第三十五話「家宅捜索」・2
「はぁ~、よかった。いや露さんが、あいつらがいないっていうから心配してたんだよ!」
「ああ。ちょっと実験に付き合ってもらっててね」
「危ない実験じゃないよな?」
「大丈夫よ! あんたどこまで私をバカにする気? それよりも何で私の話してたの?」
「ああ、ちょうど良かった。霞さん! こいつがルナーです!!」
「この幼女体系の子がかいな?」
信じられないという顔をする霞さん。すると、それに対してルナーが物申すように憤慨して声を荒げた。
「なっ! 私は確かに身長は低いけど胸ならあんたよりも勝ってるわよ!?」
「ほぅ? いうなこのガキ。せやけど、残念やったな。あんたよりかはウチの方が大きいで?」
「な、なんですってぇ~!? そんなことない! 私の方が勝ってる!! 私、自分で言うのもなんだけど身長は自信ないけど胸の大きさは自信あるのよ!」
「ホント自分でいうほどのことではないな」
「うっさい!」
ルナーは俺のボソッと呟いた言葉に文句を言った。すると、霞さんは少しため息交じりに言った。
「せやあんた、なんや発明が出来るんやろ?」
「えっ? そ、そうだけど」
「せやったら一つ頼みがあるんやけど、記憶を抹消する薬か何か作ってくれへん?」
「はぁ~? 何言ってんの? そんなの無理――じゃないけど無理よ!」
「どっちなんだよ!!」
俺はルナーの少しウジウジする姿を見て言った。
「私は忙しいの! これからまた実験結果をまとめなきゃいけないし」
「そこを何とか頼むわ!! 天才発明家さん!!」
ピクッ!
その霞さんのお世辞にルナーは敏感に反応した。
「今……何て?」
聞こえていたはずなのに、聞こえてないふりをしてわざともう一度言わせようとするルナー。
「天才発明家さん!」
「しょ、しょうがないわね。そこまで言われてやらなかったら、私も何だか罪悪感があるしね」
「じゃあやってくれるんか?」
期待感丸出しで霞さんが訊いてくる。しかし、そこでルナーは調子に乗り出した。
「その代りっ!!」
身を乗り出す霞さんをルナーが手で押さえ込む。
「条件が一つあるわ」
「条件?」
その条件という言葉には、さすがに俺も気になった。もしかすると俺にも関係があることなのかもしれないと思ったからだ。
「その条件は、響史をもう一度女体化させるというものよ!」
「ん? 女体化やと?」
「なっ、ルナーお前! 何を訳の分からないことを!!」
「いいじゃない! もう一度女体化するだけでいいのよ? それだけであんた達の望みが叶えられるなら安い物じゃない!!」
ルナーは俺の鼻に人差し指をグイッと押し付け、もう片方の手をくびれた腰に当てて、少し顔を上向きにさせて言った。
「だからって、何で俺が女体化しねぇといけねぇんだよ」
「だって……見たいんだもん!」
ルナーが赤面で少し俯き気味だったために少しその声が聞き取りずらかった。そこで俺は確認をとるように質問する。
「何だって?」
「うっさい! やるのやらないの?」
俺に詰め寄るルナー。顔の距離がすごく近く、以前の女子トイレでの出来事を思い出す。
「ち、近いッ!」
俺はルナーをグイッと押し返した。
――どうする? このまま警察をほったらかしにしてもアレだしなぁ~。
正直言ってどうすればいいのか凄く困惑していた。誰かに決断を譲りたいくらいだ。しかし、このまま考え続けても結果が出てこないことは長年の経験上目に見えているため、俺は仕方なく「分かったよ」と、コクリ縦に頷いた。
「やった!!」
ルナーは満面の笑みでガッツポーズをとる。その笑顔の裏に一体何が隠されているのか、今の俺はまだ何も知らない。
ピンポーン!
まさにルナーがリビングから出て行った直後のことである。
突然家のインターホンがリビング中に鳴り響いた。今現在この部屋には、俺と霞さんの二人しかいないため、俺達二人は互いに顔を見合わせた。
「誰か来たみたいやで?」
霞さんがまるで自宅にいるかのようにテーブルにベタ~ッと体を伏せて俺に言う。おかしい。普通ならインターホンが鳴るはずがない。なぜなら今日俺は、別にインターホンを鳴らされなければいけない様な出前やお届け物と言った物は頼んでいないからだ。では友達からではないのかというと、それもまた可能性の中から除外される。それは、俺の友達が俺の家に来ることがまずほとんどと言っていいほどないからだ。あるとしても十年に一度や二度。とすると一体誰が俺の家にやって来たのか。
条件が絞られてくると、俺はある可能性というよりも確信めいたあてはまる人物――というか組織があった。そう、警察だ。そういえば先程からサイレンが鳴っていない。ということは、諦めて帰ったかどこかでパトカーを降りたかの二択だ。だが、最近の警察はそう簡単に犯人逮捕を諦めたりはしない。とすれば、どこかでパトカーを降りたという残り一つの選択肢を選ぶしか道はない。即ちそれは、俺の家のすぐ側にパトカーを停め、俺の家の玄関前に立ち、インターホンを鳴らしているという結果に辿りつくことになるのだ。
まぁ一言でいえば見つかったと言った方が早い。
俺が玄関付近にゆっくり歩いていくと、修理してもらったばかりの玄関ドアをガンガンと少し乱暴に叩く音がした。
ドンドンッ!!
「出て来いッ! ここにいるのは解ってるんだ!! 今ならまだ注意だけで見逃してやらんでもないぞ!!」
聞き覚えのない男の声。おそるおそる俺は玄関扉の鍵を開け、扉を開こうとしたが、逆に扉は扉の向こうにいる男の手によって開かれた。
「逮捕だぁあああああ――って、誰だお前は?」
「そちらこそ一体誰なんですか?」
俺はあくまで知らないフリをして相手に素性を訊く。すると、見た目的に少し偉そうな感じの男が、警察手帳を開いて俺に自慢気に見せつけた。
「我々は警察だ!! ここに青髪に青眼の女が来ていないか? いや来ているはずなんだが」
「えっ、えと……何のことですか?」
話をはぐらかし、彼らを家の中に入らせないように試みる俺。しかし、努力も虚しく彼らは、半ば強引に中に家の中に入ってきた。
「ちょっ、ダメですって!!」
「うるさい! 我々の邪魔をするのならば、公務執行妨害で逮捕するぞ!!」
「それは……困るっていうか」
冷や汗を流し頬を人差し指でかく。
「とりあえず、リビングにこの家に住んでいる住人を全員連れてきてもらおうか!!」
警察の中でも一番偉そうな感じの男が俺に命令する。俺は相手のその態度に対し、少し嫌悪感を抱いた。だが、ここで逆らえば本当に逮捕されそうな雰囲気を放出していたため、仕方なく俺は命令に従った。
「響史、何なんだ? 私はこれでも忙しい立場なのだが」
霄がリビングの壁に背中をもたれかけ、腕組みをして瞑っていた片方の目を開け俺を見つめながら言った。
「すまない霄。ちょっといろいろあってな」
「響史さん。この方達は誰なんですか?」
相変わらずの半眼で俺に訊いてくる零。
「ああ、こいつ――ごほん! この人達は警察だ」
「けいさつ?」
言葉を口にしながら首を傾げ、不思議そうな顔を浮かべる零の顔を見て、俺はさらに詳細を教えてあげた。
「警察っていうのはだな。まぁ簡単に説明すればこの人間界の治安を維持する組織みたいなもんだ!」
「へぇ~、そんな組織があるのですか。それで、そんな方達がこんな庶民の家に何の用なんですか?」
「しょ、庶民の家って!! まぁそれはおいといて……」
俺はそこから零の背に合わせて少し膝を曲げて背を低くし、小声で耳打ちした。
「何か、霞さんを追ってるみたいなんだ」
「姉上を?」
「ああ」
「ん? おいそこッ! 何をコソコソしてる!!」
警察官の一人が俺達二人の行為が目に入り、少し声を張り上げて言う。
「げっ! こ、これはその……」
「さては作戦を立てていたのか!?」
「なっ、そんなわけないでしょ!!」
勝手な解釈をされてはたまらないと思い俺は首を激しく振ったが、逆にその行動が怪しいと思われたのか男は怪しい者を見るような目でこちらを凝視してきた。
すると、俺と警察官の間に零が壁を作った。また、それと同時に剣を取り出してそれを相手に向けて構えた。しかし、それがまずかった。
「き、貴様! 警部、大変です!! この娘、剣を持っています!!」
「ぬわぁにぃ!? そいつはけしからん!! 銃刀法違反だぁ!! 逮捕! 逮捕するぅぅぅッ!!!」
警部と呼ばれる男は声を荒げロープにくっつけた手錠をブンブン振り回す。
「ま、待ってください!! これは別にそんな怪しいものではなくてですね?」
「うるさいうるさい! そこをどけ!! さもなくば貴様も共犯者で逮捕する!」
――理不尽! 理不尽すぎる!! それだけは勘弁してくれ!!
「そこを何とか……」
「どけ響史! 口で言っても分からないやつらには剣で分からせてやる!!」
妹のピンチに声を荒げた霄がこちらに駆け寄り声を張り上げる。
「やめろ霄! そんなことしたらよけいに話がややこしくなる!!」
「くっ、ではどうしろと?」
「それは……」
「何をゴチャゴチャ言っている!! そういえば、ここの家主以外ほとんどが青髪に青眼。まさか、貴様らはあの銃の女の仲間か!? そうとなれば貴様らも逮捕するぞ?」
「や、やめてください!! それは違います!!」
「うるさい! 現にそこの娘は二本の剣を持っているではないか! 他の娘も何か武器を所持しているのではないか?」
「そ、それは」
俺は相手に言い返す言葉がなくなり口ごもってしまった。すると、その隙をついて男はさらに話を進めた。
「このままでは埒があかん!! こうなれば最後の手段だ……身体検査を行う!!」
「し、身体検査!?」
俺はそれだけは何としてでも防ぎたいと思っていた。なぜなら、護衛役は今手ぶらで何も持っていない状態ではあるが、体のどこかにきっと各々の武器を隠し持っていると思ったからだ。
「ふっ、動揺しているな? ますます怪しい。お前ら、こいつらを全員拘束しろ!!」
「はっ!!」
警部の命令に警察官が護衛役の少女達を次々に捕まえて行く。もちろん無抵抗というわけではない。しかし、迂闊に反撃してしまえば公務執行妨害で逮捕。どちらにせよ、こちらに逃げられるという可能性は無いに等しい状況だったのだ。場は明らかに不利だった。
「くっ!」
「ふっふっふ。抵抗はしない方がいいぞ? どうなっても知らないからな」
警察とはとても思えない口調。
「なぁ~に、すぐに済むさ。おとなしくしていればだがな」
「どうしてこんなことを」
俺が相手に訊くと、警部はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「簡単なことだ! 私は警察だ!! 犯罪は未然に阻止しなければならない!! 絶対にだ! そして、次なる犯罪が起きる可能性のある者は、あらかじめ排除しておく!! それがこの私のやり方だ!! だからこの私の邪魔をする者は例え味方だろうと消す!!」
「くっ、あんたは考え方そのものが腐ってやがる!!」
「ふんっ! 何とでもいうがいい。だが、貴様の仲間はここで終わりだ! この外国人共とどのような関係かは知らないが、残念だったな。貴様らの犯行は実現する前に我々が食い止める!!」
「俺達は何も犯罪なんて起こそうと思っていない!!」
「ウソをつくな! では、なぜこのような武器を持っているのだ!!」
警部は警察官に体を拘束されている零の両手から二本の剣を奪い取り、それを見て言った。
「それは守らなくちゃならない人がいるから」
「くっはっはっは!!」
警部はいきなり大声で笑い出した。
「このご時世に武器を持たないと守れないような敵が存在するというのか? ふんっ、何とバカな者たちだ。今の時代はこのような武器を持たずとも対抗できるのだよ!!」
自慢気に警部はポケットから銃を取り出す。
「あんたらだって銃を持ってるだろ? だったら剣くらい」
「我々は自分の命を守るためにこの銃を使うのだ! 貴様らのその武器は、一般人を傷つけるための代物でしかない!!」
「その剣だって人を守るためにあるんだ!!」
「ほう? それがどういう意味なのか、私には分からんな」
剣を一振りし、側にあったティッシュの紙を切り、その切れ味を確かめる警部。
「この切れ味……守るためとはいえ、これほどの切れ味は必要ではあるまい?」
「確かにそうかもしれないが、使い方を誤らなければ人を傷つけることはない!!」
「こいつらを信用出来ると?」
「ああ!」
俺は真剣な眼差しで警部にきっぱりと言った。すると、相手はしばらく俺を見つめたまま黙りっぱなしになった。
と、その時、近くから誰かのやけに色っぽい声が聞こえてきた。
「んっ、あっ! そこは……」
その声の正体は露さんだった。警官からの身体検査を受けている最中に何とも艶っぽい声を洩らしていたのだ。
「何をそんな声を出しているんだ!!」
少し若い感じの警官が突然変な声を洩らしてきた露さんに対して少々たじろぎ気味に訊いた。
「だって、あなたがそんなところ触るから……」
頬を少し赤らめて頬に手を添える露さん。
「お、俺はそんなところ触ってないぞ!?」
焦り顔でそう言う警官。周囲の警官も、二人のやりとりに他のメンバーを身体検査中なのをすっかり忘れてしまっていた。
「嘘よ! だってあなた今、私のおしりに触れてるじゃない!」
「な、何ッ!?」
「……ふふっ、うっそ~! あはは、大人のくせに騙されてなっさけな~い!」
「くぅ~ッ!大人をバカにしやがって!!」
「騙される方が悪いのよ! ふっ!!」
そう言うと露さんは何もないところから槍を取り出した。やはり、どこかに隠し持っていたらしい。俺はその様子を警部のことを少し気にしながらチラチラ見ていた。
露さんはその巧みな槍捌きで警官達を圧倒、彼らの手から見事妹達を救い出していた。そして彼女達を逃がすと俺の方をチラッと見た。それから目で合図をする露さん。その合図が何を示しているのか、俺には容易に理解できた。
即座にその場から散っていく護衛役の少女達。どうやら家中に逃げ隠れるつもりらしい。
「何をボサッとしている!! 早くあいつらを逮捕しろ!!」
一連の出来事を警部も見ていたらしい。露さんの攻撃を受けて怯んでいる警官達に命令した。警部の命令を受けて慌てた様子で俺の家中を捜索しだす警官達。
「へっ! 警察ってのも全然役に立ちませんね。子供……しかも女に負けてるんですか?」
「ぬわぁにぃ?」
「こうなったら俺も本気出しますよ! あいつらに遅れは取らない!! 警察の言う事やること全てが正しいとは決して思わないことですね!!」
自分で言いながら何を口走っているのだろうとは思っていた。しかし、警部も警部で闘争心に火が付いたらしく、口元に笑みを浮かべる。
「ふんっ、面白い! ならば、我々に勝って見せろ! 貴様ら全員が逮捕されれば貴様らの負け。もしも我々が降参すれば貴様らの勝ちだ!!」
「いいですよ? 俺達は絶対に負けない!!」
そう意気込んだ俺は、片方の手の平に拳をぶつけて気合をこめた。
「よぉ~し、ならば始めよう! 必ず貴様ら犯人を逮捕してやる!!!」
こうして、俺達と警察との追いかけっこが始まったのだった。
というわけで、警察の方々がとうとう乗り込んできました。そして、響史は凄いですね。警察相手にも普通に話してますよ。おまけに、勝負まで持ちかけるとは。さらに、あいも変わらずの露は今回も絶賛暴走中です。若い警察官の人も困り顔でしたね。そんなわけで次回はかくれんぼ?です。




