第三十三話「罰ゲームの悪夢」・2
「何? 私の顔に何かついてるの?」
そう、まるで少女のような声。俺が出そうと思った言葉が勝手に女の言葉に変換され、自動的に声になって口から出る。
「どうやら成功みたいね!」
「どういう意味よ!? どうなってるの? どうして普通に喋ってるのに女の子みたいな言葉になるの?」
「それは私が特別に作った『自動口調変換機』よ! それを使えば、どんな風に喋ろうと私が指定した口調で喋らせることが出来るの。例えば、この口調をお嬢様口調に変えると……さぁ、喋ってみて?」
機械のスイッチを切り替え、ルナーが俺に喋らせる。
「これは一体どういうことですの?」
「ねっ?」
「ちょっ、戻してくださいます? こんな口調じゃ私も恥ずかしくて敵いませんわ!!」
「あははは! すんごく面白いわコレ! 自分で作っててなんだけど、我ながら良い物を作ったわ!」
そう言ってルナーは笑いながらお腹を押さえた。そしてスイッチを切り替え元の口調に戻す。
「ところで、どう体の調子は?」
「どうって……なんか体が軽くなった感じがするけど」
と、ふと俺はあることを想った。目線を下に下げると、今まで男の体つきだった俺の体が急に女の体つきになっていたのだ。
「な、何よコレ!」
「今頃気付いたの? 気付いたうえで無視してたのかと思ったわ。その長い銀色の髪の毛も、その胸も腰もお尻も手も足も全て男の子から女の子に変えてるんだからね。そりゃあそんな体になるわよ!」
「で、でも……。よりにもよってどうしてこんなに胸が大きいの?」
俺は自分の胸の大きさに少し疑問を抱き、やけに肩に負荷を感じそれを手で支えつつルナーに質問する。
「さあ? あんたの好みじゃないの?」
「べ、別に……私は大きいのがいいってわけじゃ」
思わず照れてしまい俯いてしまう。すると、ルナーが調子に乗ってさらに質問を重ねてくる。
「じゃあ小さいのがいいの?」
「い、いや……そういう訳でも。私は普通でいいのよ!」
「そんなこと言ったって、今更変更は効かないし。細かいところは変換できないのよね。だから体の一部を変えたり、なんてことも不可能よ! 変えられるとしたら丸ごとのみってことね!!」
ルナーは実験結果をノートにまとめながら俺に言った。しかし、そこでふと俺は思った。仮にこの実験を続けて言ってさらなる実験を繰り返していけばもしかすると体の一部分だけを変えるということも可能かもしれない、と。まぁ、需要がない限りは必要ないけどな。
「ていうか、この服どうしたの? さっきまで私、男の服着てたのに」
「ああ、それならあなたが気絶してる間に着替えさせてもらったわ。下も……ね!」
「う、ウソでしょ!?」
俺はスカートを恐る恐るめくり確かめた。確かに。ていうか、自分の体なのになぜか自分の体を直視できない。
と、その時、俺はある疑問が浮かんだ。下着までご丁寧に変えてある。それはつまり、下着まで脱がされたと言う事。
「な……ななな、あなた、私の下着を脱がしたの?」
「ご、誤解しないでよ? ちゃんと女の体になってから変えたに決まってるでしょ!?」
俺の質問にルナーがかぁっと顔を真っ赤にしながらそう言った。
――よ、良かった。そ、そうだよな。よかったよかった。って、別によかったってわけでもないか。
俺はとりあえず状況をまとめることにした。今の俺の体は女、男ではない。声も女。声を出そうとすると女の口調になる。しかしここにいるのは確かにルナーと雫の二人だが、もしも家に帰ろうと思った場合、どうすればいいのだ? というか、二十四時間この体で過ごす……それは即ち、この体で風呂なども済ませないといけないということ。そんなことが俺に可能なのか? というか、これでちゃんと用を足せるのか?
様々な疑問が俺の脳裏を駆け巡る。それと共に俺に不安がどんどんのしかかってきた。何よりも、外に出た際に知り合いに合わないかどうかが心配だ。
「ていうか、女の子の時のあんたって……結構可愛いのね」
「えっ? な、何?」
俺がルナーが小声で言った言葉に対し訊くと、急にルナーが俺にグイッと顔を近づけた。互いの吐息が鼻にかかりくすぐったい。その綺麗な双眸を見て、俺はふと視線をそらし照れくさくなりながら一言物申す。
「ちょっ……あ、あの。近いんだけど?」
「そういえば、女の子の時の名前つけてなかったわね」
「お、女の子の時の名前?」
軽く言葉をスルーして突然俺の女バージョンの名前とやらを話し出すルナー。
「おお、そうだったそうだった!」
さっきまでおとなしかった雫が急に話に割り込む。
「名前、どうする?」
「そうだな。あまり名前をいじりすぎると逆になんかアレだから……元の名前の二か所だけを変えることにしよう!」
「それもそうね!」
「あ、あの~」
俺の言葉は完全無視され、そのまま雫とルナーの二人は俺が女の子になっている時の名前を考えることに専念した。そして五分くらい経ったところで俺の方を向くと、二人はなぜか少し笑みを浮かべて俺の目を見た。何だか気味が悪い。俺はゴクリと生唾を飲み、二人が口を開くのを待った。
「あなたの名前、決まったわ!」
「あ……うん」
逆らっても仕方ないと大人しく新たな名前を聞く準備を整え首肯する。
「あなたの名前は『神崎 響子』よ!」
「か、神崎……きょ、響子?」
「ああそうだ! だから今日一日お前は神童響史ではなく、神崎響子として過ごすんだ!分かったな?」
「うん」
少し不安な表情を浮かべる俺に対し、再びルナーが俺に顔を近づけてくる。
「ねぇ、響子ちゃん」
「な、何?」
急にちゃんづけなどしてくるものだから調子が狂い上ずった声で聞き返す。
「ほっぺた触ってもいい?」
「えっ? どうして急に」
不意の質問に俺はきょとんとなる。
「いいから!」
そう言うとルナーは、無理やり俺の頬を人差し指と親指で挟み込むようにしてつまんだ。
「うわぁ、やっぱり女の子の体に変換させると肌も女の子になるんだぁ~! このきめ細やかな肌、さっすがは私ね!」
俺の肌を誉めてるのか、自分の科学技術を誉めているのか俺にはそれは分からなかった。
「あぁ~、このスベスベの肌……羨ましいわぁ~!」
「ちょっ、そんなにくっつかないでよ~!」
「いいじゃないちょっとくらい!!」
ぷにぷにと好き放題俺の潤いたっぷりのほっぺたを突っつきまくったルナーは、強引に俺の頬と自分の頬をすり合わせる。相手の体温が俺の頬を伝って感じ取れる。すると、突然ルナーがピタッと動きを止めた。
「ん? どうかしたの?」
「そうだ! ねぇ、さっき作った発明品があるんだけど、ちょっと試してみない?」
「い、いや……」
「ふっふっふ~! 今のあなたに拒否権はないわよ?」
何だか、雫に罰ゲームを与えられているはずが、いつの間にかルナーに罰ゲームを受けさせられている、そんな感じがした。
と、俺が考えているとルナーは急に何かを懐から取り出した。
「じゃじゃ~ん! これは『チェンジクロスライト』。このライトを持って着せたい相手の顔を見て、着せたい服を頭の中に思い浮かべるの! そしてここのスイッチを押すと……あ~ら不思議! なんと、ライトを持ってる相手に見つめられた人の服装が一瞬にして変わるんです!」
まるでテレビCMの通販のような言い方だった。さらにルナーはその説明をしながら実際にそれをやってみせた。その瞬間、俺の服装が一瞬にしてなぜかメイド服に変わった。白いエプロンに可愛らしいフリルがつき、頭にもフリルのついたそれをつけている。さらに、黒くてツヤツヤした靴を履き、真っ白な純白のニーソックスを装着していた。
「な、何よこれぇ~!!」
俺はメイド服のスカートの裾をグイッと引っ張って一生懸命下に下げようとした。実はこのスカート、なぜか異様に丈が短いのだ。丈が膝より上にあるために、少し上半身を前方に倒しただけで見えてしまいそうになる。しかし、そんなこと断じてお断りだ。俺は急いでそれを脱ごうとした。しかし脱ごうとしても脱げない。何度繰り返してもやはり無駄だった。
「ど、どうなってるの~?」
「チッチッチ! 無駄無駄! それは絶対に脱げないわよ? このライトのスイッチを消さない限りね!」
ライトをまるで挑発しているかのようにユラユラと揺さぶるルナー。俺はそれをタイミングを見計らって奪おうとした。だが、あともう一歩のところでライトを持っているその腕を上げられた。
「へへ~ん! 残念でしたぁ~! これは渡さないわよ?」
「お、おい。あまり人の部屋で暴れないでくれよ?」
「大丈夫だって! ほ~ら、響子ちゃん! こっちよ?」
「その名前で呼ばないで――って、く~っ! どうしても口調が女言葉に」
「ほらほら、取ってみなさいよ! 無理だと思うけど~?」
その言葉にさすがに頭にきた俺は、ルナーが隙を見せているその間にライトを手に取った。しかし、ライトを取った俺の手にルナーも手を伸ばす。とうとう俺達はライトの取り合いになってしまった。その仲介役として雫がまぁまぁと俺達二人をなだめる姿がある。アパートの三階ということもあって、下の階の人や左右の部屋の人に迷惑をかけたくないのだろう。だが、今の俺達二人にそんな言葉理解できるはずもなく、ライトはグイッグイッと右左を行ったり来たり繰り返し、最終的には同時に右と左にライトが引っ張られた。それにより、ライトは破損。それと同時に小さな爆発が起き、俺はメイド服を着たまま、あろうことかベランダから外へ放り出されてしまった。
――いってて……ったく! ルナーのやつが無茶なことすっから! ていうか最悪だ! 女の格好してるだけでもヤバイってのに……よりにもよってメイド服着てる状態で!! でも、あれ? ライトが壊れたのに何で俺は裸にならないんだ? まぁいいか。まだ服着てるだけましだ。むしろ幸運だぜ。しっかし、どうすっかな~。
俺は途方に暮れ、左右を何度も確認しながら知り合いに会わないように俺の家へ向かった。だが、家の中に入ればどんなことをしても絶対に瑠璃達に会ってしまう。
と、そんな時である。非常事態が起きた。そう、人間としてこれだけは抑えきれないもの……尿意だ。
こんなことならば、男の状態だった時に雫のアパートで済ませておくべきだったと今になって後悔する俺。しかし今更遅い。そんなこと分かってる。とにかく急がなければ!
と、そんな時である。更に最悪のハプニングが起こった。
「うおおおおおおッ!!」
この嫌な声は……。
俺は嫌々ながら後ろを振り返る。そこにいたのは、藍川亮太郎、通称変態バカだった。
「はぁ」
俺は小さくため息をついた。しかし、その溜息が聞こえなかったのか、あるいは無視なのか、亮太郎はサッと俺の前に片足を立て俺の手を取った。そして普段は見せないような眼差しで俺を見つめると口を開いた。
「お嬢さん! お名前は?」
キラキラ熱い眼差しを向けてくる亮太郎に俺はサブイボが立ちそうになったが、何とか平常心を保ちつつ、その質問に答えた。
「えっ? あっ。し、じゃなくて……神崎響子です」
「神崎響子さん! 僕の名前は藍川亮太郎です!」
「……知ってます」
「えっ?」
「あっ!?」
いつものツッコミ癖が抜けていなかったのだろう。思わずそうツッコんでしまった俺に、亮太郎がきょとんとなる。俺はギクリと表情を強ばらせる。これはバレたか?
そう、心配する俺だが――。
「いやぁ~! 嬉しいな~。まさか俺の名前を知ってくれてるなんて、結構俺って有名人?」
亮太郎は照れ隠しのように頭をかきながら言った。
――うん、馬鹿でよかった。
「あの、私忙しいのでこの辺で……」
早くこの場からお暇しようと踵を返し作り笑顔を浮かべる俺。やや内股になって膝小僧をすりあわせ我慢する。女の子ってこんなに我慢できないもんなのか? と、少し同情してしまう。
「ああっ、ちょっと待ってください!」
「えっ、あのぅ……んっ、まだ何か?」
突如俺は後ろから変態野郎に呼び止められた。早く家に帰って用を足したかったため、少し強気で内容を訊ねる。
「何でメイド服なんですか?」
何やらキラキラと嬉々した表情で訊いてくる亮太郎。
「えっ? あっ、それはちょっといろいろありまして……ていうか、用なら早く済ませてくださいませんか?」
「ああ、あの! 写メ一枚いいですか?」
「いっ!?」
俺ははっきり言ってこんなやつと、しかも男同士で肩を抱き合って写メを撮るのは御免だった。しかし、向こうにとって俺はただのメイド服を着た同年代の可愛らしい銀髪美少女にしか見えていないのだ。こんなチャンスはめったにない、そう思ったのだろう。
「わ、分かりました。一枚だけ……んく、ですよ?」
俺は妙に強めの尿意に思わず苦悶の声をあげて足をモジモジさせてしまったが、亮太郎はバカのために気付きはしなかった。
「はいチーズ!」
パシャッ!!
カメラのシャッターが切られる。
「じゃあさよならっ!!」
「あ、ああッ!!」
亮太郎はまだ俺に何か用だったようだが、生憎と俺はそんなことに構ってる暇はなかった。
と、その時、俺はふとあることを思い出した。
――そうだ! この辺って確か、光影中央公園の近くじゃん!!
そう思って俺は十字路を左に曲がり、真っ直ぐ走って行き公園に辿りついた。そして、急いでトイレの前に来た。と、そこで俺はある事を思い出した。
――しまった! 俺今、女の体じゃん! てことはこれ……女子トイレでやらないといけないのか? でも、それしかないよな。だって、男子トイレでやって他の男子にバレるわけにもいかないし。仕方ない! 今なら誰もいなさそうだし……!!
俺はずっと考えていると漏れてしまうと思い、急いで女子トイレの個室に駆けこみカギをかけた。そしてスカートに手を掛けた俺はまた思った。
――そういえば、女子って……どうすればいいんだ?
素朴な疑問に動作が止まる。今まで男として生きてきた俺に取ってそれは皆無であり未知の領域だった。
――ええい! なるようになれ!!
俺は赤面しながら恥辱と屈辱を乗り越え、自分の意思を貫いた。
十分後。
「はぁ、何とか終わったわ。でもまぁ、何とかなったわね。問題はこれからどうするか。やっぱり、ルナーに会ってこの服元に戻してもらわないと」
俺は目的を決めると、とりあえずルナーを探しに家の方角へと向かった。
しばらくして、俺は自宅付近へとやって来た。
その時である。俺の視界のはるか前方に霄の姿が見えた。
――げっ、そ……霄!?
俺は思わずその場で硬直状態に陥った。しかし、ぶんぶんと首を横に振り、頬をペチンペチンと叩く。
「とりあえず、別の方から……」
少し遠回りになるが、何とかなるとそう踏んだ俺は別の道を通った。少し足早に駆けて行き角を曲がる。
刹那――俺は誰かにぶつかってしまった。
ゴンッ!
「いたっ!!」
尻餅をつき俺は尻をさする。そしてふと顔を上に上げると相手が悪かった。というよりも、予想外だった。なんと、俺の目の前にいたのは、いるはずのない霄だったのだ。俺がぶつかったや否や、すぐに鞘から剣を取り出し切っ先を俺の首筋に突き付けてくる青髪ポニテ剣士少女。
「曲者!!」
俺は涙目で両手を上げて降参のポーズを取った。
――何でこいつがここに!? さっき別の道を通ったはずなのに。とにかく、バレないようになんとか誤魔化してこの場から退散しよう!
頭の中で必死にこの場の回避方法を考えながら相手の出方をうかがう俺。すると霄は急に剣を引いた。
――あ、あれ? 殺され……ない?
「大丈夫か?」
なぜか霄は俺に手を差し伸べてくれた。
「あ、ありがとうございます。あの、ぶつかってごめんなさい!」
俺は一応謝るのが筋だろうとペコリと謝罪した。
「いや問題ない。それよりも怪我はないか? ぶつかってきたのが女でよかった。男であれば、知り合いであろうと切り落としていたところだった」
――本当に女でよかったッ!!
その時ばかりは俺も女の体で良かったと心底思った。
というわけで、はい性転換エキスを飲まされた響史くんは、名前を改め響子ちゃんとして生まれ変わりました――って、なんでやねん!
とまぁ、ツッコミはさておき。罰ゲームの真髄は女装にあらず、女体化にあるだろうと何かの格言風に。最近はやり?の女体化させてみました。まぁ、名前はありきたりですね。そして、懐中電灯のスイッチ入れて光を対象に当てるだけで想像した服を着せられるってどんなマジックですか。まぁ、さすがはルナーさんですかね。
そして、女体化といえばやはりトイレネタは必須かと。さらに、悪友もからめと。なんか、ありきたりな匂いがプンプンしますね。
ラストの三部めはあの人も登場です!




