第三十六話「身体測定」・3
――そう言えば、こいつにはまだ会わせてなかったな。ん? いや待てよ? こいつをもしも仮に露さんに会わせたとしたらどうなるんだ? 変態コンビの誕生? それはますます危ない! 女子が好きな変態と可愛い女子なら誰もいい変態。そこにさっきの変態メタボ男も合わせたら変態三人。略して三馬鹿の誕生じゃないか!! そいつはツッコミが炸裂しまくりしそうだな……。
そんなことを考えていると、亮太郎が俺の顔を覗き込みながら訊いて来た。
「どうしたぁ~神童。ロダンの考える人みたいにう~う~唸りやがって。さては、美少女が何人もいて選びきれないとか思ってるんだろう? だが甘いな、俺は一人とか絞らず、全員をチョイスするぜ!!」
「何の話だよッ!! そうじゃねぇ、ただ単に考え事だ。それよりも何だっけ?」
「だから、あの青髪の美少女だよ! あの子悪魔的キャラ、二年の先輩の中にいたっけ?」
――小悪魔。まぁ悪魔であることには違いないのだが。
「霄達の姉だよ……」
「ぬわぁにぃッ!? じゃあ、あの先輩もお前の従兄妹だというのか!? く~っ、神童! ますます俺はお前を殺したくなってきたぜ!!」
「ははは……笑えねぇ」
俺は苦笑した。亮太郎の目が、完全に笑みを浮かべつつ全く笑っていなかったからである。
「決めたッ!! なんか俺、あの人といいコンビが作れそうだ!! 今度話しかけてみよう!!」
「おいやめとけ! それだけはやめとけ、てかやめてくれ!! 本当に三馬鹿が誕生しちまう!!」
「ん? 何の話だ?」
訝しげに首を傾げる亮太郎。この顔は確実に自覚なしだな。
「あっ、いや……その。何でもない」
「変なやつだな」
――お前にだけは言われたくない!!
ロッカーの中で語り合う俺と亮太郎。
一方で、二年の女子達も身体測定を終えて発育測定をしていた。
と、その時である。「きゃあ」という声がした。てっきり俺は新たな変態でも現れたのかと思った。だがそれは違った。厳密的に言えば、新たな変態ではなく、元々の変態だった。そう、露さんである。彼女は相変わらずの様子でスキンシップと言いながら同級生のまだ発育途中の胸を大胆に鷲掴みして揉みしだいていた。
「きゃっ、ちょっ水連寺さんっ!!」
「いいじゃんいいじゃん! スキンシップだよ、スキンシップ!!」
「もう~っ!」
女子同士だから許されるのだろうが、これの相手が亮太郎の様な男だったら、完全に死亡フラグものである。
「うぉおおおおおッ!!」
大量の歓喜の涙を流しながら亮太郎がガッツポーズを決める。
「どうかしたのか?」
「どうかしたって、分からないのか神童! あれこそが女子同士だから許されるという伝説のスキンシップだ!!」
――あれ、伝説なのか。
「く~っ、俺も一度でいいから女になりてぇ~!! 決めた! 俺、死んで生まれ変わったら絶対に女に生まれてやるッ!! んで、俺もあんな風に伝説を作り上げるんだ!!」
亮太郎の言葉を聞いていて、俺は一つ引っかかる部分があった。そう、一度でいいから女になりたいという一言。俺は既に一度女になっている。しかも、その姿を亮太郎にも見られた(本人には気付かれてない)。だが、実際の所、女子になったところでいいことなんて一つもない。むしろ、俺の女体化した姿が気に入ったのか、毎度毎度ルナーに頼みごとをしたら、その見返りとして女体化することを求めてくる。全く持って勘弁してほしいものだ。あれは、はっきり言って女装するよりも恥ずかしい(経験談)。
そうこうしているうちに、露さんはまた別の女子に背後からまとわりついていた。相手もよく露さんにつきあってくれているものだ。頬を赤らめて目じりに涙を浮かべて、表情も――あれ? 何か心なしか頬赤らめて少し喜んでるような。いや、気のせいか?
結局俺は、呆れ顔でその様子を、隣で溢れ出る鼻血を自分の手で押さえながら目をオロオロさせて興奮しまくっている亮太郎と、交互に見ていた。
そして、二年も終わった。
とうとう残るは一年生。よりにもよってこの時が来てしまうとは。なぜ俺がこうも一年生に来てほしくないのか。もちろん、知り合いが何人かいるというのも関係しているが、何よりも一番の問題なのは、瑠璃や麗魅達悪魔が大勢いることだ。二年の場合は露さんだけだからまだいいようなものの、あいつらの事だ。必ず何か騒動を引き起こしてくれるに違いない。そう、俺は考えていた。
「なぁ亮太郎。そろそろ戻らないか?」
「何言ってんだ神童!! ここまで来たんだ、今更帰れるか!! それに、俺の一番の楽しみは一年生だったんだよ!!」
「どうして?」
俺は亮太郎に理由を訊いた。すると当たり前だろと言わんばかりに鼻息を荒くして拳を握りきっぱりと言い切る言葉を発した。
「そんなこと決まってるだろう!! 瑠璃ちゃん麗魅ちゃんはもちろんのこと、俺らのアイドル、タマちゃんがいるからだぁあああああああああああああああああああああああああッ!!」
「し~っ! 静かにしろって! 外に聞こえたらどうすんだ!!」
「おっとすまねぇ」
注意する俺に、慌てて口元を手で覆う亮太郎。
「ていうかお前、霊をいつの間にアイドルにしたんだ?」
「は? 何言ってんだ神童! 今頃そんなこと言ってるなんて時代遅れだぜ!!」
「俺は時代に乗り遅れているのか?」
亮太郎に言われてふとそんなことを考える。すると、半眼で呟く俺に対して亮太郎は自慢気にこう言った。
「ああ。今の時代、この学園に水連寺霊と言われてイコールアイドルって出なかった奴はクソだ!! この光影学園にいる必要ない!!」
「悪かったなクソで……。ていうか、そこまでひどい言われされる覚えねぇんだけど」
「まぁ、お前は知らずともいいよな。タマちゃんとはいつでも会えるんだから」
「まぁな」
――家にいるし。
ふと視線を逸らして心の中でそうツッコむ。
それから一分後、ロッカー内で俺達二人が小声で会話しているところに一年生の女子がやってきた。人数も多いのだが、何よりも知っている顔ぶればかりで俺は困惑していた。何せ、その知っている顔ぶれの美少女達がこれから何も知らぬまま自らの肌を晒すのだ。見つかったら何て言われるだろうか。ここには幼馴染の琴音もいるし、部活の馴染みで玲もいるし、瑠璃と麗魅と護衛役もいる。うぅっ! 想像しただけで身震いものだ。
「おおっ、来た来たキタ――――――――――――――!!!」
「だから静かにしろって!!」
俺が慌てて亮太郎の口を塞ぐ。
「ん?」
「霄、どうかした?」
「いや。今、ロッカーの方から変な気配を感じてな……」
――やっべぇ!? そうだ、一年には霄がいるんだ。こいつはアホだが割りと勘の冴えわたるやつだからな。気を付けねぇと。ん? 待てよ……。今思えばそんなにも恐れる必要なくないか? 考えてもみろ。まず瑠璃。のほほんとしているし、危険さ特になし。麗魅、胸に関することを話すと無性に怒り出すツンデレ。だが、特に危険はない。霄、いつも剣を常備しており怒らせると何をされるか分からない。だが、常識知らずなところもあるため危険さはほとんどない。霊、猫耳に尻尾……キャラ的にはアイドルだと亮太郎たちにチヤホヤされてるが、彼女自身には特に害なし。霙、すぐに攻撃してきそうなバイオレンスな少女。だが脳筋バカのためこれも危険なし。霰、普段は霊に近寄ると襲い掛かってくる変態だが、今回は霊の体操服姿に興奮状態のために周囲のことなど気にしてはいない。そのため危険なし。ということは、総合的に問題ないのか!?
そう考えた俺は、少し護衛役を甘く見ていた。
事件はまさにその時起こったのである。
突然霄が俺達のいるロッカーに近寄ってきた。
「ま、まさか……バレたのか!?」
「んなわけねぇだろ。まだ俺何もしてないし……」
腕組みをしてうんうん頷く亮太郎。
「その発言だとこれから何かやる予定のように聞こえるんだが――って、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!!」
言い合う二人の外で霄は腕組みをして小首を傾げる。そして、片眉を吊り上げてついに行動に出た。そう、常備していた妖刀『斬空刀』の柄で、ロッカーの扉を勢いよく突いたのだ。右から三番目――ではなく、四番目の扉を。
――ってあれ? どうして三番目じゃなく四番目を。
そう俺が不審に思っていた時の事である。
ガチャッ。
ひしゃげた扉が倒れ、そこから姿を現したのは――。
「いや~参ったな~! さっすが霄ちゃん! まさか私がいるのに気付くとは、これは恐れ入った!! 参りましたぁ~!!」
と、満面の笑みで頭をかいている露さんだった。
――いっ、いつの間に!?
俺と亮太郎はいつの間にか同じ言葉を心の中で叫んでいた。だが、本当にその通りなのだ。二年が終わった時、確実に全員がその場から退散していた。なのになぜ、露さんがこの場に? しかも俺達のいるロッカーのすぐ隣から姿を現したのか全く持って謎である。これも悪魔の力なのか。
そんなことを考えているうちにまた一つ騒動が終わった。しかし、事件というのは連続的に起こる物で、またしても問題が発生した。
「や、やべぇ! と、トイレ行きたくなってきた!!」
と、亮太郎の一言。
「ま、マジかよ! 我慢しろよ! もう少しで一年生の身体測定も終わるんだからさ」
「くぅぅぅぅっ、我慢だ!!」
何とか耐える亮太郎。すると、一方で瑠璃と麗魅、二人も何やら発育測定のことでもめているようだった。と言っても、揉めているのは麗魅が一方的だが。
「お姉さまには分からないわ! 私のこの気持ちが!!」
「どうしたの急に……?」
「お姉さまは大きいからいいかもしれないけど、私はその……ち、小さいのよ!」
自身の胸にぺたっと手を当て、ウルウルと今にも泣きだしそうな表情を浮かべる麗魅。
しかし、能天気な瑠璃にはそのジェスチャーの意味も伝わっていない様で首を傾げながら口を開く。
「そうかな? 私も麗魅も身長大差ないけど……」
「身長の話じゃないわよっ!!」
「えっ? 違うの? じゃあ、体重?」
「それも違う!!」
「う~ん……何だろ?」
相変わらず天然気のある瑠璃。なぜ気付かない。そのことに麗魅も大層ご立腹の様子。すると、それが災いしてか、麗魅は怒りのあまり、双子の姉である瑠璃を軽く後ろに突き飛ばした。それを予期してなかった瑠璃は、そのまま後ろに倒れた。そして、丁度後ろに立っていた霰に背中がぶつかり、霰が霊の体に抱き着くような形になった。
「い、いにゃあああああああああっ!!」
声を上げグーパンを繰り出す霊。それにより、霰はおっとっと、となりながら霄にぶつかった。
「ぬっ!?」
さすがの霄も少し油断していたのか、奇妙な声をあげてそのまま倒れかけ、その拍子に斬空刀を手放してしまった。同時に斬空刀が宙を舞い、回転しながら弧を描き霙の後頭部に直撃した。
「イテっ!」
霙は痛みの拍子に俺達の入っているロッカーに向かって持っていたハンマーをぶつけた。
ドゴンッ!!
結構な重量のあるハンマーは扉を蹴散らし、俺達二人の姿が周囲の視線に晒された。無論、次の瞬間響き渡る声は容易に想像がついた。
「きっ、きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
本日二度目の悲鳴。もちろん叫ばれた相手は俺達二人だ。しかも、タイミング悪く発育測定の最中だったために体操服の上を脱いで下着姿。一年生の女子達は、脱いだ体操服を上から当てるような状態にして俺達二人に涙目で襲い掛かってきた。
「許せない、神童! 変態藍川っ! 今日こそは天誅をくだしてあげるわ!!」
『うわあああああああああああああああああ!! ご、ごめんなさああああああああい!!』
俺と亮太郎の二人は慌ててその場から逃げ出した。しかし、ふと逃げてる最中に隣を見ると、一緒に逃げていたはずの亮太郎の姿がない。
――しまった! 置いてきてしまったのか!? って、今更戻ってる暇なんかねぇ!!
そう言って結局俺は亮太郎を置き去りにして逃げてしまった。
その後、午後の身体測定の際保健室に向かうと、変態軍団の会長にしてボスとも言われているあの変態王こと藍川亮太郎が、無惨にも荒縄に縛られ、口には猿轡をはめられ、パンツ一丁姿にさせられて天井からぶら下げられていたことは言うまでもない……。
というわけで、最終的には裁きの鉄槌がくだって終わりましたね。しかし、すごいドミノ倒し形式でしたね。それにしても、瑠璃もいい加減妹の気持ちくらい察してあげてほしいものです。まぁ、天然っ気があるので仕方ないのですが。そして、憐れ藍川亮太郎。完全にこれアウトでしょ。しかし、猿轡や荒縄なんて誰が持ってたんでしょうかね。さらに、何故か無事の響史。さすがは主人公?なのでしょうか。
さて次回は新たな護衛役として幼女が降臨します。現実は夏が終わりそうなのに、この物語の時間軸としてはもうそろそろ夏休みに入ろうとしています。




