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魔界の少女  作者: YossiDragon
第二章:六月~七月 護衛役『現れし青髪の脅威(後)』編
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第三十七話「雪を降らせし少女」・1

 魔界。

 瑠璃や麗魅、護衛役の少女達が元々生活していた世界。ここは、瑠璃や麗魅の父親である大魔王ビジスターが支配者として君臨している。太陽など存在するはずもないため、毎日が夜のような状態。そのため、必然的に彼らは日光を浴びていないために日焼けもしない。そのため、透き通るような肌が特徴的となる。また、特徴として十字架や聖水、また聖書などを苦手とする。さらにもう一つ挙げるとすれば、その異常な(パワー)だ。どれほどの力があるのかと言えば、超巨大なハンマーを振り回す霙を想像すれば分かりやすい。




 大魔王の城、玉座。玉座に座る多大な威圧感をあふれさせる人物。彼こそが、ここ――魔界を治める大魔王ビジスター。牙の様に伸びた八重歯に尖った耳。さらに耳たぶにはピアスをつけている。赤く鋭い双眸、真っ黒な漆黒のマント、深々と腰かけ偉そうに足を組んでいる辺りからいかにもと言った感じだ。そんな大魔王の目線の先には、二人の青髪の幼年幼女がいた。護衛役の二人だ。そう、この二人が残りの二人。見た目的に二人とも中学生以下と言った感じだ。


「とうとうお前達だけになってしまったな。まったく、お前達の兄や姉は何をやっているんだろうな? 全く、お前も生き残っているのが不思議でならんぞ、メアリー?」


「は、はい……大魔王様」


 メアリー、即ち人間界でいう水連寺澪が怯えながら大魔王の言葉に応える。

 大魔王が言う生き残っているのが不思議というのは、澪が以前神童響史の家に刺客として麗魅と一緒に訪れた際にしくじった時のことだ。そこで任務をしくじったために本来ならば死んでしまうはずだったのだが、運よく響史に助けられたためにまだ生存していた。


「ふんっ、やはりあれほどのお仕置きではたらんかったか……」


 頬杖をつき、横目で澪を眺める大魔王。その口元は明らかに緩んでいた。


「おねえちゃんには手を出さないでください」


「ほう、言うな……。ならば、今回の刺客にはお前を向かわせよう! 行け。いいか? しくじればどうなるかは解っているな」


「わかってます……」


 二人の幼年幼女の内の一人、幼女の方がコクリと縦にゆっくり頷く。薄着の上にパーカーを羽織るような感じの格好の幼女は、大魔王の威圧感に押しつぶされることなくその場に堂々と立っていて、それだけで見た目は子供でも中身は大人のような感じがした。


「気を付けるのよ?」


「わかってるよ、おねえちゃん」


 姉の澪にそう答える幼女。


「ゆ~たん……」


「心配いらないよ。わたしは大丈夫だから」


 そう言って笑みを浮かべ自分よりも少し幼い少年の頭を撫でる幼女。どうやら、“ゆ~たん”というのは少年が幼女につけたあだ名の様な物らしい。

こうして幼女は姉弟に見送られて魔界を出発した。



 人間界。神童響史達人間が毎日平和に生活している世界。ここもある人物が治めて支配しているのだが、その人物はまだ明らかになっていない。


――☆★☆――


「うっ、うぅ~んっ!!」


 俺は今日もまた夏の暑さと人口密度の暑さによってうなされ起きた。

 周囲をなぜか美少女悪魔に囲まれるというこの現実――いや、非現実。だが、これが現実に起きているのだから恐ろしい。しかも、メンバーの殆どが元々俺を殺しに来た刺客というのだからもっと恐ろしい。しかも、さすがに十数人と寝ていたらベッドも耐えられないし、この夏の蒸し暑さで俺も耐えられない。なぜ彼女達悪魔がこんな暑さに耐えられるのかは知らないが、俺はとにかくこの状況を打破しなければならない。そのためにはまず、俺の上にのっかっているというよりも、抱き着いてきている少女をどけなければならない。体を密着させハグするような感じに乗っかっていて、その上顔が俺の真横にあるため顔を動かして誰なのかを確認するという作業が行えない。体格的にも小柄なため、恐らく護衛役の少女――即ち、水連寺一族の九女である霖とは思うのだが。


「お、おい……霖? すまないが起きてくれ。動けないし、学校に行けない!」


「う、う~ん……」


 唸って体を少し動かすだけで起きようともしない。なぜ悪魔というのはこんなにも起きる時の動作が遅いのだろうか。それとも、朝が弱くて起きられないのだろうか。だが、それは違うと思う。第一、もしもそうだとすれば普段の学校生活は一体どうなるのだと矛盾が生じるからだ。すると、隣から声がした。


「あんたってさぁ、どうしてそうやっていつも女の子とイチャイチャするの?」


「なっ、何言ってんだ? 明らかにこれ一方的だろうが!! 第一、これのどこがイチャイチャしているって言うんだ!!」


 その声の主は口調からも分かるが、双子の悪魔の姫君の一人――麗魅だった。双子の姉である瑠璃と同じ蜜柑色の髪の毛をしていて、仰向けになったままこちらを半眼の眼差しで見ている。


「あんたが今触れてるの、どこか分かってる?」


「えっ、俺が今触れてる? ……ん? 何だこのあるようなないような感じの柔かさは」


 言われて俺は感触を確かめる。そういえば、さっきから腕が何かの下敷きになって動かせず、手首から先しか動かない。俺は、その手が触れている感触に疑問符を浮かべながら呟いた。すると、隣から殺気を感じ、動かない頭をゆっくりと横に動かし殺気の方を向いた。そこには、鬼の形相で俺を睨み付けるまさに悪魔のような少女の姿があった。


「あるようなないような感じの柔らかさで悪かったわねっ!!」


 そう言って俺の顔面に向かってグーパンを決めようとしている麗魅。


「うわぁッ! ちょっ、待て!!」


 俺は反射的に手でそのパンチを受け止めた。同時に凄まじい衝撃が俺の手から全身に駆け巡る。


「いってぇぇええ!」


 俺は麗魅の手から手を放し、慌ててベッドから出ようとした。しかし、霖がガッシリ俺にくっついていて身動きが取れない。そうしている間にも、麗魅は第二撃の準備をしていた。


「やばいッ!!」


 俺は霖を体にくっつけたままベッドから死にもの狂いで脱出した。瑠璃達の体を踏まないようにしながら。


「待ちなさいっ!! 殺してやる!!」


「ちょっ、待てって!! 霖もいるんだぞ?」


「安心なさい、当てないように考慮するから」


「器用だな!!」


 ニヤついた笑みを浮かべ、顔の陰を濃くしながらそう告げる麗魅に俺は相も変わらずツッコミを炸裂させていた。すると、俺の言葉に自慢気に麗魅が腰に手を当てて威張った。


「ふっ、私を誰だと思ってるの? 私は悪魔の姫君なのよ? これくらいの力加減くらいあるわよ!」


「何だかルナーみたいだな……」


 俺は麗魅のその口調と偉そうな態度がまさにルナーのようだなと二人のイメージを重ねた。


「うっさい! とにかく観念なさい!! 顔の原型が残らないくらいにまで殴ってあげるから!!」


 麗魅は笑顔を浮かべていた。しかし、顔は笑ってても心は笑っていなかった。


「や、やべぇ……や、やめろ。うっ、うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 こうして今日も俺は慌ただしい一日を迎えた。




 俺達は学校に行くために制服に着替え朝食を済ませていた。

 時刻は七時ちょっと過ぎ。このくらいの時間から朝食を摂っていれば学校に遅刻などということはない。下手なことをしない限りは。


「ねぇ、お兄ちゃん。その顔どうしたの?」


 向かいの席に座っていた霖がイチゴジャムを塗りたくった食パンにかぶりつきながら俺に訊いた。


「ああ、ちょっとな……」


 ボロボロになった顔を今一度優しく自分の手で撫でながら作り笑顔を浮かべる俺。すると、横から麗魅が口を挟んできた。


「この変態が私の胸触ってきたの。ううん、触ったなんてもんじゃないわ! 揉んできたのよ!!」


「朝から盛んだねぇ~、響史くん」


 露さんが頬に手を当て少し頬を赤らめながら俺を微笑ましいものを見るような眼差しで見つめる。


「ち、違いますよ露さん!! ていうか揉んでねぇし、第一揉めるくらいの大きさねぇだろ!?」


「んなっ、言ったわね!? いいわ、決めた! あんた、そこに正座なさい!! 今すぐに制裁を与えてあげるから!!」


 そう言って麗魅はガタンと荒立たしく椅子を引く音を立ててその場に立ちあがった。


「まぁまぁ二人とも落ち着いて? それに、急がないとまた学校に遅刻しちゃうよ?」


 俺達二人を宥めるように、瑠璃がまぁまぁと手を動かす。すると、一応尊敬している双子の姉に、麗魅も申し訳ない気持ちになったのか、シュンとなって麗魅が椅子に座った。


「お、お姉さまがそう言うなら……。今日のところは勘弁してあげるけど、次やったらただじゃおかないからねっ!!」


「へいへい」


 ピッと人差し指をこちらに突き付けて言う麗魅の言葉を流して、俺は食パンを流し込もうと牛乳を一杯飲んだ。




「しぃぃぃぃんどぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 相変わらずのハイテンションで俺に話しかけてきたのは、変態男こと――藍川亮太郎だった。俺はその姿に嘆息して尋ねる。


「どうしたんだ? そんなにテンション上げて」


「何って、そんなもんいつもと変わんねぇだろ? てか、俺よりもお前の方がどうしたんだよ!!」


「ん? 何が?」


「お前、鏡で自分の顔見た事あるか?」


「何だよ、改まって」


 ぐたぁと、机に寝そべりながら亮太郎にそんな質問をする。すると、亮太郎は腕組をして俺に今の俺の顔や外見について述べだした。


「随分顔がゲッソリしてるぞ? 顔色も悪そうだし……昨日、夜遅くまで何かしてたのか?」


「べ、別に。特には……何も」


「ん~? 怪しい。さてはお前!! 瑠璃ちゃんや麗魅ちゃんと夜中の一時を満喫してたんじゃねぇだろうなぁ~!?」


 亮太郎が怪しい物を見るような目つきで見てきたため、机にベタ~ッと寝そべっていた俺はガバッと上半身を起こし、亮太郎に言った。


「んなわけねぇだろ!!? 第一、何で俺があいつらと……ッ!!」


「お前!! あんなに可愛い二人の妹を認めねぇってのか!!? あ、ありえねぇ!! 俺だったら即OKだぜッ!!」


「俺とお前じゃ感覚が違う。ていうか、そもそも理由が違うって言ってんだろうが!!」


「じゃあ何だってんだ?」


腰に手を当て俺を見下ろす亮太郎。再び俺は机に寝そべり言った。


「いや~。何ていうか、その……いろいろあるんだよ。もう毎日が疲れるっていうか」


「毎日女子に囲まれてるお前の言う事は、凡人の俺にはわっかんねぇなぁ~!!」


「そうだな」


 半眼で気怠(けだる)い雰囲気をもらしまくってそう告げる俺。


「そこは何かフォローしてくれよぉ~!!」


 軽い言葉しか返してこなかった俺に救いを求める様にそうすがりつく亮太郎。そんな彼に俺は嘆息混じりに言った。


「だから今はそういう気分じゃねぇんだって……」


 亮太郎の気分と今の俺の気分は全くの真逆の状態にあった。


――ていうか、何でこいつ、この間の身体測定で制裁を受けたのにピンピンしてんだ? まぁこいつはそういう男だから仕方ないかもしれないが。



 そう自分で納得した俺は、ふと廊下の方を見た。すると、三人の男子が亮太郎を呼んでいた。


「おい亮太郎、お前のこと呼んでるみたいだぞ?」


「ん? おおッ! 情報屋のやつらじゃないか!! そうか、例の“アレ”についての件だな?今行く!!」


――例の“アレ”? アレって一体何のことだ? まぁ今はそんなことどうでもいいか。ていうか、あの三人の男子生徒は情報屋なのか。要はあいつらからいろんな情報を得てるってわけか。



 俺はそんなことを半眼で見ながら考えていた。そして、だんだんと日頃の疲れが眠気に変わり、睡魔が俺を襲ってきた。俺は特に抵抗もせず睡魔に身を任せ昼休みの教室で寝てしまった。




「――くん。神童くん!!」


 俺は自分の名前を呼ばれる声で目が覚めた。眠気眼を擦りながら、伏せていた顔を上げる。目線の先にはうちの学校のスカートが映った。


――女子か。瑠璃達か?



 そう考えながらさらに顔を上にあげると、そこには相変わらずの笑顔で俺に接してくる雛下琴音の姿があった。


「どうした雛下? 俺、眠いんだけど……」


「もうつれないなぁ~! 昔みたいに“琴音ちゃん”って呼んでもいいんだよ?」


 雛下は、昔俺と一緒に遊んでいた時の様な口調で喋っていた。二、三ヶ月前までは全く知らない相手と喋るみたいな絡みの仕方だったのに、どうして急に昔の様な口調に戻ったんだ? と俺は疑問に思った。とどのつまり、雛下と俺は幼馴染なのである。そのため、俺の弟の亮祐と雛下の弟である健太もよく一緒に遊ぶことが多い。ちなみに、今現在亮祐は雛下の家に泊まっている。しかも、未だに帰ってこない。


「それは昔の話だろ。ていうか、用がないなら俺二度寝したいんだけど」


「もうそろそろ昼休み終わりだし、教えてあげようかな~と思って!」


 明るく振る舞いながらそう言う雛下。さすがは学級委員長。クラスのみんなを管理しているだけはある。


「ふ~ん、用はそれだけか?」


「ひっどいな~、用が無かったら話しかけちゃダメなの?」


 頬を膨らませ俺を見つめてくる雛下。

 と、その時、急に雛下が表情を変えて俺に質問してきた。


「あっ、そういえば。ねぇねぇ、神童くんってさ、瑠璃ちゃんや麗魅ちゃん以外に妹っているの?」


 そう言われた瞬間、なぜか脳裏に「お兄ちゃん!」と、満面の笑みで俺を見つめてくる霖の姿が映った。


「いや、いねぇけど……」


――ていうか、瑠璃や麗魅もホントの妹じゃねぇしな。まぁ義理ってことになってるみてぇだから関係ないか。



「そっか。じゃあアレ、誰だったんだろ?」


 再び耳にするアレ。何故だろうか。アレと言われると必然的に気になってしょうがなくなってくる。さっきの亮太郎も(しか)り、今目の前にいる雛下も然り。


「アレってなんだ?」


「ああ。実はこの間、お母さんに頼まれておつかいに行ってた時のことなんだけどね? ほら、今神童君の弟……えっと、あっそう亮祐くん! が、私の家に泊まってるじゃん?」


「ああ」


 何で毎日家に帰るといるはずの俺の弟の名前を忘れてるわけ? と思いながら俺はコクリと相槌を打った。


「それで、中央公園で弟の健太と亮祐くんが遊んでたの」


「別に何の問題もなさそうだけど」


 俺が頬杖をついてそう言うと、ムッとした顔つきで雛下がバンッ! と俺の机を叩いてきた。


「最後まで聴いて!! ここから先が問題なの。実は、その光影中央公園で遊んでたのは、その二人だけじゃなくてもう一人を含めた三人だったの!」


「三人? もう一人って……誰なんだ? 近所の友達か?」


「それだったら私にも分かるよ! でも、あの子はどこでも見た事のない子だった。冷たい表情をしていて……そう、まるで雪みたいな。しかもその子、棒付きキャンディー舐めてた!」


「棒付きキャンディー舐めてたら怪しいのか?」


 苦笑しながら俺はそう言った。すると、首を傾げながら雛下が言い返す。


「怪しいってわけじゃないけど。ホントその子、普通の子には見えなかったの!! 髪の毛も水連寺さん達みたいに青かったし」


 雛下の話を聴いていた俺は、後半部分の言葉を聞いてまたしてもガバッと上半身を起こした。


「おい、今何て言ったッ!?」


 俺はガシッと雛下の両肩を両手で掴んで栗色の双眸を見つめた。


「あっ……えっ、あの」


 突然俺に詰め寄られ、雛下は顔を紅潮させて必死に俺から視線を逸らした。

 そして一分くらいしてから雛下はボソッと、先程言った言葉を消え入りそうな声で言った。


「あ、青髪の女の子……」


 再びその言葉を聞いて俺は脱力して椅子にストンと座った。雛下は、片方の手にもう片方の手を重ねるようにして心配そうな顔で俺を見ていた。


「あ……。う、嘘だろ?」


――まさか護衛役が!? どうして。確か護衛役は残り二人。でも、どうして俺じゃなくて亮祐に接触する必要があるんだ!? 待て、既に長女や次女など上の方は埋まってしまってる。ってことは、今回の刺客は霖よりも下……即ち、十女ってことか!? まさか、子供だから俺じゃなくて亮祐を襲うつもりなのか!? そんなのダメだ!! 何とかしないと!



 俺は机に肘をつき頭を抱えた。さっきまで眠たいなどとほざいていた俺の様子が急にガラリと変わったことに不審感を抱いたのか、雛下が俺の顔を覗き込むようにして訊いてくる。


「大丈夫? 顔色が悪いけど。そんなに気になるんだったら今日放課後にでも私が様子を見て来てあげようか?」


 気を使ってくれているのか、雛下は俺に優しく訊いてきた。


「じゃあ、頼めるか?」


――まぁ、もしかしたら人違いかもしれないし。第一、護衛役じゃなくても青髪の人だっているんだ。生徒会の水滝先輩とか。



 そう俺は自分に言い聞かせ、心配ながらも雛下に任せることにした。


――☆★☆――


 放課後。

 私――雛下琴音は、響史君に頼まれて(というか、自分で積極的に行ってきてあげると言ったのだが)、光影中央公園に来ていた。そこには、亮祐くんと弟の健太と、神童君に話した女の子がいた。

 やっぱり、口に棒付きキャンディーを頬張らせている。しかも、その女の子の瞳は髪の毛同様海の色の様に青かった。


――綺麗な子だなぁ~。



 そんなことを頭の中で考える私。女の子は私の目をじ~っと見つめたまま一言も喋らない。健太と亮祐くんは、そんな女の子はほったらかしにして二人で談笑していた。


「あなた、名前は?」


 私はふとそんなことを女の子に訊いてみた。すると、口に頬張っていた棒付きキャンディーを取り、冷たく凍えるような声で話した。


「……雪」


 雪。確かにそう聞こえた。まさに、この女の子の容姿や雰囲気、その口調、何もかもがその名前にふさわしかった。夏だと言うのに、ここに来た瞬間寒気がした。それも、もしかしたらこの子のせいかもしれないとも私は思った。


「雪ちゃんは、どこから来たの?」


 私は膝に手を付き少し身をかがめて、女の子――雪ちゃんに訊いた。


「遠いところから来た。ていうか、おねえちゃんにそんなこと話す必要あるの?」


 冷たい口調で言う小柄な少女。その眼は少しも笑っていない。


「い、いや」


 少し戸惑う私。

 と、その時、雪ちゃんが急に私の胸を触って――いや、揉んできた。


「っひゃあ!!」


挿絵(By みてみん)


 予期せぬ雪ちゃんの行動に、私は思わず悲鳴めいた声を上げてしまった。


「……ふっ」


 気のせいかもしれない。だが、一瞬私には雪ちゃんが笑ったように見えた。でも、顔を俯かせていたためにその真偽が確認出来なかった。


「おねえちゃん、胸小さいね」


 その一言を聞いた瞬間、私は多大なショックを受けた。私は顔を真っ赤にして雪ちゃんに対して注意しようとしたが、その前に弟の健太が口を開いた。


「おい雪! 姉ちゃんに何てこというんだ!! 姉ちゃんはこれでもすんごく気にしてんだぞ!? 毎日毎日、風呂上りに牛乳飲んだりして日々努力してんだからな!!」


「ちょっ、健太やめてよ! 恥ずかしいっ!!」


 両手で顔を覆い、今の表情が分からないようにする私。


――ていうか、健太。それ、フォローになってない!!



 と心の中で呟く私。


「少なくとも、ボクのお姉ちゃんよりかは小さいね」


「う……うぅ、ひ、ヒドイよぉ~!!」


 私は堪えられなくなった悔し涙を目じりから零しながら180度ターンした後、腕を目に当ててその場から逃げ出した。


「く~っ、お、覚えてろよ! 姉ちゃんは必ずボン、ボン、ボン!! でお前を見返してやるからな!!」


――健太、それじゃあ太っちゃってるじゃん。普通はボン、キュッ、ボンッ!! でしょ。



 などと、泣きながら冷静だった私は思った。

というわけで、新たな護衛役登場です。これで残るはあとこの女の子ともうひとりの男の子のみとなりました。そして、今回のこの幼女は結構色々と複雑な力をお持ちなのです。にしても、琴音もかわいそうですね。少し様子見に来ただけなのに胸触られて挙げ句の果てに小さいと吐き捨てられ、弟にフォローされるはずがさらに傷口を抉られて退場なわけですから。

てなわけで、今回は結構分量眺めでお送りします。

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