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魔界の少女  作者: YossiDragon
第二章:六月~七月 護衛役『現れし青髪の脅威(後)』編
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第三十一話「大工『樹ノ下 毅』」・2




 時刻は昼ちょっと前。

 俺、神童響史と水連寺霙は左右を住宅地に囲まれている狭い通路を無言で歩いていた。だからと言って喋ろうとは思わなかった。無理に話題を振って自分が撃沈したら元も子もないからである。

 この狭い通路は周りを住宅地に囲まれているせいか日当たりも悪く、陽が差し込まないために気温が低い。その上、狭い場所には強い風が吹くために、もう夏の時期だというのに冷たい風が俺達二人に吹きかかってきた。

 俺はそんな冷たい風に耐えながら、ふと後ろを見た。霙も少し寒いのか、服の袖から手をきちんと出さず、僅かに白く細い指を見せていた。


「寒いのか?」


「いや……」


 ふと思ったことを口にして相手に一言で返される。そして、それだけで会話は終わってしまう。やはり、会話を長く続けるためにはそれ相応の会話が続けられるような話題が必要のようだ。

 通路を抜けた俺達二人は、角を左に曲がりある場所の前にやってきた。

 ここが俺の目的地である。


「ここだ」


「ここが響史が言ってたやつの家なのか?」


「家っていうか、店っていうか……まぁ入りゃあ分かるって!」


 そう言って俺は引き戸を開き、霙と一緒に中へ入った。


「お~い親方、いるかー?」


「親方?」


 霙が誰だそれはと言った顔で俺の方を見る。すると、俺の声に反応し、奥から人がやってきた。その男はゴツい体つきをしていて、大きな体とその手はすごく印象的だった。

 そう、この男が俺が言う親方という人物だ。親方は夏の時期で熱いのか、ランニングシャツ一枚で下はトランクス一枚といった状態だった。


「ちょっ……今日は、女子も来てるんですから下くらいズボンか何か穿いててくださいよ親方!」


 俺は後ろにいる霙が少し赤面しているのを横目でチラッと見てから親方に言った。


「おう、そいつは悪かったな……。まさか坊主だけじゃなくお嬢ちゃんまで来るとは思ってなかったもんでなー!」


挿絵(By みてみん)


 そう言って親方は奥へ再び消え、しばらくしてから下に半ズボンを穿いて戻ってきた。さらに首には白いタオルをかけ、その端の部分を掴んでこめかみ辺りから垂れてくる汗を拭い取った。


「んで、今日は何の用だ坊主」


「実はその、家の屋根を直して欲しくて……」


「家の屋根だぁ? なんでそんな本来ありえないような場所を直すんだ? 空から少女が降ってきたみたいな奇怪現象が起こったならまだしも……」


「いや実際、そんな感じでして……」


 頭をかきながらそう言う俺に一瞬キョトンとなる親方。それからハッと我に返り面白いという顔をして口を開く。


「ほ~ぅ、そいつはおもしれぇ! 坊主、相変わらずお前の周囲には訳の分からないやつらがゴロゴロしてやがんな……」


「それってどういう意味ですか?」


 俺は少しムッとして親方に訊いた。


「ハッハッハ、どういう意味も何もそのままの意味だ! 何せ、坊主の連れてるその娘……随分と顔立ちが整ってやがるからなー。どこぞの可愛い娘でもかっさらってきたんだろ?」


「それじゃ犯罪じゃないですか!」


「ハッハッハ、それもそうだな! ……だとすると一体誰なんだ、その子は?」


「まぁ、一応……従兄妹ですかね?」


「従兄妹? ほほぅ、坊主。お前、いつの間にこんな可愛い従兄妹を作ったんだ? 以前、お前さんのトコの親があの家を建てるように依頼してきた際にお前と一緒にいたお嬢ちゃん達なら、覚えちゃいるが……まさかあれからさらに増えたってのか? お前も隅に置けない悪だねぇー!」


 親方は肘で俺の二の腕をこのこのと言った感じで小突いてきた。


「ちょっ……冗談じゃないですよ! こっちだって毎日毎日ベッドがぎゅうぎゅう詰めで困ってるんですから!」


「毎日毎日……ベッドだ?」


――あっ!? し、しまったぁあああああああ! つい口が滑っちまった!



 俺はいつもの親方と話すペースに巻き込まれ、思わず口から自分でも予期せぬ言葉がこぼれてしまった。慌てて霙に助けを求めようと視線を向ける。しかし、その瞬間サッと視線をズラし、遠くを見つめてしまう。


「ちょっと、いろいろありまして……」


「なるほどな~。お前ももうそんな年頃か」


「一応訊きますけど誤解はしてないですよね?」


「わ~ってるって!! どうせ、毎日毎日女に囲まれてる坊主のことだ。毎日毎日、ベッドでにゃんにゃんを……」


「にゃんにゃんってなんですかッ!?」


 俺はその場に立ち上がり、俺の隣に座って膝に手をついている親方に言った。すると、親方は真面目な顔でこう言った。


「そういう意味だ」


「はあ、まぁいいや……」


 そうボソッと呟くと、俺はさっさと本題に移った。


「それで、直してくれるんですか? 俺ん家の屋根」


「そりゃまぁ、直せるのは直せるが……」


「どうかしたんですか?」


「まぁ、いろいろとな……。ところで、お嬢ちゃんはこっちに来ないのかい?」


 そう言って親方は、霙を自分の左側に空いたソファーに座らせようと空いている個所をポンポンと叩いた。すると、それを見た霙は少し俯きながら小さく頷くと、その場にストンと座った。

 いつもは男っぽいこいつも親方の前では大人しい美少女の様に見える。いや事実、あんな言葉遣いと暴走行為をしなければ十分に容姿はかわいいのだが。本人に言ったらまたなんやかんやありそうなので遠慮する。

 俺達が今座っているこの横幅の広いソファーは、本来なら俺達くらいの年齢でぎゅうぎゅうに詰めて十人くらいは入りそうなものだが、親方が座っているせいでほぼ五、六人分の席を占領され、俺と霙の二人が座っただけでソファーはいっぱいいっぱいになっていた。


「お嬢ちゃん、随分と良い香りがするね~……」


 そう言って親方は急に俺の話を無視し、霙のスラッとした体とその綺麗で長い青髪に見とれたのかその体に手を伸ばした。霙も少し油断していたのか、簡単に親方の手を自分の領域に侵入させてしまっていた。

 その結果、霙が親方の手が自分の体に迫ってきていることに気付いた時には既に胸を親方に揉まれている後だった。


「ひっ、へ、へんたぁあああああいっ!!」


 それに気づいた霙は、顔を真っ赤にして大声を上げると、親方の太い腕をがっしり掴み、一気に抱え投げを繰り出した。


「ぬおわッ!?」


 親方もその事態には驚いていた。まぁ無理もない。彼のようなゴツい体つきの男をこのような少女が抱え投げするとは到底思いもしなかったからだ。しかし、霙は悪魔にしておまけに相当な力持ち。あの巨大ハンマーを振り回すほどだから当たり前だ。

 大きな巨体はその場所に置いてあった机やテーブル椅子などを全てペシャンコにしていた。それほどまでにその巨体の体重は凄まじいものだったのだ。そのせいでよけいに霙のその白く細い腕には、一体どれだけの力が備わっているのだと不気味になってくるものがある。


「いててて……ハッハッハ、こいつぁ驚いた! 嬢ちゃん、なかなかの力の持ち主と見た。どうだい? 俺といっぺん勝負してみないかい?」


「しょ、勝負?」


 霙はさっき親方に触られた胸を両腕で覆いながら一歩後ずさった。その顔は明らかに変態を見る目だ。


「おやおや、どうやら少し警戒されてるようだ」


「そりゃそうですよ。あんなことした後なんですし……」


「ほんの不可抗力さー……。それよりも、勝負の内容はどうすっかね!」


 親方は自分の大きな手をグーパー、グーパーしながら言った。俺はあまり時間をかけてほしくないと思ったため、すぐケリのつきそうな腕相撲にすることにした。


「うでずもう?」


 霙は首を傾げた。


「あっ、そっか……分かんねぇか。要は相手と手を組んで肘をテーブルについて、それから自分の方向、つまり右手だったら左、左手だったら右に倒しゃあいいんだ!!」


「なるほど、随分と簡単だな!」


 ルールを理解したのか、満足そうにやってやるという気合をみせる霙。


「おっと危ない危ない、一つ言い忘れてた……。いいか? 勝負の最中は決して肘を上げないこと、いいな?」


「分かった!」


 俺の注意点にコクリと縦に頷く霙。審判は俺がやることになった。と言っても、この勝負に審判なんぞ必要ないとは思うが……。


「よ~し、勝負だ嬢ちゃん!」


「変態男には負けないぜ!」


「二人とも準備はいいな? それじゃ、レディー……ファイッ!!」


 互いにメラメラと闘志の炎を燃やし、ついに勝負が開始された。


ドンッ!


 瞬殺。まさにその言葉が相応しい。一瞬のことだった。俺が瞬きした時には、もう戦いが終わっていた。瞼を閉じて再び開けた時には勝者が一目瞭然だったのである。


「しょ、勝者……霙!」


 俺は霙の手首を掴んで高々と掲げた。それと一緒に霙自身も声を張り上げる。


「うおおっしゃぁああああ!!」


「くっ、なんっちゅうバカ力だ! くっそ~、どうやら嬢ちゃんにハナっから手加減は必要なかったみたいだな!! うっしゃ、遊びは終わりだ!! こっからが本番だぜ!!」


「な、何いぃ!? 何言ってんだおっさん! 今あたしに負けただろ?」


「チッチッチ……。お嬢ちゃん、これはただの練習だ!」


「な、せ……セコいぞっ!!」


 その言葉はご最もだった。珍しく霙の言っていることが正しかったのである。


「分かった、確かに最初に全部言ってなかった俺のミスだ。それはすまなかったな、スマン!!」


――軽ッ!?



 俺は心の中でそう叫んだ。


「今度こそはちゃんと本番だからな。まずは、ルールとして勝負は三本勝負! そんでもって、どっちかが二勝した時点で試合は即終了だ。つまり、どっちかが二連勝するか、もしくは最初の試合と最後の試合で勝てばそれでいいというシンプルなものだ。分かったか?」


「あ、ああ……」


 少し不機嫌そうに頬を膨らます霙。無理もない。せっかく勝ったのに、その勝利をないものとして再び試合をしなければならないのだから。


「そんでもって、勝負ときちゃあ……やっぱ、コレがなきゃ面白くねぇだろう?」


 そう言って、親方は何かを提案した。俺は心の中で嫌な予感がしたため、それだけはない方向でと願っていたが、願いも虚しくその予感は見事的中してしまった。この予感をもっと別の物に有効活用したいものである。


「負けた方が勝った方の言う事を何でも聞く……ってのはどうだ?」


「な、ななっ!?」


「そ、それってあまりにも無理がありませんか?」


「そんなことはないだろう?」


「で、でも――」


「大丈夫だ響史。要はあたしが勝てばそれでいいんだから……」


「よく分かってるじゃないか、お嬢ちゃん」


 親方はニンマリと白い歯を見せて不敵な笑みを浮かべた。これはまさに何か企んでいる顔だ。昔からの付き合いだから分かる。彼――親方こと『樹ノ下(きのした) (つよし)』は、昔から悪戯好きなところがあり、俺が幼き頃、家族一緒に家を建てるというかリフォームをする時のこと。俺達は親方のところへ行った。そこで親方はちょくちょく姉ちゃんに悪戯行為を働いていたのである。悪戯というのは無論、先程霙にしたことと似たようなものである。そしてその度に親方は姉ちゃんからのアッパーカットをくらっていた。しかし、今回は霙が相手をする。どうなるか、心配でならない。すると、霙がさっきのことの後で何かを想ったのだろう。親方に質問した。


「ち、ちなみに……何でもって、本当に何でもなのか?」


「どういう意味だ?」


 分かった上で聴いている。親方の表情を見た感じ俺にはそう思えた。


「だ、だから……さっきみたいにまたあたしの胸、触ったりとか」


「何だ嬢ちゃん。触ってほしいのか?」


「んなっ!? 一体どこからそういう方向に展開すんだよ!!」


 霙は顔を真っ赤にしてその場に立ちあがった。


「まぁまぁ落ち着いて……座って座って」


 俺は霙を慌ててまぁまぁと落ち着かせた。そうでもしなければ、このまま霙を野放しにしておくと、武器……即ちハンマーを取り出して暴れ出しそうだったからである。


「まぁ、どうすっかはその時の俺の気分次第だな……」


 親方はあごに蓄えたヒゲをいじりながらそう言った。


「と、とにかく勝負始めませんか?」


「ん? そうだな……。よ~し、さっきは油断したが次はそうはいかんぞ?」


「おもしれぇ! さっきと同じように瞬殺してやる!!」


 霙はそう言って親方と手を組み合わせた。俺は互いの準備終了の確認を取り、準備が整ったことを確認し終えると開始の合図を送った。

 二人の戦いが再び始まる。

 結果は――またしても圧勝だった。そう、霙の勝利である。


「やったー!」


 ピョンピョンその場で飛び跳ねながら歓喜の声をあげる霙。それはいいのだが、ジャンプする度に揺れるその胸がどうも俺の目を釘付けにさせやがる。少しは自重してほしいものだ。親方もその揺れる胸を見ながら悔しそうに歯噛みする。


「ぐぬぬぅ~! ……だが、まだ一勝。次で俺が勝てば同点だ!」


「ふん! そうはさせるか!!」


 そう言って二人は二回戦を始めた。


「そういや、勝負に負けたやつのことだが――」


「えっ?」


 まさにその瞬間である。霙が親方の声に反応しているその隙を狙って、親方が大人気なく腕を倒した。


「うおおおお! 俺の勝ちだぁああああ!!」


「なっ! そんなのないだろ!! 今のは明らかな反則だ!! 響史だってそう思うよな?」


「確かに、今のはあんまりですよ親方」


 審判である俺が嘆息しながら親方を注意するが、親方は少しも悪びれず、


「ふんっ、話を聴きながら集中することも出来んとは、まだまだ若いなお嬢ちゃん!」


 と、霙をバカにした。


「くっ……!」


「とにかく、勝負は勝負だ。さて、互いに一勝。三回戦、これですべてが決まるなぁ~」


「絶対に負けるわけには……」


 霙はぐっと拳に力を込め、親方の手を強く握りしめる。


「三回戦目……開始!!」


 その三回戦はとにかく長かった。お互いにひけを取らず、全力を振り絞って対抗しているのだ。互いの力は拮抗していてどちらにも動かない。


「くぅう~!!」


「ぐぬぬ~!!」


 唸り声を上げる二人。二人の周囲には空想による炎が燃え盛っていた。


「だ、大丈夫か? 二人とも……」


 俺は二人の事を心配しながらも、無理に割って入って逆にやられてしまっては元も子もないとなるべくその戦いに割り込むようなことは全力で避けておいた。しかし、だんだんと疲労が溜まってきたのか、それとも暑さのせいだろうか。霙と親方の握っている手はジワジワと汗で滑り、そのチャンスを待ってましたとばかりに、親方は


「スキありッ!!」


 と、霙の腕をバンッ!! と力任せに思い切り倒した。


「し、しまった!!」


「うっしゃぁあああああああッ!!! ハッハッハ、俺の勝ちだ!」


 親方は腰に手を当て高笑いした。


「くっそ~……まさか、このあたしが負けちまうなんて。しかも、よりにもよってこんな変態男なんかに……」


「ヘッヘッヘ、そんな口聞いてていいのかい? この後、お嬢ちゃんは俺に何をされるか分からないんだぜぇ~?」


「ぐっ……」


 危ない表情を浮かべて五指をワシャワシャと動かしている親方の姿に俺は思わず二人の間に割って入った。


「ん? 何のつもりだ坊主」


「親方! もうやめてください!! これ以上霙に何するつもりですか!? さすがにこれ以上は俺も止めますよ?」


 俺の言葉に親方は止まってくれる……そう思ったが、それは違った。むしろ、親方は再び笑いだし言った。


「坊主、すまないがそこをどいてくれ。俺は勝負事はハッキリ決める性格なんでな……」


「でも!」


「響史、もういい。あたしのことは気にすんな……大丈夫だ! こんなおっさんにあたしの体を自由になんかさせはしない!!」


「おいおい、勘弁してくれよ。随分と勘違いしてるようだが、それは大きな間違いだぜ?」


『えっ!?』


 俺と霙の二人の声が重なる。


「どういうことですか?」


「ハッハッハ! だから、別にそっちの命令はしないってことさ! さっきのはどれほどの力が使えるかという力比べ、というか力量を計るもんだ!!」


 そう言うと、親方は奥の部屋から何かを持ってきた。それは安全第一と書かれたヘルメットだった。それを俺と霙の頭にボスッと被せる。


「うしッ! んじゃ、坊主の家に行って屋根の現状を確かめてくるか……!」


「えっ……あぁ、はい!」


 俺と霙の二人は、互いに顔を見合わせながら親方の後についていった……。

というわけで、大工のおっさん登場です。ガタイが大きいこのおっさん、今回変態役として出しました。ちなみにこの次の話にも出ます。そんでもって次回はもっと変態行為を働きまくると思うのでそこもお楽しみに。

また、今回の話で霙にはどうやら人見知りな性格がある模様。そして、大人しい時は普通に可愛いという新たな新事実が。まぁ、基本暴れなければどの護衛役も可愛いんですけどね。特に寝てる時は天使のようだと(響史曰く


そして、勝負といえばやはり腕相撲。まぁ、力自慢の人には定番かもしれません。いやぁ、にしてもこのおっさん酷く大人気ないですね。

そんなおっさんが次回も霙の代わりにいろんな意味で暴れまくります!

それでは次回をお楽しみに。

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