じない……。もしかすると、闘志に体が燃えているのかもしれない――そう思った。
そして試合が開始される。最初私は普通に泳いでいた。しかし、次の瞬間動きを止めてしまった。なぜなら、藍川くんのその異様な泳法に驚愕してしまったからだ。敵の泳法はめちゃくちゃで、クロールともバタフライともいえない……そんなものだった。謎の泳ぎ。しかし、それを見ているだけで不快感を感じる。それはまさに変態の、変態による、変態にだけ許された泳法――変態泳ぎそのものだった。実際そんなものがあるのかは分からないとして……。
私は気付くと泳いでいた足を止めてしまっていた。
「委員長泳いでぇ~!」
「このままだと変態藍川に負けちゃうよー?」
女子のアドバイスに私は再び泳ぎを再開しようと構えを取る。
刹那――私のスクール水着が脱がされ、上半身裸になって、胸を公衆の面前に晒けだしてしまった。この水着は水抜きがついている所謂旧スク水? というものなんだそう。何で今の時代で新スク水を使っていないのかはよくわからない。おまけに、胸元には漢字ではなく平仮名で、しかも下の名前のみを書かなければならないというこの一部の人にだけ需要がありそうな作り。そういえば、このスク水のメーカーはバブルドリームカンパニーとかなんとか言ってたような気がするけど、どっかで聞いたことがあるような。
とりあえず、今の現状としては肩紐が肩から外れてめくれた所謂ポロリという状態。そのため私は今、上だけ裸という小っ恥ずかしい格好になってしまっている。あぁ、こんな時髪の毛が長かったらなぁと心底思った。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
私はかぁーっ! と耳まで真っ赤にして胸を両手で覆い隠した。
「い、いやあ」
――い、一体何なの!? 今の……。一瞬、一瞬だけど藍川くんがこっちに接近してくるのが分かった。ってことは、今の攻撃は藍川くんのもの? そ、そんな……一瞬でスク水を脱がしてくるなんて……。まさか、後もう一撃受けたら全裸――なんてことにも!? そ、そんなのいやだ!!
慌ててプールの岸に行き、仲間の女子の助けも借りて私は岸に上がった。
「うっ、うう……」
同性とはいえ、私は恥ずかしくてその場に蹲ったまま顔をあげることが出来なかった。そのため、今の私は女子に背中を見せているという図になる。すると、私の惨めな姿に同情してくれたのか、周囲の女子が一斉に声をあげた。
「先生! 今のは明らかに反則です!!」
「そうよそうよ!」
九枝風さんがピッと男子を指差して北斑先生に意義申し立てをし、それに他の女子も便乗する。しかし、先生はよく確認がとれなかったのか、狼狽えながら口を開いた。
「け、けど……。私には雛下さんの水着を脱がせたような姿は見られなかったし……」
「いいえ! 絶対にあいつが脱がせたんです! 変態力か何か使ったに違いありません!!」
頬をかいて参ったなぁという顔をする北斑先生に、次々と私を庇う女子達が口々に言葉を投げかける。
すると、水面からザパーッ! と姿を現した藍川くんが北斑先生に言った。
「先生? 俺は何も間違ったことはしてませんよね? それに、サイズがあってなかったりしたら途中でポロリ――なんてこともある可能性だってあります!」
確かにポロリなんてことがあれば脱げる可能性はあるだろうが、今の脱げ方は明らかに肩紐が自然にズレたのではなく、何か人の手が加担していたような気がする。が、そんなことを説明しても信じてはもらえないだろう。現に北斑先生はう~んと唸りながら首を捻っていた。
「そ、そう? でも……」
先生は迷った挙句、まるで変態オーラに中てられたかのように男子側の勝利を意味する旗を上げた。
「そ、そんな!!」
「絶対にインチキです!!」
男子側の勝利に次々と文句を言う九枝風さんと蓬さん……。
それからも悲劇は絶え間なく続いていった。勝者である藍川くん相手に女子が次々と被害に遭い、しばらくの間、女子の悲鳴と男子の歓声が響き渡った。何で先生は試合を中断しないんだろうと思いながら男子にとっては真夏の楽園、女子にとっては地獄絵図としか捉えようのない光景を見ていた。
そして、次の犠牲者が現れた。――いや、それは救世主とも言える存在だった。その女子はスラリと長い足を動かしながら前に進み出て、真剣な面持ちで仁王立ちしている。まるでこのプールの様に青い瞳。そう――水連寺姉妹の四女という霄さんだ。
「そ、霄さん!」
「だ、大丈夫なの? 相手はあの藍川よ?」
「餌食になるかもしれないんだよ?」
「もう勝負は見えたんだし、潔く諦めた方が――」
「お前達はそれでいいのか?」
口々に己の意見を述べる女性陣に、霄さんは背を向けたまま口を開いた。
同時に黙り込む女子。
「そ、それは」
「男子なんかに好き勝手にされて、それでいいのか?」
またも口篭る女子に、霄さんがさらなる意見を述べる。すると、さすがに女子もカッカと頭にきたのか少し声を荒げていった。
「そんなの嫌に決まってるじゃない!!」
「ふっ、それでいい! だったら勝つまでだ!! 安心しろ、私が命に代えてもお前達に勝利というものを贈り届けてやろう!」
――か、かっこいい……。
思わず私までもがときめいてしまった。周囲を見ると、私以外にも何人かの女子が霄さんの凛々しい姿に見惚れてほんのり頬を赤らめている。
「よし行くか! 変態が相手……まぁ、相手にとって不足はない!!」
そう言い残し、霄さんはプールに着水する。すると、その対戦相手を見て変態軍団のボスが目を細めた。
「フッ! 最後は霄ちゃんかぁ~! こっちの勝利は確実だなぁ~! さぁ~て、この試合に勝ったら女子に何をしてもらおっかなぁ~♪」
「呑気に鼻歌を歌っているが、勝負は最後まで分からんぞ?」
「えらく気合入ってんじゃ~ん! いいよいいよぉ~? その意気だ!! いっくぜぇ~霄ちゃん!!」
そう言って藍川くんは再度あの変態泳ぎを繰り出す。
霄さんはプールの真ん中にまで移動すると、そこで身構えた。そして、藍川くんの体が真ん中へと向かって突っ込んでくる。まずい、霄さんまでもがあの変態技の餌食に――。
刹那――藍川くんが神童くん同様天井すれすれまで打ち上げられていた。
「ぬぅおおぉわあああああああああああああああああああああッ!!!」
ドグシャッ!!
藍川くんの体はそのまま宙を待って岸に叩きつけられた。グロテスクな音が響き渡り、その周囲に男子側が集まってガヤガヤと騒ぎ立てはじめる。
「ふんっ! 相手にもならんな……」
霄さんはプールから岸へと上がりながらボソリと愚痴った。
そのあまりにもの一瞬の出来事に唖然とする私達だったが、とにもかくにも、これで女子達は見事勝利を収めた。同時に女子達は活力も取り戻したのか、一斉に男子生徒の周囲を取り囲んだ。
敗北を感じ取り一気に熱が冷め、萎縮していく男性陣。その口から溢れる言葉はせめてもの自分自身への慰みの言葉だった。
「わ、わ~い……ハーレムだハーレムだ、ぁ」
「も、もしかして……俺達、この後お約束の展開に……」
完全に顔面蒼白となった変態軍団の幹部である日暮里くんと鶴吉くんの声が震える。そんな彼らに対して女子たちは拳をボキボキと鳴らし顔の影を濃くする。
「理解してるなら話は早いわね!」
「そうね!!」
互いに裏に隠された真実の顔を笑顔で隠している女子達は、ゆっくりとプールサイドの上を歩いていき、男子に迫って行く。その足取りがあまりにもゆっくりで、その緩やかに近づく死期に男性陣が腰を抜かして後退するが――。
『う、うっ、うわッ、や、やめッ! ギッ……ぎゃあああああああああああああああああああァアアアアアァァァァアッ!!!』
プールの授業は終わり、プール室は血祭りにあげられた男子生徒の血の海となった。
私は同じ女子ながら怖いな~と心の中で呟きながら女子更衣室へと向かった。
その後、響史くんが目を覚まして男子生徒の血の海を見て悲鳴を上げたのは言うまでもない……。
というわけで男性陣VS女性陣の戦いとあいなりました。まぁ、実際のところは男性陣ではなく、変態軍団でしょうが。何せ、ボスと幹部の二人がいますからね。そして、主にメインで活躍する琴音。最近どうも琴音視点が多いのは気にしないでください。ただ単に響史がいない場合はこの人を活躍させないといけないというだけなんで。まぁ、今回の話は琴音メインですから。
まぁ、サービスも担当してますけどねこの人。そして、もうまもなく四十話に入ろうとしている魔界の少女ですが、こっからさらに変態軍団が暴走しだし、悪魔側もいろんな意味で暴走し始めます。また、響史の従姉妹も夏休みから本気だしますよ。とりあえず、お楽しみに。
予定ではこの作品はまだまだ続きます。ちなみに、アットノベルスの方に載せてるのは四十三話までなので、そっから以降は自分の頭の中にある話を主に書き起こすことになります。
てなわけでネタバレっぽくなりますが、次回予告――ちっちゃくなります。




