第三十八話「プール開きの前触れ」・2
俺は家の前に居た。――護衛役の少女、水連寺雪とその使い魔エアリス=エアロトゥスを連れて。
弟の亮祐とは光影中央公園で別れた。本当は家で治療してやるから帰って来いと言ったのだが、普通に俺に遠慮するような感じで《心配しないでいいよ響兄ぃ! 僕は大丈夫だから》と言って走って行ってしまったのだ。
――大丈夫かな。
ふとそう心の中で呟く俺。すると、そのモノローグに入ってくるように声が聞こえてきた。
【大丈夫だろ】
「あのさ、その急に人の脳内の言葉に対して話すのやめてくれねぇか? すんごく困るんだけど……いろいろと」
【雪ちゃんにエロエロでロリロリな妄想をしてしまったところを喋られたりしたら大変だから?】
「そうそう――って、違うわぁああああああああああああああ!!! はぁ、はぁ」
俺はエアリスにとんでもないことを言われてカ~ッとなって慌てふためいた。
【あはははははは!! ホント面白いよね君は。良かった~、雪ちゃんの使い魔になって。そうでもしなければ君には会えなかっただろうからね。僕はついてるよ】
「俺はついてねぇよ」
【まぁまぁそう気を落とさず。こんなに可愛い女の子のファーストキスをもらったんだから、本望でしょ?】
「そ、それは………その。つぅか、そういう答えずらいことは聴かないでくれ」
【まっ、そうしたいならそうしてくれて構わないよ? 僕はしばらくの間さっきの急行ロリ列車で引っ張らせてもらうから】
「まだ言うか」
嘆息しながらもう半ば諦めかけてそう言った。
とまぁこんなところで長話してても話がちっとも先に進まない。
というわけで、俺はさっさと玄関扉を開けて中に入った。
ガチャッ!
「ただいま~」
気怠そうにしながら俺は帰宅を知らせる言葉を口にする。すると、その言葉に気づいたのか誰かが迎えに来た。
「お帰り、遅かったね響史!」
瑠璃が相変わらずの明るい声で俺に話しかけてくれる。しかし次の瞬間、瑠璃は表情を笑顔から困惑へと変えた。
「響史、どうしたのその子?」
「ああ。こいつは霄達の妹の雪だよ」
「ち、違うよ! 頭の上のドラゴンだよ!」
「ああ、こいつは雪の使い魔でエアリスさ」
【よろしく、姫様】
エアリスの自己紹介を軽く済ませると同時に本人がテレパシーっぽい方法で瑠璃に挨拶する。瑠璃も最初は困惑していたが、状況を呑みこむその持ち前の速さを活かして笑みを浮かべる。
「へぇ~そうなんだ!」
それ以上何も言わず再びリビングへと戻って行く瑠璃。俺も靴を脱いでリビング内へと足を進めた。
扉を開けると、テーブルに座っている者や食卓に座っている者、また、料理を作っている者もいた。相変わらず料理の担当は霖のようだ。まぁ、他のやつらにやらせて霄みたいなとんでも兵器を作られてはたまらないからな。
すると、さっそく露さんが俺の元へやってきて意味有り気な笑みを浮かべて言った。
「今日は夜遅くまで何してたの響史くん♪」
「別に何でもありませんよ。ただ単に護衛役と戦ってただけです!」
きっぱりそう言い切る俺に、ふぅ~んという感じで露さんはさらに追及するように言葉をかけてきた。
「へぇ~。で、今日は誰をお持ち帰りしてきたの?」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ! ほらこの子です! あなたの妹でしょ?」
「うわぁ~っ! 雪ちゃん、雪ちゃんじゃない!! 雪ちゅわぁああああん!!」
「おっと!」
「きゃっ!!」
ドンッ!!
俺は寝ていて無防備な今がチャンスとばかりに飛びかかってきた露さんの飛びつきから雪を守ろうと、サッと雪をその場から移動させた。同時に抱き着く対象物がいなくなり、そのまま重力に引っ張られて床に体をぶつける露さん。
「いったたたた。も~っ、ヒドイよ響史くん!」
「可愛いからって何でもかんでも飛びかかっちゃダメだってあれほど言ってるじゃないですか! いい加減そこんとこ理解してくださいよ露さん!」
「いいじゃない、可愛いんだから」
頬を膨らませ、そっぽを向いてすねる露さん。するとそこへ霄が話しかけてきた。
「おっ響史、帰って来たのか。遅かったな――って、雪ではないか!!」
俺に話しかけてくるなり驚愕の表情で雪に近寄ってくる四女の霄。
「いやその、何ていうか……今日の夕方頃に狙われたんだよ。ったく、お前らがいなくて寂しいからってここに俺の首を頂くってことも兼ねて襲いに来たみたいだぜ? はた迷惑な話だ」
「ん? 響史。お前が頭に乗せているその竜は何だ?」
ふと俺の頭の上に目がいった霄が指さして訊いてくる。
「ああ、こいつか? こいつは――」
【雪ちゃんの使い魔だよ】
「何!? 雪の使い魔? なるほどそうだったのか。よろしくな」
【こちらこそよろしく】
特に何の疑問を抱くわけでもなく、普通に会話をし、握手を交わす二人――もとい、一人と一匹。
――って、何でお前も普通に対話してんの? 「このドラゴン喋ったぞ!?」みたいな疑問は抱かないわけ?
俺はそんな疑問を抱きながら霄の行動を見ていた。
結局その日は人間界での久しぶりの雪との再会と、使い魔であるエアリスとの話で盛り上がった。
次の日の夜の事だった。
俺は日頃の疲れを取ろうと眠りに就いていた。すると、ふと誰かが俺を呼ぶ声がした。
「――し。……響史。響史ってば!!」
俺の名前を呼ぶその声に反応した俺は、ガバッとその体を起こした。
「えっ、あっ……何だ?」
「ねぇねぇ、どうこれ? 似合う?」
顔を上げる俺の目の前には、眠っていた俺を起こした瑠璃だけでなく、光影学園に通っている護衛役のメンバー、さらに麗魅が、何故か全員――水着を着用していた。
「何……やってんの、お前ら?」
「響史に訊きたいことがあって」
率直にそう告げる瑠璃。俺は少しまだ脳が寝ているのでそれを何とか叩き起しながら首を傾げた。
「訊きたいこと?」
「そう。水着ってさ、これでいいんだよね?」
「いいんだよねって……いいんじゃねぇの、それで。だって、別におかしいとこは特になさそうだし」
その言葉に瑠璃は少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら後ろを向いたり横を向いたりなどいろんな動きをした。
「水着って、下着つけないの?」
「いや、着けないだろ。第一着けてたら濡れるじゃん?」
顔の手前で手を振りながら無理無理というジェスチャーをする俺。すると、納得したように手を叩いて瑠璃が口を開く。
「あっ、そっか」
――それくらい分かれよ!
寝起きにも関わらず脳内ツッコミを炸裂させる俺。
「てかお前ら、プールとかないの?」
「プールはないよ? あるとすれば水浴びくらいだし。水浴びだってこういう風なのは着ないし」
そう言って瑠璃は自分が着ている水着の水着をビヨーンと引っ張った。伸縮性があるため、そんなに大きな水着を買わずともちゃんと着れる。第一、大きすぎるのを買ってしまったら万一泳いでいる途中でポロリ……と言う事も考えられる。亮太郎のことだ、そういうことも考えているに違いない。現にあいつは明日の為に今日は早く寝るとも言っていた。
――どんだけ楽しみなんだあいつは。
「じゃあ、水着を着るのは初めてなのか」
腕組をしながら何気なくそんなことを呟く。すると、瑠璃が水着を着てみた感想を口にした。
「うん。水着って初めて着たけど、何かこう締め付けられてる感じがあるよね」
「締め付けられる!?」
異常な反応を示したのは露さんだった。全くこの人は何を考えているのやら。
「確かにアタシ的にはこういうピチッとしたのはちょっと。まぁ、空気の抵抗とか水の抵抗は少なそうだから動きやすいっちゃ動きやすいけどさ」
霙が軽くジャンプしながら軽く運動し言った。その度に瑠璃ほどとは言わないまでも、そこそこの大きさのある胸が揺れ、俺の視線を釘付けにさせる。
というわけで、帰宅した響史ですが、そこで護衛役との絡み。しかし、霄は相変わらず順応力の高いこと。普通使い魔と分け隔てなく会話するって無理でしょう。
さらに、明日に向けて水着の着用をして着方があっているかどうかのチェック。普通それは女子にやってもらうべきだと思われます。どんな光景でしょうかねぇ、男子一人は普通の格好で、周りの女子は全員スク水って。あ、ちなみに後の方で書かれていると思いますが、この水着今時のご時世に逆らって旧スク水です。水抜きタイプです、はい。




